「そして身近の人間にも感謝しなければならないよ。
サオトメ一佐やマリア助手、エミリア君やマナミ君がいてこそ君がゲッターロボというSMBのパイロットたらしめることだし、そして周りも君を期待し、頼りにしている。
それを今の弱気な君を見ているとどう思う?」
自分がこんな事態にもがき苦しんでいるを見て早乙女達は何とか手を尽くそうと頑張ってくれたのに、手を差し伸べてくれたのにただ弱音を吐いてウジウジしていた自分に腹が立った――助けてくれようとした人達の努力を無駄にしそうにした、そして周りに対する感謝の心が足りなかった。
早乙女、愛美が自分にキツく言ったことの意味に、竜斗は今やっと気づいた――。
「僕はバカだ……ここまで尽くしてくれた人達になんてことを……」
どうやら理解できたと知り、ジョージは安心のため息を吐いた。
「いや、君が気づいたのならそれでよかった。
それよりも問題は、君はこれからをどう行動するかだ。
もしこれからも乗り続けたい気持ちがあるなら、自分の出来ることを考えてすぐに行動に移すべきだ。
その明確な気持ちとやる気があるなら、ジェイドやジョナサン、一佐達も周りは大喜びで君に協力してくれるだろう。
俺も君の味方だしできる範囲でなら支援するよ」
「少佐……」
「それほど君は信頼されているということだ、よかったなっ」
竜斗の表情は見る見る内にやる気に満ちた明るい表情になっていく。
こんな自分でもまだまだここで頑張れるということに対するの嬉しさ、そして自分を助言をくれて奮い立たせてくれたジョージへ感謝の気持ちでいっぱいだ。
「お、やっといい顔になったな。それが一番いい表情だよ」
竜斗は頭を撫でて照れている。
「……そういえば、少佐はなんで軍に入ろうとしたんですか?」
「……俺?」
竜斗からそういう質問をされるとジョージはその黒髪のパーマのかかった自分の刈り上げ頭をポリポリかいた。
「……俺ってさ、軍に入る前って結構荒れてたんだよね……」
彼は過去を言うのが恥ずかしいのか多少口ごもっていた。
「思春期の至りって言うか、なんと言うか……自分の欲求が常に満足ならないような毎日だったから、学校にもほとんど行かずに見るからに危なそうな仲間とつるんでバカやってたんだ。
他人の車盗んで乗り回したり、ケンカしたりして色々と人様に迷惑ばかりかけてさ。まあ所謂ヤンキー崩れだよ」
彼が「やんちゃ」だったとは、優しさを持つ彼とは全く想像もつかない竜斗だった。
「それで親にも見放されてさ、堕ちるとこまで堕ちたよ。
……ここだけの話、実はドラッグとかにも手を出そうとしたこともあってさ」
「ドラッグ…………クスリですよね……なんでそんなものに……っ」
「仲間にそういうルートがあったし割とすぐに手に入るような環境だったってこともあるね。
あの時はもうヤケになってたしとにかくもう快楽が欲しく欲しく仕方がなかったんだ。結局、俺は手を出さなかったけど」
「それは何故ですか?」
「ハマっていた仲間の一人が重度のヤク中になってね。そいつの変わり果てた姿を見た瞬間、心底恐怖を感じたんだ。
俺はこんなヤバいモノに手を出そうとしてたのかと――」
竜斗もどういう状態か、見たことがないから分からないが彼の言うにはそれはおぞましい光景だったと感じる。
それに彼もクスリに手を出さなかったのも、一線を越えないちゃんと良心が残っていたからなのだと感じた。
「それから俺はあれほどあった底知れない欲求や快楽は簡単に消え失せてもうまるで人が変わったかのように悪いことをしなくなったし、悪友ともつるまなくなった。
けど、それはもう手遅れだった。
なんせ俺の悪行がすでに周りに知れ渡ってたし、少なくとも住んでいた地域では俺に協力してくれる人間なんかいなかった、親ですら俺の味方をしてくれなかった。
特に仕事を探す時なんか苦労したよ。
元々、凄く不器用な人間で学歴もないし、それに加えて悪行ばっかり目立ってたし、色んなとこ受けてはことごとく落とされた。
寧ろ俺を軽蔑するような視線ばかりだったし――。
そこでやっと俺は今までしてきた行いを対して本当に後悔し、恥じたね――」
「…………」
「それで苦悩していた時に、流石の親も俺を哀れに思ったんだろうね。
なら軍隊に入らないかと言ってくれてな、こんな俺でももしかしたら入れさせてくれるかもしれないって――で、俺はそこに最後の希望をかけて受けて、見事入隊できたってわけだよ」
彼の波乱万丈な過去を聞いて呆然になっている竜斗。
「入隊してからしばらく経ってから、一回目のブラック・インパルス隊の選抜試験を受けたんだ。
今の俺はどこまでやれるかってね。
奮闘したけど結果はもう少しの所で落ちちゃって正直ヘコんだね。
惨敗だったらこれが自分の実力だったと見きわめて諦めてたけど、意地悪にも僅差だったらしいから余計始末が悪い。
