ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第三十六話「二人」②

“――竜斗、準備はいいか?”

 

「オーケーですっ」

 

――約一ヶ月後。地下基地内の出撃用上昇テーブルに乗る、改造の終わったアルヴァインが発進態勢に入っており、改装されたコックピットでは竜斗は意気揚々に操縦レバーを握りしめている。

 

“君がこの一ヶ月間の訓練の成果を試す時だ、期待しているぞ。

なお、機体の性能、そして君の操縦技術を最大限に生かすためにコックピットはステルヴァータイプと同じモノを採用した。今までのゲッターロボの操縦方法とは異なり戸惑うかもしれんが君なら上手くやれるだろう”

 

……彼はこの日をどれだけ待ったか。

もう力を発揮できなくなったゲッターロボとは違い、自分でも力を引き出せるというゲッターロボに乗れること、そして心機一転し猛訓練に励んできた自分の成果を試したくてウズウズしている。

証拠に彼は前と比べてやる気に満ち溢れた清々しい表情から分かる明るい雰囲気、そしてトレーニングを重ねて筋肉のついた体躯。

外見からしても前までの竜斗とは思えないほどに変化が伺える。

 

――すると、通信モニターの画面に早乙女に割り込むようにキングが映り込む。

 

“竜斗君、新しくなった駆動エネルギーに伴って、本機の武装を変更するぞい”

 

「ええっと、確か耐久性と許容量の問題で腹部のゲッタービーム、そしてライフルのプラズマ弾、トマホークとブーメランが使えないんですよね?」

 

“そうじゃ。しかし今急ピッチでゲッタービーム以外の兵装は複合エネルギーに対応できるよう改造しておる。

……まあ今回はただ飛び回るだけの実験じゃからな」

 

「ゲッタービームの方はどうしますか?」

 

“今考え中だがこの際、腹部からではなく肩に取り付ける砲(キャノン)タイプにしようかなと思ってる、ライフルも同時使用できるようにな”

 

「……まあ、博士に任せます」

 

“よし、話はそれまでにしてそろそろ開始する。あと、無理だけはするなよ”

 

――外部ハッチが開かれて、機体の乗る出撃用テーブルがゆっくりと上昇していく。

みるみるうちに快晴の空が見えて光が機体に差し込んだ。

テーブルが地上まで上がり停止、機体が外の空気に晒された。

「では、始めます――」

 

竜斗は右足元のペダルを押し込んだ瞬間だった――。

 

(っ…………)

 

それはアルヴァインで初めて出撃した時と同等、いや以上の恐るべき速度で真上へ飛び上がり一瞬で大空の到達した。

 

“大丈夫か?”

 

「はい、まだまだいけますっ」

 

“よろしい。その調子で続けるぞ”

 

アルヴァインは基地外を飛び出し、今はもうここにいないあの男、ポーリーと戦闘したメキシコ湾上空を、まるで疾風の如く凄まじいスピードで縦横無尽に飛翔するアルヴァインの姿は初戦時の再現そのものである。

コックピット内はゲッターロボとは異なった操縦用レバーやシンジケーターや液晶モニター、パネルキー、コンソール……ステルヴァーそのものであり操作性が段違いに難しくなったはずなのだが、竜斗はこの一ヶ月間に学んだ新しい操縦訓練の成果を活かし巧みに操縦していく。

 

(スゴい、もうゲッターロボはダメかと思っていた俺でもちゃんと力を引き出せてるっ!)

 

出力値を確認しても完全にグラフがマックスであり、なおまだ上がるような雰囲気を見せている。

 

「実験は成功したようだな」

 

「ああっ」

 

基地内のモニターで腕組みしながら凝視するニールセン達もその様子にようやく納得した表情を見せている。

 

「博士のおかげです、感謝しますよ」

 

「うむ。これで一つの問題はクリアしたな。後はテキサス艦の完成を急ぐのみじゃ。

これからは遅れた分、お前達にも汗水垂らして頑張ってもらうぞサオトメ」

 

「もちろんですよ」

 

一方、ベルクラス内では艦橋からエミリア、愛美の二人は同じくモニターで実験飛行の様子を見ていた。

 

