ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

104 / 187
第三十六話「二人」④

連なるように縦列を組む恐竜母艦と二、三千を超える護衛のメカザウルス、そして最前線には護衛隊長のラドラが降りかかる火の粉を全力で振り払っている。

 

「やはり我々に感知して来たか。しかし、何としてでも突破させる」

 

ラドラの駆るリューンシヴは最前線で各メカザウルスに指揮しながら猛威を揮い、それに応えるようにメカザウルス達も雄叫びを上げて士気高揚する。

 

「すまないがここは通させてもらうぞ!」

 

相変わらずのラドラ自身の卓越した操縦技量、それに追従するゼクゥシヴを改良したこのリューンシヴのその性能は、まるでアルヴァインと思わせるような神速で空を縦横無尽で駆け抜け、攻撃を易々と避け、次々にマウラー、ステルヴァーまでも少したりとも触れさせることなく手玉に取り二丁の試作型ライフル、そして長剣を持って敵機を次々と撃ち落とし、そして叩き斬っていく――。

その試作ライフルから発射されるのはマグマ弾ではなく青白く極太の熱線。

真っ直ぐに伸びる熱線からは熱で空気がゆらめき、まるで空間そのものが歪んでいるようにも見え、直撃したマウラーは見る影もなく融解し燃え尽きてしまった。

 

「やべぇぜ、なんだあのメカザウルスは?」

 

リューンシヴの圧倒的戦闘力を見せつけられ、ジョージはコックピット内で驚きの声を上げる。その時、ジェイドから通信が入る。

 

“ジョージ達は周りのメカザウルスを対処してくれ。私はあのメカザウルスの相手をする”

 

「ジェイド、アイツに勝てるかい?」

 

“……分からんが、だからとて放っておくわけにはいかない、何とかやってみる”

 

ジェイドの駆るステルヴァーはヴァリアブルモードで人型に変形、身体中に搭載した小型スラスターを駆使して浮遊し、そしてリューンシヴの前に立ちはだかる。

 

「誰が相手だろうと容赦はしない、行くぞ!」

 

間を開けずに突撃するはリューンシヴ、二丁のライフルを腰にかけて背中から長剣を取り出し握り締めると刃が熱せられて真っ赤になる。

 

対するステルヴァーはとっさに両手首部の細いスリットからハンドダガーを突出。高周波振動で青くなった刃を構え立つ。

 

「はあっ!」

 

リューンシヴとステルヴァー、この二機による空中での接近戦の応酬が始まる。

ラドラのキレのある操縦に連動し、機体もまるで本体のような柔軟な動きと驚異的な機動力、反応速度でステルヴァーを切り刻もうとする。

そしてそれに対応するようにジェイドも自身の熟練した操縦技術と機体の機動力、反応速度で何とか避け、そしてその隙を突こうと一太刀浴びせようとするが、どちらも一向に当たらずどちらも紙一重である。

 

「くっ……」

 

だが、まるで休みなく猛攻を加え続けるラドラに次第に圧されるジェイド――。彼の目に写る目の前の機体はまるで鬼神の如き姿であった。

 

「そこっ!」

 

リューンシヴの放った横一閃の凪払いがステルヴァーの右脚を捉え、ついに切断した。

「まだまだあ!」

 

今度は剣を突き上げて右腕をも切断し、ステルヴァーの平行バランスが傾き、そこから退避しようと後方へ下がるが向こうは逃すまいと追ってくる。

苦い顔をするジェイドだが、今度は真っ二つに叩き切ろうとする情け無用のラドラ。このままでは確実にやられると悟ったジェイドは覚悟を決めた――その時、

 

「ジェイドォ!!」

 

瀕死の彼の元にジョージ、ジョナサンのステルヴァーが急いで駆けつける。

 

「大丈夫か!」

 

“ああ、なんとか生きてるが――”

 

「下がってくれ、ここからは俺らがヤツを抑える」

 

“すまん、だが気をつけろ!今までのメカザウルスとはうって違うぞ”

中破したジェイド機の前に割り込むように、人型に変形して飛び入るジョージ、ジョナサン機。ジェイド機が後方の安全地帯に下がるのを確認するすると二人の殺気を持つ視線はリューンシヴに向けられる。

 

「ジェイドの機体をあんな姿にした代償は高くつくぜ!」

 