だからそれ以上に悔しさが半端なくてさ、だから次の試験までに今まで以上に猛特訓してそしてついに二回目の試験でブラック・インパルス隊のメンバーに入れた。その時の嬉しさと言ったらこの世の物とは思えなかったね、うんっ」
と、彼は誇らしげにそう語る。
「確かにキツい訓練や実戦闘があって本当に過酷だけど、それ以上にここは俺を受け入れてくれたし、かけがえのない大事な仲間も作れたし。
こんな俺でも頑張っていけるんだというやる気と戦っていく勇気を身についたし、自分にとってはまさに天職だと思うね。
色々迷惑をかけた人達や親への罪滅ぼしも兼ねて、これからも人助けをすべく軍人として頑張っていきたいと思ってる――」――竜斗は感動した。ジョージの話からここまで来るのにどれほどの苦難があったのか――今まで平凡に過ごしていた自分とはまた違う一つの人生の、それも『下から這い上がる』という話を直に聞けて凄くよかったと感じた。
「そ、それにしても少佐はなんか凄い人生を送ってきたんですね……っ」
「全然凄くないよ。真っ当のジェイドとかと比べると明らかに落ちぶれた人間だし。
だけど俺は、ここでのどんな苦難にも耐える気だし努力もする気でもいる。
何故ならここが自分の唯一の居場所だから――」
ジェイドも彼は尋常じゃない努力をしてここまでのし上がってきたと言っていたのを思い出す。つまり守るべきものがあるから頑張れるということだ。そしてこれもある意味、彼の才能とも言えるのかもしれない。
「……とまあ、なんかしみったらしい話になったけど。ともかく君もこれからガンバレよ、俺は応援してるよ」
「はいっ、ありがとうございますっ」
……また一つ、貴重な話を聞けて、参考に出来そうだと感じ、そしてこう思った。
ジェイド達のように親身になってくれる頼りになる先輩方が身近にいるということに、自分達は実は恵まれた環境にいるのではないかと。
そう考えるとみんなのために弱気になっている場合でないと、無駄にするわけにいかないと彼は意気揚々となっていく。
「……リュウト?」
「起きた?」
その夜、彼女が目覚めて起き上がろうとしたが付き添っていた彼に止められる――。
「……気分は?」
「……うん。大丈夫かな……」
彼女もどこか虚ろになっているがちゃんと会話をしている所を見ると心配はなさそうだ。
「……ごめんな、守ってやれなくて」
「……リュウトが謝る必要はないよ。突然の出来事だったから誰も予想つかないよ」
「……ポーリー中尉は本国、つまりイタリアに強制送還されることになったらしい。それからはどうなるか分からないけど……」
「………………」
――二人は沈黙した。
あんな危ない男がいなくなって清々したいけど、二人は嬉しくなれずにモヤモヤしていた。
「……俺さ、色々あってもうゲッターロボに乗れなくなったのかもしれないんだ」
と、彼はそう告げる。
「いや、チームからも外されるかもしれない。もし俺がいなくなってもエミリア、お前はどうする?」
……すると彼女は、
「アタシは……何があってもリュウトを信じてる。
やっぱりリュウトがいないとアタシ達は成り立たないよ。それはミズキも同じことを思ってるハズだから――」
「エミリア……」
「ワタシはリュウトがまたスゴく活躍できると信じてるから――」
……竜斗はここでついに揺るぎない決心がついた。
そう、目的や仲間のためにここからもここで頑張っていくことを――。
次の日、竜斗はジェイドの元へ訪れる。
「竜斗君、エミリア君は大丈夫なのか?」
「あの後、エミリアは大丈夫だから気にしないでと自分の口から言ってましたからとりあえずは」
「そうか……だがまさかポーリー中尉がついに手を出してきたとは……同じ軍人として恥ずかしい。君たちに謝りたい」
彼は申し訳なさそうに頭を下げるが竜斗は慌てて手を横に振る。
「少佐のせいではないですよ全然。あの時は僕がしっかりしてなかったから起きたことです、だからこれからはもうそんなことがないよう心掛けます」
昨日のような暗い彼ではなく、今はどこかしっかりした、気丈さを持つまるで希望に満ちているような清々しい顔をしているのがジェイドには分かった。
「ところで少佐にお願いがあります」
「どうした?」
「僕はゲッターロボに乗っても力を引き出せないし、無理に乗っても正直役立たずになります。
けどやっぱり僕には昨日言った目的と守るべき仲間もいるのは事実、だから僕はここでまだ頑張りたいんです。
ですから――僕にステルヴァーかマウラーに乗れるように訓練してほしいんです」
それを聞いたジェイドはピクッと反応した。
「僕はなんだってします。身体を鍛えるのも徹夜してでも操縦方法を覚えるのも、僕はもう泣き声を言わず、そして惜しみなく頑張ります。だから僕を鍛え直して下さいっ!」
