ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第三十六話「二人」①

――オーストラリア。

南半球にあるこの孤立した一大陸の中央に君臨する、巨大な爬虫類かそれとも地上人類か何か髑髏を下地にした城のような形をした建造物がそびえ立っている。

まるで天まで届くかのように高く、まるで塔とも言えるそれはバベルの塔でも造ろうとしたのかと思いたくなる。

そしてその周辺には数え切れないほどのメカザウルスが配置され、要塞を思わせる虫一つも侵入させまいと言わんばかりの鉄壁さを物語っている。

 

――第一恐竜大隊本拠地『ヴェガ・ゾーン』。

シュオノアーダで「蛇牙城」を意味するこの建造物はデビラ・ムーやドラグーン・タートルのような生き物を象った物とはいえ違い城、または要塞という無機質な姿である。

内部にある応接間では二人の人物が会談している。

一人はジャテーゴの側近であるラセツ、もう一人は白銀のマントで身体を包んだ、高貴な雰囲気を持つ爬虫人類の男。

彼は第一恐竜大隊の総司令官であるリョド=ユ=バルグヴェル。

将軍の地位を持ち、バットと同格の存在である――。

 

「――リョド将軍。例の件の返答をお願いします」

 

自分より遙かに格上であるリョドを前にしても臆せず、寧ろこちらか覆い尽くしてやろうという高圧的な態度で何かを持ちかけているラセツ――。

 

「……お引き取り願おうか」

 

しかしリョドは顔色一つ変えずにそう言い切る。

 

「将軍、何をためらいますか。ジャテーゴ様はアナタの武勇を見込んでのことでございます。

ジャテーゴ様は全力であなた方を支援し、地上人類を殲滅した後は今以上の待遇を用意するとおっしゃっています」

 

「私はゴール様に絶対の忠誠を誓っている。たとえ御方の妹君であるジャテーゴ様だろうと傘下には絶対に入らん」

 

断固否定する彼。するとラセツはあるものを懐から取り出す。

小型の金属チップ……何かの記憶媒体のようであるが。

 

「この中にはありとあらゆる情報がインプットされてます。さらにごく一部しか知らない極秘、機密情報も。

もし、将軍が承諾してくれるのならこちらを差し上げましょう――」

何故彼がそれを持っているのか謎であるが、リョドはそれを見つめたまま無言である。

 

「まあ、将軍の心境もありますので返事は後日で構いませんよ。

しかしこれだけは言っておきます、ゴール様に絶対忠誠を誓えるほどの王の器は持ち合わせていないことを。

証拠に現在の帝国の思わしくない情勢、そして各軍における予算の削除や治安の悪化、そして自身の指揮、統率能力の程度。

日本地区は奴らに奪い変え去られましたが、あれはゴール様の判断が招いたことでごさいます」

 

「…………」

 

「その事をよく踏まえて、そして先を見据えて返答を頂けたらと思います。では、私はこれで――」

 

彼は立ち上がり、去ろうと背を背を向けた時、リョドが閉じていた口を開く。

 

「ラセツ、そなたがゴール様に忠誠を誓わないのは勝手だが、何ゆえそこまでジャテーゴ様を狂信的に支持するのだ?」

 

「言っておきますが、ジャテーゴ様はゴール様よりも遥かに国を治める才能に溢れておりますゆえでして、私はその事実を正直にアナタにお伝えしただけでございます。あなたも帝国、いや爬虫人類の為を思うのなら忠誠を誓う相手を考え直してみればよろしいでしょう――」

 

お辞儀をして颯爽と去っていくラセツを尻目にその後ろ姿を何かの念を込めたような眼で見るリョド――。

 

場所は変わり、北極圏――。

開発エリアのメカザウルス専用ドッグにてガレリーがザンキ、リューネス、ニャルム、クック。ジュラシック・フォースの面々に、自分達の乗る予定の最新型専用メカザウルスの説明をしていた。

左端に立つメカザウルスは、クランの乗っていたルイエノと同型の姿を持ち、左右の腰には計二丁の拳銃の収まったホルダーが取りつけられており、両腕、両足には折り畳まれた刃物が装着されている。

 

「左端の機体はザンキ専用のメカザウルスでルイエノをベースにした『ランシェアラ』。同じく地上戦に特化した機体だ。

自身の卓越した戦闘能力をフルに生かせるように、操縦方法が特殊で、そなたの動きがダイレクトに機体に反映するようにしてある」

 

 

「ほう、それは腕がなりますな」

 

彼は高揚としている。その隣にはなんと……ラドラの機体であるゼクゥシヴと瓜二つの姿をしたメカザウルスが。

 

