ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第三十六話「二人」⑧

――今日初めてこのラドラさんと直接に接してみて、本当に心優しいと思える人であった。

ゴーラちゃん以上に爬虫類特有の特徴が目立つその見た目の怖さに反してこの人は気高く、そして良識的だ。

そして僕も次第にこの人と本気で仲良くなりたいと感じたのだった。

……それにしても、遥か上にいる皆は無事なのだろうか。

それもあり早く何とかして戻らなければと焦りもあった――。

 

二人はとりあえず自分達の機体に戻り、機体が動かせるかどうか確かめる。

起動、もしくはシステムチェックするかどうか確認するが、一応モニター辺りの補助電源が有効な箇所は使えるが主電源が必要な箇所は全く反応がない。

(確かゲッターロボには救難信号をベルクラスに送信する機能があったからいずれは助けに来るかもしれないけど……)

 

 

座席後部にある工具箱から自分のできる範囲で修理を試みようと中からレンチを取り出し握り締めるが、手の平の切り傷が疼いて強い痛みが走り、落としてしまった。

 

 

(……も、持てそうにない……)

 

これでは修理がままならないと悟り、諦める。

両手を見ると傷口から血が少し滲んではいるがおびただしいほどの出血はなかった。これもラドラが処方してくれた傷薬のおかげか。

 

機体から降りてリューンシヴの元へ向かうとちょうどそこにラドラが地上に降りてくる。

 

 

「ラドラさんの機体は大丈夫ですか?」

 

『一応、リューンシヴには簡易的な自己修復機能があるからしばらくすれば動かせるようになるが……君は?』

 

「それが……」

 

ラドラに説明すると、気にしているのか彼は申し訳なさそうな表情をとり『すまない』と、謝られると竜斗は必死で「いえいえ」とかしこまった。

 

「ら、ラドラさんが謝る必要なんかないですよ。あれは僕が気が動転して自ら招いたことなんですから……はは」

 

周りの冷たい空気も相まってすっかり寒い雰囲気となる二人の間。

 

『今、両手の方は?』

 

「やっぱりまだ痛みはありますが出血はもうありません。これもラドラさんのおかげです、ありがとうございました」

竜斗から誠意を感じるこの言葉を聞いてラドラはもの悲しい表情をとった。

 

「どうしましたか?」

 

『あ……いや。それよりも今はこの場で待つ以外に他はないな』

 

ラドラはコックピットに戻り、常備している非常用の固形燃料と毛布のような物を持ち出してくる。力無く佇む二機の間にたき火をして寒さを凌ぐことにした。その準備周到な彼に感心する竜斗。

 

「こういう物を色々備えてあるんですね……」

 

『我々爬虫人類は寒気に弱いからな。それでもこれらは気持ち程度の非常用品だが』

 

そう言えば前にゴーラも医務室で自分達にとっては暖かいと思っていたぐらいでも凄く寒がっていたのを思い出した。

 

 

「なら、あなたは今寒くないんですか?」

 

『私は大丈夫だ。それよりも君はどうだ?』

 

「……実はちょっと寒いです」

 

と、答えるとラドラは持ってきた毛布を自分の分まで渡した。

 

『これらにくるまっていれば寒さは凌げるから使うといい』

 

「ら、ラドラさんの分は……」

 

『私は大丈夫だからいらない、君が使え』

 

「けど……」

 

『いいからっ』

 

結局二枚の毛布にくるまる竜斗だった。確かに周りの冷たい空気を毛布が遮って内部からポカポカと温かくなってくる。

「すいません、何から何まで……けどどうしてそこまで僕に……」

と、質問するとラドラは少し沈黙してこう答える。

 

『名前は……リュウトだったな。ゴーラが君のことを私によく話していたよ。

初めて地上人類と触れ、そして友達になった人だと』

 

「ゴーラちゃんが?」

 

『それでずっと前に今回の作戦のことについて、そしてもし君らが現れるかもしれないことを話したらあの方から嘆願されたんだ、『どうかリュウトさん達を殺さないで』と。

多分それが頭に深く残っていたんだと思う』

 

「…………」

 

『確かに、あの方が君を好く理由がよく分かるよ。もしかすれば本当に地上人類と爬虫人類の友好の架け橋になれる存在かもしれん』

 

 

と、にこやかに答えるラドラ。

 

「あの子は今元気にしていますか?」

 

『ああ、実は私は今あの方の近衛兵として仕えている』

 

