穴熊寮からごきげんよう   作:秋津島

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「ハロウィーンの反省から、それ以降の私はエドガーを煩わせないよう、ちょっとした作業や閉心術などの訓練をしていました」
「そのおかげで、『未来予知』などで彼に余計な雑念を与えることも少なくなり、その後は平穏に過ごせましたね」
「……最後にちょっとした――賢者の石をめぐる攻防戦があって、少しだけ私が表層に出たこともありましたが、とにかく一年生は無事に終わりました」


役者は出揃った

 10月30日は朝から学校全体が期待感で満ちていた。

 夕方にボーバトンとダームストラングの代表団がやってくることに気を取られ、誰も授業に身が入らない。授業中にこっそり周りと喋ったり、休み時間になれば一か所に集まって、あれやこれやと憶測と期待と不安とが全部ない交ぜになった声で会話をする生徒の姿がいたるところで見受けられた。

 2校のお客を歓迎するためにいつもより30分早い終業ベルが鳴ると、生徒たちは急いで寮に戻って荷物を置き、玄関ホールに向かった。

 エドガーは周囲よりも一拍遅れて玄関ホールに向かい、のんびりとした足取りでジャスティンの隣に並んだ。

 

「なんだか、みんなそわそわしているね」

「この状況でいつも通り平然と……いえ、むしろ浮かない顔をしている生徒なんて、おそらく校内を探してもエドくらいだと思いますよ」

「うーん、楽しみな気持ちがないわけじゃないんだけどね……」

 

 言いよどむエドガーの顔は晴れない。

 夏休みの警告じみた夢。ただの夢と一蹴することもできず、かといって未来予知とも断定できないこの夢に対して、エドガーは日に日に不安を募らせていった。セドリックがつい先日、代表選手に立候補する旨をエドガーに伝えてからさらに拍車がかかったが、夢という、なんとも根拠にも説得力にも欠ける判断材料だけでは、セドリックの立候補は止められない。

 エドガーにできたことは、不安な表情を隠して彼を応援することと、こうしてかの惨劇のきっかけとなり得る可能性が高い、この三校対抗試合をおとなしく待つことだけだったのだ。

 

「まあ、エドに秘密が多いのはいつものことですし、僕は何も追求しません。けど、これだけは覚えていてほしいんです。一人で抱え込まないでください。僕は、僕たちはエドの友達なんですから、いつでも頼ってください」

「うん。……ありがとうね、ジャスティン」

 

 整列が終わると、生徒たちは寮監に連れられて城の外に出た。晴れた、寒い夕方だった。

 皆は城の前でまたきっちり並べられ、寒さに身を震わせながら、禁じられた森の上に出た青白く透き通るような月を眺めながら、六時になるのを待った。

 

「ところで、2校の皆さんはどうやってくると思います?」

 

 ジャスティンが思い出したように囁いた。

 

「どちらもイギリスから遠く離れた場所にあるんでしょう?」

「そうだね。……おれたちがホグワーツに来るときみたいに、何か乗り物に乗ってくるんじゃないかな。イギリス(ここ)は島国だから、空や海を渡れる乗り物に」

「とすると、船とか飛行機――ああ、飛行機はありえないですね。マグルの乗り物ですから、魔法学校が使うとは思えません。ふーむ……」

「案外、空飛ぶ家でやってきたりして」

「まさか、と笑えないのが魔法界の恐ろしいところですよね」

 

 等々、話しているとにわかに生徒が騒ぎ始めた。

 ボーバトンの代表団が近づいてきたらしい。ダンブルドアがそう告げると、生徒の1人が空を指差して「あそこだ!」と叫んだ。

 エドガーとジャスティンもつられて空を見る。何か大きなものが、濃紺の空をぐんぐん大きくなりながら、城に向かって疾走してきていた。

 ――巨大な、パステル・ブルーの馬車だった。大きな館ほどの馬車が、12頭の天馬に引かれてこちらに飛んでくる。天馬は月色の馬のような姿をしていて、それぞれが象ほど大きかった。

 

「え、嘘、アブラクサンだ。わ、わ、すっごい! おれ、本物は初めてだよ!」

「……天馬で気分が上昇するなんて、なんともエドらしいですね」

 

