ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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◆ゲッターチーム結成編
第一話「その名は『ゲッターロボ』」①


――僕は出会った。あのおとぎ話に登場する鬼のような姿をした、強大な力を持つ機械仕掛けの巨人『ゲッターロボ』に。

僕の日常が一変した。

あの時、死んだ方が楽になれたのかもしれない。ゲッターロボとの出会いは……まさに後の僕らにとって生き地獄になりうるモノだった――。

 

 

「竜斗、来るぞっ」

 

先ほど出会った謎の男に指示されながら、コンピューターにシンジケーターに囲まれたこの中で少年は席に座り込み、苦情の表情を浮かべながら操縦桿を握り締めている。

 

(い、一体なんだってんだ……何で俺がこんな『ゲッターロボ』とかいうワケの分からないモノを操縦しなきゃいけないんだ……?)

 

目前のモニターに映るは太古の世界にタイムスリップしたかのような翼を持つ爬虫類、この時代にいるはずもない恐竜が現実に、そして目前にいる事実に彼は頭が混乱し、彼はそう分かるはずもないことを自分に問いただす。だがよく考えればあの時からだ――。

 

「エミリア早く!!」

 

サイレンが鳴り響き、あちこちに火災が発生、煙と粉塵、そして逃げ惑う人びとが溢れる街、そこから離れた路地裏を少年と少女の二人が必死で駆けていた。年はどちらも十代後半辺りの精気溢れる高校生ぐらいだ。男の子は眼鏡の似合う優男、女の子は肌の白い茶髪の碧眼の外国人。

 

「C地区の地下シェルターはこの先だったわよね、リュウト!」

 

エミリアと呼ばれるこの女の子はどうみても外国人なのに日本語、そしてイントネーションが凄く流暢である。それは長く日本に住んでいることを意味していた。

 

「あれは確か……自衛隊のSMBだよね?」

 

彼らは狭い道から大通りに飛び出た時、横で見えたのは恐竜と戦うライフル、つまり突撃銃型火器を右手に携行する緑と黒の迷彩色で無骨の機械の巨人が数機、ビルと並んでいる。

あれは自衛隊が開発した日本製量産型SMB『BEET(ビート)タイプ』と呼ばれる機体である。

二人は恐竜共にこれ以上侵略させてなるものかと勇敢に立ち向かうそれに、勝利を信じて見た後再び走り出す。

しかし彼らが過ぎ去った後、BEETは一瞬の内に破壊された。

一機は恐竜の放った鋭利な爪に引き裂かれて噛み砕かれて、もう一機は恐竜の両方から突き出た銀色の砲身からのマグマ弾が直撃し、蕩けてしまった――。

 

「父さんと母さんは……無事なのかな……それにエミリアのお父さん達も」

 

「……心配ないわ、ちゃんと避難してるに決まってる。それよりもアタシ達の安全を最優先にしなくちゃ、リュウト」

 

不安を漏らす彼、竜斗に彼女は明るく返事を返すも一瞬、口ごもった彼女も心配でしょうがないのだろう。地下シェルターまであともう少しの所間で来た二人は、目の前の曲がり角に差し掛かった時、そこから誰かが飛び出す。

 

「うわあ!」

 

「キャア!」

 

立ち止まる彼らは甲高い女の子の驚く声が聞こえた。再び前を見ると、

 

「み、水樹!」

 

彼の顔が一気に引きつる。

そこにいたのは自分が知る高校の同年代の、そして同級生の女の子、水樹愛美(みずきまなみ)だった。

「なんだ石川じゃない。それに……アンタも」

 

会って損をしたかのような声で話す彼女。相変わらずの派手に盛ったメイク、ヘアスタイル……彼女は所謂ギャルであった。

 

「……地下シェルターならアタシらも向かってるから一緒に!」

 

「マナは今、パパとママを探してるの。来る途中はぐれちゃったから」

 

「探してるって!?今そんなことするのはあまりにも危険よ、それよりもシェルターに!」

 

「うるさい、黙れガイジン女っ!」

 

「なんですってえ……っ!」

 

エミリアの顔から怒の表情が。竜斗はこれでは学校の時のような醜く苛烈な取っ組み合いが始まると思い、

 

 

「ふ……二人とも!奴らが暴れてるこんな時にそんなことしてる場合じゃないだろ!」

彼の声に一線を越えずに済む二人には嫌な空気が。

 

「フン、考えたらマナはアンタらに付き合ってる暇はないの。早くパパとママを探さなきゃ」

 

「み、水樹!」

 

愛美はそう言い捨て、二人から走り去っていった。

去っていく彼女の背を見ながらエミリアはため息をついた。

「ホント、自分勝手なんだから、あのコは。大丈夫かしら……っ」

 

