謎の力に導かれ、魔法界へと遅れてやってきた香風智乃、条河麻耶、奈津恵――通称チマメ隊。ホグワーツ魔法魔術学校へ入学した彼女たちは好奇心に突き動かされるままに、ホグワーツの探検がてら地図を作ろうと思い至った。三人は、ホグワーツで知り合ったスリザリンの少女、アフルディーナ・グリースと共に、ホグワーツ城内の探検を開始するのであったが、どういう訳か三人ともはぐれてしまい……。
※告知事項※
・何かあれば書きます。
【第69話】
ホグワーツに潜む者たち
[052] 迷い込んだ奈津恵
(地の文: 奈津恵)
「ど、どうしよう〜……!」
マヤちゃんたちとはぐれちゃった……! おかしいな、さっきまで一緒に居たと思ってたのに〜! 気の所為だったのかなぁ?
「ここどこだろう……」
辺りを見回すと、どこもかしこもダンボールだらけ。いや、本当にダンボールなのかな? 魔法界……だったっけ? に来てから、知ってるものでも全然知らないものだったりしたことがいっぱいあるし、もしかしたらこれもダンボールの形をしているけど、全然違うものなのかも……?
「……ん。中に何か入ってる。これ……食べ物?」
中を覗いてみると、食べ物みたいなものがいっぱい入っていた。あっちのダンボールの中にも……色々入ってる。本とか、歯ブラシとか、なんだか色々ある……。
……ちょっとくらい触っても怒られない、かな? 誰も居ないんだし――
「それ、僕が貰ったものなんだ」
「っ!!? あ、あわわわ!?」
痛っ!!
こ、ころんじゃったあ!? きゅ、急に声が聞こえたからびっくりしたのかな!? うぅ、痛い。でも頭をさすってみたらたんこぶは出来ていなかったので、大したことじゃなかったみたい。あれ? たんこぶってすぐ出来るんだっけ……?
「だから勝手に取られるのは困るんだ――大丈夫かい君? 良かったね、転んだところが床で……いやマジな話。カボチャの上に倒れこむよりは何倍もマシなんだよ、たんこぶさえ出来ないなんて!」
だ、誰か居た!?
綺麗な金髪の男の人だ……多分、生徒じゃないよね? 見た目的には先生くらいの年齢、なのかな……!?
「だ、大丈夫ですっ! あ、あの、すみません〜! すぐ出て行きますから〜!」
「出て行くって、どうやって出て行くつもりなんだ?」
「うわぁっ!?」
また男の人が出て来た!? 今度は、えっと……赤毛の男の人! ジニーちゃんを思い出す髪の色だなぁ〜って思ってる場合じゃないよ!?
「え、えっと、えっと……」
「ここから出て行くには僕たちの許可が無いとダメだ。ここから出て行ってもいいと僕たちが判断するまで、悪いけど君は帰れないんだぜ」
「〜〜〜〜っ!!?」
なんで!? わ、私何もしてないんです――っていうか、どうなってるのこれ!? マヤちゃんたちとはぐれたと思ったら、よく分からない人たちに脅されてる!?
「まぁ、うん。そうなんだ。まずさ、名前と学年、あと寮を教えてくれるかな? 僕の方は……まぁ本名は教えられないんだけど。ナルメルってことでどうかな」
「えっ? えっ!?」
ど、どうかなって言われても!? えっとこの場合、ナルメルさん? は嘘の名前を言ってるから、私も嘘吐いた方がいいのかな!?
「おい、君は嘘吐くんじゃないぜ! 本当の事言ってもらわないと、僕たちは君をずっとここに置いておかなくちゃいけない――安全の為に」
「え!? え!? あ、安全……えっ!? えぇ!?」
ど、どうしよう!? もしかして私……本当に居ちゃいけないとこに、会っちゃいけない人たちと会ってるんじゃ!? つ、通報した方がいいのかな!? で、でもそんなことしたら私、ど、どうなっちゃうの!?
「……はぁ。混乱する気持ちは分からなくもないけど、少し落ち着いて。私たちはあなたに害を与えるつもりは無いわ」
「ひぃっ!? また出た!?」
今度は茶髪の女の人が出てきた~!!?