 やがて馬車は轟音と共に着陸した。その衝撃で生徒が何人か吹っ飛んだが、他の生徒たちはそれよりも馬車の方が気になって仕方がないようだった。

 皆が固唾をのんで見守る中、ボーバトンの校章――金色の杖が交差し、それぞれの杖から3個の星が飛んでいる紋章――が描かれた戸が開かれた。そこから淡い水色のローブを着た少年が馬車から飛び降りて、金色の踏み台を用意すると、そこにピカピカの黒いハイヒールが乗せられ、その持ち主である女性が姿を現した。

 何人かがあっと息を呑んだ。美しい女性だった。小麦色の滑らかな肌にキリッとした顔つき、大きな黒い潤んだ瞳、鼻はつんと尖っている。品の良い黒の衣装に身を包み、見事なオパールが襟元で輝いている。

 しかし、生徒が驚いたのはそこではない。その女性は、一言で表すならとても大きかったのだ。生徒たちは彼女の顔をよく見るために、首をぐっと上に向けたり、背伸びをしなければならなかった。ハイヒールで上乗せされた部分を差し引いても、身長はハグリッドとそう違わないだろう。ダンブルドアが手に接吻するのに、ほとんど体を曲げる必要がなかったくらいなのだから。

 

「すごく……大きいです」

「ボーバトンの校長先生みたいだね。あ、他の生徒たちも出てきたよ」

 

 女性に続いて、十数人もの男女学生が続々現れ、ダンブルドアと談笑する彼女の背後に並んだ。

 着ているローブは薄薄い絹のようで、マントを着ている者は1人もいなかった。何人かはスカーフを被ったりショールを巻いたりしていたが、彼らは総じて寒そうに身を震わせていた。

 女性は表情を和らげ、優雅に微笑んだ。そしてダンブルドアと親しげに会話をしながら、巨大な片方の手を無造作に後ろに回してひらひら振り、生徒たちを紹介した。その会話が終えると、女性は堂々とした様子で生徒を引き連れて、暖を求めるために一足先に城の中へ入っていた。

 

「……アブラクサン、お願いすれば触らせてもらえるかな」

「エド、そろそろ天馬から離れてください」

 

 それから待つこと数分、どこからか不気味な音が響いてきた。

 まるで巨大な掃除機が川底を浚うような、くぐもったゴロゴロという音、吸い込む音……。

 

「湖だ! 湖を見ろよ!」

 

 誰かが叫んだ。

 湖の黒く滑らかな水面が、突然乱れた。湖の真ん中がまるで湖底の巨大な栓が抜かれたかのように渦巻いている。その渦の中心からは、黒く長い竿のようなものがゆっくりと迫り上がっていき、やがて帆桁が姿を現した。

 ゆっくりと、堂々と、月明かりを受けて船が水面に浮上した。まるで引き上げられた難破船のような、あるいは幽霊船のような、とにかく不気味な雰囲気を纏った船だ。船は大きな音を立てて全体の姿を表すと、岸に向かって滑り出し、数分後に岸辺に辿り着いた。浅瀬に錨が投げ入れられ、タラップが岸に下ろされる。そこから、乗員が下船してきた。

 全員が縦にも横にも大きな体格をしていた。しかし近づいてくるにつれ、大きな体に見えたのは、実はもこもことした分厚い毛皮のマントを着ているせいだとわかった。先ほどのボーバトンと違い、とても暖かそうだ。

 先頭に立つ1人だけ違う服を着た男が、朗らかにダンブルドアに声を掛けた。詳しい話の内容は聞き取れなかったが、その声は耳に心地よく、上っ滑りに愛想がよかった。しかし、目は笑っていなかった。冷たい、抜け目のない目のまま、ダンブルドアと両手で握手している。

 

「それにしても、2校とも随分と派手な登場でしたね」

「こういう場だから、少し見栄を張りたかったのかも」

「なるほど。……あれ、エド、あの人って……」

 

 ジャスティンがある生徒を指差した。

 色黒で黒髪の痩せた男。曲がった目立つ鼻に、濃い黒い眉。育ちすぎた猛禽類のような姿には、エドガーも見覚えがあった。

 

「セドリックやアーニーが話していた……ええと、確か……」

「ビクトール・クラムだ。ブルガリア代表のシーカーだよ」

「そう、それです。世界でも屈指の選手なんですよね」

「うん。まさか学生だとは思わなかった」

 

 ダームストラングの一行が城内に入り、やや興奮気味なホグワーツの学生たちもその後に続いて石段を上った。再び玄関ホールを横切り、大広間に入る。エドガーとジャスティンはそのままハッフルパフのテーブルに向かい、ハンナやザカリアスたちお馴染みの面々が集まった場所に腰かけた。