「これはクック専用機『グリューセル』。

ゼクゥシヴの二号機とも言える機体だが性能は本機以上に高く引き上げてあり、同じく空陸対応の万能機だ。

ラドラと良き仲であるそなたにはこれが似合うと思ってな――」

 

「……『戦友』ですか。ありがとうごさいます」

 

「け、またラドラか……っ」

 

「うぜえぜ、全く」

 

クック以外の三人はラドラと聞いて嫌な顔をし、愚痴を吐いているが聞いている本人は無視している――。

その隣にあるのはトリケラトプスと思わせる四足歩行の角竜型メカザウルス。

ミサイルランチャーやキャノン砲が取り付けられた見るからに砲撃主体を思わせるフォルムである。

 

「リューネス専用機『オルドレス』。ランシェアラと同じく陸戦用でそなたの得意分野である砲撃戦に特化した機体だ。

外見のある兵器の他に最近完成させた新兵器を内蔵し、今はまだ取り付けてないが特殊な装置をつけるつもりだ。

より命中精度を上げるためにな――」

 

「そりゃあありがたいな、ワハハハ!」

 

と、豪快な笑い声を上げる彼を尻目に、ニャルムは落ち着きのないかのようにキョロキョロしている。

 

「ニャルム、どうした?」

 

「……あたしの機体が、ない……」

 

 

ここにあるのは三機のメカザウルスだけで確かに彼女の機体はどこにも見当たらない。

 

「ニャルムの専用機はメカザウルスではなくメカエイビスだ。

だからエイビス専用のドッグにあるから安心してくれ」

 

それを聞いてホッとするニャルム――。

 

「完成次第そなたらは直ちに第二恐竜大隊と合流、あとはバット将軍の指揮下で行動してくれ。

この機体には我々の最新技術を積み込んでいる自信作だ、武勇を期待しているぞ」

 

「「「「はっ!」」」」

 

四人は去っていった後、今度はすれ違いにラドラがやってくる。

ゴーラ直属の親衛隊長となった彼は漆黒のマントを身につけていた。

 

「ガレリー長官、只今参りました」

 

「来たか、ラドラよ。先ほどジュラシック・フォースのメンバー専用のメカザウルスを見せてたのだが、実は同時進行でそなたの機体も強化しておいたので見せてやろうと思ってな」

「まことでございますか、ありがとうごさいます」

 

二人はそこから離れた場所にあるドッグへ足を運び、前にそびえ立つ彼の機体を下から見上げる。

外見はライフルが二丁となっている以外は、前と変わりない容姿である。

 

「ゼクゥシヴを強化した『リューンシヴ』だ。外見こそは変わりないがスペックは前以上に底上げした上に新しい技術も色々取り入れておる。

ライフルもその技術を応用した試作品で扱い辛いと思うがお前の腕ならなんら問題ないだろう」

 

「ありがとうごさいます――しかし、何故私の機体の強化を。これからはもう私はゴーラ様の近衛兵として仕える身で機体に乗る機会はなくなると思いますが」

 

「……ここだけの話だが、近々中南米にいる部隊への補給品の輸送がある。それも非常に大量のな。

それに大勢の護衛がつくことになるのだが――」

 

「それで私がですか?」

 

「そうだ。ラドラ自身の指揮官としての『リハビリ』も兼ねて、ちょうど新しい機体の実戦テストを含めゴール様はラドラもメンバーとして指名した。つまり、お前に護衛部隊の隊長をお願いしたいとのことだ。

ジュラシック・フォースは近々第二恐竜大隊と合流せねばならん。それでお前が一番適任と言うわけだ」

 

「分かりました、ゴール様の御命令とあらば――」

 

「うむ。ラドラよ、頼むぞ――あと、南米と言うことでもしかしたら向こうにいる地上人類の軍と交戦する可能性も十分ありえる。

もしかすれば例のゲッター線の使う機体も現れるかもしれん。

その時こそ仕留めるチャンスだ、強化したリューンシヴとそなたの腕なら今度こそ確実に――」

 

「………………」

 

だがラドラは、ガレリーの期待と裏腹に複雑な顔をしている。

 

「ラドラ、どうした?」

 

「あ、いや……なんでもございません」

 

「……まあよい。もし現れたら破壊しろ。忌々しい我らの災厄の根源を断ち切ってくるのだっ」

 

……ラドラは詰所に戻ると親衛隊の部下が出迎えた。

 

「お帰りなさいませラドラ様、先ほどゴーラ様があなたをお探しになられてましたが――」

「私を?」

 

