「……ふむ」
目を覚ますと牢獄だった。
コンクリートの壁に鉄格子、見事な牢屋ではあるが、些か現代風とはいえない。
少し前時代的だとは思うが……
脱獄するのも面倒だ、取り敢えず誰か来るのを待つとするか……
「む?」
死の線が見えないな、あれは一時的の物だったか?……いや、見えた。
ああ成る程、転生者にこの眼をよこした奴は随分と優しいんだな。直死の魔眼を閉じることが出来る。本当ならば目を瞑っても死を理解しているならば見えてしまう眼なのだがな……
さて、誰か来るまで自分の置かれた状況を確認するべきか。
まず持ち物であった七夜の短刀は無くなっている。それは当然だろう、こんな牢屋にいれるのに武器を取り上げないのはあり得ないからな。出来れば回収しておいて欲しいところだが、別段あれが無くとも人は殺せる。七夜という名前に義理も果たし終えているし、俺としてはあれにはあまり思い入れはない。強いていうならばあの強度は少し惜しいとは思うがな。
次に服装にはここに来た時の格好、紺色の和装のままか。まあ、恐らくは隠し武器を調べられただろうけど、暗器などは今は持っていない。
他に目立った外見の特徴はないが……何か身体が変だな。自分に魔力があるのは知っているが、他に何か別のものまであるのがわかる。
淨眼で見てもいまいち分からないな。まあこの眼は見えないものが見えるだけであって、それが何なのかは解らないから仕方ないが……
しかし魔力以外の何かか……思いつくとすれば気だが、何故かそうではない気がする。
取り敢えず操れるか確認してみるか……えっと、身体の中心に集まっているな…それに何か血管のように広がる道が存在している…その道が全身に巡っていることから、これを全身に巡回できるとか?
……いまいちわからん。
まあいい、使えないものをどうにかしようと思っても何も出来ないのが関の山だ。ならば今置かれている状況で最善を尽くす他あるまい。
「さて、来たようだな」
牢屋の鉄格子越しから見える階段から降りてくる気配を感じる。数は3人か……
先程対峙した白髪頭の気配も感じるが……一つ疑問に思うな。どうして俺はここまで気配察知に優れている?本来であればある程度は察知できても今のように手に取るようにはわからなかったはずだが……
これも転生者が望んだとかいう力のせいなのかもしれないな。ホント無粋な事をしてくれたもんだ。人を殺す上でこんな力ばかりあれば殺しは楽になるが、意味を失ってしまいそうだ。
「目覚めておるようじゃの」
……傘帽子というやつか、今時そんなものをつけている奴がいるとは思わなんだ。いや、この世界では普通なのかもしれん。
「体の調子はどうじゃ?」
「さてね、随分と便利な身体に俺自身戸惑っているよ」
「……どういう意味じゃ?まさかお主大蛇丸と何か関係が……」
「おろちまる?」
どの世界にでもいるもんだな、人のわからない単語や知らない人物名を上げて何かを疑う奴ってのは。
にしても今の発現で出てくる名前か、もしや大蛇丸とやらも転生者に関係が?
