~男女あべこべな艦これに提督が着任しました~   作:イソン

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ギリギリ間に合った……。

いつもお読みいただきありがとうございます。

今回は書いててとても楽しかったお風呂回前編。

会話が多くなってしまってますがご了承ください。


第八話 あべこべ艦これ~お風呂(上)~

 「部屋の風呂が壊れてしまったみたいなんだが、なんとかできないだろうか?」

 

 「へっ? お、お風呂!? んむぐっ!」

 

 その第一声に軽巡洋艦夕張は困惑した。何故私なのか、そして何故他の艦娘たちが揃っている食堂で話を持ち出してきたのか。

 

 今は昼時だ。出撃や遠征に出ているものを除けば、演習もなく少しの時間ではあるが各々食事をしに食堂へと集まる時間帯。夕張も例に漏れず、予備兵装のチェックを終え、人気商品である間宮のアイス券を片手に食堂に来ていた。

 

 大好物の蕎麦をトレーに載せ、これを食べ終わったらアイスを取りにいこうと意気揚々とテーブルまで座ったまではよかった。全てのテーブルに置いてある七味を蕎麦にふりかけ、さぁいざ食わんと箸を割った瞬間、提督が食堂に入ってきたのを覚えている。

 

 「いや、なに。今日の朝、シャワーを浴びようと思ったらな。水がまったくでないもので、どうしたものかと困っているんだ。浴槽のほうも水がでないせいで汗を流すこともできない」

 

 その言葉に震える指を落ち着かせながら夕張は箸を置く。周りからの視線が痛い、長門の言葉に反応したのか辺りがざわめき立つ。

 

 

 「水浴び……さすがに気分が高揚します」

 

 「あぁっ! 加賀さんが一気にキラキラしてる!」

 

 「ね、ねぇ曙ちゃん。な、なんだかすごいお話してるね」

 

 「は、はぁ!? そ、そんな大した話でもないわよ。あんなくく、クソ提督の話なんて!」

 

 「そう言う割にはさっきから提督を見てるけど?」

 

 「提督の水に濡れた姿、映えるんだろうね……」

 

 「時雨さん、雪風はしれぇとお風呂に入ってみたいです!」

 

 「ちょ、ちょっと、何言ってるんだい雪風」

 

 

 言わんこっちゃない、邪な空気が広がり始めるのを見て夕張は自然とため息をつく。それを見ていたのか、提督が申し訳なさそうにこちらを見ていた。

 

 「すまない、夕張。先ほど明石にお願いしたんだが、どうやら仕入れの準備が忙しいとかで手がつけられないそうなんだ」

 

 「は、はぁそうですか。しかし、私も本業じゃないので修理ができるかどうかは怪しいですよ? というか、誰から私ができるって聞いたんです?」

 

 「む、そうか……。いや、赤城と一緒に食事を取っていた際に前に壊してしまったものを修理してもらったというのを聞いてだな」

 

 頭が痛い。確かに赤城さんから頼まれて壊れたものを修理したことはある。しかし修理したといっても赤城さんがつまみ食いしてしまった烈風を修理しただけで、別に日常生活等での修理はしたことがないのだ。

 

 ちらりと、空母組みが座っているテーブルを見る。そこでは淡い光の粒子に包まれ高揚状態になっている加賀ととても笑顔で間宮名物赤城山カレーを頬張っている赤城、そしてこちらを見つめている他の空母達の姿があった。

 

 その光景に得もいえぬ怒りが沸いてくる。後で提督に烈風をつまみ食いしたことを報告しよう。

 

 

 「私が修理できるのは主に艦娘達の兵装等で日常用品の修理ってしたことないんです。たぶん、見ることは可能でも修理と言われると……」

 

 「うーん、そうか。どうしたものかな……」

 

 

 当てがないのだろう、夕張の向かいに座った長門は眉間に皺を寄せて落ち込んでいた。それを見て悩んでいる姿もなかなかに乙なものだと夕張は思う。なんというのだろうか、自分を頼ってきた男性が力を貸してもらえず落ち込んでいるその姿は雨の日に道端に捨てられ、丁度通りかかった夕張を見上げる子犬のような――。

 

 (いけないいけない!)

