美月転生。~お兄様からは逃げられない~ 作:カボチャ自動販売機
達也と勝負をして数日が経った昼休み。
ぼくは親友に胸ぐらを掴まれグラグラと揺らされていた。
「サッカー部を辞める!?おまっ、お前からサッカー取ったらおっぱいしか残らないだろうが!」
「ぼく怒るよ!?おっぱい以外にも色々残るよ!ほら、頭の良さとか、運動神経とか………とにかく残るよ!」
深雪さんの絵を描きたい!という衝動が抑えられずぼくは等々サッカー部を退部することに決めた。きっと今世でのぼくはサッカーではなく美術に人生を捧げるべきなのだ。というかもうそうとしか思えなくなっていた。
サッカーは好きだ。大好きだ。
熱は冷めてない。もっと上手くなりたいし、もっとプレイしたい。
でも、それ以上に絵を描きたかった。
「まあ、美月が良いならアタシは何も言わないけど……本当に良いのか?」
「うん、もう決めたから」
ぼくがそう言えば、親友は胸ぐらから手を離し、椅子に座り直した。
「そっか、頑張れよ」
そして、優しく微笑みながら言葉をかけてくれた。
ぼくの親友はちょっと男っぽい話し方をするからか、ぼくとしてはかなり話しやすく、こうしてぼくのことを心配してくれてつい甘えてしまう。
良き理解者がいるというのは、大事だなーと思います。貧乳だけどね。
「おい、コラ、今失礼なこと考えてただろ!」
…ごめんなさい。
◆
「まさか、俺に負けたからサッカー部を辞めたなんて言わないよな?」
「それは本当にまさかだよ、ぼくサッカー大好きだし、今後もちょくちょく練習に交ぜてもらうしね。ただサッカーよりもっとやりたいことが出来たってだけ」
放課後、珍しく一人でいる達也に遭遇した。なんでも深雪さんのクラスのホームルームが終わるのを待っているらしい。
「達也はさ、やりたいことってないの?達也は頭も良いし、運動も出来るし、きっとなんだって出来ると思うのに」
「やりたいこと、か」
達也はなんでもできる。
まだ数日しか関わりのないぼくでもそう思ってしまうほど才能に溢れているし、実際なんでもそつなくこなす。
「うん、なんだか達也ってさ自分の意思が薄いような気がするんだよね。流されるままっていうか、仕方ないって諦めてるって感じ。それって勿体なくない?折角沢山の才能があるのに、それをなんでもないもののように扱ってる」
達也からは情熱というか、熱を感じない。冷たく淡々とロボットのように人生をこなす、そんな印象すらあった。
「…美月は中々に鋭いな……俺は流されている、諦めている…そうなのかもしれない。…けどな、それも悪くないって思ってるよ」
小さく微笑んだ達也の視線の先には小走りでこちらに向かってくる深雪さんがいた。
「お兄様、お待たせいたしました!……すみません、お邪魔をしてしまいましたか?」
「いや、ちょうど終わったところだ」
不安げに達也の顔を見上げる深雪さんに、達也は優しく頭を撫でると、ぼくに言う。
「美月、どれだけ才能があっても出来ないことの方が多い。そして、自分の欲しい才能を持ち合わせている人間というのは稀だ……大事にしろよ」
どうしてか、達也のその言葉はぼくの心に何時までも残り、その時の寂しそうな表情がぼくの頭を離れなかった。
「あれ?胸が苦しい…?」
ぼくは何故か突然、胸を締め付けられるような痛みを感じ、しばらくの間その場に立ち尽くした。
話によって文字数にバラつきが出そうです。
さて、明日も0時に投稿します。