ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第三十六話「二人」③

――アルヴァインの武装の改造が急ピッチで進んでおり、終わったモノから機体に取り付けられていく。

トマホーク、ライフル、ブーメラン、そして――右肩にはキングの言っていたように、射角を自由に変えられるように施した長方形状の砲身が横水平になるように取り付けられていた。

 

「ふう……にしてもゲッターロボは本当に世話が焼けるのう……少しは老人を労らんかい」

 

作業服姿のキングはドッグ内の段差に腰をついてゼイゼイと息を切らしていた。

 

「サオトメめ、こいつは年寄りには優しくない機体すぎるぞオイ」

 

愚痴ばかり吐く彼の元にニールセンと早乙女がやってくる。

「どうだ、進んでいるか?」

 

「ああ。しかしサオトメよ、ゲッターロボは本当に手間のかかる機体じゃ。

いくらテキサスマックでもこんな手の込んだ改造まではしなかったぞ」

 

「どうした、疲れたのか?」

 

「当たり前だ、わしは何歳だと思っとるんじゃ!」

 

彼のわめき散らす愚痴を聞き、早乙女は相変わらずの気持ちのこもってない声で。

 

「いやあ、すいませんでした」

 

と、言うと「チッ」と舌打ちするキングだった。

 

「……誠意が全くこもってないな――まあこれで全て解決するならいいか。三度目の正直ってやつだ――」

 

彼は立ち上がると背伸びし、肩や背をパキパキ鳴らした。

 

「そういえばジャック君達はどうしたんですか?」

 

「……あいつらか。また旅に出ると抜かしてどっかに行きやがった……くそ、身勝手過ぎて手に負えんわい」

 

「まあまあ、誰にも縛られたくない気持ちを持つ自由人なのは羨ましいじゃないですか」

 

ムスっとなる彼に宥める早乙女。

 

「何を言うか。妻にはもう先立たれてワシも老い先短い。

特にジャックはワシの跡取り息子だぞ、もう三十越えの男が定職にもつかずにいつまでもブラブラしているわけにいかんじゃろうっ」

 

「…………」

 

落胆する彼をただ見つめる二人だった。

「まあキング、そう落ち込むな。二人も気が済むまでやらせたらいつか自分達のすべきこと気づくさ」

 

珍しくニールセンからの励ましの言葉が飛び出す。

 

「本当かのお」

 

「それにずっと旅しているのも、もしかしたら自分達のやりがいを探している可能性だって考えられるぞい――まあ、それよりも今すべきことに集中しろよな。ここはお前専門なんだから」

 

「……ああ、そうだな。気を入れ替えるかのう――そっちの方はどうだ?」

 

「あと僅かでついに完成じゃ、こちらは心配しなくていいからはよやれい」

 

ぼちぼちと再び作業場に戻っていくキングの後ろ姿を眺めるニールセン達。

 

「サオトメよ、あやつはああ見えて相当の苦労人じゃからな」

 

「そうなんですか?」

 

「ああ。アイツが言ってた話だとかなり貧しい家庭出身らしくてな。

しかも父親が飲んだくれのろくでなしですぐ暴力を振るう人間で耐えきれなくなった母親とキングの二人で家から飛び出して逃げたそうじゃ。

二人で暮らすにも世知辛い世の中じゃ、シングルマザーで周りは冷たかったらしく、かなり生活苦だったが母親には苦労させたくないから靴磨きや配達などの仕事、果てには犯罪になるようなことにも手を出したりして生計を立ててきたと言っておった。

それに『この時代学歴がなければ稼げない』と学問にも励んできたらしい――恐らくワシらには想像もつかないくらいの苦労を味わってきたんじゃろうな……」

「…………」

 

「それにアイツの妻ももう十年前に病気で亡くしておるしな。

あやつはたった一人の親として今宙ぶらりんしている状態の息子達が心配なんだろうな」

 

気をとめどなさそうなニールセンに早乙女は。

 

「……博士もキング博士が心配なんですね」

 

「ああ。あやつとはこれまで憎たらしくて張り合ってきたこともライバルでもあれば、共に技術者として分かち合ってきた唯一の戦友だからな。放っておけんのだ」

 

彼にもそういう感情があったと知り、凄く感心する早乙女――。

 

「では私達も今から彼を手伝いますか?」

 

「お、ワシも同じことを考えてたがお前もヤツが心配なのか?」

 

「互いに技術者ですから、同じ穴のムジナって言いますからね」

 

「そうだな、では行くか――」

 

二人は張り切ってキングの元へ向かっていった――。

 

――それからしばらくして……通通常業務を行っているこの基地全体に緊急事態のサイレンが鳴り響いた。

 

“緊急事態発生、緊急事態発生。北極方向より大多数の飛行型メカザウルスと空母艦と思わせる巨大な敵影が接近中――各員は速やかに配置につけ”

直ちに警戒態勢に入り、各員はそれぞれ持ち場の配置につき始める。

そして戦闘機パイロットやSMBパイロット達も各機のコックピットに搭乗していく。無論、ゲッターチームも。

 

「二人とも準備はいい?」

 

「ええっ」

 

「いつでもいいわよ!」

 

パイロットスーツに着替えた三人は早速各ゲッターロボのある格納庫へ。

つい先日、改良されたばかりの兵器を全て実装したアルヴァインに乗り込む竜斗、同じくルイナス、アズレイに乗り込むエミリアと愛美。

すぐにシステム起動させて待機していると早乙女から通信が入る。

 