 

 何を考えているのだろうか、自分は。提督を、それも男性に対し邪な考えを持つなんて……。

 

 このまま提督と一緒にいるとだめになる。そう思った夕張は味を楽しむのをやめ急いで蕎麦を食べると、食器を下げようと立ち上がった。しかし、神様というものはとても残酷だ。楽しみの蕎麦をも奪い、あげくにはアイスを食べる時間まで奪っておいてさらに夕張から何かを奪おうとする。

 

 

 

 提督が夕張の手を掴んでいた。それも両手で。

 

 一瞬思考が停止し、そして動き出す。この提督は何をしているのだろう? 何故、男性からわざわざ女性の手を握っている? いや、それよりもまず何故手を握って――。

 

 

 「すまん、夕張。なんでもするから、見るだけでもいいので見てくれないか?」

 

 「え、今なんでもするって言いましたね?」

 

 

 前言撤回。夕張は目にも止まらぬ速さで座りなおし、提督の手を覆うように握り返す。それを見た他の艦娘達から殺気を向けられるが気にして入られない。軽巡洋艦夕張、ここが人生の正念場だ。

 

 突然手を握り返したのに驚いたのだろう、長門は手の甲から感じる柔らかな手にどきまぎしながら夕張の問いに答えを返す。

 

 

 「あ、あぁ。私でできることであれば」

 

 言質を取った。夕張は長門に対し笑顔を向けつつも心の中で盛大なガッツポーズをとった。これで提督からお願いされ正式にアプローチすることができる、そう思ったからだ。

 

 善は急げ、この言葉が今の夕張にはぴったりと当てはまるだろう。いまや食堂にいるほとんどの艦娘達が長門と夕張の行動一つ一つに目を走らせ、少しでも付け入る隙があれば介入しようと企んでいた。このままこの場に入れば、何かしら難癖をつけられ約束を有耶無耶にされてしまうかもしれない。そう考えた夕張は長門の手を握ったまま立ち上がると、器用に片手で自身と長門の食器をまとめると返却口へ置き入り口へと向かおうとした。

 

 しかしそうは問屋がおろさない。

 

 

 「ヘーイ夕張ぃ!軽々しく男の手を握ったまま歩くなんて、非常識にもほどがあるじゃナーイ?」

 

 「金剛お姉さま、男性保護法ってやつですね! さすがお姉さま、博識です!」

 

 「ごめんなさい夕張さん、お姉さま達が我慢できなかったみたいで……」

 

 「私の計算によれば……これは規定違反ではありませんね」

 

 夕張の行動にいち早く気付いたのだろう。鎮守府の中でも紅茶かぶれで有名な金剛を筆頭に姉妹達が揃って入り口前に立っていた。姉である金剛は軽やかな動作で夕張達の前に躍り出る。その仕草は優雅で理由を知らなければ見惚れてしまうぐらいだろう。しかし、金剛は気付いていない。周りからは滑稽なピエロのように見られている事など。

 

 「ヘイ、夕張! 何かおかしなこと考えませんでした!?」

 

 「いえ、何も考えていませんよ?それより、今から提督のお部屋でじっくりと点検しなければならないのでそこをどいていただけませんか?」

 

 「じじじじ、じっくりと点検って、ハ、ハレンチデース!」

 

 「あら、私は提督のお風呂を点検しにいくんですが? はれんちって……何を考えていたんでしょうね」

 

 「む、むうぅぅぅ!!」

 

 言葉に詰まる。目の前にいる少女は軽巡なれどその気迫はまるで戦艦、どこかにいるメロンと熊が合体した存在も霞むようだ。しかし、金剛は負けられない。提督のハートを掴むのは私なのだからと。

 

 「それでは時間も押してますので、ごきげんよう。行きましょうか、提督」

 

 「あ、あぁ」

 

 「ま、待つデ――」

 

 

 歩き出す夕張達を止めるように手を伸ばす。自分が行っていることはただの嫉妬、それも正当な権利を持っている夕張に対してだ。だけど、先ほども言ったが負けられない。こうなったら前の宴会のように提督に抱きついて――。

 

 

