乗っ取らせていただきました   作:茶ゴス

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自主任務

 夜、あの街よりもよく見える星空の下、監視の視線を感じながら俺は妙な気分になっていた。

 高揚するようにそれでいて頭がどんどん冷えていくような感覚……

 

 ああ、こういう日は人を殺すのに限る……しかしまあ、今の俺は安易に人を殺すことを許されていない身。別に破ることには何も感じないが、間違いなく俺は捕まり、下手をすれば殺されてしまうだろう。

 殺されるのは頂けない。死んでしまったら誰も殺せないのだから……あぁ、誰か侵入者でもいないかな……

 

 そうある筈もない思いを抱きつつ俺は夜の里を闊歩していった。

 

 

 ふと、妙な気配を感じた。ここから数百m離れた場所を移動する存在。これは2つ移動しているな、だが余りにも動きが同率しすぎている。恐らくは抱えられているのか……

 

 

 さて、もしかしたら俺のこの欲求が満たされる自体になっているのかもしれない。口角を上げるのを抑えきれず笑みを浮かべ俺は疾走する。

 動いている存在が向かっているのは里の入り口、これで侵入者だっていう可能性は高くなったか。

 

 しかし、侵入者をどう里の者ではないと判断するかが肝だが……なるようになるか。

 

 

 監視の視線は今ははたけカカシではない。あれならばこの程度の速度に追い付いてくるだろうが、監視の視線はどんどん離れていくばかり。さて、いいのか悪いのかは判断付かないが、今は走るのが優先だ。

 俺の乾きを潤して貰おうか……

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 おかしな存在…男と小脇に抱えられた気絶した幼女の2人は里の入り口に向かってはいるが姿を隠すため森に身を潜めつつ進んでいるようだな……だが、それは随分と悪手だ。なんたって夜の森なんて俺には格好の狩場なんだからな……

 

 しかしまあ、ここまで近付いてやっと分かったが幼女の誘拐とはねぇ……身代金が目当てかそれ以外の目的があるかはわからないが、少なくとも里の者でもこの状況で殺しは許されぬとも行動不能にすることくらいならば問題ないはずだ。

 適当に悪事は見逃せなかったとでも言えばどうとでもなるだろう。まあ、殺しの出来ない飢えは残るだろうけど何もしないよりはマシか……

 

 

 周囲を警戒しながら進む男の背後数mに石を投げる。当然男は石が落ちた音に反応し視線を向けるが、そこには茂みしか無い。

 ここで慌てないのが大事だ。数秒経つまで息を殺す。人間ってのは最大限の警戒心は大抵数秒しか持たない。何かあるなら別だが、何も変化がなければ長くても10秒程度で警戒を一度緩めてしまう……

 

 

 だからこそ、そこが狙い目なんだよ。

 

 

 跳躍し音もなく背後から男に近づく。身体が小さいというのはこういう時に障害物の隙間を跳べるから便利だな。

 まあ、欠点のほうが多いがそれは仕方あるまい。

 

 何にせよ、まずはその足から貰おうか。

 

 

「斬」

 

 

 一刀、足の付根から死の線をなぞり切り落とす。男は一瞬何が起きたのか理解も出来ずに突然襲いかかった痛みに大声をあげて倒れこんだ。

 俺はその時に放り出された幼女をキャッチすると、そっと地面に寝かせ男へと視線を向ける。

 

 こちらを恨めしげに睨む男、額当てと覆面という何処かで見たような格好をした男は血走った目を浮かべていた。

 

 

「不用心にも程がある。犯行に及ぶなら自身を狙う死神に注意をすべきだろう。じゃないと、今みたいになっちまうぞ?」

 

「クッ!貴様!こんな事をして唯で済むと思っているのか!」

 

 

 ふむ、里の者なのか?しかし額当ての模様がはたけカカシ等とは違うが……

 まあどっちでもいい。こいつは忍だってことには変わりはないのだ。取り敢えずは簡単に死なれない様に気絶させるとしようか。

 

 特大の殺気をぶつけつつゆっくりと近づく。男にとっては恐怖だろう。意味もわからぬ内に年端もいかぬ餓鬼に自身の足が切り落とされ、おおよそ子供が出せるであろう殺気を超えた物を身に浴びて短刀を片手に近づかれたら。

 

 男は足のせいで上手く逃げることすら出来ない。

 いや、男の腕が動いてクナイをなげてきた。それを少し横にずれることで躱した俺は一歩一歩ゆっくりと歩を進める。

 さて、お前はどう楽しませてくれる?

 

 

 人間というのは恐怖を感じるとまず否定する。状況を否定しようとするのだ。その状態の人間とは余りにも無防備で、簡単に殺せも生かすも出来る。

 腕を振り上げ短刀を勢い良く振り下ろす。丁度男の目の前、覆面が少しキレる程度に地面に突き刺すと、男は白目を開けて失神した。

 

 ふむ、随分と鍛錬が足りないのだな、忍というものは。しかし、面白半分でやってみたは良い物の獲物が動かないというのはつまらない。ただ無機物を殺しても満たされることなど無いのだから、

 

 さてどうしたものか。別に人を傷つけて喜ぶような変態的趣向を持っているわけではないし、かと言ってこのまま放置して帰るというのもつまらない。

 

 ああ、柵というのは本当に面倒くさいぞ。

 

 

 

 ん?ようやく監視の暗部が来たか随分と遅い到着だな……

 

 

「こんな所にいたか……この血は?」

 

「ん?大丈夫さ別に人を殺したってわけではない。ただ、いたいけな少女を連れ去ろうとしていた輩を懲らしめてやっただけさ」

 

 

 俺の言葉に気絶した男と寝ている幼女を確認した暗部はなにやら術を行使しだした。

 

 

「こちらテンゾウ、七夜志貴を第23演習場にて発見、少女一人を誘拐していた雲隠れの忍と交戦し無力化をした模様」

 

 

 成る程、通信を行う術もあるのか……しかし、無線機くらいはないのだろうか?確かこの里にはテレビや電話があるのだからあっても不思議ではないのだが……

 

 

「はっ、少女の特徴から見て先程通達された日向ヒナタで間違いないかと……了解」

 

 

 暗部は通信を終えたのかこちらへと視線を向けてきた、どうやらこの男は違う里の者らしい。勿体付けず殺しておいたらよかった。いや、今からでも遅くはないか?

 

 

「お手柄だよ。この少女は日向家のご令嬢だ。恐らくは白眼を狙っての犯行だろうな……」

 

 

 白眼ってなんだ?また俺の知らない言葉が出てきたぞ。まあ、ニュアンス的には魔眼の一種か……

 

 

「しかも殺さなかったのが尚良かった。足を切り落としてはいるが、命を奪わなかったお陰で雲の里にとやかく言われる心配も少ない」

 

 

 ふむ、別に殺してもいいだろう。もし何か言ってきたならば問答無用で皆殺しにすればいいだろうし……

 

 

「兎に角、あとは任せてくれ。もう遅いし君も帰るといい」

 

「……正直物足りないが仕方ない。あまり俺に我慢を強要しないでくれよ?」

 

「……カカシ先輩に言っておくよ」

 

 

 ああ、暗部に入隊するのが待ち遠しいな。何の柵もなく人を殺せるようになるにはどれだけ時間がかかるのやら……

 今日の所はこれくらいで帰るとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 家へと歩を進めていくと、暫くして眼の色が薄い男とすれ違った。随分と奇っ怪な目をした奴もいるもんだな……


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