開発室からお届けします   作:Tierra

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大変ながらくお待たせいたしました。
最近忙しくて…申し訳ないです。


今回からサブタイをフリーダムにつけていきます。
語れば長くなるのですが、そこは割愛です(笑)。


それでは最新話をどうぞ。


第16話 それぞれの正義

 

 

 

 ボーダー内の会議室に、向かい合う二人の男性。片方は厳格な態度を崩さずに、目の前の青年を真っ直ぐに見据えている。片方は一見物静かな雰囲気をかもし出しているが、その目に宿る光はとても攻撃的だ。様々な感情が垣間見えるその目もまた向かいの男性を真っ直ぐに見据えている。

 

 

『…話は以上か、東堂』

 

 

 深い深い沈黙を破ったのは、青年ではなく向かいの男性であった。

 

 

『えぇ…先程説明した通り、玉狛にいる近界民(ネイバー)「空閑 遊真」の持つ(ブラック)トリガーは極めて異質です。先日のトリガーを学習する能力と並行して、使用者の寿命を延ばす延命機能…ふたつの能力を持っている極めて特異なトリガーです。これは奪うという形ではなく…』

 

 

 「交渉を」そう続けようとする東堂の言葉を、まるで踏み潰すかのように城戸が言葉をかぶせる。

 

 

『却下だ、(ブラック)トリガーはこちらの管理下に置く』

 

『くっ……』

 

 

 固く、固く歯を食いしばりながら、睨みつける。その表情を見ても尚、表情一切崩さない城戸。彼の意思もまた強固なものなのだ。

 

 

『…こちらからも問わせてもらおう。3年前の遠征、あの時を経験していながら何故…おまえは近界民(ネイバー)を庇おうとする』

 

『…。』

 

『き、城戸司令!こら、要

 

 

フォローに鬼怒田が入るも、東堂の耳にはそれが届かない。意識は深い深い闇の中へ…視界はどんどん黒く染まり、どこまでも静かな静かな……。

 

 

…め…て……。

 

 

 静かな思考の中に、少女の声が聞こえる。東堂にとってその声は、断片的ながらも『少女の声』と判断するに足りる。馴染み深い声だった。

 

 

「要くん、起きて!こんなところで寝てたら風邪引いちゃうよ?」

 

 

いつの間にかデスクで寝てしまったらしい。三上が体を揺すりながら、声を張り上げている。ふと毛布がずれ下がり足元に落ちる、恐らく彼女がかけてくれたのだろう。その優しさが身に染みる。

 

 

「すみません。寝てしまっていたみたいですね」

 

「もう、また寝ないでお仕事してたんでしょう?遠征に行く前に無理は絶対しない、って約束したのに!」

 

 

じとーっと彼女からの視線が刺さる。

 

 

「あはは…一応いつもよりは睡眠時間取ってたつもりだったんですけれどね」

 

「いつもよりってどの位?」

 

「えっと、このくらい」

 

 

そう言って四本の指を立てて見せる。いつもなら2~3時間しか寝てないんです、4時間も寝れば

 

 

「ぜっんぜん寝てないじゃない!」

 

 

怒られました、なぜでしょう。

 

 

「はぁ…鬼怒田さんにまたお願いしなきゃ……」

 

 

ため息をつきながら独り言のようにそう言うと、再びソファーへ戻り大福を頬張る。

 

 

「あ、そういえば」

 

「どうしたの?」

 

「あのマンガ新刊出たの知ってますか?」

 

「え、ウソ。来月じゃなかったっけ!?」

 

 

 『あのマンガ』というのは三上が愛読している少女漫画のことだ。来月に出版されるはずなのだが、今回の新刊は読者にサプライズをという出版社の茶目っ気により、告知なしで繰り上げ出版をしたらしい。こんな事をしても評判は下がるどころか寧ろ上がり、更に人気を集めているというのだから驚きである。

 

 

「どうしよ~。ぜったいもう売り切れてるよ」

 

 

この世の終わり、と言わんばかりの不のオーラが三上を包み始める。よほど楽しみにしていたのだろう。

 

 

「ふふ、歌歩さん。後ろの書籍を見てください」

 

「え?」

 

「上から3段目に青い袋があるでしょう?それ、あげますよ」

 

「青いふくろー。あ、あった」

 

 

少し高すぎたのか、背伸びをしながら探す仕草がなんとも微笑ましい。三上が青い紙袋を開けるとそこには『あのマンガ』が入っていた。

 

 

「…要くん、これ」

 

「たまたま本を買おうと思って、たまたま少女漫画コーナーに行ったら、たまたまその本を見つけましてね?」

 

「ふふふ♪ありがと」

 

 

少し照れくさそうに「たまたまですよ」と言うも既に三上は漫画を読み始め、こちらの言葉はどうやら届いていないようだ。そんなまったりとした室内を一つの電子音が駆け巡る。会議室から内線が入ったらしく、これから集合との事だ。

 

 

 

「これが今回の遠征の成果です。お納めください、城戸司令」

 

「御苦労、無事の帰還なによりだ。ボーダー最精鋭部隊よ」

 

 

