ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第三十七話「決意」④

「アタシ、トイレに行ってくるね」

 

「あ、マナも行くっ。ちょっと待っててイシカワ」

 

しばらくして、二人は一緒に部屋が出て、少し部屋から離れた途端にエミリアはまるで瞬間湯沸かし機のように顔が一気に真っ赤になり、バクバクと高鳴る胸を押さえて壁に寄りかかった。

 

「さあエミリア、覚悟はいいかしら?」

 

「す、凄くドキドキしてきた……やっぱりやめない?」

 

と、急に怖じ気づいた彼女に愛美は「ハア?」と呆れの声を上げた。

 

「アンタ、こんな土壇場でやめるの?腹をくくりなさいよ」

 

「けどリュウトがアレを望んでなかったらどうしようかなって……」

 

「大丈夫だって、アイツだって前にマナに聞きにきたのよ。どうすればアンタと関係のステップ上がれるかって」

 

エミリアはそれを聞いて「えっ?」と驚く。

 

「だからアイツもアンタから誘えば受け入れてくれるって。しかも誕生日で抱けるって最高のシチュエーションじゃない。マナでさえ経験したことがないこんなチャンスを逃がさないのっ」

 

「…………」

 

未だに最終的な決心がつかない彼女に愛美はこう言った。

 

「エミリア、こんな中途半端な関係じゃ結局あやふやばかりでただ時間が過ぎるだけよ。

どちらかが勇気出していかないと、分かる?」

 

「う、うん……そうだけど……」

 

「マナが無知なアンタ達にレクチャーして、しかも二人きりにするようにしてあげて、さらに最中に邪魔させないようにしてあげるとかこんな親切なことってないんだからね、だったらアンタもとっとと覚悟決めてなさいよ。

もし怖くなって逃げたりしたらアンタをゼッタイぶっ飛ばしてやるからっ」

 

怒鳴られるように言われた後、深呼吸して心を落ち着かせるエミリアはゆっくり立ち上がる。

 

「……確かにミズキがここまでしてくれたんだからそれをフイにしちゃダメだよね。アタシ、いってくる」

 

ついに覚悟を決めた彼女の発言に愛美も「よし」と頷いた。

「よろしい。マナが部屋に誰も近づかないようにしてあげるから後はアンタ次第よ、ガンバレ」

 

エミリアの背中にその小さな手で後押しする愛美。

 

「うん。ミズキ、ありがとね」

 

「いいってこと。ではいってきなよ、応援してるから」

 

そしてエミリアは一人竜斗の待つ自室へ帰っていった。

部屋に入り、ジュースを飲んでいる竜斗の元に向かい顔を合わせた。

 

「あれ、水樹は?」

 

「ちょっと部屋に戻るってトイレ行った後別れたの」

 

と、最もらしい適当な理由をつけて納得させる。

 

「まだ色々ジュースあるけど飲む?」

「うん、ありがとう」

 

エミリアは隅にある小型冷蔵庫を開けてジュースの入ったボトルを取り出してくる。

 

「これおいしいって、水樹がリュウトのために選んできたジュースらしいよ」

 

「へえっ、アイツがね」

 

2つのコップにボトルの中身をなみなみと注いでいく。

何か黒っぽくも彼の好物でオレンジジュースのような色をした飲み物である。

 

「……なにこのジュース?」

 

「リュウトの好きなオレンジジュースだって、こういう色もあるみたいね。ミズキはいつ戻るかわかんないから先に飲もお」

 

「ああ」

 

二人でコップ同士をカチンと当ててすすり飲んでいく二人。

「……確かにオレンジジュースの味がするけど苦い感じで何これ……」

 

「アタシも初めて飲んだけど凄いねこれ……」

 

二人はその未経験の味に驚愕し、一方っ彼女は心の中でドキドキととある心配している。

 

(アルコール入ってるのよねこれ……アタシが先に酔いつぶれたらどうしよう……)

 

実はこのジュースは愛美が即席で作ったアルコール入りのカクテルジュースである。

彼女曰わく、『シラフじゃそういうアダルトな雰囲気になりにくいからどっちも酔ったほうがすぐ持ち込めやすい』ということだが、まだ未成年である自分達が飲むは如何なものだと抵抗があったが、「これも社会勉強だ」と愛美が強引で決め、そのままだと竜斗が警戒して飲まない可能性があるので彼の好きなオレンジジュースで割って飲みやすくしたのだった。

 

彼はボトルのラベルの表記を見る。しかし原料を見るとただのオレンジジュースで頭を傾げる。

 

「……もしかしておいしくない?」

 

「いや、初めての味で戸惑ったんだけどね、すぐ慣れると思うよ」

 

どうやら疑っている様子もなく一気に飲み干す竜斗と、続けてゆっくりと少しずつ飲んでいくエミリア――。

 

「なんか身体が熱くなってきた……」

 

アルコールの影響で竜斗の身体を少しずつ赤くなっている一方で、彼女の肌は少ししか赤くならない。

 

(……アタシ、もしかしてお酒に強い?)

