ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第三十八話「アラスカでの決戦、前編」①

アラスカ州ドラグーン・タートル。司令部ではジャテーゴが部下の密告に怒号を響かせた。

 

「なにぃ、兄上が地上人類と停戦協定を結ぶ気でいるだと!?」

 

「決定かどうかは不明ですがそれも検討しているとのことですっ。

何でもこれ以上の犠牲の拡大の阻止とさらにゴーラ様の説得が絡んでいるようでして……」

 

彼女は思ってもない悲報に苛立ち、歯ぎしりを立てている。

 

「あの老いぼれとメスガキめ、ついに気が狂ったか!」

 

「どうしますか、ジャテーゴ様?」

 

しばらく沈黙するジャテーゴ。静かだがとてつもなく恐ろしい雰囲気がにじみ出ている彼女に部下達は、本能的に危険を察知し固まっている。

しかし、次に彼女から出た言葉は意外なことだった。

 

「まあいい、そのままどうなるか様子を見よう」

 

「……それはつまり認めるということですか?」

 

「いや、私は断じて認めん、あの猿どもと相容れることは絶対にありえないこと」

 

「ではどうしてでしょう?」

 

「まだ決まってもないことを阻止しようとして下手に何か仕掛けて我々に疑惑、危険に晒されるよりも遥かにいい方法がある。

それに我々爬虫人類は地上人類を嫌うものはほとんどだ、兄上がそんな愚かなことをしでかしたら間違いなく本人の評価は地に落ち、忠誠を捨てて離反するものが沢山出てこよう。それらを我々の傘下に入れる絶好のチャンスというもの」

 

彼女は焦るどころか逆に不敵な態度をとっている。

 

「お前達は私の指示があるまで手を出すな、そしてこの事実は向こうから知らせがくるまで知らないことにしていろ、わかったな」

 

「は、はいっ」

 

「なあにどの道、協定を結ぶと決定しても私がいる限り確実に交渉決裂になる運命だ。その時を楽しむのもまた一興、せいてはことを仕損じると言う、しばし待て」

 

その時、もう一人の部下が司令部に入り、彼女の元に現れる。

 

「ジャテーゴ様、送り込んだスパイが掴んだ情報によりますと地上人類軍は近い内に我々第三恐竜大隊に強襲を仕掛けるのこと、そして我々全部隊は全て戦闘準備を終えいつでも出撃、戦闘に移行できます」

その報告にジャテーゴから軽い笑みがこぼれた。

 

「本艦ドラグーン・タートルの現状況は?」

 

「こちらもいつでも行動は可能です」

 

「よし。我々第三恐竜大隊はついに総力を上げて南下し進撃を開始する。決行は二日後の夜、部隊にそう伝達せよ」

 

「はっ!」

 

「今日に限り、息抜きとして全兵士に酒やご馳走を与えて今の内に心身共に癒やせてやれ、私からの心ばかりの気遣いだ」

 

「は、ありがたき幸せでございますっ」

 

部下を下がらせた後、彼女はモニターを見て不気味な笑みを浮かべる。

 

「さて、いよいよ始まるか、大陸史上最高の殺し合いが。ことごとく返り討ちにしてくれる」

 

 

一方で、テキサス州の連合軍の基地でも各部隊が全ての準備が整え、来るべき決戦の時に迎えて待機していた。

司令室には今作戦の総司令官を務めるリンクを初めとする各代表、部隊長、そしてゲッターチームから早乙女が集まり最終的な作戦会議が開かれていた。

 

「アラスカにいる敵戦力はこちらより遥かに上であることを考えると、マトモに正面から進撃しても無数のメカザウルスに包囲されて集中攻撃されるのは目に見えている。

かと言ってもどの方向から攻めようにも全く死角がないだろう」

 

「ではどうしますか?」

 

「確実ではないが、タートルとテキサス艦を一対一に持ち込ませれば勝機はある。

なのでまず無数のメカザウルスをテキサス艦から引き離すことが重要となる」

 

彼の提案に全員はざわめきだした。

 

「それはつまり我々が囮になるということですか?」

 

「そうだ。全部隊が先に展開してメカザウルスを陽動、殲滅しタートルまでの一直線の進路を作る、そしてそこからテキサス艦をタートルにぶつける、これしかないだろう」

 

やはり早乙女の読みの通り、自分達が無数のメカザウルスを引きつけ囮となる作戦を行うようである。

 

「陽動にどれだけ時間がかかるか分からないが戦力差の関係上、短期決戦が重要のポイントとなる。

各部隊は非常に厳しい状況を強いることになるだろうが、反対する者はいるか?」

 

 

 

周りに質問するが、全員は首を横に振る。

 

「これしか方法はありません、この作戦が妥当だと思います」

 

「ああ、勝利のために我々は喜んで囮になりますよ」

 

この作戦に賛同する意見が全員一致し、拍手をする。

 

「皆ありがとう。では我々は全員一致で今作戦を決行する。作戦開始は二日後の夜九時ちょうどを予定する。

それまでに各隊員を充分に休息し、準備を済ませよ――」

 

各自解散し、帰る途中、早乙女はニールセンと出会う。

 

「博士やキング博士は戦闘中はどうしますか?」

 

「そうじゃなあ。アイツは分からんがワシはベルクラスに載せてもらおうか、ゲッターロボのサポートもあるしな。

それよりもついにエリダヌスX―01の二号機が完成したのでアルヴァインに装備させたいんじゃがよいか?」

 

「それは後で竜斗に聞きましょう、あの子の機体ですから」

「ホハハ、そうじゃったなっ」

 

会話を終えて、ベルクラスに戻りすぐに司令室に三人とマリアを召集して作戦内容を伝える。

 

