ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第四話「悪夢」③

――そして朝の九時。早乙女の授業が始まる。今日の授業は昨日の続きについてのようだ。

 

竜斗は今、不安だった。愛美に言われた『指令』を。

まだ尿意が襲ってきてはないのが幸いだが、一時間、二時間経つ内に……。

 

「竜斗?」

 

落ち着きがなくなりもじもじしている彼に不審に思う。

 

「トイレに行きたいのか?」

 

「い、いえっ……」

やばい、もう限界が来ている。行きたい、トイレにいって楽になりたい。彼は限界に近づいていた。

 

「……ちょっとトイレに行ってきてもいいですか!?」

 

「ああっ」

 

座学室から出た時だった。

 

「どこにいくのかな、石川?」

 

「ひいっ!」

 

なんと今朝言ったとおりに愛美が腕組みしながら待ち構えていた。

 

「トイレにいくのダメだったわよね?」

「……行かせてくれ、こんなのムチャクチャだよ……」

 

「ダ~メ。これ以上な目に遭いたいの?」

 

また写真を見せつけられる竜斗は、

 

「……こんなことをして何が楽しいんだよ……?」

 

その問いに彼女の答えは、

 

「ただ楽しいからに決まってんじゃない」

 

「…………」

 

なんと竜斗は彼女を無視してそのまま、トイレへ走り去っていった。

 

「あ、石川っ!」

 

自分の命令を無視された彼女の表情は、一転して阿修羅のような顔になった。

 

「……許さない。あとで覚えておきなさいよ、あのチ〇カスヤロウ……っ!」

 

トイレに駆け込み、そして漏らさずに事なきをえた竜斗の顔は安心のため息をはいた。

だが急な不安感に襲われた。愛美の言うことを無視したことによる報復である。

かなり根に持つタイプだ、自分に何をしてくるか分からない。

だが、少し嬉しいこともあった。あの愛美についに逆らったことである、今までなすままにやられ続けてきた自分が反抗できたのである。

今の彼の暗闇だらけの心中に一筋の光が差し込んだような気分になった――。

座学室に戻り、席に座る。

 

「竜斗、前みたいにもらさなかったみたいだな」

 

「早乙女さんっ!!」

 

「ハハッ、冗談だ」

 

なんだかんだで二人の距離が近づいたかの如く、仲良く会話を弾ませるなる竜斗達だった―。

そして午前中の授業が終わり、竜斗は大きくあくびをした。

 

「午後は、私とマリアでゲッターロボについての概要と操縦訓練だ。集合場所は格納庫だ。開始前にパイロットスーツに着替えておけよ」

 

「はいっ、早乙女さん」

 

「竜斗、今から早乙女さんと呼ぶな。早乙女『司令』か『一佐』と呼べ。

君は建て前上軍人となるわけだ、立場を分かっておいたほうがいい。それに制服着用時で外の自衛隊員達の前で私を呼ぶときに『さん』が出ると変に思われるからな」

 

「はい、早乙女『司令』」

 

竜斗は昼飯を食べてまだ時間があるので、休憩しようと部屋へ戻る。

 

「…………」

 

イヤな視線を感じる。そういえばあれから愛美の姿は見ていない、これはまさか……。

 

一目散に部屋へ戻り、ドアロックするとベッドにドサッと座り込む。

 

「あいつが……」

 

急な不安感に襲われた。出たら、待ち構えているのではないか……そう考えると部屋から出る気がなくなる。だが講座があるから結局行かなくてはならない。

時間が近づくにつれて彼の胸の鼓動がドクドクなり始める――。

格納庫まで突っ走ることを思いついた竜斗はロックと解除して部屋から飛び出した。どうやら左右の通路には誰も見当たらない。

安心しつつも、彼女に出くわさないよう祈りながら、格納庫へ駆け出していった。

――そして三機のゲッターロボを置かれた格納庫。無事に着くとすぐに内部の更衣室に入り、パイロットスーツに着替える、ぴっちりしているが動きやすく、身体を動かすにはちょうど良い。

ヘルメットを持ち、更衣室から出ると空戦型ゲッターロボのドッグに早乙女とマリアが待っていたのですぐに合流、講座が始まる。

 

「まずSMBとゲッターロボについての概要から始める――」

 

まず早乙女からの説明が始まった。

 

SMBは恐竜帝国のメカザウルスに対抗するために開発された人型機動兵器である。

数十年前に各先進国で宇宙競争が行われていた時代に開発された、惑星探査用有人ロボットを祖としているとのこと。

なのでSMBは数えて第三世代有人ロボットになる。

 