 2人が席に着くや否や、アーニーが興奮した声で話しかけてきた。

 

「見たかい? クラムだ。まさかダームストラングの生徒だったとは」

「アーニーは決勝戦を見に行ったんだよね。どうだった?」

「彼はすばらしい選手だったよ。飛行技術ももちろん、シーカーの何たるかもわかっている。圧倒的な点差を付けられブルガリアが勝てないとわかると、潔くスニッチを取ったんだ。あんな大きな舞台でも冷静にチームの損得や総合成績を考えて、自分で負け方を選ぶことができる――まったく優れた選手だ」

「その通りだよ。同じシーカーとしても尊敬する」

 

 いつの間にかセドリックがエドガーの隣にいて、今や身を乗り出して力説するアーニーを微笑ましそうに見つめていた。アーニーははっとした表情で少し顔を赤くすると、軽く咳払いしてから体勢をもとに戻した。

 

「僕も少し、彼と話して見たかったけど……残念ながら取られてしまったね」

 

 セドリックの視線の先には、スリザリンのテーブルに着いたダームストラング一行がいた。スリザリン生はわかりやすく喜び、ダームストラングの生徒に愛想よく笑いかけながら、他の寮生たちの得意げな顔を送っている。

 ちなみにボーバトンの生徒たちは、既にハッフルパフの隣のレイブンクローのテーブルを選んで座っていた。皆むっつりした表情で大広間を見回している。興味津々で星の瞬く黒い天井を眺めたり、感心したように皿やゴブレットを眺めるダームストラング生とはどこまでも対照的だった。

 

「まだ機会はたくさんあるよ」

 

 エドガーが言うと、セドリックは「そうだね」と優しく笑った。

 全校生が大広間に入ってそれぞれの寮のテーブルに着き終わると、教職員が入場し、上座の教職員テーブルに着席した。列の最後はダンブルドア、ダームストラング校長カルカロフ、ボーバトン校長マダム・マクシームだ。

 大広間が水を打ったように静かになった。

 

「こんばんは。紳士、淑女、そしてゴーストの皆さん。そしてまた、今夜は特に――客人の皆さん。ホグワーツへのおいでを心から歓迎いたしますぞ。本校での滞在が、快適で楽しいものになることを、わしは希望し、また確信しておる。

 皆が待ち侘びているであろう三校対抗試合は、この宴が終わると同時に正式に開始される。さあ、それでは、大いに飲み、食べ、かつ寛いでくだされ!」

 

 ダンブルドアが着席したのを合図に、目の前の皿がいつものように満たされた。その中にはこれまで見たことがないほどの色々な料理が並び、はっきり外国料理とわかるものもいくつかあった。おそらくボーバトンとダームストラングの生徒のために用意された物だろう。

 なじみのないフランスやロシアの料理を一通り楽しむと、今度はこれまた見覚えのないものがたくさん混じったデザートが皿に現れた。その中にはもちろんチョコレートを使用した菓子がいくつもあって、エドガーの気分が高揚したのは言うまでもない。

 

 金の皿が再びピカピカになると、ダンブルドアが再び立ち上がった。大広間が心地よい緊張感で満たされる。一体何が起こるのかと、たくさんの生徒が身を乗り出してダンブルドアを見つめていた。

 エドガーも教職員テーブルの方に顔を向けていたが、ふと先ほどまでいなかった人物が増えていることに気づいた。歓迎会の途中でやって来たのだろうか。食事に(主にデザート)に集中していたせいか、二人の到着がまったくわからなかった。

 

「時は来た。三大魔法学校対抗試合はまさに始まろうとしておる。『箱』を持ってこさせる前に、二言、三言説明しておこうかの。

 ――その前に、まだこちらのお二人を知らない者のためにご紹介しよう。国際魔法協力部部長、バーテミウス・クラウチ氏。そして、魔法ゲーム・スポーツ部部長、ルード・バグマン氏じゃ」

 

 エドガーやその他大勢の生徒の疑問を解消するように二人が紹介され、クラウチのときは儀礼的な拍手が、バグマンのときにはそれよりもずっと大きな拍手が上がった。

 

「このお二方は、この数か月というもの、三校対抗試合の準備に骨身を惜しまず尽力されてきた。そしてカルカロフ校長、マダム・マクシーム、それにこのわしとともに、代表選手の見当ぶりを評価する審査委員会に加わってくださる」

 

 代表選手の言葉が出た途端、熱心に聞いていた生徒たちの耳が一段と研ぎ澄まされた。

 ダンブルドアは生徒が急にしんとなったのに気づいたのか、にっこりしながらこう言った。

 