「へえ、石川もやっと本調子に戻ったみたいじゃない。よかったよかったっ」

 

「うん、これでアタシ達はこれからもゲッターチームとして一緒に戦っていけるんだね。嬉しい――」

 

二人は安心し、ホッとする。

 

「にしてもさ、アイツこの一ヶ月間で本当に見て分かるくらいに逞しくなったよね。身体つきもあるけど前向きになったというか、迷いがなくなったっていうか。イシカワはやっぱりやればできる人間なのよ」

 

「うん。リュウトは本当にスゴいよ。アタシも負けないように精進しなきゃっ!」

やはり二人は彼を凄く信頼している様子が伺える。

 

「あ~あっ、今の石川はエミリアにはもったいないなあ。マナが貰おうかしら?」

と、口走るとエミリアは目の色を変えて、ムッとなった。

 

「はあ!?ダメダメ!リュウトはアタシのお婿さんなんだから!!」

 

「勝手な決めつけはよくないわよ。じゃあこの後マナがアイツを口説き落としてやるから今に見てなさい、アンタを鼻っ面に痛いの食らわしてやるから」

 

「…………っ」

 

喧嘩が始まるような雰囲気を醸し出している二人。だが、

 

「……なあんてね。マナにはジョナサンがいるしそんなことしないから安心しなさいよ」

 

エミリアはそれを聞いてカッとなっていた顔が一気に萎んだ。

 

「ほんとイジワルね……」

 

「それにさ、マナはイシカワと相性悪いと思うし、そう考えるとやっぱりアイツにはアンタしかいないんじゃない?」

 

「ミズキ……」

 

「――まあ何はともかく、一件落着ね」

 

二人は穏やかな顔で彼の操縦するアルヴァインを最後まで見守っていた――。

改造されたアルヴァインのテスト飛行は無事成功し、基地に帰還する竜斗。降りるとジェイドや連合軍の仲間達全員が笑顔で出迎えた。

 

「みんな……」

 

「実験は成功だ。これで君はまたゲッターロボのパイロットとしてやっていけるぞ」

 

それを聞いた竜斗は感無量の喜びが身体中に駆け巡り、その喜びからか全員の元へ飛び込んでいった――。

そして周りも彼と喜び合い、そして祝福した。

 

「竜斗君、頑張った甲斐があってよかったな」

 

「ああ、これからもよろしくなっ」

 

「もう落ち込むなよっ」

 

「少佐達にはこれまでの訓練に付き合ってくれて感謝してますっ、本当にありがとうございました!」

 

ジェイド、ジョージ、そしてジョナサン、そしてブラック・インパルス退のメンバー達の激励を受けて彼は頭を下げて感謝した。

 

「最高なフライトだったよ、やっぱり君は才能あるんだねえ」

「あの様子を見て君とゲッターロボがいるならもう怖いものなしだよ、これからよろしくな」

 

「頼りにしてる……」

 

リーゲン、そしてアレン達から高評価を受けてもう嬉しさでいっぱいであった――。その後、早乙女達の元に向かい対面する。

 

「司令……」

 

「竜斗、やっぱり君は大した男だよ。私の見込んだ男だ――これからもゲッターチームのリーダーとして頼りにしているぞ」

 

早乙女から労いの言葉を受けた彼は、彼らに感謝の気持ちを込めてお辞儀した。

 

「僕は司令やマリアさん、そしてニールセン博士やキング博士にこれ以上のない感謝の気持ちでいっぱいです。

そしてこれからもゲッターチームのリーダーとして励んでいくのでこれからも宜しくお願いします!」

 

と、竜斗からの力強い誠意のこもった言葉を聞き入れ、全員も彼に期待を込めた――。

 

「おかえりリュウトっ」

 

ベルクラスに帰ると同時にエミリア達も彼を笑顔で出迎えた。

 

「エミリア、水樹。俺は二人に対して本当に感謝してる。そして、これからもよろしく!」

 

また、ゲッターチームとしてしてやっていけることに喜び合い、そしてここで三人は再び結束を強く固めた。

 

「イシカワ、本当に成長したね。正直見直しちゃった」

 

