ラブライブ!〜紡がれる命の物語〜   作:二人で一人の探偵

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タイトル通り、入学式です。
今回は主人公の長台詞がほとんどです。ラブライブ要素がない…
それでも見てくださる方がいたら、よろしくお願いします

では、どうぞ!


入学式、そして…

 

 

 

 

 

 

 

「「すいませんでしたっ‼︎」」

 

 山内先生の顔を見て開口一番、全力で頭を下げる。と、あちらも何故か謝罪をしてきた。入学式の朝に何をやっているんだろうか?私たちは。

 

 西木野家から病室に戻り、着替えや風呂を終えて今日はもう寝よう、となった所で思い出した………山内先生起こすの忘れてた……

 

 鍵は内側からなら簡単に開けられるが、そういう問題ではない。私の為にシフトを組んで動いてくれている相手に不義理を働いたのだ。

 

 少しでも早く謝罪したかったが生徒はともかく教師陣で連絡先を知っているのは職員室の取りまとめ役の赤川教頭先生と保険教諭の白峰先生だけ。勤務日以外で学院に行こうとすれば、病院にも学院にも迷惑がかかる。結局新学期が始まって3日目の今日まで山内先生と話すことはできなかった。

 

 そのことの謝意も込めての謝罪だったが、何故か謝罪合戦になってしまった。しばらく続けると、山内先生はそんな私に笑いかけてくれた。

 

「メイさんが謝ることではありませんよ〜、あの日の責任はメイさんを見てなくちゃいけない立場で寝入ってしまった私にあるんです〜。本当にごめんなさいね〜」

 

 そんなことを言われて納得などできはしないが、これ以上続けても他の先生方に迷惑がかかるだけだ。

 

「じゃ、じゃああの日はお互いに非があったということでおあいこにしましょう。このまま謝りあってもキリがないですし」

 

「…ふふふ、やっぱりメイさんはメイさんですね〜、分かりました、これで手打ち、ですね〜」

 

 両手をパン!と打ち鳴らして笑顔を深める山内先生。私も同じように両手を構えて…

 

「あっ、でもどうしても私の気が済まなかったので、この間決めたメイさんのお手伝いシフト、空いた時間を多めに使って私の番を増やしてもらいましたからね〜。これからもよろしくお願いします〜」

 

…その状態のまま固まってしまった…

 

 決して山内先生が嫌いなわけではない、ないのだが、怖いのだ…何をやらかすか分からない人がすぐそばにいるというのは。特に二人きりの時間はいつもドキドキしていた…当然色っぽい意味ではない…そんな時間が今まで以上に増えるのか…ふと周りを見ると、先生方がなんとも形容しがたい生暖かい目で見ていた…あれ、目から汗が…

 

 いい感じにオチがついた所で、咳払いを一つ挟んで赤川教頭先生が全員の意識を自分に向ける。

 

「コホン、話を進めましょう。入学式が一通り済んで保護者が退場した後に一年生を担当する先生を紹介する時間を取ります。命さんはその時に先生方に続いて壇上に上がってください。説明はこちらでするので、その後スピーチをお願いします。これは以前から頼んでおいたと思いますが、大丈夫ですか?」

 

「はい、一応原稿にまとめてきました。こんな感じでいいでしょうか?」

 

「拝見します。………………。はい、内容も文量も問題ありません。やはり、命さんにはこういったことの心配は必要ありませんでしたね」

 

 良かった。入学式に私の出番があるとは思わず、メールで連絡をもらった時は焦ったが、何とか準備が間に合った。しかし考えてみれば、こういった機会にアピールをしなければ、新入生が見るからに病人の未成年が詰める相談室に興味を示すか、と言えば難しいだろう。普通は興味より警戒が勝る。

 

 大勢の前で演説なんて初勤務の時以来でまだまだ慣れないが、うまくすれば高校生活に期待と不安を多く持っているだろう新入生の気持ちを軽くする手伝いができるかもしれない。気合いを入れねば。

 

「うふふ〜、壇上に上がる時は私がお手伝いしますね〜。任せてください、私がんばりま〜〜す」

 

 …人の善意は100%善行に繋がるわけではない、世界の真理を垣間見た気分だった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「続いては、我が校のスクールカウンセラー、紡屋命さんです。彼は〜……」

 

 私を紹介する教頭先生の声がうまく聞き取れない。情けないことに、相当緊張しているようだ。さっきから手汗もひどいし、頭がふらつく気もする。流石にここで貧血で倒れるわけにはいかない。遠ざかる意識を浮上させようと頭を振っていると…

 

「大丈夫ですよ〜、メイさん。メイさんはいつも通り、目の前の1人と話している気持ちで話せばいいんですから〜」

 

 私のすぐ後ろに控える山内先生が声を掛けてくれた。

 

「…目の前の1人と…?」

 

「そうです。確かに今からやるのは大勢の前でのスピーチです〜。でも、それを聞くのはあくまで生徒1人1人です〜。メイさんがいつもやってる1人の人間と向き合って話すこと、これを同時にたくさんの人とやっている…そう考えれば少しは気が楽でしょう〜」

 

…………。なるほど。

 納得すると同時に意識がハッキリしてきた。体調も良好。これなら大丈夫だ。

 

 流石先生、普段どんなに危なっかしくても、こういう時は本当に頼りになる。

 …っと、紹介が終わって私の出番のようだ。

 