「ぶっ潰す!」

 

怒りを顕にする二人に対し、ラドラは真っ赤になった剣刃を冷却してすぐさま背中にしまい、再び腰からライフルに持ち変える。

 

「例え何人増えようと邪魔するのなら容赦はしない!」

 

リューンシヴはそこからさらに上昇し二丁のライフルを下の二機に向け、超高温の熱線を放射するリューンシヴ。

 

「来るぞ!」

 

すぐに横へ移動し回避するも熱線は途切れず二機を追跡する。

 

「行くぞジョナサン!」

 

「任せとけ!」

 

二機はその場で戦闘機に変形させ急発進、空中でその華麗なマニューバをラドラに見せつけ翻弄させようとする。

 

「ブラック・インパルス隊の実力見せてやるぜ」

 

もはや芸術の域とも言える息の合った二人のマニューバを駆使してその高速且つ変則的な軌道を描きながらリューンシヴへ機関砲、ミサイル、プラズマ弾全弾発射しながら突撃する二機。

しかしラドラは慌てることなく同じく二機に劣らぬアクロバティックな軌道を描きながら回避する。

「こりゃあ面白くなってきたぜ!」

 

「ああっ!」

 

他機はメカザウルスと恐竜母艦の撃墜に専念しているこの時、ラドラとジョージ、ジョナサンによる三人のまるで空中が自分の空間かと言わんばかりの超高速戦闘、そしてドッグファイトが繰り広げられる――。

 

「先、行くぜっ」

 

ジョージ機が素早く人型に変形しライフルを構え持つと牽制でプラズマ弾を連射しながら円を描くよう飛び回る。

霰のように飛び交う無数のプラズマ弾の少ない隙間を難なくかいくぐるリューンシヴへ、今度は開いた腕からミサイルで追撃、素早くライフルを腰にかけてハンドダガーを取り出して突撃した。

ラドラもライフルをしまい、再び長剣を取り出すと刃がマグマ熱で真紅に染まる。

 

 

「ジェイドに変わって今度はお前をダルマにしてやるぜ」

 

今度はジョージとラドラによる空中での白兵戦が始まる。

ジョージは幾度も喧嘩慣れしているせいか、ラドラの剣筋をジェイド以上の巧みな近接戦闘を見せつける。

 

「先ほどの機体よりも動きがいい――面白い!」

 

ラドラ自身も熱が入り、二人はさらにヒートアップ。

神経を凌ぎ削るような、一発の命中も許されないような二人の全力が爆発する――。

 

「ターゲット、インサイト!」

 

――一方、リューンシヴのその後ろから同じく人型に変形したジョナサン機が携行してきたリチャネイドを連結、両手で構えてこちらへ向けている。

ジョナサンはコックピット内で神経集中させ照準が重なった瞬間、

 

「ファイア!」

 

砲内からプラズマを帯びた劣化ウラン弾が発射され、凄まじい速度でリューンシヴへ突き向かっていく――。

 

「甘いっ!」

 

リューンシヴはすかさず右足でジョージ機を蹴り飛ばして後退した瞬間、弾頭は前を通り過ぎて遥か先へ突き抜けていく。間一髪のとこで被弾を免れた。

 

「ちっ、なんてヤロウだ、俺ら二人でかかっても歯が立たん……っ!」

 

「ファック!」

 

舌打ちし、苛立ち始める二人に対しラドラは、表向きは冷静さを保っているような忽然とした態度だ。

 

(果たしてゲッター線の機体は来るのか……もし来たそのときは……俺は――)

 

ラドラの心情はゴーラの言っていた、

 

「どうかリュウトさん達を殺さないで」

 

その言葉が未だに彼の脳内に残り、そして響いていた――。

「司令、どうやらこちらが少し劣勢のようです」

 

「了解、直ちにベルクラス、ゲッターロボは戦闘態勢に移行だ」

 

ベルクラスは交戦区域より少し前の位置に到着し、各砲門を開きいつでも戦闘が行える態勢に入っていた――。

 

“竜斗、直ちに発進して向こうの部隊と先に合流して援護に入れ”

 

「了解です!」

 

アルヴァインの乗るテーブルが移動し、外部ハッチの前に立つとハッチが開いて空から光が差し込んだ。右手にライフルを握りしめ機体の膝を少し屈伸させて発進体勢を取るアルヴァイン。

 

(……やっぱり胸騒ぎがしてしょうがない。なぜだ……?)

