※告知事項※
・何かあれば書きます。
【第67話】
躙り寄る鷲と蛇
[046] シーウォントシスター
――ロックハートのピクシー騒動はあれだけの騒ぎであったにも関わらず、その翌日の授業は通常通りに進行し、精々数名がジョークの種にする以外は全く話を聞かなくなった。この件についてロックハートは、
「ああ! あれはまさしくその名の通り、自衛訓練ですよ! 私のように
などと供述し、全職員の機嫌を最悪にしたらしい。赴任数日目にして平然と全教師(ダンブルドアは含まれていない)を敵に回すとは大した度胸である――無意識のうちではあるが。
そんな別ベクトルで危険すぎる事件のあった日の夜。
グリフィンドールのテーブルにて夕食のシチューを食べるのは、グリフィンドールが誇るシスターコンプレックス・保登心愛。周囲には妹(心愛称)の由紀、薫子、若葉が。
心愛が厳かに言った。
「……妹を増やすために、どうすればいいと思う?」
「「「…………」」」
三人はこれと言った感情の篭っていない目で心愛を見た。
「兎の会発足から早一ヶ月ほど……そう、一ヶ月も経ったの!」
心愛は拳を握った。
「一ヶ月だよ!? なのに、兎の会にはまだ会員が全然いないんだよ! 金髪同盟にも追いついてない――妹が少なすぎるっ! もふもふが欲しい!」
「妹が少ない、ですか」
「そう! いや、勿論そんな簡単に妹は増えないってことは分かってるよ? だけどー! シノちゃんたちはもう結構いるし……」
「張り合うつもりはなかったのではないのですの?」
「それはまあ、そうだけどさ〜……せめて一人くらいは、イギリスの子を仲間にしたいよねー、みたいな?」
「でもさ、そんなこと言い出したら学園生活部なんて、誰一人メンバー増えてないんだよ? 贅沢だと思うなー。ね、めぐ……うん」
「うっ……」
兎の会とは、心愛を中心として作られた謎の集まり。金髪同盟のように金髪を愛する者、或いは金髪少女で構成された集団という訳でもなく、かといって学園生活部のように特定の目的を持っている訳でもない。
このホグワーツにはクラブと言えるようなものはない。寮制度をとっているイギリスのマグルの学校では部活動が盛んだったりするらしいが、このホグワーツにおいてはそれはない。原因は色々あるが、その主たるものは、イギリス魔法界において娯楽というものが非常に少ないということである。
魔法界の娯楽と言えば、いの一番に思いつくのがクィディッチであろう。では次に何が思いつく? ゴブストーン? チェス?
そう、色々あるっちゃある。あるのだが……クィディッチが頭一つどころか二つ抜け過ぎていて、他がまるで目立っていないのである。それに、部活をわざわざ設立する程の人気もない。
部活に似て非なるものであれば、クラス選抜クィディッチチームと、方向性は違うがクィディッチチームと同程度の規模である《ホグワーツ合奏団》が存在するが――まあそんな事情故、ホグワーツには部活はない。
が、しかし、非公式の生徒組織というか、サークルと呼べるようなものは幾つか存在しているのである。あくまで顧問と呼べるような教師が居ないような集団は散在している。
金髪同盟、兎の会、学園生活部などはそれらに分類されている。これらと同程度の規模のサークルは第二学年に見受けられないが、一学年上には《自堕落同好会》なるものがあるとかないとか――閑話休題。
「うわああん! せめてチノちゃん、マヤちゃん、メグちゃんには入会して欲しいよー! あいあむぜあしすたー!!」
心愛は泣きながらシチューの付いたスプーンを舐めた。
「うぅ……わ、若葉ちゃんっ!」
「はい!?」
若葉はびくりとしてフォークを落としかけた。
「なんでしょう?」
「金髪同盟! 今、誰が居るの!?」
心愛はスプーンを置き、若葉を指差した。
「ラ、ライバル視というやつですわね!? 流石ですわここねえちゃん、すごくギャルっぽい!」
「あ〜良い響き! シノちゃん、アリスちゃん、穂乃花ちゃん、カレンちゃん、若葉ちゃん、モエちゃんにモラグちゃん……後、増えた?」
「まだそのメンバーですわ。ですけれど、シノちゃんのゴールデンギャルパワーなら、きっとまだまだ増えますわね!」
