ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第三十七話「決意」②

一週間後。基地部司令室では各部隊の代表が集められ、所長のリンクから指令が下される。

 

「世界連の上層部から我々、アメリカ・EU連合軍はこれより戦闘準備に入り、完了次第アラスカの敵本拠地に強襲をかけろとの命令が入った」

 

ついに決戦の時が近いとその場にいる全員が実感し、気を引き締める。

 

「先日完成したテキサス級戦艦の艦長及び総司令官に私が任命された。全員、至らない点が多々あると思うがどうかよろしく頼む」

 

その場にいる全員が一斉に敬礼し、彼も敬礼で返す。

 

「ありがとう。では今より我々は強襲の準備を行う。各隊は直ちに行動せよ。

恐らくはアメリカ至上最大の戦いとなるだろう、全員気を入れて取りかかってくれっ」

 

解散した後、早乙女はすぐさまベルクラスへ戻りマリアと竜斗達を司令室に集めて伝言する。

 

「ついに来たんですね……」

 

「間違いなく大雪山の時とは比べものにならないほどの激戦となるし遥かに厳しいだろう、しかしここまで来たからには前に進むしかない」

 

来るべき決戦を前に三人は息を飲む。

 

「詳しい作戦についてはまだだが、その内明らかになるだろう。我々ゲッターチームもこれより戦闘準備に取りかかる。各人は心の準備及び、不具合が起こらぬように各機の整備、調整を徹底して行ってくれ」

 

「了解っ!」

 

「そしてベルクラスも多少ではあるが武装の強化に入る。そのため艦内がうるさくなるが我慢してほしい」

 

早乙女は一旦間を置いて彼らに真剣にこう話す。

 

「君達、わかっているとは思うが戦闘では自分達は生きて帰れる保証などないが今作戦はその確率が一気に跳ね上がる。もしかすればこのベルクラスすらも本当で大破、撃沈する可能性も高いということだ」

 

「…………」

 

「なのでもう一度いっておくぞ。非情になれ、優しさを捨てろ」

 

と、早乙女は特に竜斗、エミリアに視線を向けてそう言い放つ。

 

「「は、はいっ!」」

 

三人を解散させると早乙女は椅子に座り「フウ」とため息をつくとマリアが駆け寄る。

 

「司令、実は向こうの敵戦力を前もって調べた結果なんですが」

コンピューターを起動させてデータの内容を見せると彼は眉をひそめた。

 

「確認できただけでも飛行型メカザウルスの数は最低でも三千から五千、地上型メカザウルスは一万近く……総計一万五千の戦力はあります。それに対し、我々連合軍の全戦力は四千前後――」

 

「……圧倒的だな」

 

「あと敵側の援軍もあると想定すると恐らく二万は軽く超えると考えられます」

 

彼は画面と無言のまま睨めっこしている。

 

「だが、我々にはゲッターロボ、ステルヴァー、そして各連合軍の高性能SMBが集結している。

それで戦力差を埋めるしかないだろうな」

 

「ここからが問題です。敵本拠地である暗号名『タートル』は全長は少なくとも十二キロメートル以上、テキサス級戦艦の全長は四キロメートル」

 

 

「ふむ……」

 

「聞けばテキサス級は対タートル用決戦兵器らしいですが、どう考えて明らかな我々の不利であると思われます」

 

二、三倍も巨大に加えて、想定される堅牢な装甲、強力な兵器を搭載されているであろう難攻不落な敵要塞にどうやって決定打を与えるのか分からないものだ。

「そもそもこんな無数の敵がいるのにどうやって接近を?

