「いやあ、あれは恐ろしい代物でした。隙あらば精神を蝕もうとしてくるので、一瞬たりとも気が抜けませんでしたよ」
「まあ、とにかく。色々なイレギュラーは発生しましたが、原作通り一人の死者を出すこともなく無事に解決することが出来て何よりです」
12月25日。とうとうダンスパーティ当日を、あまり晴れない気持ちで迎えてしまったハリー。
重たい足取りでパートナーのパーバティ・パチルと共に玄関ホールに向かうと、マクゴナガル先生の指示で大広間の外、ドアの脇で待機することになった。なんでも代表選手とパートナーは、他の生徒が全員着席してから列を作って大広間に入場することになっているらしい。
ハリーはドアから少し離れた位置で待つことにした。そして、待っている間、気を紛らわせるために他の選手の様子を確認すべく辺りを見回したところ――いるとは思っていなかった2人を見つけて、思わず瞠目した。
「おっどろきー……」
クラムの隣にはハーマイオニーがいた。しかし、まったくハーマイオニーには見えない。
いつもボサボサと広がっていた髪はつやつやと滑らかになっており、優雅なシニヨンに結い上げてある。ふんわりした薄青色のドレスは驚くほど似合っているし、いつも背負っている大量の本がないからか、立ち居振る舞いもどこか違って見えた。少し前にマルフォイにかけられた歯呪い――前歯がリスのように伸びる呪いだ――を治療してもらった時、前歯を本来より少し小さくしてもらったのだと嬉しそうに言っていたが、なるほど、確かに微笑むと前歯が小さくなっているのがわかる。
ハーマイオニーに相手がいるなんて冗談だと思っていた。けれど、まさかまさかの本当で、しかも相手は代表選手のクラムだったなんて!
それから、フラーの隣にいるのはエドガーだ。
正装が妙に様になっているのと、往時のシリウス似の整った容姿の相乗効果で、いつにも増して女の子たちの視線を惹きつけている。隣のパーバティにも効果抜群だ。けれど、自己評価の低い彼はその視線が自分に向けられているものと気づかず、何でもないように穏やかに笑っている。
驚くべきは、シルバーグレーのドレスを纏い、美貌をより際立たせる化粧を施し、輝くばかりの魅力を放つフラーとまともに対話していることだろう。ハリーを含め、彼女を一瞬でも見た男は、もれなく視線が釘付けになってしまうというのに、エドガーは平然としている。動物への魅了耐性はEランクなのに、人間相手だとAランクとか、まったくもって意味がわからない。
「こんばんは、ハリー! こんばんは、パーバティ!」
じっと見ていると、ハーマイオニーが気づいて近づいてきた。明るい笑顔だ。パーバティは信じられないという顔をしていたし、脇を通り過ぎるクラムのファンの子たちも、あのマルフォイでさえ侮辱する言葉が一言も見つからないようだった。
「君、クラムのパートナーだったんだね」
「ええ、まあ」
「それにエドガーも――」
名前に反応して、エドガーがハリーたちに視線を向けた。そのままこちらに来てくれると思いきや、彼は一瞬フラーの方を気にして、再びハリーに視線を戻し、片目を閉じると(近くの女子生徒がきゃあきゃあと黄色い声を上げた)、またフラーとの会話を再開した。
「エスコート中だからまた後で、ってところかしら」
「そうみたいだ。ところで、フラーはどうしてエドガーを選んだんだろう」
「さあ?」
やがて大広間が落ち着き、ハリーたち代表選手とパートナーはマクゴナガル先生に従って中に入った。
審査員が座るテーブルに着き、ハーマイオニーが後々文句を言いそうな――自分の皿に向かって注文を出すと料理が現れるという、しもべ妖精の余分な労力が必要となる複雑な――食事をし、体調不良で欠席のクラウチ氏の代理で来たパーシー・ウィーズリーと会話(パーシーの昇進の話とか、クラウチ氏の話)をした。
「……」
ハリーは意識してセドリックを見ないようにした。というのも、彼のパートナーが、ハリーが誘いたかったチョウ・チャンだからだ。アジアチックなドレスを着た彼女はとても可愛く、それだけに誘えなかった未練が胸中を渦巻く。
……セドリックの方が先に彼女に声を掛けていたから断られたのであって、僕が先に声を掛けていれば、今ごろチョウの隣にいたのは僕だったのになあ……。
