ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第五話「朝霞戦」①

――まさかエミリアがゲッターロボに乗りたいと言い出した時は僕は疑った。

エミリアは一体何を考えているのかわからなかったが、僕と一緒にメカザウルスから世界を守りたいと言ったのだ。

僕からすれば正直乗り込んでほしくない、エミリアまでひどい目に遭わすなんて……そんなことはさせたくない――

 

 

「サオトメさんお願いがあります。アタシをゲッターロボのパイロットにしてください!」

 

――次の日の朝、司令室でエミリアが彼にそう頼みこむが、隣にいたマリアは狼狽した。

 

「あなた何を考えてるの!?そんなこと出来るわけないでしょ!」

 

一方で早乙女は黙ったままだ。

 

「リュウトに操縦できるのならワタシにだってできるはずです、リュウトばかりこんな危険な目に遭わせたくないんです!」

 

何の迷いなく堂々と申し出る彼女だがマリアはそれを許すはずはなかった。

 

「エミリアちゃん、そもそも民間人の竜斗君を軍事兵器であるゲッターロボに乗せること自体が異例なのよ。

あたしは彼に負い目を感じているのにあなたまで……これは遊びじゃない、物凄く危険なのよ」

 

すると早乙女は顔色を一つ変えずに口を開く。

 

「――いいだろう。そこまでして乗りたいのなら君もパイロットとして認定しようじゃないか」

 

「司令!?」

なんとすんなり受け入れる彼にマリアは当然、唖然となる。

 

「君にも竜斗と同じく形だけでも軍属として階級を与えよう。制服も支給するし給料も貰えるようにする。

さっそくだが今日から彼と共に訓練を受けてもらうが、いいか?」

 

「はい!」

 

とんとん拍子に話を進める早乙女とエミリア。だが一方っマリアは彼らについていけなかった。

 

「司令、彼女も危険に晒すおつもりですか!?」

 

「いいじゃないか。ちょうどあと二人のゲッターパイロットを探していたところだし、寧ろ志願してくれたのはこちらからはありがたい」

 

「しかし……っ」

「それに竜斗も彼女となら連携をとれやすいんじゃないかな。気も楽になるだろうし」

 

すまし顔でそう言う早乙女だが、エミリアに視線を向けてこう話す。

 

「君にこれだけは言っておく。

ゲッターロボは君が考えるほど気軽な代物ではない。

確かに操縦は簡単で君にもできるだろう。だが竜斗の戦闘で見たとおり、色々な意味で想像を絶するほどの重圧が君にのしかかる。

そして乗ることによって君はもしかすれば大切なモノをいくつも失うことになるかもしれん。

 

君がゲッターロボのパイロットになるなら私は君が女性だろうが一切の情けや容赦などしない。

それですこしでも覚悟が揺れ動くなら、二度とゲッターロボに乗りたいなどと口に出すな」

……その時の早乙女の目は物凄く怖かった。重みのある言葉に加えてぐっと睨みつけるようで、まるでエミリアの覚悟を試しているかのようだ――だが彼女は負けじとキリッとした態度をとる。

 

「いいえ、一歩も引き下がりません。

リュウトが危険な目に遭ってるっていうのにワタシは艦内でただ安全を祈るというのがイヤなんです。

リュウトが生き残れるのなら……ワタシはリュウトの痛みや苦しみを全て背負うつもりです」

 

「エミリアちゃん……そこまでしてあなた……っ」

 

「…………」

 

 

……そして朝九時に早乙女の講義に受ける竜斗とエミリア。

彼はこれを聞いた時、心が抉られる思いをした。

彼女自らゲッターパイロットに志願したことに対する驚愕と心配もある。

最大の理由は、自分がゲッターに乗ってエミリア達を守るといったのに彼女が乗ると言ったのは、自分が心配だからという理由で、結局自分はまだ弱く見られがち、つまり頼りにされてないという意味でもあった。

 

昨日、愛美に反抗して逃げない、強くなると決めたのに――。

 

「アタシがいたら気が楽でしょ?頑張ろうね!」

 

「…………」

 

彼女の励ましの笑みが今は自分にとって心を重くする。

 

