自分なりのやり方で廃校阻止のために動くことを決意した翌日、私はそもそもの原因を知らないことに気づいた。というわけでLet'sネットである。
私の病室は病室だということを忘れそうになるほどに充実した空間になっている。最新型のノートパソコン、病院の備品だったはずのテレビにつないであるDVDプレイヤー、可動式でベッドから動けない私でも簡単に使える本棚、etc…といった具合だ。
院長一家が保護者代わりをしてくれていることと、カウンセラーとして病院に貢献しているから、という理由で美姫さんがゴリ押しして揃えてくれたもの。自由に出歩けない私にはありがたい。カウンセラーとして、話のネタ程度には世間の情報を集めておく必要があるのだ。
色々調べた結果辿り着いた名前は、『UTX学園』と、そこのスクールアイドル『A-RISE』。昨今爆発的な大ブームとなっているスクールアイドル…その頂点と言えるグループが所属する大人気の学園か…なるほど、言い方は微妙だけど、ご近所の音ノ木坂としては割りを食った、って感じだな…
スクールアイドル、というのが流行っていることくらいは知っていたが、その筋のトップだというA-RISEの名前は聞き覚えがなかった。どうやら私は自分で思っている以上に世間知らずだったらしい…
そういえば、花陽さんと話した時にスクールアイドルの話題で何だかスイッチが切り替わったかのような勢いで熱く語られたことがあったな。正直圧倒されっぱなしで話の内容はサッパリ頭に入ってこなかったけど…隣で笑って見ていた凛さんの反応からしてよくあることみたいだし、花陽さんはスクールアイドルに詳しいのだろう。今度ちゃんと話を聞いてみようかな…
さて、1番大きな原因は分かった。そこからどうするかだ。真っ先に思いついたのは『音ノ木坂のスクールアイドル』だ。人気が出れば学生でも大きな影響力を持てるのは前例がある。だが、それが一番厳しい道なのでは…とも思う。A-RISEのことも一通り調べたが、彼女達と今の音ノ木坂では前提条件から違いすぎる。
まずは『時間』。彼女達が活動を開始したのは2年前、メンバーが入学してすぐの頃だ。どうやら以前からの友人だったメンバー3人が入学前から約束していたことらしい。そこから本格的な大人気となったのは活動開始から1年後。さらにその半年後に開催されたスクールアイドルの大会『ラブライブ』…運動部で言うインターハイのようなものらしい…これに出場し、見事優勝…スクールアイドルの頂点として君臨した…ということだ。
しかし、こちらには彼女達にはなかった明確なタイムリミットがある。廃校を撤回するには、諸々の手続き等を考えれば遅くとも冬に入る前には入学希望者を目に見える形で増やさなくてはならない。
次に『環境』だ。A-RISEのメンバーの1人、優木あんじゅさん。彼女はこの辺りでかなり有名な優木財閥のお嬢様らしい。その財力と人脈で、練習環境などを整えていたという。
その上に学園側も全面協力の態勢を敷いているそう。作詞、作曲、衣装製作、マネージメント等、サポート要員には学園の生徒や教師も参加しているという話だ。万全の態勢というヤツだ。さすがは王者。
ざっと調べただけでもコレだ。やはり無理…というか可能性としては低いと言わざるを得ない。考えが安直すぎたか…
…………どうしたものか………
結局何も思いつかないまま、時間は過ぎていった…
「ミコちゃん先生、私、スクールアイドルになる‼︎」
「…………えっ?」
安直というか率直というか、穂乃果さんのトンデモ発言に思わず耳を疑った。
「えーっと、それは音ノ木坂のスクールアイドルとして人気を得て、入学希望者を増やそう、って話かな?」
「スゴイ、ミコちゃん先生!良くわかったね!」
「私も一度考えたことだからね…でも、それでなんとかできる自信はあるの?」
私は先日調べて考えたことを丁寧に説明した。条件は厳しい、可能性は低いと…それでも彼女は…
「でも、私にできるのはコレだと思ったの!私はスクールアイドルとして、この学院を守るために頑張りたい!」
同じようなことを海未さん辺りにも言われたんだろう。一切の淀みなく彼女は言い切って見せた。
「そっか。わかったよ。本人がそこまで言うなら私も応援する。海未さんとことりさんも、いっしょに活動するのかな?」
ことりさんはともかく、海未さんがこういったことに参加するとは思えないが…
「はい♪3人でがんばります」
「私には似合わないと思うのですが…2人が頑張ると言うのなら、私も」
