「やっと完成か……っ」
「ついにやりましたな、ニールセン博士!」
ニールセン達エンジニア一同がついに完成の時を迎えた数キロという巨大戦艦を前にして賑わいの声に溢れていた。
「起動テストもクリアし、後は来たるべき決戦への用意だな」
「……にしても、完成予定日よりも大幅に遅れましたね」
と、早乙女がそう口走るとニールセンは間を入れず彼を睨みつける。
「誰のせいだと思っとるんじゃ、あ?」
「はいはい、私の責任ですよ。すいませんね」
と、相変わらずの棒読みの謝罪に「ちっ」と舌打ちするニールセン。
「さて、後は軍上層部にこのコトを報告して指示を仰ぐのを待つか」
とりあえずここで全員解散して各人は去っていく中、この場に残る早乙女とニールセン。
「そう言えばキング博士は?」
「アルヴァインの修理に必死じゃよ。まさかタメを張るメカザウルスがいたとは驚きじゃが、本人は文句ばかり垂れておったぞ。「ワシを過労死させるつもりかっ」とな」
「はあ。ところで博士に聞きたいことが」
「なんだ一体?」
「我々人類は向こうと和平を望めることは出来ると思いますか?」
するとニールセンは当然「はっ?」と疑問符を吐く。
「何を言い出すんじゃお前は?」
「実はですね――」
これまであったことを話すとニールセンは肩を傾げる。
「さあな。竜斗君がいくらそんなことが出来たとはいえ今のあの子は一介の兵士だ。彼一人では説得力もなければ発言力も全くないな」
「……まあそうですよね」
「まあ署名運動なども行えば多少は変わるかもしれんが、実際はこんな戦火を起こして巻き込んだ敵を許す人間は少ないじゃろうな、ましてや相手は人間ではない、爬虫類じゃ」
と冷たく突き放すニールセン。
「では博士はどちら側ですか?」
「反対派だ。色々理由はあるが何よりワシは「戦争屋」だからな。竜斗君には悪いが」
と、きっぱり告げると早乙女もこれ以上何も言わなかった。
「まあ、それよりも今は目の前のことに集中じゃ。せっかくここまで来たんだから」
ニールセンは去っていき、その後ろ姿を黙って見つめる早乙女は一体何を感じているのだろうか。
「俺も上手くいくとは思えないな」
基地内のトレーニングルームでは筋トレする竜斗とジョージ、そしてジョナサンが彼らと同じ話をしていた。
「考えてみろよ、元はと言えば向こうから戦争を振ってきたんだぜ?それで沢山犠牲が出ているこんな現状で今さら向こうを許せると思うか?」
「それは…………」
「竜斗達だってヤツらに家族全員やられたのにお前はそれでも許せるなんて、マザーテレサ並の博愛主義者かよ」
「じゃあ大尉はどう思いますか?」
「俺はイヤだね、聖人君子じゃないし。それにマナミを悲しませたこの恨みは高くつくぜっ」
と、彼に本音をぶつけるジョナサン。
「確かに竜斗君の気持ちは分かるが世界中の人間が君のような考えをもっているとは絶対にないし、何より俺達がただここで何か言い合ったって変わるワケがないよ。
結局は上層部が全て決めること、それに俺達は従うしかないんだ、君だって分かるだろ」
「…………」
「とりあえず、この話を続けても不毛だな――」
トレーニングが終わり汗を拭いて着替えた竜斗は複雑な顔をして基地内の休憩室に向かう。
するとちょうどそこにいた愛美と出会う。
「あら、どこ行ってたの?」
「トレーニングしてた」
「ふーん、お疲れ」
何気ない会話をする二人だが、彼女は竜斗から何かを察する。
「あんた、なんかあまりいい気分じゃなさそうね、何かあったの?」
「……別に何もないよ」
「なあに隠してんのよ、マナには分かるのよ。言ってみなさい、仲間でしょ?」
彼女にこんなコトを話しても解決するわけでもないがとりあえず話してみると彼女も不機嫌そうな表情をとる。
「ねえ石川さ、それマジで言ってんの?」
「……じゃなかったらこんなに悩んでないよ」
「あんたも相当の変わり者ね、なんであんなキモい奴らなんかがいいのかしら」
「一応聞くけど水樹はどう思う?」
「断然マナはイヤよ!あいつらと仲良くなるくらいなら死んだほうがマシだからね」
やはり彼女の返ってくる言葉は自分が予想した通りだった。
「絶対に水樹がそう答えると思ってたからあまり口にしたくなかったんだよ」
「何よ、マナが悪いって言いたいワケ?」
「そんなこと言ってないだろっ」
互いに睨みつけ、喧嘩腰になる二人だった。
「……もうやめましょ、こんなことでいちいち喧嘩してもしょうがないわ」
意外にも彼女から折れて彼も一応怒りを抑える。
「やっぱりあんたとマナじゃ相性悪いかもね」
「……えっ?」
「こっちの話、で、本題に入ろうかしら。感情抜きでマナからの考えだけど無理なんじゃない?」
と、ジョナサンのようにそうきっぱりと告げる。
「だってあいつらからこんな戦争を仕掛けてどれだけ世界に迷惑かけていると思っているの?それで今さら「すいませんでした、仲良くしましょう」って向こうからそんな都合の良いことを言ってきても、許せる人間なんか一握りいるかどうかだと思う」
やはり彼女も二人と同じ答えを返す。
「アンタって戦闘になったらメカザウルスを片っ端から落としていくけどどっちの味方なのよ?人間か、爬虫類か?」
「俺は…………」
「すぐ答えられないようじゃそこまでね。
はっきり言わせてもらうけどアンタはその内周りから『偽善者』って呼ばれても文句すら言えなくなるわよ」
「…………」
「まあ、それでいいんならアンタの好きな通りにすればいいんじゃない?
