ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第三十六話「二人」⑥

……ベルクラスから発進したアルヴァインは全速力で交戦区域に飛び向かう。

 

(やっぱりスゴい……今まで乗ってきたSMBの中でもダントツだ……!)

 

ゲッターエネルギーとプラズマエネルギーを共鳴反応させた複合エネルギーによる新しい駆動システムにより、これまでのSMBには成し得なかった凄まじい出力と性能を引き出すことに成功し、伴い飛行速度も桁違いであり音速以上を叩き出している。

それ以上に竜斗もそんな恐ろしいスピードや出しているにも関わらず、全くを音を上げておらずついていっている。

 

一応アルヴァインには対G、衝撃緩衝機構も装備されているが焼け石に水であり、彼が身体能力的にも技術的にもパイロットとして著しく成長している証拠だろう。

彼はアルヴァインの性能たるや、凄く興奮に満ちており心臓の高鳴りが激しい。

 

(……て、自惚れてる場合じゃなかった。早く合流しないと!)

 

普段のような冷静さを取り戻そうと心を落ち着かせようと深呼吸する――多少は熱は冷めたようにも感じる。

 

そして数分もしない内に交戦区域に到着すると、すでにこの空域は熾烈化している。

 

「ゲッターチームの石川竜斗、アルヴァインは先に到着しました。これより戦闘、援護に移ります」

 

“よろしく頼む。ベルクラスと他のゲッターチームは?”

 

「ベルクラスと共にもうすぐここに到着します、僕に先陣を切れと言われて発進してきました」

 

“了解した”

 

アルヴァインはすぐさま改良されたセプティミスαを右手で持ち構えて展開する。

 

「はあっ!」

 

プラズマ弾が撃てなくなった代わりに複合エネルギーを高密度に圧縮して弾丸としてメカザウルスへ発射する。

直撃を受けたメカザウルスは一撃で胴体が消し飛び、かするだけで皮膚、そして装甲が深くえぐられるなどプラズマエネルギーと比ではないくらいに破壊力が格段に上がっており、その威力に驚愕するメカザウルス達は何としてでもアルヴァインの破壊を行おうと四方八方から襲いかかるが瞬時にそこから脱出した。

すると、ちょうど右足、腕を失ったステルヴァー、ジェイド機と対面した。

 

 

“竜斗君か!”

 

ジェイドからの通信を受けて驚く彼。

 

「少佐?一体何があったんですか!」

 

“ああ、とある一機のメカザウルスと交戦したんだがステルヴァーを持ってしても力が及ばなかった……」

 

竜斗は唖然となる。ジェイドのような熟練パイロットがここまでやられるなんて……ただ者ではないと察する。

 

「今そのメカザウルスはどこに?」

 

“ジョージとジョナサンが二人がかりで攻撃しているがそれでも歯が立たない。それほど強力な相手だ”

 

それを聞いた竜斗はアルヴァインならと気合いを入れる。

 

「ではアルヴァインでそのメカザウルスに挑んでみます」

 

“大丈夫か?”

 

「今のアルヴァインの力なら勝てるかもしれません、やってみます」

 

“…………”

 

ジェイドは黙り込むが彼の決意に「よし」と頷く。

 

“分かった、そのメカザウルスのいる位置データを送信する。しかし決して油断するなよ、今までのメカザウルスとは桁違いに強いぞ”

 

「了解っ」

 

ジェイドと別れてすぐに位置データを駆使して、レーダーでそのメカザウルスを捕捉する。確かにステルヴァーと思わしき二機のSMBと激しくそして目まぐるしい程の速度域による激戦を繰り広げているのが分かる。

 

「あれか……」

モニターで目視できるようになり、そしてその姿が次第に見えてくる……が、竜斗は物凄い衝撃を受けた。

 

(あれは……もしかして……)

 

彼が激震するその理由――見覚えのあるその姿、出で立ち……忘れたくても忘れられないその立ち回り。

日本における戦闘で幾度も追い込まれ、そして数ヶ月前に出会った爬虫人類の女の子、ゴーラを引き渡したあのメカザウルスであった。

 

(確か、ら、ラドラさん……)

 

彼はゴクっと唾を飲み込む――。

 

“竜斗君!”

 

ジョージ達はアルヴァインを発見してすぐに駆けつける。

 

“気をつけろ。アイツは――”

すると、

 

「すいません、ここは僕に任せてもらえませんか?」

 

と、彼は突然そう二人に伝える。

 

“竜斗……お前、どうした?”

