美月転生。~お兄様からは逃げられない~ 作:カボチャ自動販売機
真由美さんとはあのパーティー以降一度も会えていないが、連絡は何度も取り合っており、真由美さんはぼくのことをみーちゃんと呼び、とても可愛がってくれた。
だからぼくはせめてもの恩返しのために、この九校戦で精一杯応援しようとやってきたのだ。
なのに。
「ごめんなさぁぁあい!」
「いいのよみーちゃん!一人で不安だったわね!もう大丈夫よ、私がいるから!」
ぼくは早速迷惑をかけていた。
「ううぅ、チームの応援だってあるのに、迷惑かけて……ぐすっ」
「大丈夫、大丈夫だからね?」
バトル・ボードの会場に向かったぼくは、速攻で迷子になった。観客の一人すらいない会場に一人ぽつんと来てしまって、不安で仕方なくなったぼくは緊急手段として真由美さんを頼ったのである。
真由美さんはチームメイトの応援もあるだろうに、こうしてここに駆けつけて来てくれたのだ。
「ぼく方向音痴で……一人じゃ目的地にたどり着けないの忘れてて……」
「……スピード・シューティングの会場からバトル・ボードの会場までは五分もない距離なのに……みーちゃん余程なのね」
「うん、余程なの」
ぼくが一人で中学校に通えるようになるまで半年かかった。その間、薫には毎朝迎えに来てもらって迷惑をかけたものだ。
慣れ親しんだ街でならなんとかなるけど、初めての地となるとこの様である。
「それじゃ、一人にしておくのは不安ね……」
九校戦に会場の移動は付き物だ。
バトル・ボードが終わったら、昼食を挟んで、真由美さんも出場するスピード・シューティングの試合もある。
「そうだ!私の妹達が来ているはずだから、一緒に連れていってもらいましょう!」
こうしてぼくは、真由美さんの妹達(双子でぼくの一個年下らしい)に面倒を見てもらうことになったのだった。
……本当に情けないです。
◆
真由美さんにバトル・ボードの会場まで連れてきてもらい、そこで七草の双子と合流した。
「七草香澄です」
「七草泉美です」
ぼくの勝手な双子のイメージ通り、ほぼ同時にペコッと頭を下げる香澄ちゃんと泉美ちゃん。
泉美ちゃんは文学少女っぽい、いかにもお嬢様といった感じで、肩に掛かるストレートボブの美少女。
対称的に香澄ちゃんは「本なんか読んでられるかー」というような、ぼくのお嬢様像とはかけ離れた元気っ娘系美少女。
真由美さんの妹という時点で美少女なのは確定だったのだけど、やっぱり双子って揃ってこそ真価を発揮するんだね、素晴らしいよ。
「じゃあ私は戻らないといけないから、二人とも、みーちゃんをよろしくね」
「お任せください」
「りょーかい!」
真由美さんは二年生とはいえ、十師族であり、学校では三巨頭と言われている一人らしいから、彼女が意味もなく不在という状況はあまりよろしくないのだろう。
少々慌てた様子で一高の本部へと戻っていた。
「二人ともごめんね……」
「大丈夫ですよ!ボクらもお姉ちゃんからお話は聞いていたので、一緒に観戦できて嬉しいです」
「お話に聞いていた通りの可愛い方ですしね!」
うう、こんな駄目なぼくにも優しくしてくれて……好きになっちゃうぞ!
馬鹿なことを考えている間に、手を引かれて席に座らせられ、ぼくを挟むようにして両隣に双子ちゃんが座る。
両手に華だぜ。
ぼくらが座ってすぐに、両隣に美少女を侍らせたぼくへの抗議なのか会場が騒がしくなる。
「わあ、相変わらず渡辺選手はスゴい人気だなぁ」
どうやらこの黄色い歓声はぼくへの抗議ではなく、今から行われるレースの参加者、一高代表の渡辺摩利へ向けられたもののようだ。
香澄ちゃんの話では真由美さんと同じく三巨頭の一人に数えられており、他二人が十師族であるにもかかわらず同格とされるほどの実力派……らしい。
たしかにバトル・ボードのために作られた人工水路の足場の安定しないボードの上で、四人が横一列に並び、膝立ちや片膝立ちで構える中、ただ一人真っ直ぐに立っている姿は凛々しい。
「水着ってこんなのだもんな……」
格好いいのだけど、今のぼくが求めているのは身体にピッタリ貼り付くウェットスーツではなく、ポロリもあるドキドキな水着だ。
「あれ?もしかして美月さん、バトル・ボードのルール知りませんでした?」
「いや、しっかり覚えてるよ」
もう試合が始まるというのにつまらなそうな顔をしていたぼくを心配してくれたのだろう。
香澄ちゃんが聞いてくれたけど、ルールはしっかり覚えている。
バトル・ボードは人工の水路を紡錘形ボードに乗って走破する競争型の競技だ。
他の選手の身体やボードに対する攻撃は禁止されているが、水面に魔法を行使することはオッケー。
予選を一レース四人で六レース、準決勝を一レース三人で二レース、三位決定戦を四人で、決勝レースを一対一で競う。
水着女子を見られると思ってルールも覚えておいたけど、あまり意味はなかったなー。
「始まるようですよ」
ルールを思いだしつつ、物思いに耽っていると、いよいよレースが始まるようだ。
羨ましいことに熱心な女性ファンが沢山ついているらしく黄色い歓声を受けて、手を振っていた渡辺摩利も、『用意』の合図と共に真剣な顔へ変わる。
いちいち動作の格好いい人だ。
そして、格好いいのは動作だけではなかった。
常時、三・四種類の魔法をマルチキャストし、多種多様に組み合わせることで、臨機応変に対応し、不敵な笑みを浮かべたまま、コースに組み込まれた障害を難なくクリアしていく。
このレース、渡辺摩利は他の選手に圧倒的な大差をつけて一着でゴールした。
くそぅ、黄色い歓声が羨ましい!
─そのころの真夜さん─
(;・ω・) 真夜「勢いで帰って来てしまったけど……実際暇ね……」
(。´・ω・)真夜「葉山さん、何か仕事は……主にお手を煩わせるようなことはない?……優秀ね、流石だわ」
(´・ω・`)真夜「……やることがない……私ってもしかして……暇なのかしら」
Σ(;´□`;)エッ 真夜「水波ちゃん、何かゲームでも……仕事が忙しい?えっ何かしら、その何年も働かずに部屋にこもっている駄目な人間を見るような目は……?」
(つд;*)真夜「気のせい?そうよね、気のせいよね、お仕事頑張ってちょうだい」
( ̄。 ̄)ボ~ッ 真夜「………」
(;´∀`)真夜「……九校戦でも見ましょう」
意地を張って帰って来たものの、特にやることがなく、結局テレビで九校戦を観戦する真夜さんであった。