 

何か嫌な予感を感じ取るが今はそれよりも――と心を切り替える竜斗は操縦レバーをぐっと握りしめる。

 

「石川竜斗、アルヴァイン発進します!」

 

カタパルトが射出され、外に飛び出たアルヴァインはすぐさまゲッターウイングを展開して空中を浮遊。そして一気に前に全身していった。

 

“二人に関しては、先ほど言った通り、今回は甲板から援護射撃に回ってくれ。ルイナスはライジング・サンを、アズレイはエリダヌスX―01を上手く使え”

「了解です!」

 

「わかったわ!」

 

“あと、脚部を強く固定するが間違っても落ちるなよ。数千メートルから真っ逆さまだぞ”

 

「「…………」」

 

……釘を刺され、肝が冷えた二人を乗せた機体のテーブルは各左右端に移動すると、真上の甲板上に出るハッチが開放した。

 

“ミズキ、そっち側を頼んだわよ”

 

と、エミリアからの応援を受けて彼女は力強く頷いた。

 

「アンタこそしっかりね」

 

“うん、任せといてっ”

 

――足をガッチリと固定した二機のテーブルはエレベーターのように垂直に上昇して一瞬で外に出る。強烈な風を煽られて少しミシミシと聞こえる。

 

「ワオ……スゴい景色……」

 

モニターから見る外は絶景であるがそんな事は今は言っている暇ではなかった。

 

「ルネ少尉とアレン中尉もアルヴァインと同じく今から先発隊と合流して直ちに援護を行ってくれ。こちらは二機のゲッターロボが艦の援護をしてくれる」

 

“了解!”

 

左右に展開する二機は前進していく。

そしてルイナスとアズレイも各武装を構えると同時に早乙女から通信が入る――。

 

「見えたぞ――」

 

その先には飛び回る無数の機体、メカザウルスと仲間の機体が入り混じる混戦状態で、その遥か先には巨大な怪鳥の姿をした恐竜母艦が連なるようにこちらへ進んでくるのが分かる。

「行くわよ、エミリア!」

 

「ええっ!」

 

そしてついに交戦区域に突入。機関砲、ミサイルによる支援攻撃を行うベルクラス。

 

“本艦もこれより援護、支援攻撃に入る。全隊員に告ぐ、もし危険が迫ったら直ちに艦を盾にし後方に回れ”

 

その甲板上にいる小さな虫のようなサイズにも思える二機のゲッターロボも攻撃を始めた。

 

「手伝ってみんな!」

 

ルイナスから、各シーカーが飛び出し群がるメカザウルスへ向かわせると攻撃を始める。

ゲッタービームを発射するビームシーカー、ドリルで突撃するドリルシーカーは学習能力が備わっており、前以上の高度の連携で次々にメカザウルスを撃破していく。

 

「くっ!」

 

しかし本体のルイナスは強い風に煽られ、それによる風力偏差の大きなズレの影響を受けて、なかなかメカザウルスにプラズマ弾が当たらない。

 

「ホラホラどんどんいくわよお!」

 

それに比べ、砲撃主体のアズレイはミサイル、ビーム砲などの各武装にホーミング、そしてマルチロック機能が備わっているために命中は容易くいつも通りの感覚で次々にメカザウルスを撃ち落としていく愛美。

 

「ニールセンのおじいちゃんのとっておきっ!」

 

組み立てたエリダヌスX―01を両手で構えて、前方に向けてエネルギーチャージに入る。

改良したおかげでエネルギー効率の改善によりチャージ時間がかなり短縮されており、すぐにチャージ完了のアラームが鳴り響く。

 

「これでも食らえ!」

 

トリガーを引くと、その対物(アンチ・マテリアル)ライフルの形をした兵器の銃口から「ビュキュン」と甲高く奇妙な音が鳴り響いた瞬間に前方にいるメカザウルス全てに大穴が開き、その場で爆散した。

 

 

「にしても、相変わらずもの凄い威力ね。

てか、こんなのを開発したあのおじいちゃんって本当に人間なのかしら……?」

 

その威力に唖然となる彼女は、そういう疑問を持たざる得なかった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。