もしそうなら速やかに殺すとするか、何分俺を呼び出しておいて殺すまもなく消えてくれたからな、他の転生者でも構わんだろ。
「いや、関係ないならいいのじゃ。で、お主に聞きたいことがあっての」
「それよかそこの白髪頭の人、俺の短刀は回収してくれたのかい?」
「あ、ああ。だが渡すわけにはいかないがな」
「いや、ちょいっと確認したかっただけだったんでな」
そうか、回収してくれたのか、そいつは上々。あるっていうのなら貰っておくとするか。
「で、聞いても良いかの?」
「ま、俺が知る範囲で頼むよ。何分ここに来て少しだから情勢には疎くてね」
「……お主は何処の里の者じゃ?」
「里か、まあ生まれは七夜の里だな」
「…聞いたこともない名前じゃが忍の里なのか?」
「忍?そんな空想上の者存在するわけ無いじゃないか。魔法使いや吸血鬼、夢魔ならまだしも」
「……忍を知らぬと申すか…ではお主は何じゃ?」
「殺人鬼、人外専門の暗殺一族の最期の生き残り、祟り、ま、色んな肩書はあるが好きに呼んでくれ」
にしてもこの傘帽子、話し方からして随分と重役にも見える……
「なあ、あんたはここで一番偉いのか?」
「まあ、ある意味ではそうじゃろうな。しかし火影すら知らぬとは…」
「……へぇ」
思わず口角があがる。それと同時に左右の二人が傘帽子の前に出た。
おっと、殺気が漏れちゃったか、我慢出来ないってのは俺の悪い癖だな。
しかし、子供相手にここまでの殺気を放てるとは面白い。随分とこの世界は殺伐としていると言えるのだろう。
「お下がりください三代目!」
白髪頭はさっきの手合いである程度の実力の一端はみた。俺には到底正面切って戦えるような相手ではない。
もう片方のバンダナにコート着た男も恐らくはそれなりにやるのだろうな。
さて、未だ自身の身体については不明瞭な事が多い中、自分よりも格上の相手をするという状況か……いい感じに不利ってやつだ。
この状況で殺せたらどう思うのだろうか……知りたい。
「目が蒼く?」
「知ってたかい?お三方、この世界ってのは脆く壊れやすいんだぜ?」
「何を言って……」
「地面なんて無いに等しいし空なんて今にも落ちてきそうだ」
おかしな感覚だ、本来であれば脳を焼き切るような感覚に放り込まれるものを、感じる痛みは幻痛だと理解できる。
はは、ノーリスクで死を見るなんてな、こんな事を知れば何処ぞのピアニストが発狂しかねない。
「世界はこんなにも死に溢れている。だから、こんな囲いもこうやって」
鉄格子の死を爪でなぞる。2度なぞることで音を立てずに鉄格子が切断され、床に落ちた。
それに相手は身を引き締めたように構えた。なにやら俺の中にもあった何かを高めているのがわかる。
手に集めているな、いや、白髪頭の方は眼か…
「さあ、殺し合お」グゥ
「……」
……腹が鳴った。そう言えば何も食っていなかったか…
「……さあ、殺し合おう」
「いや、仕切り直しできる空気じゃないでしょ」
「ええぃ、煩い!子供の身体故に仕方ないだろう!大人ならば黙って見逃すのが礼儀ってもんだ」
「……なんとアンバランスな子供なのだ」
「お主がいかにその鉄格子を切ったのかは知らぬ。チャクラを纏わしたようにも見えなかったしのう……してお主は何がしたいのじゃ?」
「……人殺し」
「…理由をきいても?」
「理由なんてあるわけないだろ。人を殺すのにそんなものは無粋だ。理由なんてただの言い訳にすぎないさ」
俺の言葉に一度息を吐いて傘帽子はその帽子を抑えた。
「ではお主は殺して何を得る?」
「なにも?強いていうならば俺は殺す存在だからだ」
「……世知辛いのう、お主のような幼子の意思をここまで歪めるとは…」
「じゃあ、殺し合おう」
◇
数分でやられた。
魔術のような物をバンバン撃ってくるわ手裏剣が分裂してくるわ、随分と非現実的なまでの戦いで俺は捕まった。今度は腕も縛られて。
元より俺は正面切って戦うような人種ではない。虚を突いて暗殺することが俺の戦い方、否暗殺者としてのスタイル。敵に正面から戦うことになるなんて未熟の証拠だ。
「お主、人殺しが出来ればよいのじゃな?」
「有り体に言えばそうだな。欲を言えばアンタ当たりを殺したい」
「物騒なことを言い寄るわ。そんなお主に提案じゃが、暗部に入らぬか?」
「暗部?」
「暗殺部隊、言わばお主の一族のような事を仕事にしないかと言っておるのじゃ」
「……こんな子供に暗殺部隊なんてよく言ったな」
「お主ほどの実力ならば問題あるまい?で、答えは?」
「乗った。だけどな、もしあんたが俺に対する警戒を怠るようなことがあれば、その時はあんたの首を貰うぜ?」
「……わかった。しかしお主が何の正当性もなく里の者を殺せば、その時はお主を殺す」
ほう、コレがこの里の長の殺気、紅赤朱程ではないが随分な威圧感を放っている。
全く、とんだ化け物だ、それくらいじゃないと殺り甲斐がない。