「そう…確かに海未さん、人見知りがあるみたいだし、恥ずかしがり屋なのも知ってるけど、似合わないってことはないんじゃないかな?海未さんも穂乃果さんもことりさんも可愛いし、衣装とか着てもきっと似合うよ」
「ううっ、…あまり言わないでください…恥ずかしいです…」
「えへへ、可愛いって言われちゃった〜」
「うふふっ、ありがとうございます♪命先生」
顔を真っ赤にして縮こまる海未さん。楽しげにピョンピョン跳ねる穂乃果さん。いつもの三割増の笑顔でお礼を言ってくることりさん。可愛い、って言葉はあまり言わない方がいいのかな?私結構頻繁に言ってる気がする…色んな人に…
謎の寒気に襲われながらも、今後について考える。
「それで、スクールアイドルとして、これからどうするの?何か行動に移さないと…早い内に」
「それなんですが…まずはライブをすることになりました。一年生の部活勧誘の期間に、講堂を使う許可が取れまして」
「へ〜、もうそこまで話が進んでたんだ?スゴイじゃない、出足は好調って感じかな」
「うん、私達も最近は体力づくりとか、練習してるんだ!」
「そうなんだ…アレ?じゃあ今日は?ここにいていいの?」
「はい、やっぱり命先生には早く報告したくって。それに今日もこれから練習する予定なんです」
「頑張ってるんだね。話は分かったよ」
これ以外に話がないなら今日はもう練習に行った方が…と言いかけたところで、
「それで…命さんにお願いがあるんです。西木野 真姫さん、ってご存知ですよね?」
「うん?前話したお世話になってる先生の娘さんだけど…あの子がどうかしたの?」
「西木野さんってスゴイね!オリジナルのあんないい曲つくれるなんて!」
「というわけで、穂乃果が西木野さんが音楽室でピアノを弾いていたのを聴いたそうなんです」
「それで、私たちの曲をつくってほしい、ってお願いしたら断られちゃったみたいで…」
「あー、まぁいきなりそんなこと言われたらあの子なら断るだろうね。分かった。私からも頼んでみるよ」
「すいません、本当は私達でなんとかするべきことなのですが…」
「いいって、時間がないんだし、君達には他にもやること山積みなんだからさ。人に頼めることは頼んだ方がいいよ。ただ、確実に首を縦に振らせる自信はない。それでもあの子の方も勢いで断っただけで、君達に興味がないわけじゃないと思う。だから、すぐには解決できないかもしれない。でも期限には間に合わせるよ」
「分かりました。よろしくお願いします。命先生」
そこでふと、気になったことが…
「作曲は真姫さんにお願いするとして…作詞はどうするの?いくらあの子でも、両方一気には難しいと思うよ?」
「あ、それはもう考えてあるの!ね、海未ちゃん?」
…えっ、もしかして…
「海未さんがやるの?作詞…」
「ええ、不本意ですが…やることになりまして」
「海未ちゃん前から詞とか書くの好きで、よくノートに書いたりしてたんですよ〜」
「こ、ことり!余計なこと言わないでください!」
さっきより更に顔を赤くする海未さん。うん、聞かなかったことにしよう
「じゃあ頑張ってね海未さん。やっぱり曲ができてから作詞する予定?」
「はい、歌詞をつくる経験なんてありませんから、少しでもヒントが揃ってから、と思いまして」
「分かった。じゃあなおのこと早めに真姫さんの協力取り付けなきゃだね。私も頑張るよ。………。よし、それじゃ今日はもう練習に行った方がいいんじゃない?暗くなると危ないし、やるなら明るい内にね」
「うん!それじゃあまたね、ミコちゃん先生!行こう、海未ちゃん、ことりちゃん!」
3人が立ち去った相談室。………早い内に話をした方がいいな…
携帯を取り出す。自分からメール送ることは滅多に無いので一瞬操作に詰まったが、無事送信できた。
『 To真姫さん
明日私の病室に来れるかな?
話したいことがあるんだ。 』
閲覧ありがとうございます。
大分話が進みましたが、今後もこういったことはあると思います。共学音ノ木坂の男子オリ主、という設定だったらもっと積極的に話に入れるのですが、この作品ではそこまで原作と深く絡まず、カウンセラーという独自の立場で原作キャラと関わっていく物語にしたいと思っています。
否定意見もあるかと思いますが、自分はこのスタンスで行くつもりなので、よろしくお願いします。
A-RISE関連はオリジナル設定です。でも、あながち間違ってないんじゃないかな?とも思ってたり…
次回も読んでいただけたら嬉しいです。
ではまた!