暗部に入隊すると言った翌日、充てがわれた家で眼を覚ました俺は体の調子を確かめに近くの広場に向かった。
流石は忍の里といった所か、広場にもよほど訓練に使われているのか少し抉れた丸太が置かれている。
俺はその広場の側の森の中に入る。一度、二度その場で跳ね、息を殺して木の枝まで跳ぶ。着地と同時に跳躍、次の木に移る。音も立てずに次から次に移動し、一度ミシリと枝を撓らせ、ある所へ一直線に向かう。
朝からずっと感じていた視線。七夜を見張るには少しお粗末な監視の主である人物の背後を取り、首に腕を回し、ぶら下がるようにしてから話す。
「随分と舐められたものだ」
「くっ!!」
仮面を着けた男は降参だと言わんばかりに両手を上げる。俺はそれに両手を離し地面に着地する。身長が低いのが問題だな、速い内に慣れないとこれは困るぞ。
取り敢えず、体を伸ばしもう一つの監視者に視線を向ける。
するとそちらもヤレヤレと言いつつ茂みから出てきた。
今獲った男よりも隠形は格段に上手い男だと思ったが、まさか白髪頭だとは思わなかった。こいつは暇なのだろうか。
「お前、自分がどんな立場か解ってるわけ?」
「ああ、いつ誰かを殺すかわからない普通の少年だろう?」
あっけからんと答える俺に呆れるように首を振った白髪頭は俺に棒状の筒を渡してきた。
棒状の筒、仕込み刀はあの時俺が投げた七夜の短刀だ。まさか俺に返すとは思わなかったな。まだ俺には怪しいところが多数あるだろうに…この里の長、火影とやらは随分とおめでたい頭をお持ちのようで。
「暫く暗部では俺がお前を見る。まあ、まだ監視は解けないが我慢しろ」
「監視する割に案外簡単に武器を返すんだな。少し拍子抜けだよ」
七夜の短刀を受け取り服に忍ばせる。
ああ、やっぱり誰かを殺せる凶刃を持ってるだけでこうも安心感が違う。これでもしも誰かに襲われた時に遠慮なしに殺すことが出来る。
「そう言えばまだ自己紹介していなかったな。俺ははたけカカシ、お前の先輩に当たる」
「ん、俺は七夜志貴、まあ精々俺がこの里のやつを殺さぬよう目を光らせておくんだな」
俺がそう言い終えるとはたけカカシが俺の背後にいる男に目配せをした。それに男は頷き里の方へ走っていった。
「とまあ、お前を暗部に入れるにあたって一つ問題があってな」
「確かに問題だろうな、俺みたいな普通な少年があんな仮面をつけるのは違和感しかない」
「……俺は何も言わんが、違うぞ」
「他に見当たらないが?」
「お前、忍術使えないだろ」
はて、忍術とな…確かに俺は暗殺術なら問題はないが忍術のにの字も知らない。むしろそんな妄想みたいな物を知っている方がおかしいが…
少しなら魔術の心得もあるにはあるが、別に魔術を行使できるって訳ではなく、どういったものかを理解している程度だ……
「そこで、お前がある程度忍術の使えるようになったら正式に暗部に入隊となるってわけだ」
「……それまでは?」
「忍者学校に通ってもらう」
……今更寺子屋に通わされるとはな、あと数年で成人だというのに情けない話だ。
ああ、それに元ではあるが一応ご主人様の命令で女子供を殺すのは禁止されているからな……殺しが出来ない暗殺者に何の価値がある?
「暫くは我慢しろ。と言ってもお前の場合おそらく一年程度で入隊となるだろうがな」
「仕方あるまい、現世ってのは柵だらけだと改めて実感させられるよ」
俺の言葉にため息を吐いたはたけカカシはそのままその場から消えた。恐らくはまたどこからか監視しているのだろう、場所は分からないが監視されているということくらいはわかる。
取り敢えず朝食をとるために昨日手渡された賃金を取りに家へと向かう。はてさて、俺はどこまで我慢ができるのかね……