「別にあなたの名前を使ってどうこうするとか、そういうのじゃないの。ただ確認する必要があるのよ、あなたがただの生徒なのか。それとも……"彼女"と関わっている子なのか」
う、うぅ……! お、教えた方がいいのかな!? 何もしないって言ってるから、い、言った方がいいのかなぁ……!?
「……た、ただの生徒です、私――め、恵って、言います、い、一年生です! あ、あと、えっと、ハッフルパフ……」
「メグミ? ……そんな生徒、僕たち知らないぞ。そりゃ後輩を全員把握出来てるとは口が裂けても言えないけどさ、一学年下程度ならギリギリ覚えてるぜ」
「え? えっと……おじさんたち、二年生だったの? あれ? あれ? え?」
「やばっ、余計混乱させちまった」
「はぁ、あなたって本当……もう余計なこと言わないで」
「やっぱり、色々影響があったのかもね。どうなってこうなったのかは分からないけどさ」
言ってることが全然分からない……チノちゃんとかマヤちゃんならちゃんと分かるのかな~!?
「まぁ、そうね。あなたの事は取り敢えず念頭に置いておくわ。暫くは監視もするけど……」
「監視!!?」
「いや、心配しなくていいよ。僕たちは君に危害を与える訳じゃあないし」
「今後の行動にもよるけどな」
「あ、あわわわ……」
すごく大変なことになってきた~!? 監視って何!? この人たち何なの、怖いよ!!
「じゃあ、いいわ。ここから出て行っても」
「!? え、あっ、いいんだ」
「ただし」
「えっ!!? な、なんで杖……」
「最初からこうするつもりではあったけど……ここであったことは全部忘れる。いいわね?」
「え? え? え?」
「
[053] 迷い込んだ条河麻耶
(地の文: 条河麻耶)
「あれー? チノー? メグー?」
チノとメグの名前を呼んだけれど、返事が返ってこない。さっきまで一緒にいた筈だけど……んん?
「おーい! んー、どうなってるんだ……?」
なんか、迷っちゃったみたいだな。やれやれだよ、探検始める前に迷子云々の話してたけど、あれ完全にフラグだったんじゃん!
ちょっと予想外の事態だけれど、こういうのも探検の醍醐味ってね! 私は部屋の中を見回した。
「すげー……!」
部屋の中には大きい棚が大量に並べられていて、その棚一段一段にずらーっとよく分からないものが並べられていた。思わず声が出ちゃった。
「お宝がいっぱい! そうそう、こういうの! こういうのを見つけたかったんだ!」
きっとここは、隠された宝物庫か何かなんだ! どうやってこれたのか分からないけど……兎に角、大発見だ!
早く元来た道を戻って部屋から出た方が良いんだろうけど、私は高鳴る気持ちを抑えることが出来なかった。だから、ほんのちょっとだけ! ここを見て回ることにしたんだ。
最初の方はめちゃくちゃに興奮して、どれもこれもがお宝のように見えていた。虹色のビン、不思議な形をした時計、中で靄みたいなものが渦巻いている水晶……。綺麗なものだけじゃなくて、不気味なものも沢山あった。
でも途中からは、なんだかボロボロになったアイテムが多いように思えてきた。例えば、この黒ずんだティアラとか……磨けばすごく綺麗になりそうなのに、なんか台無し感がある。
私は思ったんだ――あれ? ここってもしかして、要らなくなったものを捨ててるだけなんじゃね? って。
宝物庫でも何でも無いんじゃね? って。
「私ここの事何にも知らないし……やっぱ、ただ新鮮みを感じてただけだよねー」
冷静になって考えてみると、ぶっちゃけどれもガラクタばっかりじゃん。なんか飽きたってのもあるけどさ――パッと見て心惹かれるのがこのティアラくらいしかない。
……いや、別に私オシャレが好きとかじゃないんだけど。何でだろう? こういうのが、魂に訴えかけてくる品! って奴なのかな?
「……放っとかれてたんだし、幾つか持ってっちゃっても……怒られないよねっ」
勿論、最初はただ見るだけだったよ。そりゃあ、お宝を勝手に盗んじゃったら後々バレた時が怖いもん! でもさ、こういうガラクタ置き場からなら、ちょっとくらい盗んでも……バレねーんじゃね!?
