美月転生。~お兄様からは逃げられない~ 作:カボチャ自動販売機
お互いに自己紹介を済ませたぼくと愛梨は自分達の教室であるB組に向かっていた。
今日はもう授業も連絡事項もないのだけど、新しい友達を作るのなら一度ホームルームへ足を運んでおくのが一番の近道だろう。
一年間、苦楽を共にする仲間と少しでも早く会っておきたいというぼくの意見に愛梨が快く賛成してくれたのだ。
当初の予定では諸手続きを終えたらすぐ、達也たちと帰る予定だったのだけど、愛梨を一人にするわけにはいかないし、別で帰ることにした。
たぶん、きっと、ぼく一人でも帰れるはず……ああ、でも今のぼくには無理かもしれない。
もうね、何もやる気が起きないの。
「美月、まだ落ち込んでいるの?そんな調子でクラスメイトに会っても仲良く出来ないと思うけれど」
実はついさっき、深雪から連絡があり、深雪とは同じクラスになれなかったことが判明した……。もう二度と神様なんて信じない。
初詣は深雪の着物姿を拝むためだけのイベントに成り上がるのさ……。
「友達と同じクラスになれなかったのは残念かもしれないわ。でも、ほら、その……貴女には私がいるじゃない?」
あのね、神はいないけど天使はいたよ。
仄かに顔を赤くして、モジモジしながらそんなことを言ってくる愛梨は兵器と言っても過言ではないね!
「わ、何!?」
「可愛いな、愛梨は~!うんうん!愛梨がいてくれるからぼくはもう大丈夫!」
軽く抱き締めて、頭を撫でれば愛梨は照れたようで、そっぽを向いてしまったが、嫌がってはいないようだ。
普段、強気で気丈な振る舞いの分、こういう反応をされると可愛くて仕方がない。
こんな性格だし、プライドも高そうだから、たぶん愛梨は愛でられ慣れていないのだろう。初々しい反応だ。
「わあ、二人とも仲良しさんなんだね!」
そんな感嘆の声に反応して、何よりぼくの美少女センサーが反応して、そちらを向けば、やや小柄な愛らしい美少女がいた。
ルビーのような光沢のある紅い髪が印象的で、彼女の愛らしいさをより増していた。
つまり凄く可愛い。
「私、明智英美。日英のクォーターだから正確にはアメリア=英美=明智=ゴールディなんだけど、長いからエイミィって呼んでね……ってあれ?もしかしてB組じゃなかった?」
元気に自己紹介する明智英美、エイミィに言われて、ぼくと愛梨は初めて、いつの間にか、B組の前に着いていたことに気がついた。
エイミィの自己紹介に反応できなかったのは、単純に、呆けていただけである。
「うん、ぼくも彼女もB組だよ。ぼくは柴田美月」
「私は一色愛梨ですわ」
どうやら愛梨はエイミィにはお嬢様バージョンの口調でいくようだ。というより、単に緊張で口調が固くなっているだけかな。
ぼくとは普通に話してくれるようになったし、本来は違うのだろう。
「二人は同じ中学校?」
「いや、入学式で席が隣だったんだよ。そしたら、lDカードを発行してもらう窓口も隣でね、仲良くなったんだ」
愛梨の腕に抱きつけば戸惑ったように、照れたように、愛梨はまた、そっぽを向いた。
可愛い反応をしてくれちゃって。
「へー!美月に愛梨で良いかな?」
「いいよ」
「構いませんわ」
モスグリーンの瞳を輝かせながら話すエイミィは、緊張している様子はなく、愛梨とは逆に、初めて出会う人達にワクワクしているというか、テンション高めだ。
すぐに友達と馴染めて、可愛がられるタイプだろう。ぼくも撫でまわして甘やかしたい!
