それはさておき、次なるプロローグはわかばガールの世界です。彼女達のキャラ崩壊は他のキャラ崩壊よりも激しいので、見るときはご注意を。
8/17 設定改正に伴い、話数変更&一部文章改訂
【第4話】
プリムローズ・ガールズ!
[022] 悪戯兄弟
「なあ、本当にやるのか?」
「ああ、本当にやるのさ」
「本当にか?」
「本当さ。何だよ、怖いのか?」
「そんな訳ないだろ? ママの方がこんな儀式より百倍怖いさ。僕が気になるのは、成功するのかってことさ」
「大丈夫だって! その時はその時だ」
「失敗した時の言い訳考えとかなくちゃな」
「ああ、叱られるのは僕も御免だ」
「全くだ」
「じゃあ、始めるぜ」
「ああ、始めようか」
「「アクシオ・アルタリア・イウォーカーティオ!! 異界から呼び寄せよ!!」」
[023] あの味を忘れません
「今日はとても楽しかったですわ!」
【小橋若葉】はお嬢様である。お嬢様であるが故に、一瞬回って庶民に憧れている。普通の人々にとってはなんでも無いことでも、彼女にとってはカルチャーショックのバーゲンセールなのだ。それこそ、学校帰りにアイスクリームを食べに行く、なんていうことでも、小さな子供が遊園地に連れて行ってもらうかのように、若葉は興奮する。
これは、彼女達がハンバーガー店に寄った帰りに起きた、不思議な、魔法染みた出来事。
「まさか、あんなものがあっただなんて……私、もうあの味を忘れません!」
「あの味って言う程のもの食べたっけ?」
疑問を呈すのは桃色の髪を特徴的な髪留めで留めた少女、【黒川真魚】。
「はい! それはもう……忘れられませんわ、あの不思議な、カリカリとした食感の……」
「よりによってピクルスの事かよ! 他に無かったのか他に」
お嬢様のズレた回答にツッコミを入れるのは、眼鏡と短い三つ編みが印象的な少女、【真柴直】。
「ああ、いえ、ハンバーガー自体も美味しかったですよ! でも、あの柔らかい中に乱入してくる異物感が忘れられなくて……」
「若葉ちゃんらしいねー」
笑いながらそう言う、橙色の髪をツインテールに纏めた少女。【時田萌子】である。
以下暫く、彼女達の会話をお楽しみ下さい。
「でも、何でハンバーガーにピクルスなんて入ってるんすかね? 正直、まおあれ邪魔だと思うんすよねー」
「さあな、アクセントか何かじゃないか?」
「あ、それなら私聞いた事あるよ。あれって日本で言う漬け物みたいなもので、アクセントもそうだけど、ピクルスにはお酢を使うから、雑菌作用があるとか無いとか」
「ふうん」
「えー? でも、この間ピクルス抜いて欲しいって言ったら抜いてくれたっすよ? そんなに重要じゃないんじゃないの?」
「すぐ食べるから抜いてくれたんじゃないのか?」
「え? うーん、まあ、あの時は店内で食べたけど……それでも、感触的に邪魔なのは変わりないっす!」
「無駄な力説!」
「漬け物ですか……はっ、という事は、今日は私の漬け物デビューの日でもあるということですか!?」
「何だよ漬け物デビューって!?」
「いやあ、あれを正当な漬け物って言い切れるかどうかはちょっと微妙なような気が……」
「うふふ、今日は何て素敵な日なんでしょうか……素敵過ぎます、これは何か良くないことが起こる予兆では!?」
「若葉ちゃん大袈裟だよー」
「いいえ! これはきっと何か災厄の前触れに違いありませんわ! 皆さん、核シェルターに避難を!」
「大袈裟にも程があるっすよ!? 核シェルターなんてどこにあるんすか……」
「ハンバーガー食った程度で核シェルターに避難する級の災厄の前触れだってんなら、今まで何回世界に危機が訪れてんだよ」
「ははは……」
「いえ! きっと今回は間違いありませんわ! ほら! 私達の頭上に浮かぶ円盤を見て下さい! 普通こんなものが浮かんでいますか? おかしいと思いませんか皆さん!?」
「円盤?……えっ」
「…………っ」
「? 何?」
反応はまちまちであるが、しかし彼女達にとって、それが得体の知れぬものであるという認識は、寸分たりとも違わなかった。
[024] これが噂に聞く空飛ぶパンズですか
彼女達の頭上に浮かぶのは、一定間隔で光る赤色の円陣。別に近くに兎がいる訳でもなければ、暗闇があったりする訳でもない。
「……えっと、何から言ったらいいのかな」
「……取り敢えず、今思ってることを言ってみたらどうだ」
「……何すかこれ」
「知らん」
円陣である――それ以外の情報は一切なく、得体は知れないものの、別に危険そうな雰囲気は無い。吸引される訳でもなければ、これ以上近づいてくる訳でもない。
「これが……噂に聞く空飛ぶパンズですか」
「絶対違うよ若葉ちゃん、ていうかどこでそんな噂聞いてきたの」
