東堂と小南の獲物がぶつかり合い、鈍い音が室内にこだまする。小南は両手に手斧のようなトリガーを、対する東堂は片手にスコーピオンを握っている。攻撃の手数で言えば小南の有利に見えるが、空中起動を可能にするジャンプ台トリガー「グラスホッパー」を始め、射撃用トリガーを駆使し多種多様な攻撃で東堂は小南を翻弄していた。
モニターに魅入る3人であったが、三雲があることに気付く
「すみません。小南先輩が使ってるトリガー、弧月ともスコーピオンとも違うみたいなんですけれどあれは…」
「あ~あれはな本部のトリガーとは少し違うんだ」
「…どういうことですか?」
「こなみが使ってるトリガーはね、なんとあの子だけの一点モノなの!」
すごいでしょと言わんばかりの表情で、宇佐美が会話に割って入る。更に宇佐美が語り始めるが要するに、玉狛支部の隊員はそれぞれ「本部未承認の
「本部未承認の
「あれは『
「トリオン効率度外視の短期決戦型だな。お、ちょうど連結させるみたいだぞ」
迅の一言に再びモニターに視線を送ると、二つの手斧を合わせ巨大な斧に変わるのが見えた。
東堂の動きを予測し、双月を思いっきり振り下ろす小南。それを2つのシールドで防ぐ東堂だが、それでは連結した双月は止められない。ガラスが割れるような音と共に2枚のシールドを貫き、東堂の左腕を切り裂いた。
すかさず追撃しようと後ろに下がった東堂を追うが、先程切り裂いた左腕が閃光と共に爆発する。切断される瞬間、腕にメテオラを仕込んでいたのだ。メテオラによる小南へのダメージはほぼゼロであったが、東堂は距離を取る事に成功する。
「シールドがあんな簡単に…やっぱり普通のトリガーじゃ……」
三雲がそんな事を漏らすが、迅が不敵な笑みを浮かべそれを遮る。
「いいや、要が使ってるトリガーも普通のトリガーじゃない」
「え!?」
「次世代トリガープロジェクト。その内のひとつ『ジェミニ』ってのがアイツのトリガーにセットされているんだ」
「ジェミニ…?」
「トリガーってのは…メイントリガー・サブトリガーそれぞれ4つづつトリガーがセットできて、メイン・サブ共にそれぞれ1つづつ出力できる。ってのは教わったか?」
「はい一番初めに」
「ジェミニはその『トリガーを1つしか出力できない』って概念を覆したんだ。まぁ見たほうが早いな。ほら、そろそろ使うぞ」
驚くべき事に、モニターに移っている東堂は背にトリオンキューブを二つ、残った手にスコーピオン、更にはグラスホッパーまでも同時に起動していた。そう、ジェミニは一つの出力端子から、二つのトリガーを起動することができるトリガーなのだ。
空中にセットされた、数十というかずのグラスホッパーを飛び交う。グラスホッパーを使ったこの立体的な移動、ボーダー内では「
数百の弾と時折飛んでくる斬撃をかわし・防ぎ・弾く小南であったが、ここまで密度が濃いと全ては受け切れない。徐々に、弾による被弾が増えてきた。スコーピオンによるダメージは全て防いでいる辺りは、流石と言うべきであろう。
「あぁ、もう!メテオラ!!」
これ以上の被弾はマズイと踏んだのか、メテオラを周囲に展開させ自分を中心に花火のように打ち出した。飛び交うバイパー、アステロイドに被弾し小南の周囲が爆発に包まれる。
その最中、小南は違和感を感じていた。自分が放った、メテオラの爆発の仕方だ。東堂が撃った弾に当たったのではなく、東堂が撃った弾が当たりに来たように…マズイ!!小南の思考が回答にたどり着く。
急いでその場からの離脱を試みるが、覆水盆にかえらず。
「まずは一本目」
その言葉と共に、小南の首が零れ落ちた。
『伝達系切断、こなみダウン』
先程の小南が感じていた違和感は、間違っていなかった。小南のメテオラが当たったのではなく、東堂が当てたのだ。とはいえ、立体的に高速移動しているなか放たれたメテオラに当てるという芸当は、東堂のサイドエフェクトありきの大技である。