 

――エミリアを一言で言えば『献身的』。誰かが困っているなら自分が何とかしなきゃと考えてしまう傾向がある。

良く言えば『人に尽くす人』、悪く言えば『お節介』でもある。特に竜斗に対しては過保護と言われるほどで、今まで彼がイジメなどで困っていた時に真っ先に助けに入るのはエミリアだった――これは学校でも有名だったほどである。

 

なんでこんな俺のためにそこまで助けるのだろう――彼女の真意を知らない彼はそう思っていた。

 

午後からは昨日と同じくゲッターロボの操縦訓練で、彼の訓練とエミリアの初操縦を兼ねて行うという。

 

――昼。食堂に向かう竜斗達。

 

「アイツからあんな目に遭ってたなんて……リュウトが本当にかわいそう……っ」

 

「…………」

 

「けどもう安心して。これからアタシは早くゲッターロボの操縦をうまくなって、リュウトに負担かけないように必死で頑張るから。

そして一緒に恐竜……メカザウルスだっけ?ともかく世界を守りましょ♪」

 

――だが、彼の反応は快くなかった。

 

「……なんでお前までゲッターロボに乗らないといけないんだよ。すごく危険ってこと分かってるだろ……!」

 

「だって……リュウトばかりこんな目に遭ってるのにワタシだけ何もできないなんて…………それに――」

 

「……それに?」

 

「……アタシ、リュウトと一緒にいられるだけで凄く幸せだから。

大丈夫、キツいことやつらいことがあってもヘーキだよ!」

 

心からこもる彼女の言葉に、竜斗はドキッとして顔を赤面させる。視線を逸らすと震えるような声でこう言った。

 

「……ムリするなよ」

 

彼女にこれくらいしか言えないのが、自分にとっての残念であった――。

 

「…………」

 

彼らが通った通路後ろの曲がり角で覗く愛美。

彼女はまた何を企んでいるのか。スマートフォンを破壊されたことによる恨みか……。

 

昼食を食べて午後一時。昨日と同じく格納庫でパイロットスーツに着替える竜斗とエミリア。

白とオレンジ色の彼女らしく明るい基調色のパイロットスーツを着込んだ彼女は、日本人離れのグラマーであり、ピチピチのスーツを着込んだその姿は物凄くセクシーである。

 

(エミリアって……スタイルいいな……っ)

 

直に見る竜斗も彼女の姿に思わず惚れ惚れし、唾を飲み込む。

 

そして早乙女達と合流し、エミリアはマリアからゲッターロボの概要と操縦方法の講座をされている間、竜斗は早乙女からこれからについて指示された。

 

「竜斗、今日は彼女と一緒にコックピットに搭乗して色々とサポートしてやってくれ、できるか?」

 

「……やってみます。エミリアも僕といたらやりやすいでしょうから」

 

そしてエミリアはというとその表情を見るとガチガチに緊張しているようでマリアの講座を聞いているのかどうかわからないほどだ。

自ら志願したとは言え、ただの女子高生である。

そんな彼女がゲッターロボに乗り込むなんて、未知の世界に足を踏み入れたようなものである。

 

「……エミリアちゃんは今日が初操縦だから絶対に落ち着いて、そして無理をしないこと。

それに今日は竜斗君が一瞬にコックピットに乗ってくれるから、少しはやりやすくなると思うわ」

 

「リュウトが?」

 

振り向くと防護ヘルメットを携えた彼はこちらへ駆けつける。

 

「エミリア……やめるなら今の内だよ」

「ううん。自分が決めたことだし。それにリュウトが一緒に乗ってくれるんだもん、アタシ張り切ってガンバル!」

 

「……そうか。なら行くか!」

 

「うん!」

 

二人は彼女の希望で『陸戦型ゲッターロボ』に乗り込む。

なぜこの癖のある機体を選んだのかは、本当は彼女も空戦型に乗りたいも、好きな竜斗に譲ろうと考えたからである。

 

オレンジ色の防護ヘルメットを被らせた彼女をコックピットの座席に座らせて、彼が座席後部にしがみついて立つ。

 