代わりに、ハリーはクラムやフラー、それとハーマイオニーとエドガーの様子を窺うことにした。
クラムはたどたどしい英語でハーマイオニーにダームストラングのことを話していた。それを途中でカルカロフに止められると、今度はハーマイオニーが自分の名前の正しい発音を教えていた。クラムは「ハーマイオニー」が言えず「ハーミイ-オウン」と呼び続けていたのだ。
一方フラーは、キラキラと銀色に輝く霜に覆われた大広間の壁をぐるりと見回し、軽蔑したように早口で話していた。おそらくフランス語を話しているのだろう。ハリーには内容が全く聞き取れなかったが、エドガーは相槌を打ったり、眉を下げて困ったように笑っている。
不意にエドガーが杖を取り出した。右手を広げ、そこに向けて杖を振り下ろす。杖先から飛び出した輝く何かが集まって、数秒もしないうちに、手の上にはピカピカ輝く小さな彫刻が出来上がった。よく見れば氷でできているのがわかり、その形は馬車と馬――ボーバトン生が乗ってきた乗り物を模っていた。
彫刻を見たフラーは少し驚いた顔をして、それから小さく笑った。
「宮殿にあるのは、もっとおーきな彫刻でーす。でーも、これも悪くありませーん」
「……! そっか、そう言ってもらえて嬉しいよ」
英語だ。フランス語から英語になっている。
突然の言語の切り替えにエドガーもきょとんとしていたが、すぐに取り直して、柔らかな笑顔を浮かべた。……よくわからないけど、フラーの中でエドガーの株が上昇したのは間違いない。なんとなくだけど、二人の間に漂う雰囲気が、友人のそれに近いような感じがしたから。
一通り食事が終わると、テーブルが片付けられ、広がったスペースにステージが立ち上げられた。ダンブルドアが楽器をそこに設置すると、いよいよ「妖女シスターズ」が熱狂的な拍手に迎えられてどやどやとステージに上がった。
代表選手とパートナーが一斉に立ち上がり、少し遅れてハリーもパーバティに促されて立ち上がった。いよいよダンスを披露しなければいけないようだ。
ダンスフロアに出て、スローで物悲しい曲に合わせて踊り始める。ぎこちないながらも楽しそうに踊るセドリックとチョウ、お互いに緊張しながら初々しく踊るクラムとハーマイオニー、どこかで秘密の練習したのかと思うほど息の合った見事なダンスを披露するフラーとエドガー等、ハリーが他の選手たちを見ているうちに、まもなく他の生徒も大勢ダンスフロアに出てきた。
ハリーは代表選手が注目の的ではなくなったことにほっと一息ついた。
+
1曲目を終えて、ザビニはそっとパートナーの手を取り、席に戻った。
心臓がやけに大きく飛び跳ねているのは、ダンスのせいじゃない。涼しい顔でメニューを眺める、この美しいパートナー――クラウディアのせいだ。
普段は下ろしてある銀白色の美しい髪はアップスタイルにされ、細い首筋やフェイスラインが露わになっている。髪の色と神秘的な紫の瞳を引き立てる上品な黒のドレスは、言葉を失うほど似合っており、爪先まで整った腕や細い肩、時折見える足首の雪のような白さが目に眩しい。
まるで夜を神格化したようだと、ザビニはクラウディアをうっとり見つめた。
「……なんだ、人の顔をじろじろと」
「あ、ごめん。嫌だった……よな?」
「気分のいいものではない」
慌てて目を逸らす。
クラウディアはスリザリン嫌いで、そこに属するザビニへの好感度も高くない。些細なきっかけで完全に拒絶される可能性もある以上、ザビニは彼女の嫌がることはできなかった。というより、したくなかった。
「ザビニ」
たった3文字。呼ばれ慣れたファミリーネーム。それなのに、彼女に呼ばれるだけで胸が躍るなんて。
「会話の時くらいは目を合わせろ。何も、ずっと顔を見るなと言ったわけではない」
恐る恐る顔を上げれば、クラウディアが呆れ顔でこちらを見ている。その顔ですら可愛くて、綺麗で、ザビニはまた見つめそうになったが、気力で防いだ。
「ええと、何かな、クラウディア」
「この際だからはっきりさせておこうと思ってな。おまえ、わたしが好きだろう?」
「なっ――」
途端に顔を赤くして、慌てふためくザビニ。
そんな様子を歯牙にもかけず、クラウディアは優雅にグラスを煽った。
「同寮の者から聞いたが、おまえは美人の母親の影響で女性にうるさいらしいな。大方、わたしの人間離れした容姿に惹かれたというところか。違うか?」