 

「どうかお願いします」

 

竜斗から鬼気迫るモノを感じた二人はただ事ではないと察した――ワケが分からないながらも。

 

“分かった、しかし決して油断するなよ”

 

“負けんじゃねえぜ、ゲッターチームのリーダーっ”

 

二機は速やかにそこから去っていった。

 

「ついに来たか…………」

 

そして、ラドラもアルヴァインの姿を見てまるで凍りついたように固まり、二人は対面したまま動かない。

 

「あなたは確か、ラドラさんでしたよね……」

 

先に口を出したのは竜斗、周波数を変えながらラドラへ通信を試みる。

 

「もし今も、僕の言葉が分かるなら返事をしてくださいっ」

 

何度も問いかけるが向こうは無言のままだ。繋がってないのか……いや実は通じていたのだが。

 

(ゴーラ、確かに彼、リュウトというこの少年は、声からしてあなたに似た優しい雰囲気を、そして敵だと思えない――しかし、私は帝国に絶対の忠誠を誓うキャプテンであり、そして今は重要な護衛の任務遂行中です――立ちふさがる者は誰であろうと排除しなければっ)

 

ラドラは無言のままレバーに手をかけて動かす。

「!?」

 

無造作にリューンシヴは右手側のライフルをアルヴァインに向けると銃口から熱気を立ち上げ強烈な熱線を放った。

しかし竜斗もとっさにレバーを引き込み、機体を翻して避ける。

 

「くっ!」

 

竜斗もやむえず攻撃を開始、同じくセプティミスαを構えて複合エネルギー弾を連続的に発射。しかしリューンシヴは軽々と左右を反復で回避する。

 

(結局戦うしかないのか……!)

 

(ゴーラには申し訳ないが、敵対関係である以上はやらねばならん!)

 

二人の思いが交差する宿命の対決が始まった。

竜斗のアルヴァイン、ラドラのリューンシヴ……前機を大改造し、そして空戦型の万能機という奇しくも同じような機体同士の激しい空中戦が火花を散らす――それも二機の性能とパイロットの操縦技量から総合力は互角であった。

 

(日本で戦った時よりも遥かに強くなっている……)

 

(……あの時は簡単に追い詰められていたはずの彼が、今では俺とここまでやり合えるほどに成長したのか、見事だっ)

 

二機とも目に見えぬほどの神速で飛び回りながらライフルで当たるか当たらないの紙一重で苛烈な射撃戦は互いの神経をすり減らしていく。アルヴァインの右肩の砲身の角度が水平になり、照準をリューンシヴへ捕捉する。

 

「これでどうだ!」

砲身内に蓄積した高密度の複合エネルギーが一気に解き放たれてゲッタービームのような極太の光線を形成、怒涛の勢いでリューンシヴへ真っ直ぐ伸びていく。

 

「ぬんっ!」

身を翻して間一髪で避けるリューンシヴ、光線は遥か空の彼方へ伸びていき射線上のメカザウルス全てを飲み込み蒸発させた。

 

(今の光線のエネルギーはゲッター線ではない……?だが――)

 

今のアルヴァインの動力源が複合エネルギーだとは知らないラドラだが、驚いている暇などなく両手に持つ二丁のライフルを直列に連結させて巨大な重火器へと変貌させた。

今度はラドラがアルヴァインへ照準を合わせ――。

 

「終わりだ!」

 

この重火器から血のように深紅の、ライフル以上に巨大で極太の熱線が突き抜けていく。

 

「うわっ!」

 

竜斗も反射的にとっさに操縦レバーを動かして更に上空へ上昇した。

通り過ぎていくその熱線の熱量はこの空域に強烈な大熱波を引き起こして周辺のSMB達に直撃、リクシーバ合金製の装甲がまるで氷のようにじわじわと溶けていく――。

 

(もしかしてあれに乗っているのはラドラさんじゃないのか……)

 

疑心的になるも、今はそれよりも現状を切り抜けようと再びレバーをぐっと握りしめ、巧みに動かすとそれに連動してアルヴァインは高速に、且つ動きが読めないような蛇行飛行で攪乱するがリューンシヴも同じ速度、そして同じ軌道を描きながら追跡。

この二機以外の機体は全く追いつけないほどの高機動戦闘を展開していた。

 

アルヴァインの装備するゲッターウイングは、状況に応じて滑空翼の角度が変わるため凄まじく高い空力制御も持ち、結果的にステルヴァーも真っ青なアクロバティックな空中軌道も可能にしている。

そんなアルヴァインについてこれるこのメカザウルスはやはりあの人、ラドラが乗っているのか……と、竜斗は段々と確信づいてくる。

 

