ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第三十七話「決意」③

……五日後。今日は竜斗の誕生日であるが、しかし戦闘準備の最中であるためそれどころではなく本人すら忘れている状況だった。

その夜のベルクラスの艦内、愛美は彼を呼び出してぐいぐい引っ張ってどこかへ連れて行く。

 

「何するの一体?」

 

「今日はなんの日か知ってますか?」

 

「今日……えっ?」

 

彼は考えこむが全く浮かんでこず頭を抱えた。

 

「分からないのなら好都合ね。まあついてきなよ」

 

「…………」

 

彼女が連れていった場所はなぜか食堂である。

 

「石川から先に入ってねっ」

 

「え、なんでだよ」

 

「いいから入りなさいよっ」

 

彼女に押し込まれる形で食堂に突入した時。

 

「誕生日おめでとう、リュウトっ!」

 

彼女の部屋は少ないながらも綺麗な飾り付け、中央には大きいテーブルにはジュースやお菓子、軽いスナック料理やバースデーケーキが置かれており、周りにはエミリアや早乙女とマリア、そしてジェイド達三人が歓迎の声を浴びせ、笑顔で出迎えたのだっだ。

 

「え、えっ……」

 

しかし彼は状況が分からず、目が点になっている。

 

「君のハッピーバースデーだぞ、忘れたのか?」

 

 

「お、俺の誕生日……あ、そういえば今日かっ!」

 

やっと思い出した彼は自身の忘れっぷりに苦笑いするのだった。

 

「連れてくる途中に試しにイシカワに聞いてみても思いだせなかったからついにボケたかと思ったけどね~っ」

 

「はは……すっかり忘れてたよっ」

 

周りは笑い声を上げた。

 

「けどまあ、しょうがないわね。今はこんな状況だからそれどころじゃないのもあるけどね」

 

「そう言えば今日に限って夜ご飯は基地内で軽く済ませってみんなからしつこく言われたのはそのためか……」

 

「あまり準備する時間がなかったしこんな小さいお祝いしかできないけど許してね竜斗君」

 

彼は笑顔で首を横に振った。

「いえ、自分でさえ忘れていた誕生日をみんなが教えてくれた上に僕のために用意してくれたことに寧ろ感謝したいです。みんなありがとうございますっ!」

 

彼は真心を込めて礼をした。

 

「じゃあ、今から小さいながらもパーティーしましょう」

 

周りから誰もが知っているお馴染みの誕生日の歌で祝福しながら彼はケーキに灯された色鮮やかなロウソクの火を一気に息で吹き消し、それから小さいながらも暖かく、楽しいパーティーが始まった。

 

「竜斗、こんど酒飲もうぜっ!」

 

「えっ……お酒ですか……」

 

ジョナサンの誘いに当の本人は困惑する。

 

「おい、彼はまだ未成年だぞ!」

 

生真面目であるジェイドが彼にツッコミを入れた。

 

「竜斗って今日で何歳になった?」

 

「じゅ、十八ですっ」

 

「けど俺なんてもうその頃から飲んでたし別にいいじゃねえか――」

 

「俺は中学からもう毎日のように飲んでたけどな」

 

と、ジョージは割り込むようにそうぼやくと全員が、彼の経験の早さにどん引きしていた。

 

「おめでとう竜斗」

 

「ありがとうございます、司令」

 

早乙女からも彼に祝福の声を掛ける。

 

「君、いや三人にとって激動の一年間だったな」

 

「大変でしたね本当に――」

 

二人でこれまであった出来事を思い出にひたる。

 

「思えば、ちょうど一年前と言えば君達と出会った時期か。私がゲッターロボに無理やり乗せたのが全ての始まりだったな」

 

「おかげで僕らは死にかけたりと、とんでもないことばかり起こりましたけどね」

 

この一年間にあった辛く、苦労した各場面をポンポンと言い出しそれをまるで笑い話にように済ませる二人。

 

「竜斗はこんな酷い目に遭わせてきた私を恨んでいるか?」

 

「…………」

 

「正直にいっていいよ。君達の境遇から考えると当たり前だからな」

 

竜斗はその質問に悩まずスパッと答える。

「確かに僕はゲッターロボに無理やり乗せられてしばらくは嫌だとか恨んでましたけど、今は全然そんな考えはありません。

寧ろ、こんな滅多にない貴重な体験をさせてくれた司令やマリアさんにお礼を言いたいくらいです」

 

笑顔でそう答える竜斗だった。

 

「肉体的にも精神的にも凄く弱かった僕が司令やゲッターロボと出会ってから凄く成長出来たような気がします、本当にありがとうございました。そしてこれからも、次の作戦でもよろしくお願いします!」

 

彼は頭を深く下げて感謝されると基本的に能面のような面をしている早乙女も悪い気分ではなく寧ろ喜びに満ち溢れている。

 

 

「ありがとう竜斗、君達は私にとって息子、娘みたいな存在だ」

 

「司令……」

 

「竜斗、特に君は生きなければならない目的があるだろう。だから次の作戦は私達もたとえベルクラスが撃沈しようと全力で君達だけでも生き残れるようサポートするつもりだ、よろしく頼む」

 

二人は固い握手をして絆をより深いモノとする。ちょうどそこにマリアも竜斗に「おめでとう」と祝福の言葉をかける。

 

「マリアさんもこれまでに僕達をいっぱい支えてくれてありがとうございます。どんな辛いことや厳しいことがあってもここまでこれたのはあなたのおかげです」

 

彼から感謝の言葉を掛けられて彼女は照れ笑いした。

 