「違――わないけど、でも、それだけじゃない!」
確かに容姿は理由の1つだ。何て言っても一目惚れだったから。
だけど、彼女にアプローチをかけ、内面を知るにつれ、どんどん惹かれていった。
狡猾で姑息な手を使うスリザリンを嫌う正義感とか、臆さずに思ったことを堂々と言う潔さとか、気を許した相手だけに見せる幼い一面とか……。
彼女のことをもっと知りたいと思うし、許されるなら近くにいたい。いつも異性の容姿だけを気にしていた自分が、まさかここまで純粋な感情を抱くなんて、思ってもいなかった。
「外見も、内面も、全部含めてクラウディアが――」
「生憎だが」
鋭い声がザビニの言葉に割って入る。
「どのような類の好意かはわからんが、一つだけ確かなことを言っておく。わたしが、おまえの気持ちに応えることはない」
「な、どうして! 俺がスリザリンだからか? それとも何か違う理由が? 教えてくれ……ああいや、教えてほしい。全部直すから、だから」
すうっと、クラウディアの瞳が細められた。
「以前もこんなことを言ったな。『3度目はない』……もう一度言おう、わたしはおまえの気持ちに応えない。悪いところ? ああ、そうだな。強いて言うなら――おまえがわたしと他人だというところか」
「それって……?」
「わたしはある約束のためにここにいる。それを果たすためには、他人に介入されると不都合なことがあってな」
「じゃあ、その約束が果たされた後なら!」
「その頃には、もうわたしはいない」
「っ、はは。参ったな……」
ザビニは力なく笑った。拒絶されたと、はっきりわかった。先ほどまでの浮かれた気分はすでに消え去り、残ったのは胸に沈む重石のようなやるせない感情だけだ。
それを見ながら、クラウディアは再びグラスを煽った。
――彼女とて、彼の姿に良心が痛まないわけではない。いくら特別な感情を抱いていないとはいえ、一途に好意を示してくる相手を拒絶するなど、心からやりたかったことではないのだ。
……エドガーやハッフルパフの面々が普通に接してくるため、時々忘れそうになるが、クラウディアは吸血鬼だ。かつては夜の支配者で、今でもその名が恐怖の対象となる地域があり、魔法界全体で見てもそれほどイメージの良い種族ではない。それどころか、ホグワーツに生徒として紛れ込んでいると知られれば、保護者からのふくろうが嵐のようにやってくるのが容易く想像できるほど、未だに危険視されている存在だ。
ましてやザビニは、純血以外の人間や、魔法生物を認めないスリザリンの生徒。もし彼に吸血鬼であることが知られ、スリザリン全体に広まってしまえば、ホグワーツを追い出されるのは間違いない。
ザビニは、頼めば口を閉ざしてくれるだろう。しかし、元来クラウディアは他人を信じることが苦手だ。自らを孤独から救ってくれたドリスと、吸血鬼であることを気にせず(むしろ好意的に)接してくれるエドガー、そしてそのエドガーが信じているハッフルパフの面々を信じるだけで精一杯なのだ。
だからこそ、信じられない相手に秘密を明かすことはできないし、秘密が洩れそうな距離まで近づけさせることもしない。
「そういうことだ。……さあ、付き合うのは1曲だけの約束だ。わたしはもう行くぞ」
返事も待たず、クラウディアは席を立った。
ザビニはその後ろ姿を何も言わずに見送った。そして、姿が完全に見えなくなると、無性に腹立たしい気持ちが湧いてきた。クラウディアに対してではない。ボーバトンの美少女と楽しそうに談笑するエドガーに、だ。
(ちょっと顔が良くて、成績優秀で、クィディッチでも活躍していて、見た目に反して性格は穏やかで、誰にでも優しくて、動物とチョコレート関連で見せる幸せそうな表情が人気で……あいつが女子に騒がれる理由ってそれくらいじゃん! クラウディアはなんであいつには気を許しているんだ?)
八つ当たりである。クラウディアに拒絶されたザビニから、クラウディアから信頼されているエドガーへの、実に子供じみた怒りだ。
ザビニは二人が家族のような関係だということを知らない。ゆえに、クラウディアがエドガーに気を許しているのが面白くない。しかもエドガーの奴、ザビニも認める美貌のフラーをパートナーにするなんて……あいつ、ちょっと恵まれすぎじゃないか?
(こうなったら……!)