「それではフィルチさん、箱をこちらへ」

 

 大広間の隅にいたフィルチが、宝石をちりばめた大きな木箱を持ってダンブルドアの方に進み出て、恭しくダンブルドアの前のテーブルに置いた。

 

「代表選手たちが今年取り組むべき課題は三つあり、これによって選手はあらゆる角度から試される。魔力の卓越性、果敢な勇気、論理・推理力、そして言うまでもなく、危険に対処する能力などじゃ。

 皆も知っての通り、試合を競うのは参加三校から各一人ずつ選ばれた、三人の代表選手じゃ。選手は課題をどのように巧みにこなすかで採点され、総合点が最も高いものが優勝杯を獲得する。代表選手を選ぶのは、公正なる選者――『炎のゴブレット』じゃ」

 

 ここでダンブルドアは杖を取り出し、木箱のふたを三度軽く叩いた。蓋は軋みながらゆっくり開き、中から荒削りの木のゴブレットが取り出された。一見まるで見栄えのしない盃だったが、そのふちからは溢れんばかりに青白い炎が踊っている。

 ダンブルドアは木箱のふたを閉め、その上にそっとゴブレットを置いた。

 

「代表選手に名乗りを上げたい者は、これから24時間の内に羊皮紙に名前と所属校名をはっきりと書き、このゴブレットの中に入れるように。明日、ハロウィーンの夜に、ゴブレットは各校を代表するのに最もふさわしい者の名前を返してよこすであろう。このゴブレットは今夜玄関ホールに置かれる。我はと思うものは自由に近づくがよい。

 ただし、年齢に満たない生徒が誘惑に駆られることのないよう、その周囲にわしが『年齢線』を引くことにする。17歳に満たない者は、何人もその線を越えることはできぬ。

 ――最後に、この試合で競おうとするものにははっきり言うておこう。軽々しく名乗りを上げぬことじゃ。『炎のゴブレット』がいったん代表選手と選んだ者は、魔法契約によって拘束され、最後まで試合を戦い抜く義務が生じる。途中で気が変わるということは許されないのじゃ。心底、協議する用意があるかどうか確信を持ったうえで、ゴブレットに名前を入れるのじゃぞ。さて、もう寝る時間じゃ。皆、おやすみ」

 

 

 翌日は土曜日で、普段なら遅い朝食をとる生徒が多いはずだった。しかし、昨日の今日でのんびり寝過ごす生徒はそう多くはなく、エドガーがいつも土曜日の感覚で目覚めたとき、既に寝室は空だった。

 寝起き特有の倦怠感と、もやもやした不安を胸に感じながら、ゆっくり身支度を済ませて談話室に向かったが、そこにも人の姿はなかった。代わりに、ハチミツ色のテーブルの上に、いかにも怪しげな液体で満ちたゴブレットが置いてあった。

 

「炎は出てない……よね。うん。当たり前だ」

 

 ぼんやりした頭でゴブレットを手に取る。ふわり、と甘い香りが漂ってきた。誰かが飲んだ形跡もないし、寝起きで喉が渇いていたし、何より今、エドガーは正常な思考が出来ない状態だったので――あろうことか、彼は一口分だけ残して中身を飲み干してしまった。

 すっきりとした飲み口の中に、微かな甘みと薬の匂い。……薬の、匂い?

 

「あー! えーっとエド、エドだよね? それ飲んじゃった?」

 

 息を切らして談話室に飛び込んできたのはアルマで、エドガーの手にある空のゴブレットを見るなり、真っ青な顔で詰め寄ってきた。

 思わずエドガーが後ずさりするも、数歩で壁と背中がぶつかってしまい、これ以上は後退できそうにない。エドガーは観念した様子で、瞳を伏せた。

 

「う、うん。ごめん、アルマのだった?」

「私のだったらまだよかった。それ、お姉ちゃんが年齢線を突破するために調合した老け薬なんだよ。しかも改良版。――それくらいの量だと、3歳くらい老けたかも」

「パトリシアの? 改良版って……どういうこと?」

 

 アルマは頭を抱えて、ぽつぽつ語り出した。

 曰く、グリフィンドールの悪戯好きな双子と共謀し、老け薬を調合して年齢線を突破しようとしたが阻まれてしまった。しかし諦めがつかず、もう一度挑戦するべく改良した老け薬を調合し、効果を確かめるために誰かを実験台にしようとしたのだとか。