ゲッターロボは早乙女による、対恐竜帝国殲滅プロジェクト『ゲッター計画(プロジェクト)』の産物である最新鋭SMBである。従来型のSMB十機分の性能を持ち、各国でも群を抜く驚異的な性能を持つ機体であるがそれでもまだ性能的に不完全な箇所も多いらしい。

 

ゲッターロボは三機開発されており、それぞれ空、陸、海の環境や地形に対応すべく各武装や機能は違う。

このゲッターロボに使われている動力が機体の名にも使われているエネルギーが、ゲッター線(またはゲッターエネルギー)と呼ばれる、宇宙から降りそそぐ放射線の一種である。

 

微量でプラズマエネルギー以上の出力を持ちながら、今のところ、人体には放射能のような有害事例が出ていないため、そして実験において爬虫類等に有効であると、発見者の早乙女が急遽、対恐竜帝国用戦力兵器としての開発、研究を急がせた。

彼はそのエネルギーの有用性、神秘性に惹かれており、人生かけてでもこれからも研究していきたいという。

 

「……というのが主な概要だ。質問は?」

 

「あ、はい。空戦型と陸戦型のデザインは初めて見ました。しかし海戦型がどこか自衛隊の使用しているSMBとスゴく似ているんですが……」

 

「ああ、BEETか。海戦型はBEETを流用して造られた機体だからだ。言うなれば『ゲッター線駆動のBEET』だ。

だがその性能は元機とは比ではない別物だよ」

 

「はあ……」

 

「あとの二機の外見は全く違うがゲッターロボは基本的に一部を除いてBEETタイプの各パーツを流用、改造して造られている。予算的な問題もあるが何より日本人にしっくり合うからな」

 

「外国のSMBと違うんですか?」

 

「はっきり言って他国のはクセがありすぎて扱い辛い。

そしてBEETの操縦プロセスを更に簡略化したのがゲッターロボだ。簡単だったろ?」

 

「はあ……確かに」

 

「質問が以上か?なら操縦訓練といくか。今日は竜斗、空戦型ではなく他の二機のどれかに乗ってみるか?お前の扱いやすい機体を選ぶのもいいだろう」

 

「はい……あ、了解!」

 

そして竜斗は初めに乗り込んだのは三機の一つで白く、スマートなフォルムの機体、『陸戦型ゲッターロボ』だ。

“竜斗君、操縦方法は概ね空戦型ゲッターロボと同じよ。だけど左手の大型ドリルの扱いには十分気をつけてね”

 

「了解です」

 

マリアの指示に従いシステム起動、操縦レバーを握り込む。

そしてテーブルが回転し、外部ハッチまで横に滑るようにテーブルが右に移動する。降下用の外部ハッチの真上にテーブルが止まる。

 

“ここから降下してベルクラスの外に出るけど、衝撃だけ気をつけてね”

 

テーブルが開き、下に落とされるゲッターロボは直立不動で落ちていくが、着陸した際に膝をガクンと折り曲げて衝撃を抑える。

 

“竜斗、いいと言うまでまっすぐ歩け。先にSMBの地下訓練場がある”

 

 

そのスマートな体躯に似合わぬ左腕の、直撃すればどんなモノでもミンチになるであろう大型ドリルと右腕の掴んで潰す用途しか思い浮かばないペンチ状アーム。

白く尖った頭に睨みつけるようなそのモノアイ。

赤鬼の空戦型とは別の意味でいかつく、そして単純に強そうな陸戦型ゲッターロボ――。

 

竜斗はレバーをゆっくり押して前に歩き出す。誰もいないこの内部で途中、機体一機分が通れる程の細い通路に差し掛かるも足を止めずに歩いていく――と、

 

“竜斗、止まれ。

ここが訓練場だ”

 

目の前にあるのは何もない地下空間、広さは……先が見えない。四方八方、そして何キロあるのかと感じるほどの広大な地下訓練場である。

竜斗は思った、よく日本の地下にこんな場所を作れたなと。

 

「よし。今から自由にこの中を動け。その上で君に各機能の操作を教える」

 

訓練場の上には防弾ガラスに守られた個室、訓練監視室が。

そこには多数の最新コンピューターと早乙女、マリア、そしてなぜかエミリアがいた。

 

“リュウト、聞こえる?”

