ラブライブ!〜紡がれる命の物語〜   作:二人で一人の探偵

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お気に入り数とか評価とかUA数とか、ちょっと見ない間にビックリするくらい伸びててビックリしました。




正解のない問いの答え

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  『どんな気持ちでいたか、分かってない』かぁ…

 

 無配慮な言動で絵里さんを傷つけた日から3日、情けないことに私は未だに心の中に何かしらの不純物が入り込んだように燻り続けていた。

 

 寝ても覚めても思い出すのはあの時の絵里さんの表情。信じられないものを見るような、私の口から出た言葉はきっと、彼女にとって聞きたくないものだったんだろう。それは想像できる…いや、想像しかできない。

 

 何が彼女を傷つけたのか、私は何を間違えたのか。考えても考えても、答えが出ない。これでは謝罪もできない。明後日にはまた学院に行くことになる。その時までになんとかしなくてはいけないのに。

 

 誰かと一緒にいる時にはなるべくごまかしているつもりだが、私の病室に来る人は基本付き合いの長い相手しかいない。少なくとも何かあった、程度のことは感づかれているだろう。昨日来てくれた真姫さんには特に悪いことをした。せっかく来てくれたのに余計な心配をさせただろう。

 

 どうすればいい?何が悪かった?やはり私には向いていなかったのか?カウンセラーなんて…うまくいってる、なんて思って調子に乗っていたのでは?

 

 段々ドツボにハマっていくのを自覚しながら、それでも思考を止められない。頭痛がしてきたのを感じるのと同時にノックの音で意識が外側に向く。…助かった…危うく失神するところだった。

 

「失礼するわね。命くん、こんにちは」

 

「…美姫さん?どうかしましたか?」

 

 いつも通りにこやかに入ってきたのは美姫さん。いつもは病室に来る前に一度連絡してこちらの都合を確認してから来るのに、珍しいこともあるものだ。

 

「………………。うん。真姫ちゃんの言った通りね」

 

「………………。あの、美姫さん?」

 

 唐突に至近距離まで近づいて私と正面から顔を合わせて見つめてくる美姫さん。…これは、一体?

 

「真姫ちゃんにお願いされちゃってね、命くんが何かに悩んでいるから力になってあげて、って」

 

「……あ、………すいません。ご心配をおかけしました」

 

 真姫さんには詳しい事情は話さず、少し失敗しただけ、と言っておいたが、考えてみればそれで納得する人はいないだろう。私がごまかしにかかったことから、自分では聞けないと判断したのか。

 

「あの子、賢いし、大抵のことは要領良く済ませちゃうから、あんまり私達に頼ったりすることってないのよ。最近はもっぱらあなたのことかしらね」

 

 だから今日は張り切って来ちゃったの、と笑う美姫さん。

 

 …そうか、前もって連絡があれば私は元気なフリでごまかそうとする。それで何の前触れもなしに訪問してきたのか。

 

 ここまでされたら、もう話してみるかな…そもそもこの人にだけは隠し事をできた試しが無い。西木野先生や真姫さんには何度か成功したことがあるのだが…

 

「…学院で、1人の生徒を傷つけてしまったんです。」

 

 

 

 

 

 

 

 一通り3日前の出来事について話し終え、美姫さんの様子を伺う。何の関係もない美姫さんに、というのも変な話だが、まるで懺悔しているような気分だった。意識したわけではないが、語り口も若干そんな色がついてしまったような気がする。

 

 美姫さんは暫し目を閉じて自分の髪先を指で弄る。真姫さんは何かをごまかしたり言いよどんだりするときに出る癖だが、美姫さんは思考中に無意識で行う動作だ。親子で同じ癖があっても微妙に違う。気付いた時は面白いものだと思った。

 

「…うん、だいたい分かったよ。その子の気持ちも、命くんの気持ちも」

 

「……そう、ですか…」

 

「………聞かないのね、何が間違ってたのか。ずっとそれを悩んでたんでしょう?」

 

「はい。でもここでただ人に聞いて納得できたとしても、そのまま絵里さんに話して謝っても意味がない、っていうか。自分で悩み抜いて出した答えじゃなきゃ彼女に顔向けできないというか」

 

 そう伝えると、美姫さんは微笑ましげに目を細めて私の頭を撫でる。

 

「ふふっ、さすが命くん…でもそれじゃあ私が来た意味無くなっちゃうわね?」

 