「……」

 

しかしこのままぼーっとしているワケにはいかず、二人は直ぐそこまで迫った避難シェルターの場所へ走り出した。

そしてシェルターが見えたその時である。入り口の後ろには、有名の恐竜、ティラノザウルスに類似したあの怪獣が待ち構えて自分達を逃がしはしまいと言わんばかりに豪快に入り口を踏みつぶしたのであった。

二人はその絶望的な光景にその場で凍りついた。

そして潰した後から、恐竜は口をくわっと開けて中から真っ赤なドロドロの超高温の液体、マグマをボタボタ垂れ流しだしそれがなんと、シェルター内へ溶かしながら染み込んでいくではないか……。

 

「なんて……こと……っ」

 

あそこには避難した人々が大勢いるはずだ。これではあの真っ赤に溶けたマグマによって焼き殺されて、溶かされるのは確実である、断末魔が聞こえないのは唯一の救いか。

だが二人はそこから凍りついたように一歩も動けなかった。怒りや悲しみより込み上がるは絶望。もし愛美に会わずにそのままシェルターに駆け込んでいたとしたら……命拾いをしたのかもしれないが、今度は目の前の自分達の番ではないかと……逃げようにも足が動かなかった。

 

「こっちだ!」

 

突如、背後で男性の低い声が。

我にかえる二人は振り向くと一人の男性が手招きをしていた。

 

「早く来い!見つかると殺されるぞ!」

 

二人は言われるままにその男性の元へ向かった。

 

「よし、死にたくなければ私についてこい」

 

「ちょっ!」

 

三人は迷路のようないりくんだ路地を駆け抜けていく。

 

「ア、アナタは一体……」

 

「私は早乙女というものだ。偶然君達を見つけてな、危なかったな」

 

知的でどこかミステリアスな雰囲気を持つ中年程の男性は早乙女と名乗る。

 

「無事に逃げられるのかな……」

 

「ちゃんとついてこい。そうすれば助かる」

 

二人はこんな危険が迫る時にも表情一つも変えない、つまり能面顔の早乙女に一瞬恐怖を感じたが、それでも助かるのならと、この男を信じた。

早乙女は走りながら着込んでいた黒スーツの胸ポケットから携帯電話のような物を取り出す。通信機のようだ。

 

「マリア、今から『アレ』の搬入を開始する。ベルクラスをここまで持って来てくれ」

 

“了解。それですが早乙女司令。恐竜帝国の『メカザウルス』がそれのある海岸地区へ向かっているのを確認しました”

 

「なに?」

 

通信機越しから物腰柔らかい女性の声が。話が終わり通信機を切り、ポケットに戻す。

 

「今から海岸地区に向かう。少し距離があるがはぐれるなよ」

 

「は、はい!」

 

……彼らが向かった先は郊外の海に接した海岸地区。軍倉庫、貨物船コンテナなどが置かれている場所である。

被害が少ない道を進んで辿り着くも、当然息が乱れる竜斗とエミリア、だが早乙女は全く平然としている。なんて体力の持ち主なんだ。

 

「こっちだ」

 

早乙女は手招きし、二人を誘導する。

辿り着いたのはとあるビルのような巨大な倉庫。

早乙女は入り口のシャッター付近にあるカードリーダーに向かうと、どこから出したのか銀色のカードをスライドさせた。するとシャッターが自動的に上へ開いていく。すぐさま三人は中に入る。真っ暗やみで何も見えないが、早乙女はすぐに内部の照明をつけた――。

「うわあ、これは……!?」

 

二人、特に竜斗は思わず驚愕の声を上げる。目の前にはなんと日本のおとぎ話に登場する赤鬼に似た、紅と白のカラーで施された機械の大巨人が直立不動で立ち構えていた。

こんな日本の、古風なデザインなのに右手には遥か未来の産物である漆黒で長い突撃小銃(ライフル)。

そう、先ほどのBEETが携行していたものと同じだ。

 

「これって……もしかしてSMB……?」

 

「ああ、国家機密で開発されたモノだが、どの道公にさらすのだから隠す必要などない。

対恐竜帝国用戦力として、そして新たなる希望として開発された今までの機体とは全く違う性能を持つ」

 

「全く違う……?」

 

「型式番号『SMB―GR01S』。ゲッター線という新世代エネルギーで稼働する最新鋭SMB。名付けて……『ゲッターロボ』だ」

 

「ゲッタァ……」

 

 

「ロボっ……」

 

――僕はこの時、寒気を感じた。この『ゲッターロボ』という巨大なロボットに。

ゲッター線という今まで聞いたことのない新たなエネルギー源を糧とする傀儡に――思えば危険な何かを感じ取っていたのかもしれない――。

 