眼は明らかなやる気が感じられるほどに屈託のない輝きを放っており、そしてハキハキとした声で、それも感情がこもっている。
彼は本気だ、とジェイドは分かった。
「僕はどんなことを言われようとそう決めましたので絶対に引き下がるつもりはありません、どうかお願いします!」
竜斗は深く頭を下げて嘆願する。その覚悟を感じたジェイドは、
「……それにしても君がステルヴァーやマウラーの操縦訓練を受けたとしても、マウラーはともかくステルヴァーはブラック・インパルス隊専用機だから許可なくは乗れない、いや許可すら取れないかもしれないが」
「僕も許可を貰えるように努力しますし、無理でもこれもいい経験をしたと思います。
もうゲッターロボに乗れないならそれを割り切って、なら新しいことに足を踏み入れたいんです」
「…………」
「どうかお願いします。僕はもうウジウジしたくありません」
ジェイドもついに折れて、ため息をついた。
「……たった一日で君に一体何があったんだ?」
「いやあ、色々と心境に変化がありまして」
呆れているジェイドもどこか嬉しそうな顔をしている。
「……分かった。君がそこまで言うなら協力しよう」
「本当ですか!」
「ああ、どうやら君もちゃんとした決心をつけたようだし。それを私が否定する権利はないよ、寧ろ協力したくなる」
「ありがとうございます、少佐っ」
二人は互いに笑顔で固い握手を交わした。
「ここまで覚悟を決めれたのは大したものだよ君は」
「これも少佐、それ以外にもたくさんの人達が協力してくれたいたからこそ、僕らがここにいられるんですから感謝の気持ちでいっぱいです!」
と、自信を持って答える竜斗にジェイドも心にあったもやもやが取れて清々しかった……。
「そうか、竜斗がついに覚悟を決めたか――」
ジェイドは早乙女達に今の彼の様子を伝えた。
「やはり彼には才能があり、凄まじい成長を見せてますよ。
それに素直で真剣に取り組みますから操縦訓練をさせてみたら覚えるのが凄く早くて殆どモノにしてますよ。
これならもう近いうちにステルヴァーやマウラーで実戦投入しても十分やっていけるでしょう――彼には完全にやる気に満ち溢れてますよ」
それを聞いた早乙女は「よし」と相づちを打つ。
「博士、今の彼ならアルヴァインを改造しても大丈夫でしょう。きっと乗りこなせてみせます」
そしてニールセンもついに重い腰を上げた。
「……よし。ではこれからアルヴァインの大改造を始めるか、キングにもそれを伝えよう――しかしまた、ジェイドの話を聞くと竜斗君は随分と逞しくなったのう」
「ええ、やはり彼は逸材の人物だと私は思います」
彼に太鼓判を押すジェイド。
「これは水樹にはない彼独自の才能でしょうね。
要領がよく呑み込みが早い、つまり順応力や適応力、応用力が高いからゲッターロボのみならずBEETやステルヴァーなどの、どんな機体に乗せても使いこなせるという万能気質。
エミリアは三人の中ではセンスは劣るものの、持ち前の根気による努力でここまで見事勝ち生き残ってきたある意味の実力者。
そして水樹は高い戦闘センスを持ち、さらにゲッターロボのポテンシャルをフルに引き出せる、ゲッターパイロットとしてはこの上ない天性ともいえる適応力の持ち主。
万能の竜斗、努力のエミリア、そして天性の水樹……三人が合わさってこそゲッターチームの真価は発揮される」
「ふむ。そう考えると三人はやはりゲッターロボ乗り、そしてチームとしてはうってつけということだな」
「ええ。これで後は連携力が高まればチームとしての総合力は確実なものとなる」
と、三人は彼らに対する期待を高めるのであった。
その頃、基地内のトレーニングルームではジェイドから教えられた通りのメニューで筋力トレーニングに励んでいる竜斗の元に愛美が姿を現した。
「……水樹」
「……アンタ何やってんの?」
「俺はもうゲッターロボに乗れないかもしれないからさ、ならステルヴァーかマウラーに乗ることに決めたからその為のトレーニングさ」
「…………」
「俺はもう悩まずに前に進むことに決めた。ゲッターロボに乗れなくても二人を守っていくことはできるから」
彼女に自分の意志を伝える。すると、
「……ふうん。なら頑張りなさいね。じゃあマナは行くね、こんな汗臭いとこにいつまでもいたくないから」
と、彼女は背を向けて去っていく。すると竜斗は。
「ありがとう水樹。昨日お前が怒ってくれたおかげで目が覚めたよ!」
彼から感謝の言葉を言われ、愛美はその途中に足を止めてこう言った。
「石川、無理するんじゃないわよ。リーダーのアンタにケガされちゃマナ達が困るんだからね」
「水樹……」
と、ボソッと言いこの場を後にしていった。
彼女の言葉に彼のやる気はさらに上がっていき、今の彼にはなんの迷いなどなかった。あるのはひたすらの向上心のみだ。
(やっぱり、俺はここで頑張っていくんだ――!)