「いえ、聞いてもらえただけで有り難かったです。だれにでもできる話じゃないですし。人に話して私も自分の頭の中を整理できたと思います」

 

「そう?良かったわ。でもこれだけじゃ私の気が済まないから、ちょっとだけ話をさせて?今の話には直接関係ない、ただ私があなたにわかっていてほしいだけだから」

 

 そういうと美姫さんは私から手を離して持ってきていたバックから何かを取り出す。出てきたのは10束ほどの便箋。

 

 私がカウンセラーとしてこの病院で活動を始めてしばらく、ある女の子が私にお礼の手紙を書いてくれたことがあった。それを見た美姫さんが作った制度。私がカウンセリングした患者さんのお礼の手紙を病院側で預かって月末にまとめて私に渡される。

 

 制度と言っても義務ではなく、書くかは自由なのだが、字が書けない状態のひとを除いた殆どが毎月書いてくれている。受け取った手紙は全てファイルに入れて大切に保管している。たまに読み返したりするのが密かな楽しみだったりもする。

 

「今月だけでもこれだけの人があなたのおかげで気持ち良く日々を過ごせてる。学院の子も含めればもっと増えるでしょう。だから、自分には向いてない、とか考えてるならそれは間違いよ。ここにある成果は、あなただからできたことなの」

 

 ベッドの上に並べられるたくさんの手紙。……でも、私は…

 

「確かに、皆さんの気持ちは嬉しいですけど、私は何も特別なことはしていない。誰でもできること…たまたま誰もいなかったから私がやっているだけで…」

 

「それも間違い。確かに特別、ってことはやってないかもしれないけど、簡単そうなこと、当たり前のことをしっかりできる人って、あんまりいないものなのよ」

 

 きっぱり切り捨てられた…私には資格も才能もない。ずっと思ってきたことで…騙し騙しなんとかやってこれたけど…

 

「そうね。この際だし、あなたが自覚していない自分、っていうのを教えてあげるわ。命くんはもっと自信をもってもいいんだから」

 

 自信って言われても…

 

「あなたは優しい人。あなたのこれまでを考えれば、荒れたり、塞ぎ込んだりしてもおかしくないのに、誰にでも誠実で真っ直ぐに生きている」

 

「それは…下向いてても何にもなりませんから…人に迷惑をかけることが多い分、優しくあろう、誠実でいよう、とは…思ってますけど」

 

 そう、優しい人になるのは別に難しくはない。意識していればできることだ。頭で考えている分、本当に優しいと言えるのかさえ怪しいくらいだ。

 

「そうよね。確かに難しいことじゃないわ。優しい人、なんて世の中にはたくさんいるしね…でもそれだけじゃない。あなたは人と話していく上でとても大事なものを持っているの」

 

 大事なもの…私が持っているものなんて何も…

 

「命くんは誰が相手でも真っ直ぐ向き合える勇気を持っている。躊躇わずにその人の心に近づこうと一歩踏み出す勇気…それは大人でもなかなか持っている人はいないわ」

 

「…勇気…?私とは無縁の言葉だと思いますけど…」

 

「そんなことないわ。カウンセラーとしての命くんを一番近くで見てきた私が言うんだもの。間違い無いわよ」

 

 言って、再び私の頭を撫でる美姫さん。

 

「命くんは相手が荒れていても怯えていても、特別構えたりせず、自然体で接していった。自分から話をしようと踏み込んで行った。だからこそ、みんなあなたとお話しする気になったの。これはすごいことなのよ?思い出してみて…カウンセラーを始めたばかりの頃のこと…」

 

 始めたばかりの頃…あの頃は勝手も分からずとにかく色々話をすることに専念していた。溜め込んだものを吐き出すだけで違うものだ、と身を以て知っていたから。

 

「別に今の命くんが間違ってる、って話じゃないわ。ただ、思い出してほしいの。あなたがあの頃、なぜ話を聞くことにこだわっていたのか」

 

「なぜ…?自分じゃアドバイスなんてできる自信がなかったから、答えが分からなかったから…」

 

「そう、そういうことなのよ、命くん。人って難しいものなの。特に心はね。人の気持ちに正解なんてない。その時々、人によっても違う。他人が全てわかろう、っていうのはムリなことなんだと私は思う」

 

 美姫さんの言葉を聞きながら、昔の自分を思いだす。私はカウンセラーを始めた時、なんて言った?