「私はただサポートしてきただけ。これまでにどんなことがあっても無事にここまでこれたのはあなた達自身の強さと成長の証だと思うの。これからもそれで傲れずに頑張ってね」

 

「マリアさん……また、これからもよろしくお願いしますっ」

 

「こちらこそっ」

 

早乙女と同じく互いに笑顔で握手を交わした。

 

「今からケーキを食べるからこいよ竜斗!」

 

ケーキを切り分けているエミリア達の元に向かい、食べながらワイワイ楽しく賑わいでいる彼らの姿を早乙女とマリアは暖かい視線を送っていた。

 

「つかの間の楽しい休息ですね」

 

「ああ、これからのことを考えるとちょうどいい気晴らしだ」

 

その時のマリアはふと不安げな表情を浮かべている。

 

「……実のところ、私は次の戦いで彼らが無事でいられるかが不安です」

 

「どうしたマリア?怖いのか?」

 

「いや、そうではないんですけどイヤな予感で胸騒ぎが凄くて……私自身はどうなろうと覚悟は決めてますが彼らに万が一のことがあればと……今作戦は今までの戦闘とは規模が桁違いですから……」

 

とそう不安を漏らすマリアに早乙女は。

 

「確かに私も今回は勝てるどうなるか検討がつかん。

だからこそ自分達の持てる力を最大限に生かして未知の領域に踏み入る、それだけだ。

恐らく今作戦を攻略できれば恐竜帝国の基盤は一気に崩れるだろう、逃す手ない」

「…………」

 

「それに竜斗達は今回もなんだかんだで無事生き残れると、私は信じて疑わないよ。

竜斗達はそう思わせてくれるほどに未知なる可能性を秘めた子達だからな」

 

と、前向きな言葉で彼女を安心させようとする。

 

「そのためにも彼らを全力でサポートするつもりでいるが。マリアは?」

 

「私も司令と同じ思いです」

 

「なら彼らの力を心から信じようじゃないか」

 

「はい――」

 

「司令達もケーキ食べましょうよっ」

 

と、声を掛けられて二人はすぐに気を取り直して笑顔で彼らの中に入っていった。

 

――僕達は短いながらも楽しい一時を過ごした。

エミリアを除く、外国人がいっぱいいる誕生日パーティーは初めてだったけどだからと言って別に気を使うこともなく凄く楽しめたし、張り詰めていた気分も緩和されて心地良いものだった。

こんな状況下にも関わらず、僕のために思いがけないサプライズを用意してくれたみんなに感謝したいし、そんなみんなのために僕も全力で頑張ることを強く心に決めたのだった――。

 

数時間後、食堂でのパーティーは終わり、別れたジェイド達三人と早乙女とマリアとは別に三人だけで二次会のようなモノをエミリアの部屋で行っていた。

 

「「「乾杯!」」」

 

基地の売店や外で買ってきたお菓子やジュースを並べて、三人は楽しく話をしている。

 

「考えたら俺達は学校行ってたらもう高3だよな。来年立てばもう卒業になるのか……」

 

「ところでイシカワって今はアレだけどもし学校行ってて卒業したら就職か進学どっちにするつもりだった?」

 

「俺は大学かな、エミリアは?」

 

「アタシは家庭科系の専門学校を選ぼうとしてた、それでミズキはどうするつもりだったの?」

 

「マナはね……聞きたい?」

 

と何故か言うのをもったいぶっている愛美。

 

「教えてよっ」

 

「フーゾクで働こうかなって」

と、真面目なのかふざけているのか分からない返答にコメントに困る二人だった。

 

「なーんてね、ウソよウソっ」

 

「けど水樹が言うと本気に思えるから……」

 

「けど、まあマナはちょっと違うけどキャバ嬢とかの水商売をやってみたいなあって気持ちはあったわよ。

酒も飲めるし男と話すの大好きだし、それだけで金稼げるなんて最高じゃない。まあパパやママは絶対に許してくれなかったと思うけど」

 

「……まあ確かにミズキには凄く相性がいいかもね」

 

「でしょ。けど学校に行かなくてもう一年半位になるけど無事卒業できるのかしら」

 

確かに戦争が終わるのは果たしていつになるのだろうか、今年中に行けるのかどうか悩む三人。

「その前に今は次の戦いに切り抜けられるかどうかだよ。ここで死んだら卒業も何もないよ」

 

彼の言葉に二人は納得し頷いた。

 

「……そう言えばゲッターロボに乗り始めてからもう一年くらい経ったのね。

踏んだり蹴ったりばかりだったけど考えてみれば人生で一番濃い一年だったと思わない?」

 

「うん。いつ死ぬかどうかわからない毎日だったからね、今もそうだけど」

 

ゲッターロボに乗り、メカザウルスという武装した無数の恐竜相手と戦い生きるか死ぬか、こんな緊張感と興奮の続くような毎日は普通な生活をしていたらまず有り得なかった話である。

竜斗は一呼吸置いて二人へ真剣な眼を向けた。

 

「二人とも、次も絶対に生きて帰ろうな」

 

エミリアと愛美は彼の言葉に賛同して相づちをうつ。

 

「けどさ、マナ達は何とかなりそうな気がするんだよね、何故か分からないけど」

 

「それってミズキの勘?」

 

「うん。今までも何だかんだでチーム全員無事だったし」

 

「そうだね。それを祈って三人で誓おうよ。絶対に全員で生きて帰ろうって」

 

「それって早乙女さんやマリアさんも含まれてる?」

 

「もちろん、いや少佐達や戦闘に参加する人達全員が一人でも死なないように俺達もゲッターロボで必死で頑張っていこう」

 

三人は互いに手を差し伸べて握りあい、決意を固めたのであった。

 


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