 

「エミリア?なんでここに?」

 

“実はアタシも見学したかったからサオトメさんに許可もらってたの。ここで応援してるから頑張って。けどケガだけには気をつけて”

 

「ありがとう」

 

そして操縦訓練を開始する。

 

――これは本当に凄い。僕がこんな凄まじい機動兵器を操縦するなんて夢にも思ってなかった。

すでに二回、いや今回ので三回ゲッターロボを操縦しているがその内の二回は急の戦闘により無理やり操縦させられたのでテンパっていて考えられなかった。

 

今、訓練として冷静に操縦してみると色々と分かる。

確かに操縦が簡単だ。早乙女さんの言うとおり操縦方法がまるで楽で、左右の操縦レバーで大体の動作が可能。

手前のコンピューターパネルでシステム起動と火器管制でそれも入力も簡単だ。

モニターは三六○度で確認でき、死角も横の球体型の3Dレーダーで補える。

そしてエネルギー残量や各機関、部位の破損状況、そして通信モニター全てが前面、側面モニターが表示してくれてしかも非常に見やすい。

そして左右の操縦レバー横についた赤ボタンを押すと左右の各武装であるドリルが時計回りに高速回転し、ペンチ型アームがガチガチ挟む。

 

最初は戸惑うかもしれないが、慣れてさえすればまるで自分の手足のように扱える。

あのメカザウルスをも一蹴できる機体がこんなに楽な操縦だなんて……これを動かす者によっては正義の味方になることや、逆に悪魔になることさえ可能である。

そう考えると怖くなって僕の身体は身震いするのだった――。

 

“竜斗、足元のペダルを踏め。この機体を『走らせる』”

 

「走らせる……?」

言われた通りにペダルを踏むと、ゲッターロボの足の底からキャタピラーのような車輪と、踵からジェットブースターと思われる推進機関がせり出し車輪が凄まじく回転、ジェットブースターが点火した。まるでスホーツカーが最大速度で地上を走るかの如く、凄まじい速度で急発進した。

 

「うわあっっ!!」

あまりの唐突な発進にゲッターはバランスを崩して叩きつけられるように地面に転がりこんだ――。

その様子を監視室から見ていたそれぞれ三人の反応は様々であった。

 

「だ、大丈夫リュウトっ!?」

 

「し、司令。なんの説明もなしに『ターボホイール・ユニット』の使用はヒドすぎませんか……?」

 

「フフ、自転車の練習と同じで転んで転んで身体で覚えるもんだ、心配いらない」

 

――そして竜斗は天井に頭をぶつけてピクピクしていたのであった――。

 

「……ヒドいよこんなの……っ」

 

……この後、約二時間はこの機体で操縦し、これで今日のゲッターの操縦訓練は終わった。

竜斗に異常がないか、マリアの手で医務室で精密検査を受けることになった。

彼は検査を受けている最中、こう考えていた。――どうやら自分には空戦型の方が合っているような気がした。大空を飛べるし、なによりも操縦の感覚がもう慣れているからというのが一番の理由だった――。

 

 

精密検査が終わり、特に異常なしだと診断されて今日はもう終わりだと言われ安心する。だが予習等はしておくようにと、早乙女から追撃の言葉を言われ落ち込む。

 

部屋に戻り、夕食まで時間があったのでシャワーを浴びて、着替えてベッドで休憩していた。

 

その時、入口ドアをノックする音が聞こえて竜斗はすぐに向かう。ドアを開けるが誰もいない。

 

「……?」

 

不思議に思った彼は、ドアから足を踏み出たその瞬間。

 

「――――っっ!?」

 

凄まじいほどの寒気と同時に右腕を何者かにこれでもかというくらいに掴まれたのだ。

 

「やあっとつかまえた♪リュウトちゃん……」

 

「水樹っっっ!!!?」

 

彼は戦慄し身体中に冷や汗が大量に流れ出た。そこにいたのはまるで悪魔のようなドス黒い笑みを浮かべたあの愛美だった――。

 

「ウフフ、逃げよったってムダよ。裏切り者はどうなるか……わかってるわよねえ、イシカワァ♪」

「~~~~~~!! 」

今まで、学校内でも見たことのない恐ろしい顔をした彼女に圧倒されてなすがままに連行されていく竜斗。

そして、近くの倉庫内に無理やり連れていかれた竜斗。

愛美は入口に鍵をかけて、立ちふさがるように彼の逃げ道をなくした。

 

「さあて、どんな処罰がいいのかな?」

 

掃除用具用ロッカーからブラシを取り出して、両手で持ち掲げ、殴りかかる体勢となる。すると竜斗は、

 

「……やりたいんなら好きにしろよ……っ」

 

「え…………っ?」

「……もう逃げるのはイヤだ。こんなことじゃあメカザウルスの奴らにも立ち向かえない……俺はもう逃げない、来るなら来いよっ!」

なんと竜斗が自ら愛美に反抗の意思を見せたのだ。

そして彼女も初めて支配していた人間に初めて噛みつかれたような思いに激怒した。

 

「そう……ならアンタを徹底的に痛みつけてやるわ、覚悟しろオ――っ!!」

 

……ちょうど、倉庫前に通りかかったエミリア。

 

(…………?なんか変な音聞こえるけど……)

 

倉庫の中から叫ぶような声と叩く音が聞こえてドアに耳を済ますと、それが愛美だと分かった。彼女が怒号を張り上げているようだが、次第に何に対して怒っているのかが分かった――。

 

(……まさか、リュウト!?)