■ □ ■ □ ■ □
結果的にスコアは2-1で東堂の勝ちという結果に納まり、小南はトレーニングルームの隅ですっかり意気消沈してしまった。
「小南さん…元気だしてください」
「…誰のせいだと思ってんのよ」
相当おかんむりのようだ。と、ひとつ先日の三雲に教えてもらった喫茶店を思い出す。
「そういえば、この前美味しいパンケーキのお店見つけたんですよ」
小南の体がピクっと反応した。
「今度そこへ食べに行きませんか?勿論今回のお詫びも兼ねて、僕のおごりです」
「ほんと…?」
まるで小動物のように首をこちらへ向けてくる。目には少し涙も溜まっているのか、見事な上目遣いだ。
「えぇ、本当です。ゆびきりでもしますか?」
「いいわ…じゃあゆるしてあげる。でも、約束やぶったらタダじゃおかないから」
「ふふふ、そうですね。約束です」
なんとか許してもらえたようで、内心ホッとする東堂なのであった。
トレーニングルームから出ると、労いの言葉をかけられた。そして、それぞれの修行の為3組がトレーニングルームへ入っていく。
「東堂さんごめんね~アタシがこなみのどら焼きを出したばっかりに」
「いいえ、大丈夫ですよ。なんとか許してもらえましたし…それに」
「それに?」
「…いえ……久しぶりの対人戦でしたから。まだまだ僕も現役でいけそうです♪」
少し含みのある言い方ではあったが、いつもの明るい返答に「そっかそっか」と相打ちをする宇佐美であった。
「それにしても、よくあそこまでジェミニを安定させられたね。アタシが見たときは、東堂さんでも使いこなせなかったに」
「今でも結構不安定なんですよ、実は。ただ、そこは僕のサイドエフェクトで誤魔化してますけれどね…量産までは程遠いかなぁ」
「でも次世代トリガーのプロジェクトは、着々と進んでるんだろ?」
宇佐美と東堂のコーヒーを持ってきた迅が話に加わる。その言葉に「えぇ」と相打ちをうつ。
「まぁ、また行き詰った時はコッチに遊びにこいよ」
「うんうん、玉狛支部はいつでも東堂さんを歓迎するよ!」
「ふふふ、ありがとうございます。さて、それじゃあそろそろ帰りましょうかね」
マグカップを迅に渡し、一晩お世話になりました。と、お礼をして玉狛支部をあとにするのだった。
~3日後~
遂にトップチームの遠征部隊が帰還する日だ。遠征艇の方は東堂の管轄外なので、今は上司である鬼怒田からの呼び出しを部屋で待っていた。
前回玉狛で取ったジェミニのデータを元に、規格の更新を行っていたのだがそれも終わり、休憩していたところにドアをノックする音が聞こえた。
「どうぞー」
自動ドアがスライドする音と共に、少女の声が室内に響いた。
「要くん、ただいま」
ボブカットの小柄な彼女の名前は、
「えぇ、おかえりなさい…歌歩さん」
トップチームの帰還を意味する。
やっと出せました「ジェミニ」!
これから細かい設定を出すこともないと思うので、今回はあとがきにジェミニの設定を書いておこうかなと思います。
二重出力補助トリガー「ジェミニ」
本来ひとつしか出力できないトリガーを、ふたつ出力できるようにするオプショントリガー。最終目標は緊急脱出と同じシステムトリガー化である。
次世代トリガープロジェクトの一端として、玉狛支部と共同開発を行った合作。
開発当初宇佐美は風間隊のオペレーターだった為、宇佐美がジェミニを見たときはほぼ形はできあがっていた。
まだ規格に難があり、使用者には高度のトリオンコントロールが求められる。
現ボーダー内には、これを戦闘で扱える人間は東堂しか居らず、実質東堂の一点モノとなってる。
はい、こんな感じですね。
一応一部の設定を抜粋しているので、近いうちにこのトリガーの真価を書いていければなと
新しいオリキャラとか出す機会があったら、また設定コーナーを書くやもしれません。
設定等でご要望がございましたら、感想までどうぞ。
それでは。