「え、ラドラさんが?ゴーラちゃんってそんなに偉い子なんですか?」

 

『詳しくは話せないが、彼女は王族だ』

 

それを聞いて耳を疑う竜斗だった。

 

「王族……てことは王様とかそういう感じだよね。僕はそんな高貴な子と触れたのか……」

 

彼は息を飲んだ。

 

「てことはあの子は王女ってことになるんですか?」

 

『ああ、そうだ。実はもう一人の王女がいるがな……』

 

「もう一人……?」

 

『まあ……こちらも訳ありでな。これ以上は話せない』

 

「はあ……」

 

と、話を濁すラドラに彼は深追いする気はなかった。

そして二人は当たり障りのない話をする内にさらに打ち解け合っていく。元々互いに似ている部分もあり通ずるものがあるからだろう。

 

「ラドラさんは僕たち地上人類をどう思ってますか?」

 

と、質問するとラドラは口ごもってしまう。

 

「……もしかして聞いてはいけませんでしたか?」

 

『いや、大丈夫だ。私だってゴーラと同じく地上人類と仲良くしたいと思うさ、そして君のような人間がいると知って凄く嬉しいよ。

だが帝国、いや爬虫人類全般は地上人類の殲滅を望んでいる、君達は我々にとっての天敵扱いされているからね』

 

「……もしかしてゲッター線のことですか」

 

『そうだ。地上人類には罪がないのにただゲッター線で進化したということだけで害虫扱いなんだからな――君達からは堪ったものではないだろう』

 

「………………」

 

『私はキャプテンという位が高いだけの一兵士でそして帝国の絶対忠誠を誓う身。逆らうことなどできないんだ』

 

彼からの重い言葉から複雑な心境を抱えていることを感じ取る。

 

『最もゴーラは負けじとただ一人我々の和平について自身の父上や周りに訴えているがまともに取り合ってもらえないのが現実、中には異端者扱いする者も出始めているくらいだ。私はそのことと、自身も彼女と同じことを考えているのが辛い。

ゴーラも私も普通の爬虫人類だったらどれだけ楽だったろうか』

 

爬虫人類としての存在意義と誇り、帝国の忠誠、それでなお地上人類との共存したいという思いに挟まれ葛藤し、苦しんでいる。

だからと言って、こんな戦火が広がる一方でどうすることもできず、今はやるべきことに手一杯なのだと分かる。

 

「……実は僕、最初は成り行きでこのゲッターロボに乗らされて気づいたらここまで来たんです」

 

と、語り始める竜斗。

 

「最初はこんな危ないものに乗りたくなかったんですけど乗っていく内に、気弱だった自分が強くなっていけるんじゃないかなと、それに日本で何回かあなたと対峙した時にもしかしたら向こうと話が通じるんじゃないかと思い始めて……。

 

僕が危険を侵して身をさらけ出して『戦いたくない』と訴えた時に、あなたはいくらでも僕を殺せるチャンスがあったのに攻撃せずに去っていった。

それからもゴーラちゃんと触れてもしかしたらあなた達爬虫人類と本当に和解出来るんじゃないかなと思えるようになりました。

だから今は、これからどうなるか分かりませんが、それを希望にして叶えるために前向きに頑張っていこうと思います」

 

『リュウト君……………』

 

「ラドラさんの話を聞いて、ゴーラちゃんの他に共存を望んでいる人がまだいることを聞けて僕はさらに希望を見いだせました、本当にありがとうございますっ」

 

笑顔でお礼を言われてラドラも目頭が熱くなり嬉しい気持ちに満たされた。

『互いに異種族なのに君には抵抗感というものはないのか?』

 

「……僕は別に何ともないです。ただあなた達に凄い抵抗感を持つ子が仲間にいますが……ラドラさんは?」

 

『私も特に何とも思わない、ゴーラも多分そうだろうが私達二人は爬虫人類の中でも異端だと思う』

 

「なら僕も地上人類の中では異端ですね」

 

『……互いに似たもの同士、と言うわけか』

 

二人は「フフっ」と軽い笑みをこぼした。

 

「ゴーラちゃんがラドラさんを大切な人と言っていたように、あなたもあの子を凄く大切に思っているんですね」

 

『……それはまあ、昔からの付き合いだからな。彼女が幼い頃からよく遊び相手に付き合わされたものだ』

 

 

 

「どういう子だったんですか?」

 

『凄くお転婆で好奇心いっぱいで色々な行き回るからよく悩まされたが一方で、人一倍優しくて賢いお方だった。あの頃は何の悩みもなかったが今では……』

 

