ダンジョンに英霊を求めるのは間違っているだろうか 作:ごんべえ
そこはバベルの上の階、普段地下に潜ってばかりで、ベルにとって全く意識をしたことのない場所であった。
なぜそこにベルがいるのか、それは彼女に会うためである。
「ベル君、やっと来たね」
ギルドのベルの担当のエイナである。
「すみません、ちょっと迷っちゃって」
後ろについてきたアーチャーにエイナが気付いた。
「え~と、その方は? お仲間さんですか?」
「あ、エイナさんと会うのは初めてでしたっけ? 僕の仲間のアーチャーさんです」
そう紹介されアーチャーが軽くお辞儀した。
実際は初めてではないのだが前回は霊体化していて一般人である彼女には見えていなかったのだ。
その後はアーチャーが、ギルドに顔を出すことがなかったので、彼女にとって彼の顔を見たのは初めてということになる。
彼の姿、白髪、赤いコートをみてエイナが気付いた。
「もしかして、前にベル君を助けていただいた冒険者さんですか?」
ベルも前にアーチャーのことをエイナに質問したことを思い出した
「そうなんです、いろいろあって今うちのファミリアにいてもらってるんです」
面倒なことになるので、深く追及されてしまうにベルは答えた。
「そうですか、それはありがとうございます。
彼ったら駆け出しなのに無茶ばかりするので、
ギルドのほうとしても今後ともお願いします」
丁寧にアーチャーに頭を下げる
「そうかしこまらないでほしい、ベルを助けるのは当たり前なのだから
それより今日はベルに用があって呼び出したのではなかったかな?
もし、お邪魔であるなら退散させてもらうが」
「そうでした、すみません。
じゃぁ、ベル君、防具を買いに行こう。
よかったらアーチャーさんもご一緒に」
エイナに導かれるように二人は歩き始めた。
目の前にヘファイストスのお店が見えてきた。
ベルがショーウィンドーに飾られている武器を見た、素人目に見ても素晴らしい武器だが値札を見ると、
「3000万ヴァリス!!!!」
ベルには到底手が出ない金額、といっても腰にある武器はその6倍以上はあるのだが、目の前の数字に押され忘れていた。
「いらっしゃいませ、今日はどのようなご用でしょうか、お客様」
店の中から見知った女性、ヘスティアが最高の営業スマイルで出てきた。
「ってベル君? こんなところに何の用だい?」
となりにいるエイナに気付き、ベルに抱き付き、
「何だい君は? ベル君まさかデートじゃないだろうね」
威嚇気味にエイナに食って掛かった。
「初めまして、神ヘスティア、私、ギルドでベル君の担当をしています、エイナです。
今日は彼の防具を買いに来たのですが」
ご丁寧にあいさつされ、ヘスティアもまたお辞儀を返す。
「エイナ、防具を買うというがここの商品はベルには高すぎると思うのが」
アーチャーがショーウィンドーの商品をいろいろと値踏みしながら言った。
「ここは目的のお店じゃないの、もうちょっと上の階なんです」
ヘスティアに別れを告げ、またエイナに引き連れられていく。
ヘスティアのいた店よりさらに上、バベルの8階へついた。
「ここもヘファイストスのお店なんだけど、まだ無名の鍛冶師たちばかりで、だからベル君にも手が届くでしょ。
それに駆け出しの冒険者、鍛冶師同士、つながりを持てるメリットもあるしね」
下に比べてざっくばらんに置かれた商品をベルが見て回る。
確かに値段的には手の届く範囲内の物もある。
「それにね、中には掘り出し物もあるんだよ」
嬉しそうに見て回るベルを見てエイナもなぜか少し嬉しくなった。
アーチャーもまた店内を見て回っていた。
彼から見たらどれも取るに足らないようなものばかりであったが、一つだけ目を見張る防具を見つけた。
その箱に入っている防具はどれも他とは一線を画すような気配を感じた。
「おい、ベル、これなんかはどうだ」
そう声をかけられたベルはアーチャーのもとへ行き、その中から軽装を手に取った。
【ヴェルフ・クロッゾ】、そう刻印してある防具は、まるで手に吸い付くような感覚を感じ、
試しにつけてみると、自分に合わせて作られたかのようにフィットした。
「これ、いいです。こんなの見つけるなんて流石ですね、アーチャーさん」
一人はしゃぐベルのもとにエイナがやってきた。
「色々見繕ってきたんだけど、その様子だともう決めたみたいだね」
「すいません、これアーチャーさんが見つけてくれたんですけど、すごく体にフィットして」
「ベル君って本当に軽装が好きね」
うれしそうにベルが会計に行く、支払いを終えると財布には100ヴァリスしか残っていなかった。
初めての高い買い物にちょっぴりベルは後悔してしまった。
辺りを見回すとアーチャーもエイナも見当たらず、慌てて店を出ると二人はそこにいた。
「どうだった、初めての買物は?」
