美月転生。~お兄様からは逃げられない~ 作:カボチャ自動販売機
「美月!大丈夫なの!?怪我はない!?」
司波宅に着いてすぐに、深雪が飛び出してきて、ガタガタと、ぼくの体を揺らした。
うん、大丈夫じゃないね。
「深雪、落ち着け。まだ何も起きちゃいない」
そう、怪我も何も、まだ何も起きていないのだ。
四葉の対応が早かったのか、まだ監視もついていない。
そこまで心配することなどないのだ。
「美月が大変なときに、私は勝手に怒りを覚えて、無視してしまって……ごめんなさい……」
なんで深雪が怒っていたのか、ぼくは全く分からないけど、そのことを気にして、異常に心配してくれていたようだ。
別に謝らなくても、ぼくは深雪の全てを許す。
それに、深雪がぼくを嫌いになったって、ぼくは深雪を嫌いにはならないだろう。
どんなに、軽蔑されようと、冷たくあしらわれようと、いずれはそれさえもご褒美にできる自信がある。
……でも、それは後々の話。
深雪に無視されて、ぼくもちょっと傷ついた。これはいくらか慰謝料を貰っても、良いんじゃないかな!
「チューしてくれたら許してあげる」
「調子に乗るな」
言葉を口にした瞬間、バコッと頭に衝撃が走った。達也が後ろからチョップを繰り出したのである。
「なんで達也が口出しするのさ!これはぼくと深雪の間の事なの!この、シスコン!完膚なきまでにシスコン!骨の髄までシスコン!」
「美月、この二人が紹介したかった――」
「無視なんだ!?ビックリした!勝手に話が進んでビックリしたよ!」
達也のぼくの扱いも、なんだか最近雑じゃない!?ナチュラルに無視って一応とはいえ、婚約者に対してどうなのかな!?
「わ、私は別にチューくらい……」
「深雪、この馬鹿の言うことは一々真に受けなくていいよ」
「ですが、このままでは私の気が収まりません!同性同士ですし、それに……一度してますし」
「……ん?いや待て深雪。今何かとてつもないことを言わなかったか?」
頬を赤く染めた、艶やかな顔で口許を押さえる深雪。
あら可愛い……って、深雪ぃぃいいいいい!?なんでそれ言っちゃうの!?
ぼくが分解されちゃうよ!今までどうにかバレずにここまで来たのに!
「た、たたた達也!?紹介したい人ってこの二人のことなのかな!?さっきからげんなりして待ちくたびれた様子だし、早く紹介してくれないかな!」
急いで話を逸らしにかかる。
部屋の隅で二人固まって、唖然とこちらを見ているのは、この部屋に入った時から知っていた。
この二人を利用して、なんとかこの話を無かったことにしなくては!ぼくの命が危ない!
「深雪お姉様と達也さんのイメージが……」
「み、水波さんの気持ちが良く分かりました……」
どうやら二人の中で、今の深雪と達也が予想外だったらしく、何だかバグっている。
そのおかげで、達也が二人のフォローに向かい、なんとか話を逸らすことに成功した。良かった!
ぼくは、この隙に、未だに頬を赤くした深雪に近づき、耳打ち。
「深雪、ぼくは別にチュー、って言っただけで、頬っぺたとかでも良かったんだよ?」
カァッと、深雪の顔が真っ赤に染まった。
鼻血が出そうだった。
◆
「改めまして、黒羽文弥です。先程は取り乱してしまいまして、申し訳ありません」
「黒羽亜夜子と申します。文弥とは双子の姉、弟の関係になります」
中性的な顔立ちの文弥君と、良い感じに縦ロールの効いたお人形のように可愛い亜夜子ちゃん。
文弥君が本当に申し訳なさそうに、少し恥ずかしそうに挨拶すると、亜夜子ちゃんが、クラシカルなワンピースをゴージャスに翻して、丁寧に一礼。
「ぼくは柴田美月、一応、達也の婚約者ってことになっているよ。よろしくね」
ぼくの自己紹介に、一瞬、亜夜子ちゃんがピクリッと反応したような気がしたけど、気のせいだろうか?
「二人は俺たちの再従兄弟で、学年で表すと一つ下になる。ちなみに、二人は俺たちと違って、双子だ」
双子繋がりで連想したけど、香澄ちゃん・泉美ちゃんと、同じ学年ってことだ。
「ぼく、深雪と達也の親族って真夜さんしか会ったことなかったけど、ちゃんと存在したんだね」
「しないわけがないだろう」
「だって、両親にさえ会ったことないんだよ?あ、そういえば、母さんがまた一緒に夕飯食べたいって。作るのぼくなのにね」
「そうか、是非、とお伝えしておいてくれ」
ぼくがナチュラルに達也と会話をしていると、何やら黒羽姉弟が、唖然とこちらを見ていた。
「どうかした?」
「あ、いえ、その、あまりに……達也さんの雰囲気が『普通』で、それが意外というか」
文弥君の想像する達也って一体どんななのだろうか?