「いやあ、これもみんなのおかげだよ。それにあの時、弱気だった俺を水樹が真剣に怒鳴ってくれたから今の俺があると思うんだ。本当にありがとな」

「いつでも怒られたかったらいつでも来なさい、好きなだけ怒鳴ってあげるから」

 

「ああっ、耳栓していくよ」

 

「あ、それ聞く気ないってことじゃん!」

 

「アハハ!」

 

三人は久しぶりの笑顔で溢れていた。

そしてこれからも一緒にやっていけることを願うのであった。

 

――司令達からは自分に才能があるとばかり言われているが、僕は周りにいる人間が恵まれているからだと思っている。

僕の欠点を補おうとしてくれる人、才能を引き出してくれる人、叱ってくれる人、期待してくれる人、支えてくれる人、助言をくれる人……その人達がいたからこそ、今の僕があるのだ。

だからこそ、僕はその人達の恩を報いるために頑張れる気持ちになれる、一種のモチベーションなのだ。

これからどんな苦難があるか分からない、だけど乗り越えていけるような気がする。

こんな素晴らしい人達がいる限り、きっと――。

 

「あ……ん……んっ」

 

――夜。愛美の部屋では。

 

「マナミ……っ」

 

「ジョナサン……っ」

 

ベッド上で、裸で激しく交わる二人の姿が――。

 

「ジョナサン……スゴい……」

 

「マナミ……スゴく濡れすぎ……っ」

 

「だって気持ちいいんだもん……」

 

熱く、そして息を大きく乱す愛美は快感で悶えておりその姿に彼はもう釘付けだ――。

「マナミ……君の匂い、君の肌のぬくもり、君の汗、君の声、君の――すべて愛おしいよ」

 

「ありがとう……っもっとマナを愛して……溶けてしまうくらいに激しく愛して……っ!」

 

……二人は時間を忘れるくらいに激しい愛の姿を晒している。もう自分達以外の存在を見失うほどに――まるで獣のように。

 

「君は俺の腕の中で天使になった――マナミ、愛してるよ」

 

「マナも……アンタが好き……っ」

 

しばらく二人は抱き合ったまま静止していた。まるで時間が止まったかのように 。

 

「……それにしても竜斗のヤツ、調子が戻ってよかったな」

 

「うん。これでマナがリーダーにならずに済んだしよかった――」

 

「どうしてだい?」

 

「単にそういうのには面倒くさがりなだけだからね、マナは。

ああいうのは要領よくて真面目で責任感のある人間がやるべきなのよ。

そういうのはイシカワが三人の中で一番向いていると思うし」

 

「ああ、確かにな」

 

「それにチームで唯一の男だしさ、威厳を保つために華持たせてやるのもいいと思ってさ――」

 

それを聞き、ジョナサンはニコっと笑う。

 

「マナミは優しいんだね」

 

「……そうかな。マナ、アイツをイジメてたし――」

「……なんだって?」

 

学校に通っていた時のことを正直に話す彼女。竜斗に酷いイジメをしたこととその内容を。当然、唖然となるジョナサン。

 

「……あの時はなよなよしてたイシカワを見てただけでムカムカしてきて、つい友達のコと一緒にさ――だから、ゲッターチーム組んだ時も石川とエミリアの二人と仲良くする気はなかったし、正直やめたくてしょうがなかった。

けど乗ってる内に心境が変わったっていうか、なんというか――案外ここは居心地いいかなと思うようになったの。

それに多分、決定的になったのは、日本にいた時の黒田さんっていう人がマナを庇って死んだこと、あと、自分に居場所がなかったことに気づいて行き場を失ったマナに石川が「なら一緒に行こう」と手を差し伸べてくれたことかな。

それからかな?アイツらと一緒にいても嫌な感じがしなくなったのは。

今まで機嫌とりのウソばかり塗り固まっただけの友達じゃなく、こんなマナを本当に受け入れてくれた人生で一番のかけがえのない仲間だと思う――パパとママももうアイツらのせいで亡くなったし、だからマナももう失いたくないからかもしれない。友達も、居場所も――」

 

「マナミ…………」

 

「だからマナはイシカワを今までイジメていたこと、あとチームに散々迷惑をかけたことの償いも兼ねてさ、石川を男として成長させてあげたいと思ってるんだよね……ってマナ何言ってんだろ……」