“全員聞いてくれ。メカザウルスと空母艦の大軍団のルートはどうやら中南米に向かっていると基地の所長から報告があった。

エリア51の戦闘と同じく、全て飛行型メカザウルスだ。

よって今回もアルヴァイン、ステルヴァー、マウラー他の空戦闘用SMBが主体となる。

竜斗、改良されたアルヴァインの力を思う存分に揮えっ”

 

「任せてくださいっ」

 

彼は力強く応える。

 

“エミリアと水樹についてはもしかすれば山岳地帯などの足場の悪い区域で戦闘になるかもしれん。

よって出撃については指示が出るまで待機していてくれ”

 

「「了解(は~い)」」

 

早乙女は通信を切ると、基地から通信が入る。出るとモニターに映るのは所長のリンクだった。

 

“聞いてくれサオトメ一佐、まずマウラーと戦闘機の編成隊、ブラック・インパルス隊を先発させる。その後、追う形でベルクラスを発進させてくれ。

今回は各軍のSMBも共に出撃させる、上手く協力してやってほしい”

 

「了解です」

 

“博士達によって改良された各ゲッターロボの健闘、期待していますよっ”

 

――基地の各格納庫から次々と機体が姿を現してスクランブルしていく。戦闘機形態のマウラー、ステルヴァーが各スラスターのバーニアを吹かして轟音を鳴らし、滑走路を真っすぐ走りそして飛び出していく――。

 

「マリア、ベルクラスを発進しろ」

 

「了解っ」

 

全て飛び出していったのを見届けると、ベルクラスも浮上。大空へ舞い上がり、そして南へ進路を取り発進した――。

 

“こちら、フランス軍のルネ=ロレッタ少尉。護衛として同行いたします”

 

 

“こちらイギリス軍のアレン=フェルド中尉。同じく護衛として同行許可をお願いします”

 

二人からの通信が入り、許可を取る早乙女。

モニターには左右に二人の乗る機体がベルクラスと同じ高度で航行している。

左の、アレンの乗る機体はBEETのような黒色主体の機体。全身がステルヴァー以上の鋭角的であり、空気抵抗の影響がほとんど受けなさそうな機体である。

 

右の、ルネの乗る機体はSMBではなくまるで鳥の『白鳥』と思わせるデザインの白い戦闘機であるが主翼部がやけに青色の光を放出している……これはプラズマエネルギーの光であり、まるで本物の翼のようにしなやかに帯びている。

「ほう、個性的な趣向だ」

 

早乙女はその特徴的な二機のデザインに技術者の血が疼き興味深そうに見ている。

 

「司令、メカザウルスの大軍団のルートを見ると、どうやらアンデス山脈付近へ向かっているようです」

 

「アンデス山脈……マリア、すまないがもう少し正確なルートを割りだせないか?」

 

マリアはコンピューターを駆使して敵の進行ルートを模索する。

 

「どうやらボリビアのサハマ山付近へ向かっていますね」

 

「……了解。ではすぐに行こう」

 

その情報を竜斗達に通信を通して伝える。

 

“現場にいってみないとまだ何とも言えないが、恐らく傾斜など足場が悪く、そして何よりも六千メートル以上という高さの都合上、ルイナスとアズレイは降下できない可能性が高い”

 

 

「では、今回は僕だけ出撃ですか?」

 

“いや、一応ベルクラスの上甲板にはSMB用の足場を設けてあるから降下が無理な場合は二機をそこに固定して援護射撃してもらう、二人共いいな?”

 

「はあいっ」

 

しかしエミリアだけ何故か黙ったままである。

 

“エミリア、どうした?”

 

「……いや、最近の戦闘はルイナスには不利な状況ばかりであんまり役立てないなあって思って……」

 

確かに最近は飛行型メカザウルスばかりで、飛び道具はあるけれど陸戦重視であるこの機体では著しく戦闘力が下がることに彼女は気にしていた。

 

“君は偉いな。だが、それでも飛び道具がある以上は君の機体もちゃんとした戦力の内だし、役立てないと思うならその限られた武器をどう上手く活用するか考えるのも君の仕事の内だ。

 

それは君自身が成長する糧であるし、そしてこれから戦っていく上で生き残っていくための技術も養えるんだ”

 

「なるほど……」

 

“エミリアだけではない。竜斗も水樹もただ教えられた通りの戦術、いやそれ以外の事に対するとっさの機転、または臨機応変に対応する柔軟な思考と経験を積んでおくことを頭に入れてこれから行動してくれ”

 

「了解!」

 

“では、いつでも出撃するように準備しておいてくれ。

二人についてはもしその時になったら指示する”

 

移動中、竜斗は何故か胸騒ぎしてソワソワした様子である。

 

(……何でだろう、落ち着きたくても落ち着かない)

更なる改造を施したアルヴァインの力を見たくて興奮しているのかそれとも――。

 

「司令、チリとボリビアの国境付近で先発隊がメカザウルス軍団と接触。交戦に入った模様です」

 

「ついに臨戦か。よし、急いで我々も向かうぞ」

 

ベルクラスの推進力を大幅に上がり、凄まじい航行速度で飛翔していった――。

 

……そしてチリとボリビアの国境付近の高度六千メートル付近。

下には雲が多く、どんよりとしているこの空域。

先発のマウラーと戦闘機の編成隊とブラック・インパルス隊は、ラドラ率いる補給物資を詰め込んだ恐竜母艦十隻の護衛部隊がついにぶつかり合い、すでに戦火が巻き起こっていた。


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