「二人はこの後どうするの?」
「んー、一応ホームルームには顔を出そうと思っていたけど……」
ホームルームへ顔を出しておこうと思ったのは新たな友人を作るためであり、こうしてエイミィという美少女の友達を作ることができた今、特にそうする理由もなくなった。
つまり予定はない。
「なら、どこかにお昼を食べに行かない?私、お腹空いちゃって」
「ぼくは大丈夫だけど……愛梨は?行ける?」
「ええ、ご一緒させてください」
大分、症状が緩和されている。
愛梨は友達がいると、いつもの自分でいられるタイプなんだろう。この調子ならエイミィともすぐに仲良くなれそうだ。
◆
エイミィのおすすめだという、中高生向きのイタリアンレストランにやってきたぼく達は、昼食を済ませ、お喋りに興じていた。
愛梨もエイミィとすっかり仲良くなり、意気投合している。
「へー、愛梨の実家って金沢なんだ。そうだよね、一色家だもん」
「そういうエイミィもゴールディ家といえば名家じゃない」
ぼくも、一高に入学するにあたり、魔法師の常識ってやつは多少勉強してる。
師補十八家の一色家は勿論、ゴールディ家も有名だ。日本の魔法師の家系、『
まあ、両家共にインターネットで調べれば、本家の住所まで分かるんだけどね。
調べても分からないのって四葉くらいだし。
「でも、それなら三校の方が近いよね?なんで一高?」
「……秘密よ」
「えー!なんか怪しいなー」
ニヤニヤとしながら愛梨に詰め寄るエイミィ。
うんうん、美少女同士のじゃれあいを見るのは素晴らしいね。
呑気にそんなことを考えていると話の矛先はぼくに向いてきた。
「美月はどうなのよ?柴田って魔法師の家ではないでしょうし、魔法科高校を受験したのにはそれなりに理由があるのではないの?」
魔法が使えるからと言って、魔法師になれるわけではない。
魔法とは色々お金のかかる学問で、教育費は凄まじい。国立の魔法科高校でさえ、教師が足りていない現状、魔法を学べる場というのは少なく、魔法の才能があるというだけでは魔法師にはなれない。
一高を含めた、魔法大学付属高校は国立だから、国がかなり負担してくれるけれど、それでも、私立大学くらいの学費は必要になる。第一、超難関の国立魔法大学付属高校に入学できるくらいの魔法力を身に付けるためにはそれなりに高度な魔法教育が必要であって、そのためには莫大な教育費が必要になるだろう。
だから、魔法科高校に進学する生徒というのは、その殆どが名家で、どこかで魔法と繋がりのある家ばかりだ。
実用レベルで魔法を発動できる中高生は、年齢別人口比で1/1000前後で、その中には勿論、ぼくみたいに両親が魔法を使えない、という人間もいるのだけど、そういう人は家が裕福でもない限り、魔法なんてないみたいに、普通に過ごす。
つまりぼくみたいに魔法とは縁も所縁もない人間が魔法師を目指すのは珍しいことで、それなりの理由があるはずなのだ。
「んー、愛梨たちと出会うためかな?」
ぼくがウィンクしながらそう言えば、愛梨は顔を紅くしながらたじろき、エイミィも紅くなった顔を隠すように俯きながら、ストローで勢い良くオレンジジュースを吸い込んだ。
二人とも可愛くて、美月さんは満足です。
「冗談、冗談」
「もお、ちょっと照れちゃったじゃない!」
エイミィがぽかっと軽く小突いてくる傍らで、愛梨は頬を膨らませていた。
ちょっとやり過ぎちゃったかな?
「なんだか結局はぐらかされたみたい」
「良いじゃん、愛梨だって秘密なんでしょ?」
愛梨ははぐらかされたって思ったみたいだけど、別にそんなんじゃない。
愛梨たちと出会うため、っていうのも、嘘じゃないしね。
ぼくが一高に入学したのは、それがきっとぼくにとって良いものになると確信したからだ。
その中にはきっと愛梨たちとの出会いだって含まれているのだから。
この後、ぼくたちは日が暮れるくらいまでおしゃべりをしてから解散した。
別れるとき両手いっぱいで手を振るエイミィが可愛かったり、愛梨の住んでいるマンションがぼくの家から結構近いことが分かったり、色々あったのだけど、ぼくは一人、キャビネットを降りたところで気がついた。
「……ここからどう帰れば良いんだっけ?」
とりあえず、達也に電話した。
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137・名無しさん
今調べてたんだけど、ワンダーランドの新アトラクションの御披露目には参加していた模様
138・名無しさん
137>>詳しく
139・名無しさん
ワンダーランドのCMを担当しているアイドルの栗宮がブログで、御披露目で月柴美と話したって書いてる
140・名無しさん
栗宮美春か。魔法師アイドルという個性抜きにしても、可愛いよな
141・名無しさん
ブログ見てきたけどワンダーランドの関係者だけで行われたパーティーみたいな感じだったらしい
142・名無しさん
↓これブログのコピペな
今日はワンダーランドの御披露目パーティー!そこでなんと月柴美さんとお会いできましたー!“〆(^∇゜*)♪
と、言っても分からないかな?まだデビューしたばかりのイラストレーターさんで、私が個人的に大ファンなんですよねー(*≧∀≦*)
サインも貰っちゃって、超嬉しかったー!
143・名無しさん
なんかこの内容だと、月柴美一人っぽくね?イラストレーター『さん』だし
144・名無しさん
そこはブログに書くわけだし、本人から色々言われてんじゃね?
このブログでも月柴美のことは殆ど分からないし
145・名無しさん
でもそこまで徹底した秘密主義ってわけでもないのかもな。
正体バレたくないならそもそもパーティーにも参加しない
146・名無しさん
145>>まだまだ新人だった月柴美が断れるわけがないから、そうとも言い切れない
つづく
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( ̄ω ̄;)深雪「……私はまだクラスに友達がいないという現実を理解したくない……」
(つд;*)深雪「…………美月と同じクラスが良かった……」
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今話では終わらなかったスレ。
次話は愛梨ちゃん回になるので、スレは一旦お休みの予定です。
ついに、愛梨ちゃんが一高に進学した理由が明らかになる予定ですので、お楽しみに!