「この度はヒナタを救っていただき真に感謝する」
あの誘拐犯をとっちめてから次の日俺ははたけカカシに連れだされ、日向家とかいう家の屋敷に来ていた。
どうにも昨日の幼女がここの娘だったようで、木の葉の里でもうちはとかいう家と並んでトップクラスに由緒ある家柄だったらしい。
まあ忍の里故に由緒あるっていうのは秘術を持っているもので、昨日の奴さんはその秘術目当てに誘拐をしたらしい。
「もし私が追いついていたならば間違いなくあの忍を殺してしまっていた」
目の前に座っている男、名前は日向ヒアシは昨日すれ違った男だ。あの時と同じように色の薄い目で此方を見ている。
成る程、あの目がこの家の秘術ってわけか……興味が無いわけではないが、特に興が乗らないな。殺す相手としては別段どうでもいいという感じか……
「雲の里とは同盟を結んだばかりでな、もしあの忍を殺していれば何を要求されたかわかったものではなかった」
あの忍は既に雲の里に引き渡したらしい。自決させる事すら許さず、本人も生かされたとあってはいかに足を切り落とされようと文句のつけようがなかったらしい……まあ俺としてはどうでもいい事だ。
現にあの時は辺に高揚した精神に身を委ね行動したまでであり結果的に誘拐犯を無力化しただけである。
でも今思えば殺しておけばよかったか……もし何かを要求してきても木の葉としては俺を差し出せば済む話。次いで俺は雲の里で大虐殺を行える。
ああ、勿体無いことをした……今からでも追いかけて殺してやろうか…いや、雲の里の場所なんて知らないから無理か、忍の里なんだそう安々と見つかる筈もあるまい。
「そう言えば名を聞いていなかった、教えてくれるか?」
「七夜志貴だ」
「……七夜、聞いたことのない名だな」
それはそうだろう、この世界に七夜なんて一族は存在しない。いや、ある意味七夜というのは何処に行ってもここにしかいないのだから。
「つい先日木の葉に流れ着いた殺人鬼の成れの果てだよ」
「……ふむ、殺人鬼か」
思う所はあるだろう。そりゃそうだ、娘を助けたであろう勇敢な少年は実は殺人鬼でしたってどう考えてもやりきれないだろうしな。
だが別に訂正する気はない、俺は勇敢な少年になりたいわけでもないし恩着せがましいことをしたいわけではない。ただ人を殺したいだけ。多分世間一般的には性格が破綻していると言われるだろうな。だが七夜志貴としてはこの感情が正常であり人助けだなんて起こす日にはそれこそ破綻したと言えるだろう。
「それでも娘を助けてくれたことには変わりない。何か困ったことがあれば出来る限り手を貸そう」
思わずアンタを解体したいって言いそうになっちまった。恐らく背後にいるはたけカカシは俺が口走りそうな内容に薄々気付いたのだろう、絶対に口にだすなよ?といった視線を感じる。
ふむ、これは世間一般にで言うフリというやつではないだろうか、ならばその期待に答えてやらなくてはいけないか。
「アンt」グゥ
「……」
……肝心のところで水を差すなこの身体は……
全く前回と言い今回と言い何故勝手に腹がなる。確かに今日は朝食を食べずに連れだされてはいるが、それにしても空気を読んでほしいものだ。
「…そういえばいい時間だな、よし今日はここで昼食を取っていくといい」
ま、それくらいならご恩恵に与ろうか。以前のように食事のいらぬ身体というのも便利だが、やはり美味いものというのはそれだけで少し満たされるというものだ。
◇
「……」
「……」
配膳された料理を口に運びながら何故このような空気になってしまったのかを考える。
いや、考えるまでもないな……原因は俺の横で食事をする幼女、確か日向ヒナタとかいう奴のせいだ。何故か無言で此方をチラチラと見ながら食事をしている。視線を合わせてみると直ぐに顔を伏せるなどして視線を外してくる。思いの外鬱陶しい。
何を言いたいのかは分からないが、言いたいことがあればはっきりと言ってほしいね。あと数年か10年程度待ったほうがいい肉付きになって解体しがいがあるが、どうしても解体してほしいと言うのだったら惜しみながら解体してやるのだがな……
ま、俺から解体する事はないだろうな。現世においても縛り続ける元ご主人様の言いつけは随分と仕事熱心なようだ。
今も頭をよぎって仕方ない。
「……」
「……」
何やら日向ヒアシの方も何か考えながら俺と娘を見ている。
少しして何か納得したように頷いていたが、一体何を考えているのやら。
ま、もう関わることもあるまい。それよりも早い所忍術の一つでも身につけて暗部に入隊しなければいけないな……