 一人の青年、風間 蒼也(かざま そうや)がデスクの上にトリガーを四本並べる。彼の言う遠征の成果とは、この未知のトリガー達である。そして、その両脇に立つ青年がここボーダーにおけるトップチームの精鋭だ。先程の風間は、A級3位 風間隊の隊長であり、No.2アタッカーでもある。周りと比べると少し小柄だが、その実力派折り紙つきだ。

 

 

「おお!すばらしい!未知の世界のトリガー!これでボーダーのトリガー技術は更なる進化をとげるぞ!」

 

 

子供のように喜ぶ鬼怒田を微笑ましく見ていると、リーゼントがなんとも特徴的な青年が口を開く。

 

 

「鬼怒田さんさ~、遠征艇もうちょいでっかく作れねぇ?オレ足なっげーから、窮屈で死にそうだったぜ」

 

 

彼はA級2位 冬島(ふゆしま)隊の隊員当真 勇(とうま いさみ)、No.1スナイパーだ。ただ残念ながら遠征艇の件は、鬼怒田にあっさり却下されてしまう。更に大きい船を飛ばすとなると、圧倒的にトリオンが足りないのだ。

 

 

「…さて、帰還早々で悪いが…おまえたちには新しい任務がある。現在玉狛支部にある(ブラック)トリガーの確保だ」

 

「玉狛?」

 

 

そう首をかしげる最後の一人。彼がここボーダーにおけるA級1位 太刀川隊の隊長、太刀川 慶(たちかわ けい)だ。そして、今も尚No.1アタッカーとして、頂点に立っている。

 

 

「三輪隊、説明を」

 

「はい」

 

 

城戸の一声により、これまでの事が簡潔に説明される。ただ一つ、東堂が報告した『使用者の命を延命させる』という能力を除いてだが…。

 

 

近界民(ネイバー)がボーダーに入隊!?なんだそりゃ!」

 

 

当真が驚きの声をあげる。が、風間は冷静に状況を分析し始めた。

 

 

「玉狛なら有り得るだろう、元々玉狛の技術者(エンジニア)近界民(ネイバー)だ。今回の問題はただの近界民ではなく、(ブラック)トリガー持ちだということだな。玉狛に(ブラック)トリガーが二つとなれば、ボーダー内のパワーバランスが逆転する」

 

「そうだ、だがそれは許されない。おまえたちにはなんとしても(ブラック)トリガーを確保してもらう」

 

 

太刀川がこの会話に両手を頭の後ろに組み、能天気に東堂に話かける。

 

 

「オマエが近界民(ネイバー)庇うなんてよっぽどの理由がありそうだな?」

 

「さて、どうでしょうか?」

 

「まぁいいや『(ブラック)トリガー』の行動パターンは?」

 

 

するっと視線を外され、三輪隊にそう問う。昔から太刀川は何を考えているかよく分からない時がある。人間的には嫌いではない、寧ろ仲はいい方なのだが…仮に敵対した時に一番警戒しなくてはいけないのは、こういうところも含めてこの男なのだろう。

 

 

「『(ブラック)トリガー』は毎朝7時ごろ玉狛支部にやってきて、夜9時から11時の間に玉狛を出て自宅に戻るようです。現在もうちの米屋と古寺が監視しています」

 

「チャンスは毎日あるわけだねぇ、ならばしっかり作戦を練って…」

 

 

奈良坂の説明に「なるほど」と根付が進言するが、その言葉を太刀川が遮る。

 

 

「いや、今夜にしましょう。今夜」

 

 

なるほど、そうきますか。本当に敵には回したくない人ですね…。

一同が驚きの色に変わる。しかし、三輪が太刀川に

 

 

「…太刀川さん、いくらあんたでも相手を舐めないほうがいい」

 

「いいえ、彼はいたって真面目ですよ」

 

「なに…?」

 

「玉狛のトリガーは『学習する』トリガーです。玉狛でこちらのトリガーを『学習』しているかもしれないなら、不利になる前にケリをつけた方がいいでしょう」

 

「お、全部言われちまった。それに、長引かせたら見張りしてる米屋と古寺に悪いだろ。サクっと終わらせようや」

 

 

学力的な面で見ればそれほど芳しくない値なのだが、戦闘が絡んでくる時の太刀川は頭がよくキレる。身をもって体験している東堂には、彼がそこまで考えついていることに察しがついていた。当真と風間もこの意見には賛成のようだ。

 

 

「それでいいですか?城戸司令」

 

「いいだろう。部隊はお前が指揮しろ、太刀川」

 

「了解です」

 

 

遠征部隊がぞろぞろと退室していく中、東堂が呼び止められる。

 

 

「それと、東堂」

 

「なんでしょうか」

 

「お前はグレインサイズと例の()()()で、この部隊を支援しろ」

 

「……わかりました…」

 

 

そう言い残し、東堂も会議室から退室した。

 

 

 危険区域内を疾走する複数の影、遠征部隊が玉狛を目指す。時刻は9時に指しかかろうとしている。

 

 

『目標地点まで残り1000』

 

