ようやくお風呂編完結です。上・中・下の使い方がおかしいのは気にしない方向で。
白と黒の線が無数に点滅を繰り返し、砂嵐のように画面を塗りつぶす。
鎮守府のとある一角、艦娘達の中でも知る者は少ない――小さな部屋は無数に並ぶ素人では扱えない精密な機械、そして机の上に設置された小さなテレビからの光しか無く、暗闇になれるか目を凝らせねばその小さな部屋に二人の艦娘がいるのに気付かないだろう。
「あ、あ……」
「そ、そんな……」
震える手で耳に着けていた小型イヤホンを取る。目の前で彼女たちの苦労をあざ笑うかのように点滅を繰り返すテレビからは、映像が消える直前に戦艦陸奥が艤装から放った一撃と小型カメラに向かって鼻血を流しながら激突した瞬間の長門の姿が写っていた。
「なんで……ピンポイントにカメラに向かって来るんですかあああ!!」
青葉は髪をかきむしった。そして涙する。今回の為に用意した小型カメラ、そして全指向性でありながら妖精さん達の未知の技術を使用したことにより単一指向性に切り替えることもできるマイクは青葉と明石、両方の今まで貯めていた数少ない給金を叩いて用意した物。
一朝一夕で用意できるものではないのだ。
「もう少しだったのに……!」
そして明石もこれからが本番だったのにと歯軋りする。提督の生、それを移すことに成功した両者はこれから忙しくなると鼻血を流しながら一箱あったティッシュを全部使い切り、二箱目に突入しながらこれからに向けて話し合っていたところだった。
艦娘達に対して販売する提督グッズ、まずはそこからだ。初心者向けには提督の服を着た状態の写真集。次のステップからは少し露出度を高めた物や抱き枕、そして提督が使用したペン、上級者向けにはさらにその上を行く物を用意する予定。
そして、会員となり年の使用金額に応じて今回のお風呂シーンなどを入れた『青葉は見た!』シリーズを提供する算段だった。
なのに、先ほどまで考えていたものすべてが陸奥によって海の藻屑となった。さすが運が低いと言ったところか、自身だけではなく周囲にまで被害を及ぼすとは。
「だけど、まだ手はあります」
そう、まだ手はある。そう言って明石は先ほど機械から取り出した一つのディスクをアタッシュケースに入れた。
「これさえあれば……何度でも蘇る!」
途中までではあるが提督のあられもない姿を映したデータ。これさえあれば元手にして今回のマイナスを一気に取り返せる。
「ふふふふふふふふふ……」
さすがに気分が高揚する。隣で落ち込んでいる青葉は元より男というものに興味がある。今後も引き込むのは容易いだろう、後は状況に合わせ地盤を固めていけばいい。そう思い、明石は笑いながら次なるビジョンを思い浮かべた。
だからだろう、小部屋の扉がゆっくりと開いたのに気付かなかったのは。
「裏でこそこそ何をやっているのかと思えば……青葉さん、明石さん、覚悟はよろしいですね?」
眼鏡が輝き、二人を照らす。そのフレームに写る青葉と明石の姿は部屋に入ってきた女性を見て信号のように瞬時に青へと変わった。
その日、鎮守府の入渠施設にて重巡一隻と工作艦一隻が運び込まれたとか。
震えていた身体を持ってきた布で覆う。男性の身体を間近に見て、少し頬を赤らめながらも慣れた手つきで陸奥は提督に手を差し伸べる。少し恐怖を浮かべながらもこちらが何もしないとわかったのか、おずおずと手を掴んだ。
「大変なめにあったわね……」
「す、すまない。まさか長門があのような性格だとは」
「いや、あれはちょっと特殊かも。ごめんなさいね、うちの姉が」
「は、ははは。君が常識的な女性で助かったよ。長門が姉ということは、妹艦の陸奥か?」
その言葉に陸奥は提督に対しての認識を改めた。どうやら甘やかされてきた男性ではないようだと。
笑みがこぼれる。いつぶりだろうか、陸奥の記憶の中にある本物の男性に会うのは。
「ええそうよ。私の名は陸奥、長門型戦艦二番艦の陸奥よ。よろしくね。あまり火遊びはしないでね……お願いよ?」
屈み、こちらに向けて自身を強調するように胸を大きく揺らし手を口元に持っていく。艶やかなその唇は見ているだけで吸い込まれそうな妖しい輝きを放ち、そこから発せられる言葉に正海は今まで会った艦娘達とは違う雰囲気に心臓が高鳴っていくのがわかる。
その様子を見た陸奥は目の前にいる男性はやはり本物だと心の中で微笑む。
普通なら恐怖を浮かべてもおかしくないこの状況、なのにこちらを見ているその顔は赤く、初心なのだとわかる。