「そう言えば君達の名を聞いてなかったな」

 

「はあ……ぼ、僕は石川竜斗(いしかわりゅうと)です……っ」

 

「ワタシはエミリア=シュナイダーです」

 

早乙女は彼女に注目した。

 

「君、外国人なのに日本語が完ぺきだな。日本語学校にでも行ってたのか?」

 

「いえ、ワタシの両親はドイツ人とアメリカ人のハーフなんですが、大の親日家で仕事もあって小学校に上がる前にここに越してきたんです。

なのでワタシにとって日本は母国のようなモノです」

 

「そうか、それは頼もしいものだ。よし話はそれくらいにして今からあれに乗り込むぞ」

 

流すように話す彼に竜斗達は目が点になる。

 

「え、乗り込むってあれにですか……?」

 

「そうだ」

 

「イヤイヤ、なんでアタシ達があれに乗らないといけないんですか!」

 

「言わなかったか、死にたくなければついてこいと。あんな脆いシェルターに逃げ込むよりよっぽど安全だ」

 

「…………」

 

……確かにそうだが、こんな平凡な生活をしていた自分達がいきなりゲッターロボという軍用SMBに乗るのは非現実的である。

それに国家機密などといっていたが、そんな大変な代物に一般人の自分達が乗り込んでもいいのだろうか、と。

 

「今から頭部にあるコックピットに向かう、こい」

 

三人は機体の足元にある四角い金網のカゴに乗り込み、早乙女が吊り下げられた赤い丸ボタンを押すとエレベーターのように真上へ上昇していく。

 

「なんで早乙女さんが?ちゃんとしたパイロットはいないですか?」

 

「いない。理由は後でいくらでも教えてやる、今はそんなことより早くゲッターロボに乗り込むぞ!」

 

おいおい本当にこれに乗り込んで大丈夫なのか……二人の不安は一層強くなる。

 

地上から約二十メートル程の口に位置する部分に辿り着くとそこでようやく停止。見るとすでにハッチが開かれており、操縦席則ちコックピットが丸見えであった。

 

「コックピットに乗り込むが、間違っても落ちるなよ」

 

下を見ないように二人は先に飛び乗った早乙女に続いてコックピット内へ飛び乗る。

操縦席に座るのは早乙女、竜斗とエミリアは席の後ろで左右に立ち、シートに掴まるように身を固定した。

 

「君らに言っとく。今からあの恐竜共がこちらへ向かって来ているのだが、これで阻止するぞ」

 

「え……ええっッ!!?」

 

「戦うんですか!! ?」

 

当然、仰天する二人であった。

 

「ゲッターロボはこれだけではないのだ。他に二機が存在し、それらが同じ地区、同じような建物内でこいつと同様に置いてある。その二機をなんとしてでも死守しなければならない。先日ロールアウトしたばかりで、今日受領するつもりだったが、運悪くな」

 

ゲッターロボがまだ二機存在する……。これでも驚きだが、二人はそれ以上の疑問を抱いていた。それは。

「……早乙女さんはどうして、そんなにこれについて詳しいんですか?」

 

竜斗からの質問に彼の返答は……。

 

「なぜかって?それはゲッターロボの開発主任はこの私だからだ」

 

「え……っ、早乙女さんが……」

 

「それよりも今すぐ発進する。君達にもまだとない経験をさせてやる、ゲッターロボの初飛行をな」

 

早乙女は素早い手動作でコックピット内のコンピューターを起動し、瞬間ライトアップ、ハッチも自動的に閉まる。

 

【各システム、OS、チェック……異常なし。

プラズマ反応炉、ゲッター炉心オールグリーン。ゲッターウイングを直ちに展開します】

 

通信機から流れていた女性に似た音声ガイダンスが流れると同時に建物の真天井が左右に開門、夕焼けた摩天楼の空が見えた。

 

「気を引き締めてしっかりシートに身を寄せて掴まってろ!飛ぶぞ!」

 

ゲッターの背中に折り畳まれたまるで紅い羽が左右に鋭く展開、そして繋がれていたチューブとワイヤーが次々と引き離れた時。

 

 

「『空戦型ゲッターロボ』、発進!!」

 

 

左右の操縦レバーを握りしめ、足元の右ペダルを押し込んだ時、ゲッターロボは一瞬で真上へ、建物から勢いよく飛び出した。

 

――そしてこちらへ建物を次々に破壊しながら向かっていた恐竜数体もその遥か上空へ飛翔したその物体を見逃すことなく捉えていたのだった。

 

――それはゲッターロボ。早乙女が開発した人類の希望となり得る新たな力である――

 




沢山書きためてあるのでゆっくりと投稿していきます。

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