私まだ魔法界のアイテムなんて全然持ってないし。それにボロボロだけどまだ使えそうなものいっぱいあるし、RPGとかではこういうなんでもないようなアイテムが、後々重要になってきたりするんだよなー!
「しかもよく見ると、やっぱどれもこれも変な形してたりして面白いし……へへ、次来るときは巾着か何か持ってこなくちゃかな〜」
という訳で、なんか使えそうな面白そうなものをポケットに入るだけ入れた。筆記用具をいくつかと、くるくる回るコマ、双眼鏡みたいなやつ、あと、なんとなくティアラ。もっと欲しかったけど、どれもこれも割と大きいんだよなー。
「さて、それじゃ早いとこ逃げ出して、メグたち探そーっと!」
私は、ポケットの中をがちゃがちゃ言わせながら(そういえば持ち物検査とかなかったよね? 大丈夫!?)入ってきた扉から出た。メグと一緒に入った筈なのになぁ、おかしいなぁ。
「ん……あれ? メグじゃん!」
扉から出ると、そこにはメグが立っていた。なんだ、案外近くに居たんじゃん! 入ってなかっただけ? でもなんだか様子がおかしい。
「…………」
「どうした? おーい」
返事が返ってこない。なんか、ぼーっとしてる感じだ。それだけなら割といつものメグ、って感じだけど、なんだろう、殆ど気絶してる……ような?
「お、おい。メグ!」
「ひゃっ!? ま、マヤちゃん!?」
バシッと背中を叩いてみると、どうやら気が付いたようで反応が返ってきた。
「い、今までどこに居たの〜!?」
「そりゃこっちのセリフだよ! お前、そこで何してたんだ? すげーぼーっとしてたけどさ」
「え? えーっと……あれぇ?」
メグは首を傾げた。
「……私、さっきまでどこに居たんだっけ?」
[054] 迷い込んだ香風智乃
(地の文: 香風智乃)
「ここは……どこなのでしょうか!?」
「きゃっはははー! 迷子になっちゃったねぇ!」
愉しそうにケラケラと笑うアフルディーナさん。笑っているような場合ではないと思うのですが……。
私たちはホグワーツを探検していたのですが、いつの間にかメグさん、マヤさんとはぐれてしまったようです。さっきまで一緒だった……と思っていたのですが?
「きゃっはははー! いやいや、やっちゃったねぇチノちゃあん! こんなところに迷い込んじゃうなんてさ……ツイてないなぁ!」
「ツイてない、んでしょうか……?」
「ん?」
「いえ……」
なんというか……いえ、友達を疑うというのはあまり良くないとは思うのですが、なんだか私には、この方が意図的に私たちをはぐれさせた、ように思える――ような。
そんな気がするんです……証拠もないし、確信もないですけれども。
「えっと、ここはいったい……」
「んー? あーそうだねぇ、どこだろうねぇ〜」
私は辺りを見回しました。アフルディーナさんも真似するように頭を動かしています。なんだか楽しそうですけれど……あれでしょうか。この人は迷子になるのを楽しむタイプの方なのでしょうか?
ここは――トイレ……なのでしょうか? あちこちがひび割れていて、しみだらけです。床は水浸しでした。どこもかしこもボロボロで、とても衛生的に良い場所とは思えません。
「あの、アフルディーナさん。早く二人を探しましょう。なんだかその、ここ、不気味です」
「きゃははー! 不気味だって? ああ、確かに不気味だねぇ、陰気だねぇ……小汚くて薄汚いゴーストでも潜んでそうだ! よぅし、こんな所に用はないね! さぁさぁさっさと出て行こうー!」
「聞こえてるわよ……!!」
「!? 誰ですか!?」
必要以上にここをけなすアフルディーナさんの声に反応したのでしょうか、どこからか女の子の声が聞こえてきました。
ガタガタと音を鳴らしながら、その女の子は一番奥の個室から現れました。眼鏡をかけていて、少し太っています……あと、半透明です。ここに来てから何度も遭遇しましたが、彼女もゴーストなのでしょうか。
「わ、私の陰口言わないでよ……! 私、確かに死んでるわ。でも感情はちゃんとあるのよ……!!」
「おやおや、何か出て来たね!? あっ、そうだ! 君が噂に名高い『嘆きのマートル』ってやつかい! いやぁお目にかかれて光栄だなぁ! 気分どう?」