「おいおい三輪、もっとゆっくり走ってくれよ。疲れちゃうぜ」

 

 

太刀川が軽口を叩きつつもじわりじわりと、玉狛まで近づいていく。

 

 

『目標地点まで残り500』

 

 

目と鼻の先まで到達したが、太刀川が何かに気付き声を上げる。

 

 

「止まれ!」

 

 

全員がその場で止まる。前方を見ると

 

 

「迅…!!」

 

「なるほど、そうくるか」

 

 

腰に掛けられた(ブラック)トリガーにゆっくり手がかかる。

 

 

「太刀川さん久しぶり、みんなお揃いでどちらまで?」

 

「うおっ、迅さんじゃん。なんで?」

 

「よう当真、冬島さんはどうした?」

 

「うちの隊長は船酔いでダウンしてるよ」

 

「余計なことをしゃべるな当真」

 

 

重要な情報をあっさり吐くところから、この二人はなかなかに仲がいいのだろう。

 

 

「それにしても妙だな、三輪たちと合って襲撃を未来視したところまでは分かるが…どうしてこうもどんぴしゃな場所にお前がいるんだ?」

 

 

それもその筈である。彼等はレーダーなどに映らなくなる隠密トリガー『バックワーム』というマントを着けて動いていた。それに迅の予知もここまで的確に予知できるものでもないのだ。

 

 

「…と、まぁ猿芝居してても仕方ないし、出てこいよ東堂」

 

「あらら、バレちゃいましたか」

 

 

民家の一つからバックワームを着けた東堂が顔を出す。

 

 

「なんだ迅、東堂もいつになくやる気だな」

 

「『模擬戦を除くボーダー隊員同士の戦闘を固く禁ずる』隊務規定違反で、厳罰を受ける覚悟はあるんだろうな?」

 

「風間さん。そしたら玉狛の空閑くんは、正式な手続きを踏んだ立派なボーダー隊員ですよ?その言葉そっくりそのままお返しします」

 

 

思いもよらない角度からの指摘に風間に衝撃が走るが、三輪が怒号を吐き捨てる。

 

 

「『立派なボーダー隊員』だと…!?ふざけるな!近界民(ネイバー)を匿ってるだけだろうが!!」

 

近界民(ネイバー)を入隊させちゃダメっていうルールはない。正式な手続きで入隊した、正真正銘のボーダー隊員だ。誰にも文句は言わせないよ」

 

「なんだと…」

 

 

とうとう三輪も言葉に詰まってしまうが、太刀川がバックワームを解除しながら前に出る。

 

 

「いや迅、おまえの後輩はまだ正式な隊員じゃないぞ。玉狛での入隊手続きがすんでても正式入隊日を迎えるまでは、本部ではボーダー隊員と認めていない」

 

「つまり、1月8日までなら仕留めるのになんの問題もないと?」

 

「そういうことだ」

 

 

更に冷静さを取り戻した風間の追求が始まる。

 

 

「おまえたちと争っても仕方がない、俺たちは任務を続行する…(ブラック)トリガーを持った近界民(ネイバー)が野放しにされている状況は、ボーダーとしても許すわけにはいかない。城戸司令はどんな手を使っても、玉狛の(ブラック)トリガーを本部の管理下に置くだろう。おとなしく渡したほうがお互いのためだ…それとも(ブラック)トリガーの力を使って、本部と戦争でもするつもりか?」

 

「城戸さんの事情は色々あるだろうがこっちにだって事情がある」

 

「風間さん達にとってはただの(ブラック)トリガーかもしれませんが、本人にとっては命より大事なものなんです」

 

「そういうことだ。別に戦争するつもりはないが、おとなしく渡すわけにはいかないな」

 

 

なるほど、と一息つき更に眼光が鋭くなる。

 

 

「あくまで抵抗を選ぶか…遠征部隊に選ばれるのは、(ブラック)トリガーに対抗できると判断された部隊だけだ。お前たち二人で勝てるつもりか?」

 

「要がいれ「さぁ、どうでしょ」」

 

「おいおい、そこは合わせろよ。まぁ要がいれば、はっきり言ってこっちが勝よ。おれのサイドエフェクトがそう言ってる」

 

「因みに僕達の後ろのほうにはなんと、嵐山隊の人たちがスタンバってます。無視して先に進むと手痛い挟み撃ちですよ?」

 

「忍田本部長派と手を組んだのか…!」

 

「城戸さんったら何言っても聞いてくれませんでしたから。それならこっちにも考えがあるってものです」

 

 

不適な笑みを浮かべる迅と東堂に対して、顔がみるみる強張っていく襲撃部隊の面々であった。が、ただ一人太刀川だけは迅と東堂と同じ笑みを浮かべていた。

 

 

「ここまで本気のおまえたちは久々に見るな…おもしろい。迅、おまえの予知を覆したくなった」

 

 

そういい弧月をゆっくり引き抜く

 

 

「あらあら」

 

「やれやれ」

 

 

「そう言うだろうなと思いましたよ」

 

「そう言うだろうなと思ったよ」

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょか?

ご感想等お気軽にどうぞ。

それではまた次回お会いしましょう。

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