ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第三十六話「二人」⑨

撤退命令が下されマシーン・ランドへ帰ってきたラドラと生き残ったメカザウルスは機体を格納させる。コックピットから降りるとちょうどそこにガレリーが現れ、こう告げた。

 

「ラドラよ、ゴール様がお呼びだ」

 

「…………」

 

「あまりいい顔をしてはおらんかった。覚悟しておいたほうがいい……」

 

「……分かっております」

 

すぐさまゴールのいる王の間に向かう。その道中の彼自身は非常に緊迫した雰囲気を漂わせる。

撤退命令を出されたとは言え、事実上の作戦失敗……幾度も失敗を重ね、今度こそはいくら自分でもただでは済まないだろう。

 

(私の命運もこれまでか……)

 

半ば諦めの中、王の間に入るラドラは玉座に座る彼の前に立ち、膝をついて伏せる。

 

「キャプテン・ラドラ、ただいま帰還致しました」

 

「……ラドラよ、また任務を果たせなかったようだな」

 

ガレリーの言うとおり、その声、顔色は全くと言ってもいいほど思わしくなかった。

 

「誠に申し訳ございません。私の力量不足が招いた結果でございます」

 

と、二人のだけのこの場は気まずい空気だけが漂っていた。

 

「ゴール様、覚悟は既にできております。処刑するなりなんなりと」

 

と、きっぱり告げるラドラにゴールは黙り込んだままだ。しばらく間を空いた後彼はこう口にした。

「ラドラ、お前は生きたいとは思わぬのか?」

 

「……と、言われますと?」

 

「今作戦には憎き我らの天敵、ゲッター線の機体が現れたと聞く。

それなら別に負けて逃げ帰ってきたとしてもいくらでも言い訳ができるはずだろう?」

 

「……言い訳するのは父、リージの教えに反しますし私はキャプテンの身、いつまでも帝国に貢献できないのならば死の罰を受けるのは仕方ないことでございます」

 

「………………」

 

「ゴール様、私に贔屓などせずに何とぞご正当な判断をっ」

 

するとゴールは、

 

「そなたは本当にリージによく似ておるな。

その曇りなき誠実さ、堅実さを見るとまるで目の前にいるのが当の本人であるかのように見えてくる」

 

彼の表情が柔らかくなり穏やかな笑みを浮かべてこう告げる。

 

「そなたの罪は何もない。いままで通りゴーラの側にいるがよい」

 

「ゴール様……」

 

「ラドラの今の本業はゴーラの近衛兵であり長だ。

今作戦は本意はお前のパイロットとして、そして指揮官としつのリハビリを兼ねておったしな。

まあ結局、撤退が余儀なくされたがお前が無事戻ってこれただけでもよしと思う」

 

「………………」

 

しかしラドラの顔色は良くなく、結構複雑そうな思念を交えているようにも見える。

 

「ところでラドラよ、お前に聞きたいことがある」

 

「はっ、何でございますか?」

 

「そなたは地上人類をどう思っておる?」

 

意外な質問をされて「えっ」と驚く。

 

「ゴール様、突然どうされましたか?」

 

「理由は後で今は男同士として質問に答えてくれ、敵である地上人類に対してどう思っておる?」

 

するとラドラは正直に伝える決意を胸にこう答えた。

 

「私は……彼らと和平を結ぶべきだと思います」

 

「…………」

 

「彼らは確かに我々爬虫人類の天敵である宇宙線、ゲッター線によって進化した種族です。

確かに不快感を持つ者達も沢山いますが、それだけで忌み嫌うのはただの偏見だと思うのです。

地上人類にも心優しい者もいれば私のように共存を願う者も確かにいます。

当然逆の者もしかりですがこれも人間様々でございます」

 

自分の本心を洗いざらに話していく。

 

「実は今作戦でゲッター線の機体……ゲッターロボという機体のパイロットと色々ありそして接触しました。

彼はまだ少年とも言える私よりも年下と思われるほどの若人で、まだ軟弱そうな部分もありましたが彼は私達爬虫人類と本気で和解できるよう願い、そして希望を持つ子でした。

私はそんな彼を殺すことなど出来なかった、何故なら私も彼と同じ考えを持っているからでございます」

彼の話を黙って聞くゴールは顔色一つも変えずに忽然した表情だ。

 

「ゴール様、もし私の本心が気にくわないのならそれはしようがありませんし処罰も受ける覚悟は持っています。

しかし先ほど伝えたその子のように地上人類にも、そして我々爬虫人類どちらにもそのような思想を持つものが少なからずいることだけは心にとめておいてください」

 

二人は無言で互いを見つめたままだ。ラドラのその真剣な赤い眼から感じるは、訴えている気持ちの他に、まるで自分の忠誠を誓う相手に挑戦的でいるようにも見えた。

 

「……実はゴーラから耳が痛くなるくらいに同じことを言われていてな。もしかしたらお主もそうなのかと思ってな」

「……はい。その通りでございます」

 

「やはり……全くお前達は変わっておるわい。ゴーラに至っては一体誰に似たんだか……」

 

彼女は亡き母親のミュアン似であると感じるラドラ。

 

「まあよい。その話については今は保留じゃ」

 

「ご、ゴール様……ではもしかしてっ」

 

その言葉にラドラの目の色が変わった。

 

「確かに最近ワシはこれ以上戦火を広げてむやみに犠牲を増やすのはいかんと思っていてな。

それに民にももしかしたらラドラ達のような思考を持つものもいるかもしれん、少しばかり時間をくれ」

 

「ゴール様……ありがとうございますっ!」

 

ラドラにとっては嬉しくてたまらなかった。もしかすれば本当に和解に持ち込めるかもしれない、と。

下がるよう言われて王の間を後にしたラドラは急いでゴーラの元へ向かう。

彼女の部屋をノックすると彼女が現れ、驚いた。

 

「ラドラ、無事でよかった!」

 

「それよりもゴーラ、あなたに良い話があります」

 

中に入り、彼は先程の話をすると彼女も目を輝かせたのだった。

 

「……お父様がそんなことをっ?」

 

「はい、もしかすれば本当に和平を望めるかもしれません!」

 

「その話が本当なら……私はこれほど嬉しい話はありません。ラドラ、本当にありがとうございます!」

 

飛び上がるくらいに二人で喜び合った。

 

「そう言えば私はリュウト君にも接触して話をしました。

そのおかげかもしれない、彼を殺さなくて本当によかったと思います」

 

「そうですか。リュウトさん達にもこの事実を伝えたい気持ちでいっぱいですっ」

 

満面の笑顔で満ちる二人だったが、ゴーラは何かに気づいたのかすぐに用心深そうな表情をとる。

 

「……ゴーラ様、どうしました?」

 

するとゴーラは小声でこう彼に呟く。

 

「ジャテーゴ様のことです。もしこのコトが知られたら間違いなくあの方は納得しないでしょう」

 

「あっ…………」

「もし向こうに知られればこれからどんな妨害、いや下手をすれば本当に暗殺などの取り返しのつかないことが起こりうるのが目に見えています。

ラドラ、この事は内密に、そして今まで以上にお父様の身のまわりに用心して下さい」

 

「了解しました……」

 

「……この奇跡と言うべきチャンスを絶対に潰すわけにはいきません、今からは細心の注意を払って行動してください……」

 

一歩先に光が見え始めたたと同時に、それ以上に更なる危険が隣り合わせになっていることに気づき、喜びと不安が絡み合い、思わず息を飲む二人だった。

 


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