「エミリア、まず俺の言うとおりにコックピットのシステムを起動させるんだ」

 

「う、うん……っ、フフフ」

 

なぜか突然彼女がクスクス笑い出したのだ。彼は緊張のしすぎで混乱しているのか心配した。

「……エミリア、大丈夫か?」

 

「ううん、なんかあれだね。今の光景がなんか現実的じゃないから……」

 

「……まあ確かにそうだな、ハハっ」二人は笑った。そして彼の指示に従い、右レバー手前のコンピューターパネルをゆっくり押すエミリア。システムを起動させ、内部機器がライトアップ。

内股に座る彼女は震える手で左右レバーを握りしめた。

 

“エミリア、準備はいいか?”

 

「は、はい……OKですっ」

 

“あの時の威勢が全然ないな。まあそうなるだろうとは思ってるがな”

 

「ど、どういう意味ですか!」

 

“まあいい。竜斗、彼女をしっかり支えてやれ”

 

「了解です」

 

“それに竜斗みたいに小便もらすんじゃないぞエミリア、ハハハハッ”

 

「「………………」」

 

……そして昨日のようにカタパルトへ移動し、外部ハッチが開く――。

 

「エミリア、行くよ」

「……うん」

 

テーブルが開き、降下するゲッターロボ。

着地した際、衝撃でエミリアは思わず「ヒャッ」と声を上げる。

 

“ではエミリア。今から訓練場に行くがてら、まっすぐ歩く練習だ。左右の操縦レバーを交互に押し出せ――”

 

彼女は言われた通りレバーを動かすと、連動してゲッターがゆっくりと前へ前進した。

 

「リュウト……アタシ、ゲッターロボを動かしてる……!」

 

「ああ、いいぞ。その調子――」

 

緊張で震えながらも動かしていくエミリアと後ろから見守る竜斗。

 

……そして地下訓練場にたどり着き、監視室ではすでに移動していた早乙女とマリアが二人へ通信をかける。

 

「よし、準備はいいか。まずは基本的の動作からだ」

 

竜斗は親身に彼女にゲッターの操縦方法を次々に教えていく。

 

「え~と、え~~っと…………っ」

 

「焦らないで。この右レバーをゆっくり引いて――そうそう、いいよ」

 

元々、要領と要点をまとめるのが上手な彼が教える事もあり、彼女も必死であるが次々に操縦トレーニングをこなしていく――。

 

「…………」

 

彼女は突然、腕に力をなくし、レバーを離してフラッと落ちた。

 

「……エミリア?」

前に移動して、様子を見ると身震いしながら息を乱しているエミリア。

ヘルメット顔面部がおそらく吐息による湿気曇りすぎて顔が確認できない。彼はすぐに彼女のヘルメットを外すと顔中がもう汗まみれであった。

 

「エミリア、大丈夫か?」

 

「う、うん、チョット疲れただけ……っ」

 

竜斗は安心の吐息を漏らした。

 

“竜斗、彼女がどうした?”

 

「緊張しすぎてクラッときただけです。少し休ませてもいいですか?」

 

“分かった。コックピットを開けて中の空気を換気するといい”コックピットのハッチを開放し、竜斗もヘルメットを外し、外の空気を吸う。

 

「エミリア、気分はどお?」

 

「……ゴメンねリュウトっ」

 

「……エミリア?」

 

彼女は嗚咽していた。

 

「バカだよね……こんな意地張ってまでゲッターロボに乗り込むなんて……リュウトの訓練を妨げてるのに……サイテーだアタシっ」

 

「…………」

 

彼からすれば今まで気丈な彼女が涙を流すのを見るのは珍しいことだ。

彼女が心身共にすごく無理していると彼は悟る。

 

「エミリア、俺はお前がゲッターのパイロットになりたいと言い出した時、正直スゴくイヤだった。

お前を危ない目に遭わせたくないこともあったけど……エミリアは俺を頼りにしていないのかとふと思ってしまって――けどさ、正直俺一人でずっと戦っていけるのかと思うと心細くて。

けどエミリアとならうまくいけそうな気がするんだ。ありがとな、こんな俺のために。そしてこれからもよろしく、エミリア」

 