 

「その話をさっき医務室で聞いてね。薬をどこに置いたのかって聞いたら、ハッフルパフの談話室って言うから飛んできたんだけど――遅かったかあ」

「ちなみに、どのあたりが改良してあるの?」

「……効果が強いんだって。ちょっとやそっとでは解毒できないらしい」

「マダム・ポンフリーでも?」

「スネイプ先生でも、てこずるかもしれないって」

「うーん……でも、行くだけ行ってみるよ」

「どっちに?」

「スネイプ先生のところに」

 

 エドガーはゴブレットを持って談話室を出た。最初は身長が少し伸びたことで体のバランスが上手く取れなかったが、数歩も立てばいつも通り、問題なく歩くことができた。

 多くの生徒が炎のゴブレットに夢中のようで、スネイプ先生の研究室までの道中で誰かに出会うことはなかった。

 地下牢へ下りる狭い石段を進み、研究室のドアをノックする。数秒の間を空けて名前を問う冷たい声に答えると、ゆっくりとドアが開かれて不機嫌そうな顔のスネイプ先生が現れた。

 スネイプ先生はエドガーを見ると、一瞬だけ目を開いて、何も言わずに部屋の中に連れ込んだ。そのまま近くの椅子に腰かけるように指示し、珍しくため息をついた。

 

「どうなっている」

「えっと、実はこれを飲んで……」

 

 エドガーはゴブレットを差し出した。スネイプ先生が受け取って、中身を調べ始める。

 

「レイブンクローのフォーセット先輩特製の老け薬が混ざっていたみたいで。自分ではまだ確認していませんが、3歳ほど老けてしまったようです。……ひどい顔ですか?」

「ある意味では、な。……クロックフォード、お前の両親は真の両親か?」

 

 スネイプ先生は薬を調べたまま、振り向きもせずに静かに尋ねた。

 一方のエドガーはわかりやすく動揺した。視線を彷徨わせ、はっきりしない言葉を紡ぎ、落ち着きなく手を動かした。

 ――スネイプ先生は自分と両親と、それからクラウディアについてなにか知っているのだろうか。エドガーが問うような視線を送ったが、背中を向けているスネイプ先生がそれに気づくはずがない。

 

「どうなんだ」

「えっと、その。血縁関係と言う意味なら、本当の両親ではない……かも、しれません」

「――1つだけ忠告してやろう。この薬はきっかり1日で効果が切れるようになっている。それまでは外を出歩かず、寮でおとなしくしていた方が身のためだ」

「どういうことですか?」

「そのままの意味だ。まさか、言葉が理解できないわけではあるまい」

「でも、それじゃ今夜は……」

「忠告を聞くか聞かないかは、個人の裁量に任せよう。ただし、警告はした。……もう用は済んだはずだ。早く寮に戻りたまえ」

 

 エドガーは首を傾げながらも、おとなしくスネイプ先生の研究室を後にした。

 帰り際に僅かな視線を感じながら寮に戻り、待っていたアルマに事の次第を説明する。それから部屋に戻り、自分の姿が大人びてさらにシリウスに近づいたこと(ただし、シリウスの方が長身でハンサムだ)を確認した。

 スネイプ先生は遠回しにこのことを指摘したのだろうか。確かに冤罪だったとはいえ、12年もアズカバンにいたシリウスを快く思わない人は何人かいるだろう。しかし、新聞などで報道されていたシリウスの姿は今の自分の容姿と大きくかけ離れている。気づかれることはなさそうだが。

 

「もっと違う理由があるのかも。……今日は言われた通り、おとなしくしておこう」

 

 結局その日、エドガーが寮から出ることはなかった。

 宴会にも参加せず、三校対抗試合の代表選手が選ばれる様子も見ることが出来なかったが、宴会が終わって興奮状態で戻ってきた寮生によって、誰が選ばれたのかすぐに知ることができた。

 

 ダームストラングの代表選手はビクトール・クラム。

 ボーバトンの代表選手はフラー・デラクール。

 そしてホグワーツの代表選手はセドリック・ディゴリー。

 

 ――そして、選ばれるはずのない4人目の代表選手、ハリー・ポッター。




ダームストラングはドイツとロシアで迷いました。

エドガーは試合に出場しません。
さすがにホグワーツ3人目、4年生2人目、ハッフルパフ2人目となると色々公平性に欠けるし不自然なので。あとは……やりたいこともあるし。
そういうわけで、今年のエドガーはセドリックやハリーのサポートに回ります。

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