 「そういえば、お風呂であれば……私達艦娘が使用している大浴場を利用してもよいのでは?」

 

 

 霧島が放った身も蓋もない一言で辺りは静まり返った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーンカーンと金属同士を規則的に叩く音が木霊する。足元に置いていた工具を拾い、壁に穴を開けある物を取り付けたところで明石は片手で額の汗を拭った。よほど湿度が高いのだろう、作業をしている明石の服は湿気のせいか水分を含み動く度に服と肌を練り合わせるかのような嫌な感覚がまとわりつく。しかし、明石はご機嫌だった。取り付けられたそれを見てにんまりと笑みを零す。

 

 明石は浴場にいた。入渠場とはまた違い、艦娘達が演習や日々の生活で汚れた体を洗い流すために作られた施設。

 

 前提督が艦娘達の為に作った物で、唯一評判が良かった物だ。ただし、入るたびに提督が来る為に提督禁止という張り紙がついているが。だが、その張り紙は明石がすでに剥がしていた。どうせ必要ないだろうと確信していたからだ。

 

 「これでよしと」

 

 そう言うと、明石は散らかしていた工具を拾い集めるとお湯が張った浴場から汲み取って証拠が残らないように床を洗い流した。もしばれてしまえば軍法ものだ、用心に越したことはない。

 

 服を脱ぎながら浴場を出る。そして脱衣場に設置されている複数ある籠の一つに服を無造作に投げ捨てると、籠の横に置いていた小型の機械を手に取った。そしてそれを耳にはめる。

 

 「あーあー、青葉さん。聞こえますか?」

 

 「ワレアオバ! はっきり聞こえてますよー。感度も良好、そしてあれもしっかり見えてます!」

 

 「本当ですか!? いやー、それはよかったです。高かったんですよー、あれ」

 

 「まったくですよー。わざわざ用意するの、骨が折れたんですからね」

 

 「そこは感謝してますよ。さて、設置も終わったことですしそちらに向かいます。提督の様子はどうですか?」

 

 「そこも問題ないです! どうやらここの浴場を使えばいいことに気がついたみたいですし。たぶんこっちを使用すると思いますよ」

 

 その言葉を聞いて明石は拳をぐっと握る。計画は順調に進んでいる、後は提督が浴場へ来るだけだ。

 

 「しかし、明石さんも悪ですねぇ。わざわざ提督のお風呂を壊すなんて」

 

 「それは言わないお約束です」

 

 そう言うと明石は人がいたという証拠を消しつつ脱衣場を出た。青葉から言われた言葉に罪悪感とそれ以上の好奇心を胸に秘めながら。

 

 (これは必要なことなんです。むふふふふ)

 

 つまりは、そういうこと。突然長門の部屋にあった浴室が使えなくなったのも、わざわざ高い機器を用意して青葉に協力をお願いしたのも。そして霧島さんにもお願いし、浴場へ誘導するようお願いしたのも。全てはこの日のために明石が仕組んだことだった。

 

 足取りが軽くなる。この計画に支障はないと明石は確信している。証拠も残していない、機器方面についても何度もダミー住所を経由してここまで持ってきた。協力者には優先的に提督の風呂姿を撮った写真を渡すよう言っている。

 

 

 「さぁ、楽しくなってきたぞー!」

 

 明るい未来を想像し、明石はその場を後にした。

 

 

 

 

 

 




というわけでお風呂回前編でした。

艦娘達がアップを始めている模様、戦争が起こる……!

以下。

・時雨と雪風
意外な組み合わせ、史実では呉の雪風・佐世保の時雨と謳われた幸運艦だったらしいので。

・夕張はそば好き
理由は夕張に乗っていた方がそばが好きな事から。こういった資料を探すと色々な発見があって面白い。
~追加~
乗っていた人ではなく設計者の方でした。申し訳ございません……。



・なんでもするから
今なんでもするって言った?

・メロンと熊
略してメロン熊。


評価等いつもありがとうございます。酷評含め、全てを糧にして努力していきますのでこれからも宜しくお願いします。

後、第一話をかなり手直ししました。後半は一緒ですが、前半は別物です。よければ見ていってください。

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