その前に間違いなく撃沈されますよ」

 

「どうしたマリア、もしかして怖いのか?」

 

「見損なわないでください!」

 

と、彼はジョーク混じりに言うと彼女は顔をプンプンさせた。

 

「まあ決戦兵器と言うからには余程の武装が施されているんだろうな、それにニールセン、キング博士含む世界各国最高の技術者や科学者が総力を上げて建造したんだからそれを信用しようじゃないか」

と、まるで勝てるだろうと言わんばかりにそう淡々と語る早乙女。

 

「それに私の予想だが、敵戦力の大半を我々が引きつけることになるだろう」

 

「つまりそれは――」

 

「我々ゲッターチーム含めたほとんどの部隊が無数のメカザウルスの囮になるということだ」

 

それを聞いてマリアは冷や汗をかいて唾を飲み込んだ。

 

「……おそらく両軍とも戦死者の数は凄まじいことになるでしょうね……」

 

「今までよく持ってきたが本当に我々ゲッターチームの命運もこれまでかもしれん、覚悟だけはしておいたほうがいい――」

 

二人が深刻な話をしている時、竜斗達三人は格納庫で各ゲッターロボのシステムの調整、整備をすみからすみまで徹底的に行っている最中だった。

 

「ねえミズキ、アタシ達、この戦いに勝てるのかしら……」

 

と、エミリアが隣で一緒に整備を手伝っている愛美へ不安を呟く。

 

「どうしたのよいきなり?」

 

「だって北海道の戦いで凄く苦労したのに今回はそれ、いや今までのとか比べ物にならないくらいに厳しいって話じゃない」

 

「なに?またアンタ怖じ気づいちゃったわけ?」

 

「もう怖くはないよ、なんだかんだでもう何十回も戦ってきたんだから。けど、なんかイヤな予感というかなんというか……何だか分からない不安ばっかりで」

 

「それが怖いってことじゃないの?」

 

愛美はフンと軽口を叩くとエミリアはムッとなる。

「じゃあミズキは何も不安やら何やら感じてないの、今まで思ってたけど一体どういう神経してるのよっ」

 

「マナは割り切るか開き直るだけだからね♪」

 

「……アンタのそのポジティブシンキングを分けてほしいわ」

 

彼女の前向きさに呆れに呆れるエミリア。

 

「……けどまあ確かに、エミリアの言い分も分からなくもないわね。

早乙女さんも言っていたけどさ、マナ達って今までなんだかんだでここまできたけど、考えてみればよく三人共無事でいられたわよね。いくらゲッターロボの力やマナ達に才能や運があると言われても」

 

「でしょ?ここまで都合よくいくと次が本当にどうなるか……」

 

 

「しかも今回は史上最大の決戦らしいし、マナ達も下手したら本当に全滅、誰かがもう生きて帰れないかもね」

 

二人は起こりうる事態にしばらく沈黙してしまう。

 

「エミリアさ、前の戦いの時イシカワが撃墜されて凄く焦った挙げ句の果てに任務優先させようとした早乙女さんに喧嘩売ってたけど、確かにあの人もムッとなる理由も分かるわ」

 

「…………」

 

「気持ちは分かるけどね、だけどアンタのせいでマナ達まで危険に晒されたら堪ったもんじゃなんだからしっかりしてよね」

 

彼女からの指摘にエミリアはどこか納得行かないようだ。

 

「……なんかいつのまにかアタシがミズキに説教されることになるとは、もの凄い違和感が……」

「フン、マナだってまだ生きていたいんだから早乙女さんの指示に従うのは当たり前でしょ。

アンタ達もさっき早乙女さんがイシカワとエミリアに睨みつけるような視線で忠告してたことを深く刻み込んでおいたら?マナ達が今置かれている立場ではそれが賢明よ」

 

と、二人が作業を忘れて話に夢中になっていた時、珍しくムッとなった竜斗がそこにやってくる。

 

「あのさ二人とも、さっきからサボり過ぎなんじゃないの?」

 

と、彼からの注意にしまったと思うエミリアと平然な愛美。

 

「イシカワに聞きたいことあるんだけど、今回の戦いは勝てると思う?」

 

「え、どうしたんだよいきなり?」

 

「さっきその事で話し合っててさ、アンタの返事も聞きたいからさ。どうなの?」

 