と、その時リューンシヴから「ギューン」と言う何かの作動音が聞こえるとラドラはコックピットに乗り込み、しばらくすると再び降りてくる。

 

『機体の自己修復は終わったからいつでも動かせる。

上ではどうやら私達の戦力は大崩れで我々に撤退命令が出ているようだ。リュウト君はどうする?』

 

「救難信号はもう出しているからいずれは迎えに来るとは思いますが今は何とも……」

『私が君を機体ごと上まで担いでいくという方法もあるが……色々と問題があるな』

 

「じゃあ僕はここで迎えが来るまで待ってます、ラドラさんは先に行ってください」

 

『それで大丈夫か?』

 

「心配しないでください。コックピットの中にいるので安心してください」

 

『……分かった。ではあの毛布は君にあげるよ、寒くなったら使ってくれ』

 

「ありがとうございます」

 

しかしこの後、二人は見つめ合ったままなぜか沈黙してしまう。

 

「もしまたラドラさんと出会ったら……」

 

『…………』

 

「……やはり僕たちは戦う他はないんでしょうか?」

 

 

『これも互いの置かれている状況だ、どうしようもない』

 

せっかく打ち解けたのに次はまた敵同士という現実に悲観的になる竜斗。

 

「僕からも一刻も早く和解できるように努力します、もうあなたと戦うことのないように」

 

『私もそうなるよう努力してみよう。もう君と戦いたくないし、ゴーラも悲しむことになる』

 

二人は友情のしるしとして固い握手を交わした。

 

「ラドラさん、今度会う時は和平を結んだ後だと僕は望みたいです」

 

『ああ、私もそう思うよっ。リュウト君はこれからも生きろ、君はこれから重要になるべき人間だ』

「ラドラさん……はいっ」

別れの挨拶を交わしてラドラは機体に乗り込み、竜斗はそこから離れて機体の乗り込んだ。

起動したリューンシヴは立ち上がり、翼を展開。そのまま勢いよく飛び上がりそしてそのまま上空へ飛び去っていった。

 

(ラドラさんもお元気で……)

 

それとすれ違いについにベルクラスが空から降りてきているのがモニター越しで分かると外に出て、力いっぱい手を振る。

 

「あ、石川がいるわ!」

 

「リュウトっ!」

 

そして艦橋では集まった全員が彼の無事を祈り、モニターを凝視していると同じく彼と機体を発見した。

 

「アルヴァインと竜斗君を発見しました!」

 

 

「よし、直ちに引き揚げて帰艦だ」

 

全員は元気そうな彼に一安心する。

 

――僕は無事戻ることができて全員から歓迎を受けた。

その後、皆にここで何があったかを伝えると司令達を除いて殆どの人が唖然としていた。

当たり前だ、敵で尚且つ爬虫類の人間と丸腰で接触して何もされなかったどころか打ち解け合っていた、と言っても信じられないだろう。

 

まあ手の傷に関してはラドラさんに塗ってもらった傷薬のおかげか大事にならずに済んだのはよかった(手から採取したその成分を調べたら止血作用のある薬草のエキスか何かと言われた)。

 

ところでエミリアに一体何があったのだろう、不機嫌というか何というか、何か違和感のある表情をしているがどうしたのだろうか――。

「やっぱり竜斗君は凄いと思います。あの子、ゴーラちゃんの時も驚かされましたがまさか先ほどまで戦っていた敵側のパイロットとも打ち解けてしまうのは……」

 

「これも彼の才能とも言えるのかもな。もしかしたら本当に和平の架け橋となりうる存在なのかもしれん」

 

早乙女とマリアは彼に秘められた『魅力』について語り、そして感心していた。

 

「もしかしたらこれからはいい方向へ向かうのでは?」

 

「さあな。ただこちらにしても向こうにしてもそう上手くいくはずはない、何故なら人間皆、十人十色だからな。

まあ、私もそうなってくれるのが一番いいとは思うがね。しかし結局それはただの「理想」だよ、現実は上手くいかないよ」

 

 

と、そう言い返す早乙女。

 

「と、ところでエミリアちゃんと何かありましたか?彼女、司令に対して凄く不機嫌そうでしたが」

 

 

彼女がそう聞くと、彼は「フッ」と軽く息を吐いた。

 

「単なる彼女の竜斗の心底心配する気持ちから来たワガママさ」

 

と、軽く言い返す早乙女だった。

 


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