「確か、スパゲッティがどうとか」
「それは空飛ぶスパゲッティモンスター教だね、全然関係無いよ若葉ちゃん」
空飛ぶスパゲッティモンスター教(FSM)については、説明が面倒なので各自で調べて頂きたい。
「しかし……何なんだこれは」
「知らん」
「真似すんな」
「いや、誰だってそう答えるしかないよ柴さん――本当、何これ?」
「ふふふ、やはり私の予見は間違っていませんでした! きっとこれは災厄の予兆! さあ、皆さん逃げましょう!」
「災厄の予兆かどうかはさて置き、逃げた方がいいのは私も賛成だよ! 絶対ロクなものじゃないよこれ」
「うーん……でもこれが何なのかっていうのは知りたいっすよねー」
「まあ……気にならない訳でもないが」
うーん、と考え込む3人。しかし、そんな中で思いも寄らぬ提案をする者が居た。常人ではまず考えつかないような、考えついても速攻で案を放棄するような提案を。
「じゃあ触ってみれば良いんですよ!」
世間知らずのお嬢様、小橋若葉であった。
[025] どうにでもなれ
「!?」「!?」「!?」
何ということを言うのだこのお嬢様は。若葉を除く3人は全く同じ事を思った。先程まで災厄の予兆だと言っていたものを何故触ろうとするのか。これが世間知らずか、恐ろしい、と。
「えいっ」
若葉は、特に躊躇する様子もなく、普通に手で触れた。
すると、若葉の体が光に包まれた。かと思うと、若葉が円陣に吸い込まれた。
「え?」
「わ、若葉が消えた!?」
「ちょっ……これ、洒落にならない程ヤバいやつじゃないんすか!?」
残された3人に残されたのは困惑と、円陣に触れると吸い込まれるという情報のみであった。これがどういうものなのかは全く分かっていないし、実質何の進歩も無い。
「わ、若葉ちゃんを追わないと!」
萌子が円陣に手を伸ばす。
「ちょ!? もえちゃん落ち着こう! 次なる犠牲者になるつもりっすか!? そんな簡単に人生諦めて良いんすか!?」
「で、でもっ! 若葉ちゃんはどうするの!? それに、これに吸い込まれたからって死んじゃうっていう証拠も無いよ!」
「そうっすね! 死んじゃう証拠無いっすね! 生きてる証拠も無いっすけどね!」
「私、行ってくる!」
萌子が円陣に手を伸ばす。
「ちょっとちょっとちょっと!? 落ち着け落ち着け!! 柴さんも何か言って!」
「そうだな……そうだ、この円陣は、実は二次元に繋がっているんだ。だから多分死なないだろ、行って来い」
「ふざけんなゲーム脳!!」
「真魚ちゃん、柴さん、さようなら!!」
萌子が円陣に触れる。と、同じく光に包まれて円陣に吸い込まれた。
「成る程、吸い込まれるのは確実なのか」
「分析してる場合じゃないっすよね!? これ普通にヤバいっすよね!? もう、柴さん!! 柴さんが後押しするから!!」
「知らんな」
「知らん訳無いだろ」
「だが、二次元へのゲートっていうのもあながち間違いでは無いかもしれないぜ? こんな非現実的な事が起こりうるのはどの次元だ? そう、二次元しかないのさ」
「やべぇ、こいつ本当一回殴っとかなきゃ駄目な気がする」
「これが二次元のゲートだというのであれば、僕……いや、私は先に行かせてもらうぜ!!」
「は? 正気っすか? いや、だから何を根拠に」
「BLゲーの女王に不可能は無い!!」
「BLゲーの女王とか呼ばれたこと無いでしょう!? ちょ、マジで! マジで止めよう!」
「えいっ」
若葉に匹敵する程の軽さで直は円陣に触れた。するとまたもや直は光に包まれ、円陣に吸い込まれて行った。
「…………」
残されたのは、真魚一人だけとなった。
「…………」
最早言葉さえも発しない。
「…………」
表情は、何時もの彼女からは想像出来ないほどの無表情である。
「…………」
思考放棄しているようにさえ見える。
「………………はあ」
一人になって、最初に発したのは溜息。
そして、一言。
「……もう、どうにでもなれ」
それはまさに思考放棄であり、自暴自棄以外の何物でも無かった。
真魚は遂に円陣に触れた。光に包まれた彼女は、他の3人と同じように、円陣に吸い込まれて行った。
それと同時に、円陣は収縮し、直ぐに消えて無くなった。
[026] 魔法界へと
彼女達の前に現れた円陣は、一種のゲートだった。悪魔が手配した、異世界同士を結ぶゲート――扉である。
扉がある場合、決してそこは行き止まりでなく、そこから先に何かがある。そして、扉の向こう側からも、同一の扉を観測することができる。
入り口があれば出口もある――吸い込まれた彼女達が再び現れる場所は、必然的に出口の向こう側となる。
そして、この『向こう側』こそ、この物語の舞台となる場所である。