「最っ悪の気分よ。主にあんたの所為でね……!!」
嘆きのマートル、マートルさんという方らしいです。どうやら、ものすごく気分を害しているようです……。
「あ、あの、喧嘩はやめてください……私たち、もうここから出て行きますので」
「あらそう? だったらさっさと出て行くがいいわ!! そんでもって私がいないところで、また私を馬鹿にし始めるの――『嘆きのマートルはブスで、癇癪もちで、未練たらしくて――」
「そ、そんなこと言いません! 私、あなたを傷つけようとしてるんじゃなくて、その」
「傷つけようと思ってないですって!? ご冗談でしょう――私の生きてる間の人生だけでも悲惨だったのに、死んでからもみんな、こぞって私を苛めるのよ!!」
「そ、そういうんじゃなくて、あの、その……!」
こういうとき、自分のコミュニケーション能力のなさに嫌気が差します。ココアさんならどうするのでしょうか……。
「きゃっはっは! いやぁ独り相撲楽しいねぇ!? お優しいチノちゃんは必死に、ブスで癇癪もちで未練たらしくて被害妄想の塊みたいな君をなぐさめようとしてくてるのにさぁ!? はー、見苦しいったらありゃあしないねぇ!! きゃーっはっはっは!!」
「ア、アフルディーナさんも……! そういう言い方、やめてください……!」
「きゃははは! ごめんねぇ? ついつい愉快でさぁ!」
「私を苛めに来たのね!? 最低のクズねあんたたち!!!」
「ち、違うんです! ただ迷い込んだだけで……」
「まぁ苛めに来たのは一部否定しない。でもそんなどうでもいいことに時間を費やすほど、アフルディーナちゃんは暇じゃないんだなぁこれが!」
……アフルディーナさん。この方はいちいち悪口を言わないと死んでしまうような人なのでしょうか……正直、苦手を通り越して不快です。
大粒の涙を目に浮かべ、顔を真っ赤にするマートルさん(半透明なので実際は真っ赤ではなくピンクなのですが、それでも怒りがありありと伝わってきます)をよそに、アフルディーナさんはトイレのあちこちを触り始めました。きょろきょろしていて……何か探しているのでしょうか?
「――おかしい」
「えっ?」
アフルディーナさんがぼそりと呟きました。見ると、いつの間にかアフルディーナさん、汗をかいています。じめっとしてはいますが、汗をかくほど蒸し暑くはないと思うのですが……?
「そ、そんな筈はない……た、確かにここに置いていたんだ! あの日記帳を――!」
「ど、どうしたんですか? アフルディーナさん?」
「っ……! い、いや、何でもない。何でもないよ、は、きゃははっ! ねぇねぇ泣き虫ゴースト! あんたこの辺に、日記帳置かれてたの知らない? こーんな大きさのやつなんだけどさぁ!」
「は? 日記帳ですって? そんなの私が知る訳ないでしょ!! あんたの日記帳なんてね、私に物を掴む力があれば一ページ残らずズタズタにして、トイレにぶちこんでやるんだから!!」
「あっそ! 死ぬほど暇なんだねぇ! いや、死んでるから今後永遠に暇なんだ。あーかわいそ!!」
アフルディーナさんは文字通り頭を抱えています。ど、どうしたのしょうか。明らかに様子が変です。
「おい、ここに誰か来たのか? 私たちが来る前に……!?」
「あぁそうよ。あんたたちの前に誰か来たわよ! それが何? 言っておくけれど、私、そんな誰かも分からないような女の名前なんて聞かれても知らないから答えられないわよ!」
「女? 女子か! どんな奴だった!? この私の――いや、あの日記帳を持ってった奴を見てたのかぁ!!?」
「あぁぁあああぁぁああああぁぁぁぁぁもう!!!! 五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿いぃぃぃぃぃぃ!!! 赤毛の女よ!! それ以上のことなんて私が知る訳ないでしょぉっ!!?」
「あぁぁそうかい!! きゃーっはっはっは!! 無能なゴーストなんざにこのアフルディーナ、何の用もないね!!! こんなとこさっさとおさらばしようかチノ! 蛇王様の恐怖に怯え死んだ哀れで愚かなゴースト、もうあんたと話すことはなぁんにもない!!」