「ありがとうございます、山内先生。落ち着きました………行ってきます!」

 

 いってらっしゃい、と返してくる山内先生の声を背に、壇上の中心へ進む。

 

 

 

 

 

 

 マイクの前に着き、車椅子の自分にはいささか高い位置にあるマイクをどうにか手に取る。

 

 

…深呼吸を一つ、意識を切り替える…

 

 

 

 

「ご紹介に預かりました、紡屋 命です。私はカウンセラーの資格を持っていません。自分では身体も満足に動かせません。もう何年もこんな状態なので中学にもほとんど通っていません」

 

 いきなりこんな話をされたらどう思うか。同情か、忌避か、憐憫か、侮蔑か。まぁ面食らうのは確実だ。だが、これでここまでの先生方の紹介をつまらなそうに聞き流していた生徒も顔をこちらに向けてくれた。さあ、ここからだ。

 

「そんな無い無い尽くしの私ですが、1つだけ自慢できることがあります。それは『良い縁に恵まれた』ということです。私が今こうして話ができる状態でいること、この音ノ木坂にいられること、全て私を助けてくれている方々のおかげです。1人で大丈夫、助けなんかいらない、という人もいるかもしれません、実際1人でなんでもできる人は世の中いるとは思いますし、1人が好きな人もいるでしょう」

 

 見覚えのある赤い髪がビクッと反応したのが見えた。大丈夫、今の君は一人じゃないよ。

 

「ですが人の心というのは孤独に耐えられるものではありません。『1人が好き』と『1人に耐えられる』とは別物なんです。だからこそ、人は『言葉』を作り出したんだと私は思います。人と繋がるために、分かり合うために」

 

 新入生だけでなく、後方にいる数十名の在校生もこちらの言葉に集中しているのがわかる。

 

「私には高校生の経験も社会人の経験もありめせん。しかし、その両方を間近で見てきた私だから言えることもあります。高校生の間にしかできないことはたくさんあります。大学に行ったら、社会に出たら、クラスなんてありません。同い年の、上下関係ゼロのグループなんて、他じゃそう簡単には作れないんです。皆さんにはチャンスがある。気の合う仲間と一生モノの絆を作ることも、合わない相手とも必要に迫られて話をするという経験を積むこともできる。このチャンスを利用してください。ここで過ごす時間は必ず将来皆さんの財産になる」

 

 穂乃果さんが手を振っているのを両隣の幼馴染'sが止めている。後ろにいてもやっぱり目立つなぁ、あの子達。

 

「大好きな趣味や特技について語り合える友達が欲しい…中々人に言えない秘密や希望を相談できる話相手が欲しい…夢を共有して、互いに高め合える仲間が欲しい…関係性は何でもいいんです…今まで1人で過ごしてきた、という人はまずは1人、親しいと言える誰かを作って欲しい…友達たくさんいるよー、という人は新しい環境で更に交流の輪を広げて欲しい…」

 

 マズイ、ちょっと疲れてきたかな?体が重い…けど、まだ終わってない…

 

「クラスメートが難しいようならもちろん私でも構いません。私はヒマな時間が多いですし、口は堅い自信もあります。負の感情をぶつけられるのにも慣れています…皆さんにこの高校に入って良かった、と思ってもらうのが私の希望です。そのための協力は惜しみません」

 

 生徒会としてステージのすぐ脇にいる絵里さんと希さんが心配げな瞳を向けてくる。うまくごまかしたつもりだったが、2人には気付かれたか…

 

「私は毎週火曜日と木曜日に3階の生活相談室にいます。気軽に来てくれて構いません。いつでも待ってます」

 

 疲労を押し隠して今できる精一杯の笑顔で締めくくる。

 

「少し長くなりましたかね…スミマセン、以上です…ありがとうございました!」

 

 姿勢を正して一礼、同時に深呼吸を一つ…流石に疲れたな…

 

 拍手の音を背に、山内先生に車椅子を押されながら壇上を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 入学式の次の出勤日、特に何事もなく放課後を迎えた私は、いつも通り来客を待っていた。

 

 あの後はただ疲労が溜まっただけだっので、体を休めていつもの調子に戻った。ほとんどの人には隠し通せたが、理事長と生徒会の2人には完全にばれていた。理事長にはお説教、生徒会コンビからはジト目で睨まれ続ける、という罰を受けた。ごめんなさい、ちょっと無理しました。

 

 その甲斐あってか、一年生の反応はまだよく分からないが、二、三年生や先生方には概ね好評だったようだ。

 

 さて、今日辺り、一年生の相談者に来てもらえたら嬉しいんだけど…

 

 と思っていたら、聞き覚えのない足音、それも2人分が廊下から響いてきた。一年生かは分からないが、新しい来客が来たなら喜ばしい。

 

「よし、みんなの学校生活をいい時間にするために、頑張りますか!」

 

 

 

 




閲覧ありがとうございます。
いやー、セリフ長い長い…区切る部分もなかなか難しくて、難産でした

次回はちょっと挑戦して、この第5話を別キャラの視点から第5.5話として描いてみようと思います。ある程度の構想は出来ていますが、やっぱり手こずりそうです。

こんな駄文をもし待っててくれる方がいらっしゃったら、次回もよろしくお願いします。

ではまた!

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