 

「…『最後まで分からなかったとしても、それでも私は、悩んでいる人の隣で一緒に悩んであげられる人になりたい、悩んでいる人の気持ちを少しでも軽くする手伝いがしたい』…命くんが言ったことよ。私はこの言葉を聞いたから、学院のカウンセラーも勧める気になったの」

 

 視界が開けた感覚があった。霧が晴れたような、不思議な開放感…そうだ、いつの間にか忘れていた。私は答えを授けたり、解法を教える先生じゃない。話を聞いて一緒に考えるカウンセラーになる、そう決めたんだ。

 

「思い悩むのも、原因を考えるのも大切なことだけど、それは後でもできるわ。これだけ悩んで分からないなら、命くんの理想が変わっていないなら、その前にやるべきことがあるんじゃないかしら?」

 

「……美姫さん…ありがとうございます」

 

 私は座ったまま可能な限り深く頭を下げる。顔を見なくても、美姫さんがいつもの満足げな笑顔を向けているのが分かる。

 

 そうだ。相手の気持ちが分からないなら、せめて自分の気持ちだけでも伝えないと。一人で燻っていてもなにも変わらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして迎えた出勤日、私は朝一番に生徒会室の前にいた。最近の絵里さんは、朝早く、誰よりも先に生徒会室に来ていると聞いていたからだ。ここで待っていれば会える。

 

 …!来た。覚えのある足音に、私の鼓動も高まる。

 

 

「…!命、さん?どうしてここに…?」

 

 私の姿を見た途端に視線を下に向ける絵里さん。やっぱりこんなに傷つけてたんだ…

 

「おはよう、絵里さん…この前は、ゴメンなさい!」

 

 再び座った状態での限界を極める勢いで頭を下げる。ちょっと腰が心配になったが、それは後回しだ。

 

「あれから考えてみたんだけど、やっぱり分からなかった。何が絵里さんを傷つけたのか…でも、私は絵里さんのあんな顔見たくない。それだけは伝えたくて…本当にゴメンなさい!」

 

「…命さん…」

 

「絵里さんが私に何を求めているのかは分からない。でも、私は絵里さんと顔も合わせられないような、話もできないような関係はイヤだ。結局わかってあげられなかった私が勝手なことを言っているとは思うけど、溜め込んだものは吐き出してほしい。何に悩んでいるか、どうすればいいか、一緒に悩ませて欲しいんだ。これまでみたいに」

 

 言いたいことを言い切って頭を下げ直す私の耳に入ってきたのは、押し殺したような笑い声。顔を上げると、絵里さんが瞳に涙を浮かべながら忍笑いしていた。

 

 どうしたんだろう。私の必死な様が笑えたのだろうか。

 

「ご、ゴメンなさい…ふふふっ、命さん、私が考えてたのと同じこと、すごく真剣な顔して言うんだもの。なんだかおかしくって」

 

 目尻の雫を拭いながら絵里さんが言う。えっと、つまり…?

 

「私の方こそ、ゴメンなさい。命さんは間違ったこと言ってなかったのに、私勝手に怒っちゃって…こんな私でよければ、これからも頼らせてもらってもいい、ですか…?」

 

 恐る恐る、といった風に問いかける絵里さん。胸のつかえが取れた気がした。

 

「ありがとう。これからも、役に立てないことはあるだろうけど、隣で一緒に悩んであげられる私でいる、約束するよ、絵里さん」

 

「はい、約束です。命さん」

 

 どちらからともなく、指切りをした。絵里さんの手は、今までで一番熱を持っていて、心地よい暖かさだった。

 




閲覧ありがとうございます。

あんまりこういう流れを必要以上に長く引っ張りたくなかったので、ちょっと強引ながらこんな展開になりました。反省も後悔も大事だけど、まずは相手に自分の気持ちを分かってもらうことからじゃない?って話でした。

なんだか色々な方からご好評頂いたようで、嬉しい一方ビビってもいます。下手なもん書けねーな、って感じで。

催促するようでみっともないのですが、できたら感想の方もかける方には書いていただきたいな、なんて思っちゃってます。あんまりバッサリ批判されても受け止める自信はないですが、どこを楽しんでる、ここが引っかかる、みたいなことが分かりやすいので。できたら…お願いいたします。

ではまた!

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