「ご、ゴールデンギャルパワー……」
薫子が何か言いたげな顔で呟いた。
「なんか強そうなパワーだねっ!」
「えっ」
一方由紀は目を輝かせた。
「むむ……油断は出来ないねー」
心愛はスプーンをまた持ってシチューを食べた。そして、スプーンを握りガッツポーズをとった。
「もふもふ天国を何としても作るんだ! 妹を! 何としてでも――!」
「あ、あのっ!」
「わっ!?」
力強く宣言した心愛。それと同じタイミングで誰かが心愛の肩を叩いた。
びくりとして振り向く心愛。若葉たちも同じく叩いた誰かを見た。
そこには申し訳なさそうに胸の前で指を絡めた少女が立っていた。眼と髪は同じダークブロンド色で、髪は肩口で切り揃えられている。そして濃紺のローブに付けられたワッペンには、銀と青の鷲が――。
「え、えっと……どうしたの?」
心愛が訊いた。
「新入生?」
「い、いえいえっ! 私、ココアさんたちと同じ学年です!」
「そうなの!? ご、ごめん! いや、背の高さがアリスちゃんくらいだったから、つい!」
「いえいえ、背丈については、そういうの言われ慣れてるから――私、リサ・ターピン。レイブンクローです」
リサはレイブンクローのワッペンを指差して言った。
「いきなりですみませんが、単刀直入に言います。ココアさん……私を、兎の会に入会させてくれないかな?」
「え?」
突然の事に、そして奇妙なタイミングの一致に、四人は一瞬言葉を失った。何せ今まさに、兎の会の人材不足について思いを巡らせていたのだから――。
「ココアお姉ちゃんって、呼んでもいい?」
リサは笑顔で言った。
[047] 爆誕、チマメ探検隊
「はぁ〜〜、今日も一日、面白かったな!」
麻耶が伸びをして言った。グリフィンドール生である彼女が居るのは、ハッフルパフのテーブル。
彼女の隣に座っているのは恵、彼女の前には智乃が居る。
「いやさ? 勉強とは言うけれど、私たちがやってたようなやつとは違うじゃん? 新鮮っていうか、楽しさが段違いだよね!」
「そうだね〜。私たち今日呪文学があったんだけど、すごく楽しかった〜」
「へー。あーあ、私もハッフルパフが良かったよ! チノとメグと一緒に授業受けたかったー」
「そうだよね〜。三人揃ってたいよね〜」
「でも、千夜さんが言ってましたけれど、クラスが違えばその日にあったことも違いますし、こうして教え合うことで1日に2つの学園生活を楽しめることになるのですから、そんなに悪いことではないのかもしれませんよ」
「あー、そう言われてみればそうか。流石千夜、良いこと言うなー」
「ですね」
――こんな感じで駄弁る三人。端から見れば同じ寮にしか見えない。
ホグワーツ魔法魔術学校の新学期が始まってから二日、魔法界へやって来てからはや二週間強。既に智乃、麻耶、恵――頭文字をとってチマメ隊――はあっという間にこの世界に馴染んでしまった。元々感受性が高い三人だったというのもあるだろうが、心愛たちが既にこちらに居た、というのも大きな要因の一つだろう。世界観は違えど、人間関係的な環境自体はあまり変わらなかったのであった。
「それにこうしていつでも集まれますし。ずっと離れ離れという訳ではありませんから」
「そうだね〜」
「だよね! 寮は違っても心は一つ、チマメ隊だもんね!」
麻耶は笑顔で言った。
「それに休みの日はどうせ寮なんて関係ないしね――そうだ! 三人でホグワーツの探検とかしてみない!?」
「探検……ですか」
「わ〜! 面白そう!」
「だろだろ〜!」
麻耶は目を輝かせた。
「ホグワーツってこんなに広いのに、地図ってもらってないじゃん。だからさ、探検ついでに私たちで地図、作っちゃおうよ!」
ホグワーツ魔法魔術学校は非常に広大な敷地を誇っている。実際のところ地図が存在しない訳ではないが、それはあまりにも簡素なものである。
それはこのホグワーツに掛けられた様々な魔法が原因であり、どれだけ入念に探索しても、必ずどこかに隠し部屋が存在するのである。それに加えて動く階段や消える扉など、ギミックが多数存在する。その辺りを完全網羅した地図が公的に作られた記録はない。