「我々は二日後の夜九時ちょうどを持ってアラスカの駐在する敵本拠地、タートルに強襲をかけることになった。

作戦内容としてはまずゲッターチーム含む全部隊が先にアラスカに向かい展開、無数のメカザウルスを引きつけることになる、戦力数は我々は四千に対し向こうは軽く見積もって約一万五千以上」

 

「い、一万五千って自分達の全戦力の四倍近くですか……っ」

 

途方もない数、そして明らかにこちらが不利としか思えないその戦力差を聞いて氷のように固まり、唾を飲み込む竜斗達。

 

「勘違いしているようだが全て倒すわけではない、我々の最優先すべきことはタートルに群がるメカザウルス達を陽動、殲滅をはかりタートルまでの道を作ることだ、そこからテキサス艦が前進しタートルと一騎打ちする、というのが今回の主な作戦内容だ」

 

「……ということは僕達はテキサス艦とタートルを一対一で戦わせるための突破口を作る、ということですか」

 

「そうだ」

 

早乙女はコホンと軽い咳で間を置き、彼らにこう告げる。

「今回の作戦は非常に厳しい、我々ゲッターチームにとって、いや全部隊からしても類を見ない史上最大の戦いとなるだろう。

はっきりいって生存率、勝率は一〇パーセントも満たないと思う」

 

過酷な現実を突きつけられて三人は沈黙、静寂な空気に包まれた。

 

「しかし、我々がここで勝利すれば間違いなく世界的な戦況は大きく変わるだろう。つまり私達人類が勝利する確率が格段に上がるということだ。

それに私は思うんだ、これまでに幾度なく勝ち抜いてきた君達の力とゲッターロボなら間違いなく勝利に導き、そして生き抜けることを。それを信じてやまないんだ」

 

「司令……」

 

「だから君達も、これまでの経験で培った自分の力を最大限に生かしてベストを尽くすようにしろ、無論私達も同じだ」

 

前向きな言葉に三人は勇気と希望が高まり、笑顔が戻った。

 

「「「はいっ!!」」」

 

張りのある三人の元気な返事を聞いて、彼も心から笑む。

 

「三人共いい顔になったな、よろしい。これからの予定だが出撃準備までは各人自由とする。休息をとるなり心の整理をするなりシミュレーションマシンなどで勘を養うなり何でもしてくれ。

それから竜斗、ニールセン博士が最近完成したもうひとつのエリダヌスX―01をアルヴァインに装備させたいと言っていたが君はどうする?」

 

「えっ……どうしようかな……」

 

迷っている竜斗に早乙女は、

 

「まあいい、君の戦闘スタイルを考えるとかえって邪魔になるかもしれんな。

博士もベルクラスに乗ると言っていたしエリダヌスX―01を艦に搬入しといていざ使うとなったら戻って換装することもできるし現状でいくか」

 

「それでお願いしますっ」

 

「よし、博士にそう言っておく。二日後の午後六時にはもういつでも出撃できるように準備しておいてくれ、では解散だ」

 

三人が部屋に出ていくと早乙女は天井から巨大なモニターを展開する。

 

「マリアもすまないが少し席をあけてくれないか?」

「了解しました」

 

彼女も部屋を出て行くのを見届けた早乙女はコンピューターキーをカタカタ入れて待機すると、すぐに幕僚長の入江の姿がモニターに映し出された。

 

“長らく久しぶりだな、早乙女一佐”

 

「幕僚長もお元気そうで何よりです。現在の日本はどうですか?」

 

“状況はあまり変わっておらんが、何とか持ちこたえてるよ、日本の戦力も捨てたもんじゃない。そちらは?”

 

「それについて話があります」

 

今作戦を伝えると、久しぶりの盟友と顔を合わせられて嬉しそうだった表情の彼一転して深刻そうに変わる。

 

“ついに始まるのか……アメリカ史上最大の戦いが”

「もしかしたら我々ゲッターチームは生きて日本に帰れないかもしれませんので最後の挨拶ということで――」

 

“何をいうか。君達はこれまでも上手く勝ち抜いてきたじゃないか、今回も大丈夫だと私は信じているよ”

 

「ありがとうございます。ところであなたに聞きたいことがあります」

 

“なんだ?”

 

「私の出生についてです――」

 

自身が特殊な方法で生まれた人間であること、生粋の日本人ではなかったこと……早乙女はニールセンから聞いた自身の全てを洗いざらに話すと沈黙する入江、知っていたようにも感じられるが。

 

「もしかして幕僚長もこの事を知っていたんじゃないかなと思いましてね?」

“……ああ、私もずっと前に内部の人間から聞かされただけだが君がニールセン・プロジェクトと言う名の元に生まれたレヴィン=ニールセンという天才の血を引く混血児だということを。

正直、疑心暗鬼だったが君からそう言われるとどうやら本当のようだな”

 

「………………」

 

“だが、君は君だろ?ニールセン博士の分身でもなければなんでもない、君は『早乙女一佐』だ”

 

と、きっぱりと伝えると先ほどまで苦虫を噛み潰していたような表情だった早乙女は一段と柔らかくなった。

 

「ありがとうございます、私はこれでもう思い残すことはありませんよ」

 

“私は正直なことを言ったまでだ。

それに一佐、今回だけ遥か海の向こうにいる君に命令を出す。絶対に日本に生きて戻ってこい、君には戻るべき場所や帰りを待つ者がたくさんいることを忘れるな”

 

「幕僚長……」

 

“おや、君らしくない顔だな。まあいい、それでは健闘を祈るぞ”

 

入江から通信が切れると、早乙女は深くため息をついた後、後ろの窓の方へ向き眺める。しばらくすると彼の顔から一筋の雫が滴り落ちていたのだった。

 


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