 

愛美の本音を聞きます、ジョナサンはニコニコして彼女の頭を撫でてやった。

「俺はますますマナミを気に入ったよ、エラいよ」

 

「ジョナサン……」

 

「マナミは両親を失ってずっと悲しんでるかなと思ってたけど、前向きでえらいよ。

俺自身の立場なら絶対に今も引きずってると思う。

それにマナミは竜斗達を心から信頼していることがよく分かったし聞けてよかった――やっぱり日本人の女性は繊細で、カワイイし最高だ」

 

と、彼はふと彼女の額に軽く口づけをした。

 

「ところでジョナサンはなんでそこまでマナを好きになったの?というか、日本人好きらしいけどなんで?」

 

するとジョナサンは、

 

「どうしてかって?それは、俺の初恋の相手が日本人だったからさ――」

「そうなの?」

 

彼女の頭を優しく撫でながら思い出話を語り始める。

 

「――子供の時、その初恋の女性はホームステイとして日本から俺の家に来てね、確か彼女は十七歳で俺は十二歳の時だったかな。

黒髪のサラッとしたセミロングでスレンダー、可憐な雰囲気を持ってたうえに礼儀正しくて優しい女性で一緒に過ごした二ヶ月間は俺にとっては夢のようだったよ。

英語もほとんど話せる人で初日でもう仲良くなってから時間を忘れて色々話し合ったね。

互いに育った国のことと自分の周りのこととか――この二ヶ月で俺は完全に彼女に魅了されてさ。

彼女が日本に帰る時なんか俺は「行かないで!」って泣きわめいてワガママいったのを思い出すよ。家族は困ってたけどその女性は俺に「また会いにくるから」って互いに約束したんだよね。

……けどね、それが最後の顔合わせだった。手紙を出し合ってたけど突然こなくなってさ、何故かと思って国際電話で彼女の家に連絡とったら――彼女が交通事故で亡くなったって聞かされたんだよね」

 

それを聞いて愛美の顔色が変わった。そしてジョナサンも物悲しい表情だった。

 

「車にハネられて即死だったことしか聞かされなかったけど、瞬間に俺の中の何かが砕けてさ――俺は狂ったようにこれまで沢山の女性に手を出してきてさ、軍に入った後もそれで色々問題起こしてきた。

きっとそうすることで彼女の存在を必死で忘れようとして、それで砕けた部分を埋め合わせしようとしたと思うんだけど、結局は空虚ばかりで何も解決しなかった……何も満たされなかった。

けどそんな時、あの大雪山での戦闘で来日することが決まってね。

俺は彼女の生まれ故郷の日本に行きたいと無性に駆られてね。だから俺は頑張って選抜に選ばれて、そしてついに来日した時に出会ったのが――」

 

「……マナ達だったワケ?」

 

「そう。マナミはその女性と性格も容姿も全く違うけど、キュートだ。

彼女の影響からか、日本の女の子を大事にしたいという気持ちは凄くあったし、それが彼女の供養になるとも思ってる――だから俺は日本人の女性は最高だと思っているし、そしてこれまで一緒にマナミとやってきてさ、君なら俺の最高のパートナーになれそうだからと思ってさ――だから俺にはもう愛美以外は見えないのさ」

 

彼の暗い部分、そして本音を聞き彼女は感動しているのか目頭を熱くし、身震いしていた。

 

「……マナミ?」

 

「脳天気そうなアンタにも色々あったんだね……」

 

作り話にも思えるくらいの話だが、今までの自分に対する接し方を考えれば彼が嘘をついているようにも思えない。

そのエピソードは彼女を感涙させるに十分の内容だった。

 

「けどマナはそんなキレイな人間じゃないからジョナサンの理想じゃないよ……」

 

「いや、マナミはマナミらしく生きればいいのさ。俺はそういう君が好きなんだから」

 

「ジョナサン……」

 

二人はまたぐっと強く抱きしめ合い、そして深く濃厚な口づけづけし愛情をより深いものとする。

そして彼女はこう思った。彼を満足させれるぐらいに精一杯愛していこうと――心からそう誓った。

 


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