距離を離して間合いを取り、右の臑部外側の装甲中からせり出たビームブーメランを取り出して投げ込む。

高速回転しながら変則的に飛び交うブーメランはリューンシヴを翻弄し、そして首へ向かっていく。しかし瞬間に背中の剣を取り出すと一瞬でブーメランを払い飛ばすという恐ろしい反応を見せつけるリューンシヴ。

諦めず左臑に内蔵したもう一つのブーメランを取り出して、再び投げつけるアルヴァインはすかさずセプティミスαを構えて前の戦闘のように飛び交うブーメランにエネルギー弾を当てて無理やり軌道を変えていく。

流石のラドラもその変則的な動きに戸惑うかと思いきや、

 

「もらったっ」

 

ラドラはチャンスと言わんばかりに操縦レバーを押し出すと刃を真っ赤に熱した剣を持ち構えて突進するリューンシヴ。

とっさにライフルを下げて防御体勢に入るアルヴァイン。

しかし間近に迫った瞬間、機体の姿が消える。

 

「終わりだっ!」

 

竜斗は見上げるとそこには剣を上に掲げて落下してくるリューンシヴの姿が。アルヴァイン目掛けて叩き斬ろうと振り下ろした。

 

「くっ!」

 

とっさにセプティミスαを盾に前に押し出すと見事に真っ二つにされてしまう。

そこから再びリューンシヴの剣技による休む暇も与えない猛攻撃が始まった。

何とか両腕のシェルバックラーど耐え凌ぐ竜斗だがジェイドのように押されている。

 

(なら俺だって負けてたまるか――)

 

両腰からゲッタートマホークを取り出して二刀流の構えを取るアルヴァイン。すると何故か攻撃をやめて間合いを取り、剣を両手持ちにして腰を深く据えるリューンシヴ。

 

(……やっぱり乗っているのはあの人、ラドラさんだ)

 

その記憶に残る身構え方でそう確信した竜斗。

 

「………………」

 

一方でラドラは無言で、且つ威圧感の籠もった固い表情を取っている。

表向きは冷静さを保っているように見えるが心情はいかに……。

 

「…………」

 

「…………」

 

ジリジリと相手の隙を伺うかのように睨み合ったまま動こうとしない両者――いつでも行動できるように身構えて固まっている。

二人も操縦レバーを握りしめて相手の動作を寸分見失わないように凝視する――それがしばらく続いた時、先に動いたのはリューンシヴ。

 

(来たっ!)

 

一瞬でアルヴァインとの距離を詰めて乱舞の如き怒涛の勢いで襲いかかった。

竜斗も全神経を集中させてその剣筋を全て見切り避ける。

そして隙あらばとこちらもトマホークを振り込み攻撃を仕掛けるも向こうも動きを読まれて避けられる。

「…………っ!」

 

どちらも調子が狂えば間違いなく切り刻まれてしまうほどの激しい斬り合いを見せる。その立ち回りは誰にも寄せ付けない程にヒートアップしていく――。

 

(く……まさかここまでやるとは……)

 

ラドラは驚いている。日本では簡単に追い詰めていた相手が今は自分と対等にやり合えていることに。

一方、竜斗は今まで感じたことがないほどの興奮が湧き上がっていた。

このラドラという相手に、赤子扱いされていた自分が今はほぼ互角で戦っていることに。

 

(もしかしたらこのまま抑え込めるかも)

 

その希望を頼りに彼は更に気合いを入れて怒涛の如く攻撃を加え、今度はラドラが押されていく。形勢逆転の瞬間か――しかし。

(……俺にも爬虫人類として、そして恐竜帝国のキャプテンとしての誇りがある、負けるワケにはいかないんだっ!)

 

ラドラのキャプテンとしての意地が機体にも伝わり、押されかけていたリューンシヴが再び活性化して両機ともどちらも引かない、凄まじい攻め合うを続ける。

 

「そこおっ!」

 

リューンシヴが放った下からの縦払いがアルヴァインの右手に持つトマホークを吹き飛ばした。動きが止まった向こうに剣を持った右手を強く後ろへ引き込き突き刺して貫こうとしている。

対するアルヴァインももう一つのトマホークを持った左手を高く掲げた――。

 

「「ウオオオオォっ!!!」」

 

突き刺し、振り下ろし、互いの放った攻撃はほぼ同時で各刃がついに二人の機体に交わり深く入った――。

 

一方が真っ赤に熱せられた刃が深く胴体を深く貫き、一方が振り下ろされた刃が肩から胴体を深く斬り込み、それぞれ黒いオイルと赤いマグマがまるで鮮血のように斬り口から噴き出したのだ。

二機の機体がバチバチとスパークを起こしてガチガチと硬直し、そのまま機能停止して二機は互いに寄りすがるようにそのまま遥か地上へ墜ちていってしまった――。

 


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