と、質問されると答えに戸惑っているのか口ごもる。が、

 

「ここまできたからにはもうやるしかないし、それに俺にはやるべきことがあるから何としてでも勝つ、それだけだよ」

 

「じゃあアタシ達がもしものことがあったらリュウトは?」

 

「そうならないように俺が二人を全力でカバーするから」

 

清々しいくらいの前向きな彼の返事を聞いた二人の態度は一変し、キョトンとなる。

 

「どうしたんだよ二人とも?」

 

「さ、さすがのマナ達もアンタがここまで前向きになってると思わなかったから……ねえエミリア?」

「うん……なんかもう別人みたいで怖い……」

 

二人から気味悪がれて彼も困惑する。

 

「みんなが前向きになれって言うから凄く努力したのに、なんで二人の反応がそうなるんだよ」

 

「イシカワはいきなりで変わりすぎなのよっ」

 

「…………」

 

「まあまあ、リュウトがここまで強くなったのはいいことじゃないっ、ハハ……」

 

と、エミリアが慌てて仲立ちに入るも三人の間に妙に気まずい雰囲気になっていく。

 

「ほ、ホラ早く作業を進めましょうよ、ネ、ネ?」

 

彼女がこの場を濁しし、再び作業に入る三人。だが、隣で愛美は小声で何かを伝える。

(石川って最近すぐカッとならない?)

 

(ワタシも思った、リュウトっていつの間にか気性が激しくなったよね……)

 

二人の意見が一致するほど彼の変貌具合に少し恐怖を抱いていた。

 

(アイツ、ストレスが凄く溜まってんじゃないかしら)

 

(それはあり得るかも……今まで色々あったし。このままだともしかしたら暴走しちゃったりして)

 

(それは大変ね、何とかしないと――)

 

二人は作業しながら何か彼のストレス解消法を考える。すると愛美は何か考えたのか手をポンと叩く。

 

(いいこと考えたわ、考えたら石川の誕生日ってもう間近じゃない?)

 

(あ、そういえばそうね!)

 

(だからそれでさ――)

 

エミリアの耳元で提案を呟くと彼女はドキっとなり目が点になった。

 

(えっ…………アタシがリュウトに…………)

 

(アタシがちゃんとレクチャーしてあげるから大丈夫だって。二人はまだしてないんでしょ?)

 

(うん………………)

 

(アンタだってアイツが行動の遅さに我慢できないでしょ、だったらこっちから仕掛けるのみよ!)

 

一体何の話をしているか、その答えはエミリアの真っ赤な顔である。

 

(リュウトを……アタシから誘う……けどそんなことできるかしら……)

(マナだってもうアンタ達互いの一手つかずがもう我慢ならないのよっ、とっととヤッて互いのモヤモヤをすっきりしなさいよ)

 

まだ踏ん切りがつかない彼女に愛美はため息をつく。

 

(あとさ、そもそもアンタもアンタでカレシを気持ちよくさせる方法を知ってんの?)

 

(し、知らないよ……そんなこと)

 

(……あのさ、いざって時に女の子もただ男頼りでずっとベッドで寝てるだけじゃ相手もやる気なくすよ?下手したらそれが元でアンタ達の今まで築き上げてきた愛情やらなんやらが一瞬で消し飛ぶかもね~っ)

 

(そ、そんなあ……)

 

(だからマナがそうならないためにも色々なテクニックをしかもタダで教えてあげようとしてるんだから快く受け入れなさいよっ)

 

強引に引き込むと彼女もタカを括ったのかコクッと頷いた。

 

(それでよろしい。マナもそこまで持ち込むように色々とサポートしてあげるから安心してよ)

 

(う、うん……)

 

(エミリア、このまま互いに想いを遂げられずに次の戦いで万が一、もしものことがあったら後悔しか残らないでしょ?そうならないためにも今のうちに済ませておくの、分かったわね)

 

とんでもない方向に進んでるようでものすごい不安感でたまらなくなるエミリアであった。

 


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