「とりあえずだけど……服着たらどうかしら? 私は長門を回収しておくから」
ちらりと、正海の身体を盗み見ながら陸奥は言う。
「へっ、あっ、す、すまないっ!」
脱兎のごとく。裸を見られた事や裸を見てしまった状況、よほど正海の頭は限界に達していたのだろう。受け取った布で下を隠しながら、脱衣場で榛名が用意してくれたのだろう服を着ると、一目散にその場を後にした。
その後姿に引き締まってるわねと思いつつ、陸奥は一つため息を吐くと、浴場でのびている長門を抱える。
鼻血を流しながらも、何かを成し遂げたように右手を伸ばしたまま気絶しているその姿を見た陸奥は苦笑いした。
「まったく、無茶しちゃって……」
これから苦労するわね、と陸奥は長門を抱えながら浴場を後にする。
無残にも破壊され漏水した浴場を見て、後から入る川内や隼鷹達が悲鳴を上げることなど気付かずに。
「えぇ、はい。わかりました。……大丈夫です、問題はありません。障害は排除しました」
『そう、なら後はあなたに一任するよ。問題ないね?』
「はい、問題ありません。ご期待には必ず」
『ありがとう、期待してるよ大淀。後、うちの息子が元気かどうか必ず写真を送ってね』
「わ、わかりました」
『それじゃ……』
プツンと、無線特有の嫌に響く音と共に大淀は額に出てきた汗を拭った。無線機の電源を落とし、椅子に座る。
「少し話しただけでも疲れます……」
とある人よりかかってきた無線、鎮守府に蔓延る悪を殲滅した大淀宛てにきたのは本部の中でもかなり上の人種。震える手を押さえながらも無線に答えた大淀を待っていたのはこれからこの鎮守府に対し本部が行うイベントの通達であった。
これは忙しくなる。そう思っていると、一人の妖精さんがやってきて大淀の膝にちょこんと座る。そして、何かを訴えかけるように手振り身振りでこちらに身体を向けていた。
その動きにいつ見ても可愛いなと思いつつも、その動きが先ほど無線で話していた内容の詳細だと気付く。どうやら、上はこのイベントを確実なものとするために証拠となる媒体を用いず、妖精さんという存在で伝える算段のようだ。
「ふむ、ふむ……なるほど。……えぇ!? そ、そんなこと。いや、でも……えと、完全勝利した提督ゆーしー? なんですそれ?」
妖精さんが伝えるジェスチャーの中に幾つか聞き慣れない単語があるのに不思議に思いつつも内容を覚えていく。そして、妖精さんの動きが止まると同時に大淀は自身の頭に焼き付ける。
息も絶え絶えになった妖精さんは大淀が無事こちらの暗号を受け取ったとわかると何かをせがむように裾を引っ張った。その動きに丁度記憶し終えた大淀は少し考え、腰を上げると机の引き出しに入れてあったチョコレートを取り出した。休憩中にでも食べようと思っていた甘味だ。
「お勤めご苦労様です。ほら、これをどうぞ」
パキンと、小気味よい音と共に板チョコを割り一部を妖精さんに渡す。すると疲れていた様子の妖精さんの目がまたたくまにきらきらと輝き急いでチョコレートを受け取って頬張り始めた。その姿に微笑みながら、大淀はポケットに入れていたハンカチを取り出しチョコレートで口の周りを汚した妖精さんを拭く。
満足したのだろう、こちらに向かって敬礼をしつつ残りのチョコを大淀が用意したティッシュで作った袋に詰め部屋を後にした。
再度、静かになった部屋で大淀は先ほどの妖精さんの伝言を頭の中で整理する。
「鎮守府の一般者公開イベント……、そして他の鎮守府との合同演習、忙しくなるわ……」
提督の受難はまだまだ終わらない。
他の方を見てると誤字脱字少ないのを見て見直しをもっとしっかりせねばと思いつつ。
ぼちぼちではありますが男の娘バージョンは別に新しく作成し違う小説として乗せますので。
基本的にはどちらともとれるよう文章を上手く書けたらいいんですけどね……。
そして、別の話にはなりますが新しく追加された3機体。エレガントさんがエレガントさんすぎてほっこり中。(勝てるとは言ってない
以下。
・完全勝利した
長門といい妖精さんといい、この世界では何かおかしい気がしないでもないけど書いてて楽しいので問題ない。
・陸奥さん
長門の次に大好き。陸奥さん可愛いよ陸奥さん。やっぱり大人の女性はこうでないとね足柄さん。
・次のお話
活動報告にてネタをいただきましたもの、イメージがぼわっと沸いてます。書くのが楽しみです。
感想等いつもありがとうございます。色々あって返信できませんでしたが今回の話投稿後より再度返信していきます。
それではまた。