※告知事項※
・何かあれば書きます。
【第46話】
また とびら あけよう
[145]
永遠の命、不死を与える幻の宝石――賢者の石。今、この命の石は堅牢なる魔法城に隠されている。万全の守りを施され、深き眠りに落ちている。
だが、その眠りから醒める時が来た。
栄光を求める闇の先兵はその扉を開けた。多頭の犬は眠りに落ち、悪魔の罠は突破され、鍵の番鳥は捕らえられ、西洋将棋は冠を落とし、醜悪な隷を従え、魔の論理は解かれた。
永遠は冷たい世界の中で眠っている。偽りの反転世界の中、石は待つ。己を呼び覚ますに足る者を――生命の業火を宿すに相応しい者を。
石を手にし、玉座に座すは――。
[146]
「さあ、急ぎましょう!」
「待ってシノ、足がもつれて、ちょ、走らないで!」
「シノー? アリスー? どこに居るんデスかー?」
「カレンちゃんとこんなに密着できるなんて……っ! もう今日が命日でもいいよ……!」
階段を下り、廊下を走り、あの部屋を目指す不可視の少女たち。大宮忍、アリス・カータレット、九条カレン、松原穂乃花だ。
――先導しながら、大宮忍は考える。
《side Shinobu》
果たして自分たちに止めるとこが出来るのでしょうか? 幾らアリスとカレン、そして穂乃花ちゃんがいるとはいえ――。
皆さん、私をリーダーのように慕ってくれているけれど、私はそんな器ではないのです。今だって先陣を切っていますが、正直帰りたい気分でいっぱいです。何も知らなければ良かったと、この数分で何度思ったことか――。
私は、アリスが居ないと何も出来ません。
本当に、何も。
……だから、私は、何かを成し遂げたいのです。心のどこかにある、金髪に頼り切りの私を否定する私――その私に、花を持たせてあげたい。
何も成し遂げられなくて、何故夢など語れるのでしょう? 私は、心置きなく、夢を語りたい!
――全ては、夢の為に。
《side end》
本塔へ侵入した四人――彼女たちの行進は止まらない。
――怯えながらも、アリス・カータレットは考える。
《side Alice》
正直、自分たちで止める事が出来るとはとても思えない。幾らシノ、カレン、そしてホノカがいるとはいえ――。
シノは本当に凄い人だ。勇気があって、行動力があって、何よりメンタルが強い。特にこのメンタルだ――私にはとても無いものである。
シノは夢に向っていつも真っ直ぐ。時々おかしな事を言うけれど、そんなシノが、わたしは大好き。
だから、シノを失いたくない。
シノが居ないと、私は何も出来ない。
だからそんな私が、私の知識が、シノの役に立つのなら――それを使わない選択肢は、私にはない。
シノを守る為に、私は付いて来たのだ。
――全ては、シノの為に。
《side end》
動く階段が四人の邪魔をする。ホグワーツの動く階段は夜であろうと動き続ける。ご苦労なことである。
――どこか遊び半分で、九条カレンは考える。
《side Karen》
自分だけではどうにもならないかもしれないけれど、シノやホノカ、なによりアリスが居るなら、必ず止める事が出来ると思う。
小さな頃から、アリスは私のヒーローだった。
私が知らない事を沢山知っていたし、困った時にはいつでも助けてくれた――アリスは、私の理想。
だから私は、ヒーローに憧れた。
この夜は、試練だ。
私は、ヒーローになりたい。このホグワーツを救うヒーローに――。これは、私の憧れを実現する第一歩であり、最大のチャンスであると、私は思う。
憧れでは、もう満足出来ない。
私は――あの時のアリスのように、憧れられる側になりたい。
――全ては、憧憬の為に。
《side end》
階段を上り終えた。後はただ走るのみ。道は暗い、一直線。
――あの時を思い返し、松原穂乃花は考える。
《side Honoka》
きっと私たちなら、止める事が出来ると思う。忍ちゃんにアリスちゃん、それに、カレンちゃんだっているんだから――。
あの日、私はただ怯える事しか出来なかった。
今でも思い出すだけで背筋が凍る――あの六つの眼に睨まれた瞬間を思い出すだけで、今はもうない筈の傷が疼く。
これは克服の為の儀式。
いつまでも昔の事を引き摺ってなんていられない――でなければ、カレンちゃんの忠実なる従者――友人など、とても名乗れない。
過去に縛られるのは、もうおしまい。
鎖は引き千切らないといけないのだ。
――全ては、克服の為に。
《side end》
[147]
「……来てしまいましたね」
緊張を滲ませ、忍は言う。
「本当に来ちゃったよ……」
後悔を滲ませ、アリスは言う。
「ついに来マシタね……」
興奮を滲ませ、カレンは言う。
「……また来ちゃったんだ」
恐怖を滲ませ、穂乃花は言う。
ついに四人は、禁断の扉へと辿り着いた。本塔4階・右側の廊下、その突き当たりにある巨大な扉――。
「……ここまで来たら、もう行くしかありません。心の準備はいいですか?」
扉に杖を向け、忍が言う。
「……シノが行くっていうなら、私はどこまでも付いて行くよ。覚悟は出来てる」
アリスが言う。
「案外大した事ないかもしれないデスしねー。そんなに気を張る必要も無いデショウ――ね、ホノカ」
カレンが言う。
穂乃花は三人を見た。
――あの時は一人だった。でも、今は違う。
忍ちゃんが居る。アリスちゃんが居る。――カレンちゃんが居る。
何を恐れることがあるのだろう? 私たち四人に、出来ないことなんて、ある筈ない。
「――そうだね、カレンちゃん」
穂乃花は言う。
「行こう、みんな! 私たち四人なら、どんなことだって怖くない! 問題なんて、何もないよ!」
「Yes !!! その意気デスホノカ!」
「まあシノが居るからね! シノが居れば大体のことはどうにかなるからね!」
「ふふ、アリスったら――では、いいですね?」
「うん!」
「Yes!」
「いつでも!」
「では――開けます!!」
忍は扉に杖を向けた。
「アロホモラ! 扉よ開け!!」
杖先から銀の閃光が一瞬飛び出した。すると、扉の向こうでカチャリと音がした。
扉は一人でに開いた。それはまるで、四人を迎え入れるかのようであったという――。
[148]
ついに扉は開かれた。
古の英知を手にするのは、異世界から来た四人の少女か、それとも、闇に魅入られた帝王の傀儡か。
Episode.1
『Through the Trapdoor』開幕。
[149]
「っ――!!!」
「こ、こいつがフラッフィーデスか……」
「お、大きいですね……」
「本当に頭が三つあるよ……」
部屋に入るや否や、彼女たちを出迎えたのは巨大な怪物。三つの頭を持った、巨大な犬――フラッフィー。
恐ろしいまでの威圧――だが、様子がおかしい。
「…………gg…………gg…………」
寝息を立てている。なんと、眠ってしまっているようだ。部屋にハープの音色が木霊する――そう、何者かが既に侵入していたのだ!
第一の罠は、ルビウス・ハグリッドが飼う野獣――獰猛なる三頭犬である!!