「出てけ!! さっさとここからッ!! 出てけぇぇぇぇ!!!!」
マートルさんは耳をつんざくような叫びをあげると、あちこちのトイレの飛び込み始めました。マートルさんが飛び込むたび、そこから水が噴出していきます。
「あーもう汚いなぁ!! 濡れたじゃんかこの私が!! 悪い子はでしゃばらずトイレに篭ってやがればいいんだ――さっ! 帰るよチノちゃあん!!」
「っ! ま、待ってくださいアフル――あ、あの、すみませんでしたマートルさん!!」
私たちはどんどんびしょ濡れになるトイレから足早に逃げ出しました。
[055] 水面下の謀略
「やれやれ、散々だったよ! こぉんなにびしょ濡れにされちゃってさ、これは弁償してもらわないと割に合わないよね! きゃはっ!」
「アフルディーナさんが過剰に煽らなかったら、こんなことにはならなかったんでしょうに……」
まるで反省の色がないアフルディーナに、チノが呆れて言う。
嘆きのマートルから逃走したアフルディーナと智乃は、もと四人が居た場所に戻ってきていた。麻耶と恵はまだ戻ってきていないので、二人は暫くそこで待つことにした。
「いったい、何であんなにマートルさんに……その、強くあたったんですか?」
「んー? いやいや、だって単純にムカつくじゃん! ウジウジしてて、根暗で。うちの愚姉を思い出すんだよねぇ! だからついさぁ」
「…………」
智乃は、自分も嫌われているのではないか、と不安を抱いた。
「ま、それだけじゃあないけどねぇ! ちょいと色々予定外の事態が起こってたもんだからさ、私もちょいとイライラしてたとこ、あるかな? きゃっはっはっはー!」
「……日記帳がどうとかって言ってましたっけ。えっと、大切なものなんですか?」
「大切、なんて言葉じゃ言い表せないほどに、大変重要な代物さ! いやいや参った……これじゃあ何のために、私が君たちに付き合ったんだか……」
アフルディーナは爪をがじがじと噛んだ。見るからに機嫌が悪そうなその振る舞いを見て、早く二人とも帰ってきて欲しいと智乃は強く思った。
すると、チノの思いが神に通じたのか、遠くから手を振りながら二人組が近付いてきた。麻耶と恵だ。智乃は安堵の息を吐いた。
「おーい! チノー! アフルディーナ!」
「やっぱりここに居たんだね~! 良かった~」
「マヤさん、メグさん……! 無事でよかったです……!」
三人は抱き合った。それを見て、アフルディーナはにこりと笑って手を叩いた。
「いやぁ、よかったよかった! 無事みんな帰ってきたし! 終わりよければ全て良いって感じだねぇ! そいじゃっ、ちょい早いけど私はお暇させてもらうよ」
「え!? なんだよアフルディーナ、もう行っちゃうのか? 早過ぎない!?」
「きゃっはっは! いやぁ、ごめんねぇ。ちょいと野暮用を思い出したって言うか、出来たって言うかさ……じゃあねぇ、三人とも! また会おう!!」
アフルディーナは有無を言わさず、三人に背を向け、早歩きで去っていった。
唖然として後姿を見送るチマメ隊。
「なんだ? 色々見せたいものがあったのにさ!」
「……アフルディーナさんにも、色々事情があるんでしょう。仕方ないですよ」
「ちえっ! あっ、チノ! これ見てくれよー、こんなに沢山アイテムゲットしたんだぜ――」
早足で歩きながら、アフルディーナは考える。目まぐるしいスピードで脳を回転させながら、誰にも聞こえないような声で呟いた。
「……少しばかり想定外だけど――まぁいい、これはこれで修正可能だ。どこの誰か知らないが、日記が誰かの手に渡ったっていうなら……後はそれ自身が上手くやってくれるんだろう」
アフルディーナは指の皮を噛んだ。
「……計画変更といこうか」
きゃははっ!
そのケラケラ笑いは三人にも少しだけ聞こえた。
少し目を離している間に、ずいぶんたくさん公式の方から裏設定や新設定が開示されていましたので驚いています。ストーリーの流れ自体は二年前から変わっていませんが、小さなところは改めていかなければいけませんね。
そんな感じで、『第69話 ホグワーツに潜む者たち』でした。まだ序盤もいいところなんですねこれ……。