「リュウトっ……うん」

 

二人に満面の笑顔が戻った時であった――。

 

“北海道方向より恐竜帝国のメカザウルス部隊がこちら朝霞駐屯地へ向けて進行中。数は一個小隊規模、新型機も数機確認。直ちに各部隊は戦闘配備。BEET部隊員は速やかに各機体に搭乗、スタンバイせよ”

 

この地下訓練場に鼓膜が破れるほどのサイレンと放送が流れた――奴らがこんな時に――。

 

“竜斗、聞いたとおりだ。今すぐ戻ってこい、ゲッターロボ出撃だ!”

 

「了解です!エミリア、操縦代わるよ!」

 

「うん!」

 

二人はヘルメットをつけて、席を交替。彼のすっかり手慣れた操作で素早くベルクラスへ戻っていく陸戦型ゲッターロボ。

そして格納庫へ戻り、二人は降りると早乙女が待っていた。

「今から状況を説明する。敵戦力は約百三十機ほど。

母艦はないが今回は放送であった通り今までとはタイプの違う新型機も確認された」

 

「し、新型機ですか……」

 

「ああ、確認する限りでは周りに頑丈な装甲で張り巡らされた巨大な怪鳥型のメカザウルス数機と、翼竜のような翼をつけた人型の大トカゲだ。

そいつはライフルらしき兵器も携えている、十分気をつけろ」

 

メカザウルスにライフル……全く想像できなかったが、新型機であることから多分手強いだろうと予想する。

 

「おそらく自衛隊のBEETでは歯が立たんだろう。

そこで竜斗、お前が戦陣の中心になって戦え、我々もサポートする」

 

「了解!」

 

「いい返事だ。君も段々と強くなってきたようだ。

並大抵の兵器では重装甲タイプにはキズ一つもつけられないだろう。

そこで今回、空戦型ゲッターロボには『SR(ショート・レンジ)兵装』に換装しておいた。

白兵戦用兵装だが、そいつらに対抗できるような武装、そして被弾を想定して増加装甲をゲッターロボに装着しておいた。

それで被弾の心配せずに思いっきり敵を真っ二つにしてこい……と言いたいところだが被弾数を減らし、機体の損傷を抑えるのもパイロットの務めだ。

なるべく回避するようにしてくれ」

 

――竜斗は空戦型ゲッターロボに乗り込もうとした時、エミリアがそばに駆けつけ、彼の手をギュッと握った。

 

「リュウト……気をつけて……ワタシも一緒に戦いたいけど……」

 

「心配しないでエミリア。絶対に生きて戻るから!」

 

そう自信げに話す竜斗に彼女の暗い顔も徐々に晴れて穏やかになる――。

そして彼女と別れて空戦型ゲッターロボのコックピットに乗り込み、すぐさまシステム起動、そしてレバーを握り込み、待機する。

 

――機体の至る箇所に張り巡らせた銀色の追加装甲のおかげで堅牢を思わせるゲッターロボ。

右手にライフルを携えているが、腰にマウントされているのは二本のゲッタートマホーク。

そして背部中央には同じく折り畳まれた、身の丈はある両刃の大剣……今回は姿はまさに重装戦士のようである。

 

“準備はいいか?”

 

「いつでもいけます」

 

“これからベルクラスを浮上させる。その後、直ちにゲッターロボ発進だ。

出たらなるべく味方機と離れないように戦え、一人で戦うより多数で戦ったほうが遥かに勝算はあるし、何より彼らは君と同じく戦友だ、守り抜くことも考えろ”

 

「了解!」

 

補給と整備がすでに終わったベルクラスが轟音と共にドッグベイから遥か上空へ垂直に浮上していく。

 

「これより本艦ベルクラスは迎撃態勢へ移行する。艦内員は速やかに各配置につけ!」

 

この広い朝霞駐屯地とその周辺にはすでに対空砲台、自衛隊が開発したSMB『BEET』が数十機配備し、携行するライフルやバズーカ、ミサイルランチャー、高射砲を構えて、来たるべき激戦に息を潜めていたのだった。

 


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