 

そのことが分かると彼女はこれを好機と見たのか自らコップにカクテルを注ぐ。

「リュウトもホラ、まだまだあるから飲もうっ」

 

「あ、ああっ」

 

二杯飲むとすでに彼の顔が真っ赤であることに驚くエミリア。

 

(ワオ……リュウトってこんなに弱かったなんて……)

 

いくらオレンジジュースで割って、しかも普通のサイズのコップ二杯だけでもうリンゴのように真っ赤になっている。

 

「大丈夫……?」

 

「……なんでオレこんなに身体が熱いの……」

 

泥酔まで言っていないが誰が見てもアルコールが回っていることがすぐに分かる竜斗にエミリアは立ち上がる。

 

「少しベッドで休む?」

 

「うん……」

 

彼を担いで彼女のベッドに寝込ませる。

 

「喉が凄く乾いて熱い……」

 

「じゃあ冷たいお水もってくるね」

 

そう言い、食堂に行こうと部屋に出るとそこに愛美がやってくる。

 

「どこまでいったの?」

 

「ミズキの作ったアレを飲ませたらコップ二杯でもう顔が赤くなって……今ベッドで寝かせてる。アタシはリュウトが喉乾いたらしいから水を――」

 

「ふーん。しかしたかがオレンジジュース割りでしかもコップ二杯で撃沈とはアイツも情けないわねえ。で、アンタは飲んだの?」

 

「飲んだけど全然大丈夫、少し身体が熱いだけみたい」

それを聞いた愛美はポケットから小さい紙パックを取り出して彼女に渡した。

 

「これってまさか……」

 

「そう男用のゴム、妊娠したくないでしょ?付け方はマナと練習したから大丈夫よね。

部屋に戻ったら水を寝ている石川にのしかかて始めなさいっ」

 

ドヤ顔でグッドポーズを取る愛美。

 

「……ねえ、これってアンタのやり方じゃない?」

 

彼女は気づいた。前に竜斗に対して愛美が行ったのとほぼ同じ手口だと。

 

「うるさいわね、チャンスはチャンスに変わりないじゃない。ホラ、時間が過ぎない内にさっさと行くっ」

 

この行為が強引で背徳感があり、後ろめたさを感じてしまうエミリアだった。

エミリアは冷水の入ったコップを持って部屋に戻る。

ベッドに寝ている竜斗の元に行き、水を渡す。

 

「リュウト、はい」

 

「あ、ありがとう」

 

彼は一気に水を飲み干すと大きくため息をついた。

 

「ふう、なんかやっと落ち着いてきた。何だったんだあのジュース……ん?」

 

なぜか顔を真っ赤にして身震いしている彼女に彼は不思議がる。

 

「エミリア……どうした?」

 

 

「リュウト……アタシ……っ」

 

次の瞬間、彼の腹部部分にのしかかり、マウントポジションを取った。竜斗は彼女のとった行動にワケが分からず茫然となっている。

「え、エミリア……な、なに?」

 

「……アタシ、もうガマンできないの!」

 

「が、ガマン……?」

 

極度の緊張と羞恥心、そして多少の酒気が入っている彼女は、ついに本音全てを口に出していく。

 

「ゴメン、こうでもしないといつまで立ってもリュウトと出来ないから!」

 

水のおかげで少し酔いが冷めていた彼は彼女の言っている意味がすぐに理解できた。

 

「まさかお前……っ!」

 

彼女は勢いのまま倒れこむように彼に抱きついて無理やり口づけを交わした。

 

「んむっ!」

 

彼は慌ててエミリアを突き飛ばし、顔を真っ赤にして怒る。

 

「どうしたんだよエミリア、お前おかしいよ!」

 

怒鳴りつける竜斗についにエミリアもカッとなったのだ。

 

「リュウトのバカ!アタシの気持ちも知らないで!」

 

「エミリア……?」

 

初めて彼女から怒鳴られた竜斗も仰天して凍りついた。

 

「……リュウトは凄く奥手で自分からはこないの分かっててもアタシは今までガマンしてたけど、さすがに限度ってものがあるよ!

このままじゃいつまでたっても進展しないから……っ!」

 

ボロボロに泣きながら彼に自分の気持ちを訴える。

 

「エミリア……」

 

「だからアタシからリュウトに…………」

彼女はいても立ってもいられずワンワン泣きながら部屋から飛び出して去っていった。

茫然自失する竜斗の元にすぐに愛美が彼の元にやってくる。

 

「一体何があったの?」

 

先ほどあったことを伝えると愛美もエミリアの行動の事情を話してすぐに追いかけるように促した。だが、

 

「俺に酒を飲ませて酔ったところを襲わせるなんて卑怯じゃないか!俺はそんなの望んでないよ」

 

彼女は再び彼の胸ぐらをつかんで怒鳴り散らす。

 

「アンタが男のくせに一向に動かないからこうなったんでしょうが!

カレシなら少しは女心を分かろうとしなさいよ!」

 

「女心…………」

 

「確かにエミリアにそう吹き込んだのも仕組んだのもマナよ、怒りたければいくらでも怒ればいいわよ。

けどマナだっていつまで立っても進展しないアンタ達を見てて正直ムカついてるのよ!恋人はただ手を繋いでいればいいとかそんな綺麗なものだと思ってんの?」

 

「…………」

 

「石川のその奥手な性格を否定する気はないし自ら行きにくいのは分からないでもない。

けどアンタだって彼女としたいと思うよね、だから前にどうしたらワンステップの関係に上がれるかマナに聞きに来たんでしょ?

だったら逃げ回ってないでアンタもさっさと大人の階段を上る覚悟決めなさいよ」

愛美は胸ぐらを掴む手を離して手を払う。

 

「……俺、どうすればいい?」

 

「それはイシカワ次第よ。彼氏としての覚悟が本気なら今すぐにでも追いかけるべきよ。

ないならとっとと別れてこんな関係をすぐ切ったほうがいいわね、これ以上エミリアが可哀想だわ。

あのコは凄く恥ずかしがってたけどアンタになら喜んで身を預けるって言ってて覚悟はとうに出来てんのよ。だから後はアンタがどうするかなんだからね」

 

そう告げて彼女もさっさと部屋から出て行った。

すっかり酔いの冷めた彼はしばらくそこで固まったようにベッドに座り込んだ後、決意を決めたのか力強く立ち上がりエミリアを探しに部屋を飛び出していった。


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