あいつを超えてやる。
クラウディアが信頼しているエドガー以上の男になれば、彼女は気を許して、自分を受け入れてくれるのではないか。いや、きっとそうだ。エドガーを超えれば、彼女は俺を見直して、拒絶などせず、俺の思いに応えてくれるはずだ。……それが、良い結果になるか、悪い結果になるかはわからないけど。
……まあ、いい。そうと決まれば行動あるのみだ。
ザビニはグラスの中身を一気に飲み干し、まずは知識を付けるため、図書館へ走り出した。
+
エドガーは目の前の光景に頭を抱えた。
「あいつは、ダームストラングだ! ハリーと張り合っている、ホグワーツの敵だ!」
飲み物を取りに行って、ふと聞き覚えのある大声に足を止め、何事だろうと見に行った先が修羅場だった。いつもの仲良し3人組ことハリー、ロン、ハーマイオニーが、何やら激しく言い争っていたのだ。
「君は敵とベタベタしている! 君のやってることはこれなんだ!」
「バカ言わないで!」
なるほど、とエドガーは理解した。
きっとロンはハーマイオニーに好意を持っているのだ。入学してからずっと一緒にいたため強く意識することはなかったが、ここにきてクラムが現れて状況が一変した。向こうは自分も憧れるクィディッチのプロ選手で、三校対抗試合の代表選手でもあり、人気者だ。自分と比べて圧倒的に優れている相手に、ハーマイオニーが取られるんじゃないかと不安なのだろう。
厄介なのは、ロンが自分の思いを上手く理解できていないことだ。良くも悪くも彼は純粋な青少年。恋も嫉妬も初めての経験で、自分がなぜ不安なのか、なぜ怒っているのかもわかっていないのだろう。だから、こうして人目を気にせずハーマイオニーに当たっているのだ。
(……なんてね。同じ年のおれが、何を偉そうに分析しているんだろう)
気づかれないように頭を振って、さてどうしようかと考えを巡らせる。
クラムがハーマイオニーをパーティに誘う一端を担った者として(もっとも、クラムはエドガーがいなくてもいずれは誘ったに違いない)、見て見ぬふりは出来ないし……。
「――なら、エドガーはどうなるの? 彼だって、ボーバトンと仲良くしているじゃない!」
おっと、飛び火だ。
でも、いい機会だ。エドガーは野次馬の1人を装って、何でもない顔で3人に近づいた。
「そもそも、この試合は外国の魔法使いと知り合いになって、友達になることが目的のはずよ!」
「違うね! 勝つことが目的さ!」
「じゃあ、どっちもっていうのはどう?」
突然の闖入者に、言い争っていたロンとハーマイオニーと、それを見ていたハリーの表情が一様に驚いたものに変わった。どうしてここに、と言いたそうだ。
「名前が呼ばれた気がしてね。ほら、楽しいクリスマス・パーティなんだから、喧嘩していたらもったいないよ」
「今はそんな場合じゃ――」
「ロンは、ハーマイオニーがビクトールに、ホグワーツに不利なことを教えたり、課題の手助けをするんじゃないかって心配なんだよね? 大丈夫。ビクトールは正々堂々とした人だから、そんなことはしないよ。フラーだってそうだ。気高い彼女がおれに取り入って、セドリックやハリーの情報を盗むなんてありえないよ」
「でも――」
「それとも、単純に、クラムがハーマイオニーと一緒にいるのがいや?」
わざと「クラム」を強調していえば、ロンは真っ赤になって口を閉じた。図星のようだ。
ロンが黙ったことで場が静かになった。気まずさに耐えかねてか、ロンはハリーを連れてすたすたと去っていき、ハーマイオニーも少し後で、バタービールを2つ持ったクラムに連れられて場を後にした。集まっていた周囲の目は少しずつ散っていき、ひとまず場を収められたエドガーはほっと息をついた。
「見つけまーした、エドガー」
人の波を縫って、フラーが優雅に歩いてきた。
そういえば飲み物を取りに行く途中だったことを思い出し、エドガーは気まずそうに視線を逸らした。どれくらい時間が経ったかわからないが、きっと待たせてしまったのだろう……。
ところがフラーは怒った素振りも見せず、むしろ楽しそうな表情をしていた。
「わたーしを待たせたのは、エドガーが初めてでーす。あなーたといると、新しい経験がたくさーんできまーす。退屈しませーん」
「それはよかったけど……待たせてごめんね」
「いいでーす。あの
指差した先には、レイブンクローのロジャー・デイビースがいる。
デイビースは複雑な表情を浮かべてエドガーの側まで来て、フラーに聞こえないように小声で耳打ちしてきた。