彼はすぐに彼女の部屋へ向かった。

 

「ゴーラ、ラドラです」

 

ドアをノックするとすぐに彼女が扉を開けて出迎える。

 

「ラドラ、あなたを探してました。とりあえず中へ――」

 

二人は部屋の中央にある石造りのソファーに座る。

 

「……私が掴んだ話です。ジャテーゴ様はどうやらここの何割かの者を買収し、自分の味方につかせているとの話です」

 

「なんですと……」

 

「まだ数人ほどから掴んだ情報ですので、正確にどのくらいの数の者がいるかはまだ分かりません。

しかし、多ければ多いほどお父様や私の身の回りには敵ばかりということになり、非常に厄介なことになります」

 

「…………」

 

「なんとしてでもこれ以上の拡大を防がなくては……ラドラ達親衛隊も私はともかくお父様に対して今まで以上に警備を強化し、そして小さな情報でもいいので集めて来てください。

どんな些細な情報でも多ければ多いほどジャテーゴ様の謀反疑惑はより確実な証拠になります。

私もより情報を集めて、お父様にこの事をお伝えいたします」

 

「……分かりました。ゴーラもお気をつけてください。

一応、部下にあなたの護衛をつかせますが何かあればすぐに私が駆けつけますのでご安心を――」

 

「分かりました。ところでラドラはなぜガレリー様の元へ?」

 

「それは…………」

 

彼女に全て話すと彼女は。

 

「もしかしてリュウトさんと……っ」

 

「……ええ。もし向こうが現れたら戦う他以外にありません」

 

「…………」

 

……二人は沈黙する。今は二人を合わせたくないと思うゴーラだが。

 

「いくら彼が戦う意思がなくとも、私は帝国のいちキャプテンでありそして僕。

帝国は地上人類を殲滅するつもりですから私はそれに逆らうわけにはいきません。逆らうことは帝国を、いや爬虫人類としてのアイデンティティを失うことと同じになります。ゴーラもこれを理解できるはずです」

 

「しかし、リュウトさん達はこれから私達爬虫人類と地上人類の和平の架け橋になるかもしれない人達です。

お願いですラドラ、どうかリュウトさん達を殺さないで!」

 

彼女は嘆願する。しかしラドラは。

 

「ゴーラ、あなたのおっしゃっていることは全て理想だらけの綺麗事なだけです!」

 

と、彼はつい怒鳴りつけるように言ってしまい怯んでしまう。

 

「あ、申し訳ございません……しかし、私にも立場があることを少しお考え下さい……」

 

と、恐縮してそう言うと彼女も。

 

「……私こそごめんなさい、つい自分勝手なことばかり申してしまって。

 

だけどリュウトさん達は、地上人類で初の知り合いでありお友達ですし、それにこんな暗い世の中でも少しでも希望を見いださないと私はとてもじゃなくやっていけません――」

 

ラドラは彼女の思いを理解している。

竜斗という、「戦いたくない、仲良くしたい」という自分の思いを真正面からぶつけてきた地上人類の少年と戦いたくないのは自分も同じである。

 

 

「確か……リュウトと言う名でしたよね、あの少年は」

 

「はい。私を保護してくれ、そしてとても優しく接してくれました。彼の仲間の方も優しく接してくれましたし、また再会してお話がしたいと本気で思える方々です」

 

「……ですが、爬虫人類と同じで地上人類には優しい人間ばかりではないと思います。

地上人類を忌み嫌う爬虫人類がいるように、我らを嫌悪する地上人類もいることをちゃんと理解してますか?」

「ええ、私は理解した上でそういう夢を持ち続けていますし、いつかそれが叶うと信じてます」

 

彼女の断言を聞き、再び心が揺れ動くラドラ――自分の種族、立場で葛藤し頭痛がした彼は一旦、詰所に戻るとゴーラの部屋を後にした。

通路に歩きながら顔を落としているとそこに、

 

「どうしたラドラ?」

 

そこに偶然差し掛かった彼の親友、クックだった。

 

「顔色が悪いが大丈夫か?」

 

「ああ。なんでもない――ところでお前、シベリアの第二大隊に行っても元気でな」

 

「ああ、あんなヤツらだけど上手くやるよ。お前もゴーラ様の護衛を頼んだぞ」

 

二人の互いを見る眼は本当に信頼しているような、本当に親友だと思わせる力強い眼である。すると、

 

「後で酒場で久々に話しないか?ここでの最後の語り合いだ」

 

「喜んでっ」

 

クックは誘うと彼も快く受け入れたのだった。

 


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