最も、その時は誰もアンタの味方はいなくなるかもよ、ちなみにマナはちゃんと人間の尊厳を持っているから絶対に向こうには行かないわね」
そう断言する愛美に対し、彼は。
「俺が戦うのは生き残っていくためもあるし先を切り開いていくって理由もある。
そして向こうと和平できるなら周りから何を言われようと、孤立しても構わないよ。俺は例え一人になろうと爬虫人類との共存を望む」
「……アンタ、もしかしてマナ達を敵に回してもいいってこと?」
「その時はしょうがないよ、それが俺の決意だ」
彼も負けじと断言する。彼の目は今までにない真剣さを感じられて彼女は呆れに呆れた。
「イシカワがまさかそこまで思っているだなんて思わなかった。
まあ、やれるだけやってみることね。マナは見守ることしかできないけど」
すると彼は何故かキョトンとなっているのに不思議がる愛美。
「どうしたの?」
「いや、水樹が俺を見守ると言うだなんて思わなかったから」
「まあ、なんだかんだでアンタは大切な仲間だからね。敵対する気はさらさらないし正直してほしくないし」
「水樹……」
「イシカワがいつの間にか、そんな大それた信念を持ってることに正直驚いたわ。
マナには何も手助けはできないけどイシカワを支えることぐらいはできる、だからアンタもそこまで言ったからには信念を絶対に曲げちゃダメよ」
愛美からの思いがけない励ましをもらい、竜斗は凄く嬉しく感じ、笑顔に戻り「ありがとう」と言うと彼女も照れる仕草を見せる。
「俺達って最初と比べたら百八十度変わったよな、最初は接するのも嫌だったのに今はかけがえのない大切な仲間と思えるんだから」
「そ、そりゃあアンタも凄く強くなったからじゃない。なんか別人みたいだもん」
「別人というか本質は変わってないと思うけどね」
「多分、石川には元々そういう強さを持っていたんだと思う。それを周りが引き出してくれたんじゃないのかな?」
「やっぱりみんなのおかげだね」
そこから二人はしばらく時間を忘れるくらいに雑談に楽しむ。
「水樹は全て終わったらどうする?」
「マナ?さあ、そこまでは考えてないけど……石川は?」
「俺はもちろん普通の生活に戻るよ、それに行けるかどうか分からないけど学校にも行きたいし久々に友達と遊びたいしね」
しかし愛美はそれを聞いて複雑そうな表情になる。
「どうした?」
「マナにはもう友達が……いない」
「しまった」と彼は気づき、焦ってしまう。暗い表情へと落とした彼女に竜斗は。
「水樹には俺達ゲッターチームがいるし、一人じゃないから大丈夫だよ」
「本当に…………?」
「一生友達と俺は誓うよ。エミリアも多分そう思ってくれるし安心してよ」
と彼なりに励ますと一転して彼女はニコっと笑った。
「ふふ、落ち込んでると思った?さっきのはフェイクよ」
と大声で伝えてキョトンとなる竜斗。
「アンタの焦った顔が見たくて演技しただけだからね、あ~っ面白かった」
「水樹……っ、お前!」
「騙されたわね、アハハ」
キッとなり突っかかる彼だが本気で怒っているわけでもなく、寧ろ悲しんでなくてよかったとも思えるくらいに安心しているようであった。
「さてと、マナはもう部屋に帰るね」
立ち上がり、彼に背を向けて去っていく愛美は外に出て、少し歩くと足を止める。次第に目が潤み、顔が真っ赤になりそして大粒の涙を流していた。
「ありがとう……石川……っ」
一生友達になってくれると言ってくれた彼へ心から感謝している愛美であった。
――水樹は俺が別人のように変わったと言ってくれたけど、そう言うあいつ自身も最初と比べて凄く変わったし、だからこそこうして互いに身近に接することができたんだと思う。
イジメる、イジメられる立場だった俺達が今ではゲッターチームとして機能し、そして悩みや本音を打ち明けられているほどになっているのだから。
そしてこれからも俺達がそういう関係でいけたらなと、そしてもう二度と敵対することが起こらなければと切に願っている自分がいる――。
晴れたその夜、竜斗とエミリアはベルクラスの甲板上で話をしている。内容は愛美と話していたことについてだ。
「エミリアはどう思う?」
「前にも言ったけどアタシは何があってもリュウトの味方だから」
彼女も愛美のように悩む様子はなくそう答えた。
「けど、万が一だけど俺だけ孤立して敵対することだって考えられる、その時は?」
もしそうなった場合に、彼女を巻き添えにしたくない気持ちが凄く伝わってくる。
「心配しなくてもリュウトについていくよ、カレシを信用できなくてどうするのよ。
それにリュウトのしようとしていることはすごく善いことじゃない、だったらなおさらよっ」
力強く発言するエミリアには少しも迷いがなさそうである。
「……確かにアメリカに渡る前は北海道のこともあって爬虫人類を絶対に許せないと思ってたし今でもそうだよ。
だけどゴーラちゃんのような子も向こうにいることも考えれば――ね」
「エミリア……」
「ゲッターチームのリーダーなんだし、悪いことじゃなければ遠慮せずに自分の思う通りにすればいいよ。アタシもできる範囲で協力するから!」
勇気づけるような明るい笑みで答えるエミリアに彼は、
「……ありがとう。俺、どこまでいけるか分からないけど色々方法を模索して本気で努力してみるよ!」
彼女も「うん」と相槌を打った。
「よおし、絶対に爬虫人類と共存できるよう頑張るぞお!」
彼はその断固なる決意を大声でその夜空へ、そして向こうに届かせるように叫ぶのであった。