 

彼女は急いでドアを開けようとするが、中から鍵を掛けられていて開かない。すると彼女は後ろへ下がり、足に踏ん張りを入れると渾身の力で突撃し、ドアへ飛び蹴りをかます。彼女の馬鹿力か、鍵が壊れてついにドアが開いた。

そしてエミリアが中で見たのはうずくまる身体中傷だらけの竜斗へ、足蹴にしながらブラシをぐりぐり押し付ける愛美の姿が。

 

「いやああっ!!!」

 

エミリアは我を忘れて、とっさに愛美を突き飛ばし、彼を抱きかかえる。

 

「しっかりしてリュウトっ!」

 

すると愛美の先ほど左手に持っていたスマートフォンがエミリアのそばに落ちている。

ふとそこに視線を通した時――そこで彼女の目がぐっと広がった。

 

「な……なによこれぇ……っ!?」

 

彼女はそれを手に取り、画面を見ながら大地震を受けているかのように激しく身震いした。

ついに見られてしまった、愛美による竜斗があの『リンチ』されている最中のあの画像を。

自分でさえ知らなかった、竜斗がこんな惨い目に遭っていたという決定的瞬間を捉えた画像。

彼女にこれ以上ない怒りが混みあがりヒステリックになったかのごとく、奇声を上げながらスマートフォンをその場に叩きつけて破壊、何度も何度も踏み潰した。

そして頭をぶつけながらもゆっくり起き上がる愛美も、自分のスマートフォンを憎き相手によって破壊される瞬間を目撃、頭の何かがキレた。

二人はこの倉庫を壊しかねないほどの派手な大喧嘩を始めた。

お互い金切り声を上げて取っ組み合い、ビンタ、殴り合い、髪の毛を引っ張り合い、倉庫にある物全てを投げ合いほうきやブラシで殴り合う。彼を無視して。

“一佐!!”

 

司令室でマリアと会話していた早乙女に乗組員から突然の通信が。

 

「どうした?」

 

 

“雑用倉庫内であの子達が!!”

 

 

事情を聞いた二人はすぐにあの倉庫に駆けつけると、何かわめく声とたくさんの人だかりが。

掻き分けて入ると、中ではエミリアと愛美による二人の女の修羅場が繰り広げられていた。

とりあえず乗組員達に取り押さえられているも、その血と傷、アザだらけの二人を見ると類を見ない取っ組み合いの大喧嘩をしたようである。そしてその横で同じく傷だらけで怯える竜斗の姿が。

 

「放しなさいヨオ!!このビチグソガイジン、今日こそぶちコロしてやるぅーー!!!」

 

「やれるもんならやってみろよォーーこのマ〇カスファ〇クビ〇チがァーーーーっっ!!」

 

女性とは思えない下品な罵言を吐きまくる二人。

 

「ふ、二人ともやめてっ、落ちつきなさい!!」

 

マリアは血の気を引きながら二人の仲介に入るが、しかし一向に止まる気配はなかった。それに対してマリアがついに、

「オマエラ大人しくしろつってんのがわかんねえのかゴラァ!!!」

 

「「ぴいっっ!!?」」

 

魔王の如く怒りを見せるマリアの前には二人も一気に消沈した。

 

「マリア!!」

 

「あっ……ごめんなさい……っ」

 

早乙女の一喝によって普段のような冷静沈着の表情に戻る彼女。これで彼女を怒らせてはダメだと悟るエミリア達。

 

「……とにかく三人とも酷い傷じゃないの……はやく医務室へ」

 

……医務室で治療を受ける竜斗達。

竜斗は自衛隊内の男性医務官に、エミリアと愛美の二人はマリアに、そしてその二人についてはまた険悪になることを避けて別々に治療を施された。

そして後からこの三人に何があったか面談すると……マリアも気分がすごぶる悪くなっていた。

だが早乙女は……いつもの如く平然といて無言であった――。

 

「…………」

 

その夜、自室のベッドで安静にするエミリアは真天井を見ながらとある決心がついた、それは――。

(アタシ……リュウトと同じゲッターパイロットになる。そしてもうリュウトばかり苦しめない――)

 




四話終わりです

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