「ちょっと高かったですけど、いいものが買えました」
エイナに問われ嬉しそうに答えた。
「じゃぁ、これは日頃がんばっているベル君へお姉さんからプレゼント」
それはエメラルド色のプロテクターであった。
「ええ!! いらないというかこんな高そうなもの受け取れないです」
全力で拒否するが、
「女の人からのプレゼントを断るなんて失礼だぞ」
そういい受け取らされてしまった。
「ではお礼と言ったらなんだが、私の手料理をご馳走しよう」
ふいにアーチャーがエイナに提案した。
「そんないいですよ、私がしたくてしたことなので」
「今日はすごく世話になった、しかもそんなものまでをいただいてしまって、
こちらとしては何かお返しをしないと申し訳ない」
エイナはやや押し切られる形で、ヘスティアファミリアのホームでのディナーの約束をさせられた。
とりあえずディナーの時間までこの日は解散となった。
アーチャーはディナーの買い出し、エイナは一旦ギルドの職員寮に帰るということで、
ベルは一人ホームへの道を帰っていた。
路地裏から何かが駆けて来る音がした。
何事か立ち止まるり、路地をのぞき込むと同時に、小さな影が飛び出してきて、ぶつかってしまった。
「す、すいません、大丈夫ですか?」
倒れた影に手を差し伸べる、手を取り立ち上がったその影は、ヘスティアより小さかった女の子であった。
「追いついたぞ、糞パルゥム!!」
路地裏からもう一人飛び出してくる、その手には大きな剣が握られており、
とっさに腰からヘスティアナイフを抜き、少女をかばう。
「なんだ、糞ガキ、邪魔すんのか!そいつの仲間か!」
「違う!、今からこの子に何をするつもりなんですか?!」
体格差で押し切られそうになるが必死にこらえる。
「じゃあ、なんでかばってんだ?」
「…女の子だから?」
そう答えたら癪に障ったようでさらに強く押される。
「ふざけやがって!!」
完全に押し切られそうになるところで、
「止めなさい!!」
聞いたことのある声であった、ベルの背後から聞こえたその声に男は一度間合いを取る
「次から次へと、何なんだ!!」
彼女は豊穣の貴婦人の店員のリューだった。
「その方は私のかけがえのない同僚の将来の伴侶となる方だ、手を出すのは許さない」
訳の分からない発言に二人とも一瞬固まった。
「わけわかんねぇぞ…ぶっ殺されてえのか!!」
男はそう言い再び襲い掛かろうとしたが
「手荒なことはしたくありません、私はいつもやりすぎてしまう」
その言葉には言い知れない気配があった。
男はその場の不利を悟り、舌打ちをすると走って路地裏のほうへ消えていった。
「危ないところをありがとうございました」
窮地を救ってくれたリューに深々と頭を下げる。
「いえ、あなたなら何とかしていたでしょう。
それで、どうして、襲われていたのですか?」
「あ、えっと、この子が襲われていて…あれ? いない?」
ベルが背後にかばっていたはずのパルゥムの少女はいつの間にか姿を消していた。
「みんなー、ご飯の時間だよー」
「アーチャーさんって、料理が上手なんですね」
ディナーに招待されたエイナはアーチャーの料理のあまりにものおいしさに落ちそうになるほっぺを手で支えていた。
「そうなんですよ、アーチャーさんの料理って見たことのない珍しいものとかあって、でもどれもとってもおいしんです」
エイナへのお礼ということでいつもよりちょっぴり豪華な料理の数々にベルは目移りしながら言った。
「まぁ、でも僕の売っているじゃが丸君には敵わないけどね」
そういうヘスティアが一番料理を食べているとその場の全員が思った。
「さあ、どんどん食べてくれ、デザートも用意してある」
エプロンをつけたアーチャーはやや自慢げであった。
デザートまで食べ終わる頃には夜もだいぶ更けていた。
女性一人の夜道は危険なので、食べ過ぎで動けないベルの代わりに、アーチャーがエイナを寮まで送る。
「アーチャーさん、今日は本当にありがとうございました。
こんなにおいしい料理を食べたのは久しぶりでした」
「いや、こちらこそ、ベルも私もここのことは詳しくないので今日は助かった。
またベルにいろいろ教えてあげてほしい」
他愛もない会話をしているいつのまにかうちに寮の前まで付いた。
「では今日は本当にありがとうございました。
それからベル君のことよろしくお願いします。
担当した冒険者さんが帰ってこないのはすごく寂しいので…」
最後の一言を言った彼女はどこか物悲しげな顔をしていた。
「私は守護者でもある、ベルは絶対に守って見せよう」
その言葉に安心したのか笑顔を見せ寮に入って行った。
その頃ベルは夢を見ていた。
一人丘の上で立ち、周りは屍が無数に横たわっていた。
ということでヴェルフとリリとの出会いのフラグ回でした