確かに達也は普通ではないけど、普通の会話もする。まあ、親戚って言っても、あまり関わりがなかったりするのかもしれない。
四葉家って、あんまり仲良さそうじゃないし。
「達也って愛想がないからそういう風に思われちゃうんだよ。いっつもむすーっとしちゃって。損だよ、そういうの」
達也って実は人見知りなんだろうか、というくらいに、初対面の相手にはムスッとしていることがほとんどだ。たぶん、警戒しているだけなんだろうけど、もっと深雪みたいに愛想良くすれば、達也の評価も変わると思うんだけどなー。
「……それで、この二人に来てもらったのは、四葉との情報伝達、メッセンジャーとしての役割と、美月の護衛を担当してもらうためだ」
華麗にぼくのアドバイスをスルーして、勝手に話を進める達也さん。
そういうとこだよ!そういうところを直そうって言ってるんだよ!
「ぼくの護衛って、達也がいるじゃん」
「美月に近しい人間の生活サイクルは調べられているだろう。当然、俺もな。そうなると、俺も普段通りの生活を崩すわけにはいかない。俺が美月から離れることもある、ということだ」
確かに、達也は外出することが多い。ぼくと同じで仕事もあるし、それ以外でもちょくちょく、どこかへ出掛けることがある。それが急に無くなったら確かに不審だし、怪しい。
「そういう時の護衛を二人には担当してもらう。と言っても護衛を頼むことはまずないだろうから、基本的にはメッセンジャーだと思ってくれ」
どうやら、四葉が秘密裏に動いているようで、既にぼくの護衛チームが編成されており、活動を開始しているらしい。
文弥君と亜夜子ちゃんは、そのチームの一員だから、護衛を頼む、ということになるけど、この二人が直接ぼくに張り付く、という感じではないらしい。
「まあ、今日は本当に顔合わせだよ。この二人とはいつか関わることになっていただろうし、『慶春会』に向けての根回しの一環だ」
ぼくみたいな一般人には分からないけど、四葉家のような大きな家ともなると、分家やらの柵があるようで、婚約一つにも一苦労なんだとか。
「基本的に僕たちは護衛チームの一員ではありますが、学校もありますし、不定期にこうして報告させていただくのが主な仕事になると思います」
「そうなんだ、大変だね中学生のうちからこんな仕事」
えらいえらい、と文弥君の頭をなでなですると、文弥君は照れた様子で頬を赤くしていた。うん、初々しくて可愛いね。男の子のくせに中々やるではないか。
「痛っ!ちょ、姉さん!?」
「……文弥、デレデレし過ぎです」
何やら、二人がコソコソと話し始めた。
どうやら、二人のヒエラルキーは亜夜子ちゃんの方が上のようで、文弥君は振り回されている印象。
弟とはそういうものだよね。
「そ、それでは、僕たちはこれで」
五分ほど、二人で小競り合いをしていたけど、どうにか話は丸く収まったのか、いくらか疲弊した様子で、文弥君達が席を立つ。
ぼくと達也、深雪も、見送りのために、二人と一緒に玄関まで付き添う。
「じゃあ、迷惑かけちゃうかもしれないけど、よろしくね」
はい!、と元気よく返事をしてくれた文弥君とは対照的に、亜夜子ちゃんは、なにやらプルプル震えている。
そういえば、文弥君との小競り合い以降、全く話していなかった。
元々、口数の少ない娘なのかな?
そんな風に考えていると、亜夜子ちゃんがキリッとぼくの方を向いて、ビシッと指差す。
「美月さん!私は、私は諦めませんわ!負けませんわよ!」
ポカーンとするぼくをそのままに、亜夜子ちゃんは去っていった。
その後をペコペコと頭を下げながら文弥君が出ていくと、達也が言う。
「……普段はこうじゃないんだが」
どうやら、達也の親戚っていうのは、やっぱりどこか普通じゃないみたいだ。
――その後の姉弟――
・・・( ̄д ̄)亜夜子「文弥はああいう方が好みだったんですね」
(-。-;)文弥「うぅ……」
(〃 ̄ω ̄)ジトーッ 亜夜子「頭撫でられて、デレデレしちゃって。簡単に誑かされて。意外とむっつりなのかしら?」
Σ(´□`;) 文弥「む、むっつりじゃないよ!誑かされてもないし!」
ヾ(*`Д´*)ノ" 亜夜子「やっぱり胸なのかしら!?胸があれば達也さんも私を」
Σ( ̄Д ̄;) 文弥「達也兄さんに限って、そんなことはないと思うよ!?大体、姉さんの胸にはもう成長の見込みがーー」
ドス(=゚д゚)ニい)'д`)グハァ
この後、文弥がどうなったのか、それは乙女の秘密?である。