「でもマヤさん……思うんですけど、結構危なくないですか? それ」
「んー。……まあ、迷ったらヤバいのは確かだけど……な、何とかなるさ!」
「やれやれ……」
智乃は呆れたように肩をすくめた。
「じゃあ、チノちゃんは反対なの?」
「反対……まあ……いえ、ですけど、前知識も無しに行動するのは危険なのであって……一応学校ですし、そんな命に関わるようなことはないと思いますから、ちゃんと整えてからであれば」
「甘い、甘いよチノ!」
「わあっ!?」
急に隣の席から反応が返ってきた。智乃は驚いて隣を見ると、そこに座っていたのはふわふわとした銀髪の少女。
「お、驚かさないでください! えっと、確かあなたは……」
「アフルディーナ! アフルディーナ・グリースだよチノ!」
いつからここに座っていたのだろう? 虚を突かれた智乃と裏腹にアフルディーナはにこにことした表情。
「いやあ、何の話をしているのかなあと聞き耳を立てていたけれど! なんだいなんだい水臭いなあ、私も仲間に入れてよ!」
「聞き耳……」
「甘いってどういうことだよ、アフルディーナ?」
「甘いは甘いだよ! もう本当、トマトケチャップレベルに甘々!」
アフルディーナはサイコロステーキを口に放り込みながら言った。
「ホグワーツは危険なところだよ……とっても危険だ! いや、私も又聞きでしかないんだけど、色々物騒な噂を聞いたことがあってね」
「こ、怖い話なの!?」
「ああそうさ怖い話……例えば、一度入ってしまえば二度と出られない部屋、血に飢えた番犬が飼われている部屋、それに――巨大な蛇が潜んでいる部屋、とか」
「二度と出られない……!?」
「へ、蛇〜!?」
「す、すげー! どこのRPGだよってかんじ!」
「……ま、あくまで噂だけどね! でも、あんまり無謀に探検するのは危険だと思うね、私は」
「っ…………!」
智乃と恵は背筋が凍るような思いだった。噂は噂だとしても、それが全て嘘だという確証はどこにもないのである。例えば血に飢えた番犬とやらが本当ならば、もしも迷い込んでしまったら……。
一方で麻耶は胸を躍らせていた。非常に好奇心旺盛な彼女にとっては、これは願ってもみない展開である。それに探検と称するならば多少の危険は付き物であり、醍醐味でもある。
「きゃっはは! あれあれ、私が思った以上に怖がらせちゃったかな!? 根も葉もない噂だよ噂!」
「いや、寧ろ乗り気になったよ私! やっぱやろうぜ、ホグワーツ探検!」
「「えー!?」」
「きゃははん!」
アフルディーナはシニカルな笑みを浮かべた。
「いやはやその気概! 恐れ入ったよ怖い怖い! ようし、ならこのアフルディーナも同伴しよう! 安心しておくれ、私は多少なりともこのホグワーツについての知識はある!」
「「えー!?」」
「マジかよ! 心強いなあ!」
「いやあのマヤさん! 本当に!? 本当にやるんですか!?」
「当たり前だよチノ、メグ! こんな面白いこと、他にない!」
「よーしよし決まりだ! 決行は今週末!」
「今週末!? 待ってよアフルディーナちゃん、あんなの聞いたら心の準備が〜!」
「安心したまえ! このアフルディーナが一緒な限り、君たちにはどんな怪物も害を加えられないと保証しよう! 一切の心配は無用!」
「ど、どこからそんな自信が!?」
「くー、楽しみだ!」
昂ぶる気持ちを抑えられない麻耶は力強くガッツポーズをした。
「チマメ隊、いや、チマメ探検隊、ファーストミッション!」
「わわわ〜……す、凄い気迫だよマヤちゃん!」
「何故そんなにいい笑顔が出来るんですか……!?」
「イェーイ! 隊の名前に私の成分が含まれてないのがほんの少し不満だけれどしゃあねえイェーイ!」
二人の熱は簡単に冷めるものではなく、二人はとうとうそのまま押し切られてしまった。そしてあれよあれよと言う間に、週末がやって来た――。
最早忘れていらっしゃる方が大半だと思いますが、はい、申し訳ありませんでした(何度目か分からぬ謝罪)。
さて、心愛とチマメ隊両方のストーリーがほんの少しだけ進みました。未だ中盤に突入していませんが、せめて今年中には終わらせたかったですね……。無理でしたね……。