「お前、彼女からパーティに誘ってもらったって……本当か?」
「ええと、まあ」
「僕は誘って断られたのに……」
「じゃあ、今リトライしてみたらどうです? あ、誘う時は自然体で、見惚れたりしちゃだめですよ。多分フラーは、そうした方が興味を持ってくれると思うので」
「えっ」
慌てるデイビースを気にせず、エドガーはフラーに声を掛けた。
鼓舞するようにデイビースの背中を軽く叩くと、彼は小さく頷いてフラーを見つめた。溢れ出る魅力に抗おうと努力しているのが、隣で見ているエドガーにひしひしと伝わった。
「あの、貴方さえよければ――僕と踊っていただけませんか?」
フラーは見定めるように、デイビースの頭から足先までをじっくりと眺めた。
「――エドガー」
「ん、おれは構わないよ」
「そうでーすか。それなら、構いませーん」
「ほ、本当かい! あ、えっと……」
デイビースは急にきょろきょろとあたりを見回した。
それから、少し離れたテーブルに1人で座る少女を見つけ、エドガーに合図した。
「あそこにいるの、僕のパートナーなんだ。フラーに断られた時に近くにいたから、咄嗟に誘ってしまって。その、彼女の相手を頼んでもいいかい?」
「パートナーを放って他の女の子に声を掛けるのは感心しないけど、まあおれが唆したようなものだからね。いいですよ。楽しんできてください」
穏やかな顔で送り出せば、デイビースはぎこちない動きでフラーをエスコートし、ダンスフロアに歩いて行った。
エドガーは2人が見えなくなってから、デイビースのパートナーの元へ向かって行った。
ふんわり広がるダーク・ブロンドの髪、大きな銀色の瞳。遠目からではわからなかったが、ぼんやりした表情でこちらを見つめる少女は、エドガーもよく知った人だった。
「あ、エドガーだ」
「――やあ、ルーナ。この後の時間は、おれがもらってもいいかな」
「いいよ。でもあたし、ダンスはあんまり好きじゃないよ」
「構わないよ。おれも少し疲れちゃったし……ゆっくりお話しよう?」
「うん、わかった」
――のんびりと、和やかに、パーティの夜は更けていった。
ポジティブザビニ。色々勘違いしているし、すれ違っているけど、彼はこのまま突っ走っていくでしょう。今のところ脈ナシだけど、頑張れザビニ、負けるなザビニ。
……それはさておき、エドガーのパートナーはフラーのちルーナでした。
ちなみにルーナとは幻の魔法生物についてお話していました。二人は真剣に話しているけど、その内容はハーマイオニーじゃなくても頭を抱えるレベルです。
不思議ちゃんと動物バカの組み合わせは危険ですね。
フラーさん補足
Q.なぜエドガーをパートナーに?
A.高慢でナルシスト気味な彼女とて、一人の女の子。クリスマス・パーティを人並みに楽しみたいと思う気持ちがあったのです。ゆえに、しっかり対話できるエドガーを選んだのです。彼なら、普通の女の子のように扱ってくれると思ったので。
Q.フランス語→英語について
A.フラーさんはホグワーツを取るに足らないものと見ていました。男は自分に釘付けになる腑抜けばかりだし、代表選手を二人も出す不正(誤解である)をしているし、そもそもフランスの魔法の方が優れていると思っているのです。そんな中で出会ったエドガーという男は、氷の彫刻の話を聞かせると小さいながらも再現してくれるし、自分の容姿に惑わされない。一味違う生徒だったのです。「こんな魔法使いがいるなら、イギリスも捨てたものじゃない」と思ったフラーさんは、イギリスを認め、英語を使うようになったのです。郷に入っては郷に従えってね。
Q.パーティお誘いの概要
フラーさん、レイブンクローの生徒から寮の場所を聞きだす→エドガー発見。
フラー「見つけた、エドガー。ねえ、私とパーティに行きましょう? 先に釘を刺しておくけど――私相手にノンは言わせないわよ」
エドガー「そう言われたら、ウイとしか答えられないね。お誘い、お受けします」
投稿が遅くなったのは、これらを説明するためにフラーさんの視点を入れようか、入れまいかとずっと悩んでいたためでした。結局なくなり、ここで補足することになりましたが……。
それにしても、フラーさんは美形設定のセドリックやビルに次々アタックしているところを見るに、結構面食いなんだと思います。今回エドガーが選ばれたのも、上記の内容に加えて容姿も理由の一つになっているかと。
あ、今回フィルチさんの近況を記すのはさすがに野暮だと思うので、皆さまのご想像にお任せしますね。