「……失礼、冗談です」
「今年も平穏無事に終わりましたが……さてさて、来年はどうなることやら。犬、猫、ネズミ。エドガーからすれば楽しい一年になりそうですけどね」
(内容を大幅に変更いたしました。詳しくは後書きにて)
トム・マールヴォロ・リドル――スリザリンの継承者がそこにいた。
何が何だかわかっていないハリーと、意識のないジニーをかばうようにして、おれはリドルの前に立ちふさがった。
リドルは貼り付けたような笑みを浮かべながら、さっきハリーが手放した杖を拾って、長い指でくるくるともてあそんだ。
「――五十年前は自分の手で、実体のない記憶となっている今回はジニーを操って、君は部屋を開いたんだね」
「……ちょっと待ってエドガー。じゃあ今までの事件は全部ジニーが起こしたことで、でもその背後にはリドルがいて……。ええと、つまり継承者はリドルってこと?」
「そういうこと」
リドルは杖をいじるのをやめて、にこりと微笑んだ。
「及第点だ。君たちの頭脳を称えて、僕がどうやってジニーを操ったか教えてあげよう」
リドルは楽しそうに、歌うように語り出した。
ジニーはふとした事で手に入れた日記に、様々な悩みや心配事を何か月と書き綴った。それに対してリドルは同情し、親身になって返事を書いた。そうやって彼女が自分の心を打ち明けることで、彼女自身の魂を日記に注ぎ込んでしまったのだ。
ジニーの心の深層の恐れ、暗い秘密を餌食にして、だんだん強くなったリドルはある程度力が満ちた時、自分の秘密をジニーに少しだけ与え、自分の魂を彼女に注ぎ込み始めた。そうして彼女を自らの手駒とし、これまでの事件を引き起こさせた、と。
「けれど、途中から僕の狙いは『穢れた血』の連中を殺すことから、君たちへと――かの英雄、ハリー・ポッターとその学友のエドガー・クロックフォードに移っていた」
「僕たちに?」
「ああ。君たちには色々聞きたい事がある。まずは君だハリー。これといって特別な、魔力を持たない赤ん坊が、不世出の偉大な魔法使いをどうやって破った? ヴォルデモート卿の力が打ち砕かれたのに、君の方はたった一つの、傷痕だけで逃れたのはなぜか?」
「僕がなぜ逃れたのか、どうして君が気にするんだ? ヴォルデモートは君よりあとに出てきた人だろう」
「……ヴォルデモートは、僕の過去であり、現在であり、未来なのだ」
リドルはハリーの杖で空中に文字を書いた。三つの言葉が揺らめきながら淡く光った。
“TOM MARVOLO RIDDLE(トム・マールヴォロ・リドル)”
もう一度杖を一振りすると、名前の文字が並び方を変えた。
“I AM LORD VOLDEMORT(私はヴォルデモート卿だ)”
……なるほど、そういう事だったか。
マグル生まれの生徒を次々と襲ったのも、ハリーを狙うのも、すべて納得ができた。
極端な純血主義思想でマグルや混血の者を襲い、敵対する勢力も容赦なく叩き潰した闇の魔法使い、ヴォルデモート。十一年前に自分を倒した相手を殺そうと、狙いをハリーに変更した訳か。まったくハリーも大変な運命を背負わされているなあ。……なんて暢気に考えている場合じゃない。
リドルとハリーの会話は続く。
「僕は自分の名前を自分でつけた。ある日必ずや、魔法界のすべてが口にすることを恐れる名前を。その日が来ることを僕は知っていた。僕が世界一偉大な魔法使いになるその日が!」
「君をがっかりさせて気の毒だけど、世界一偉大な魔法使いは君じゃない! アルバス・ダンブルドアだ! 君が強大だったときでさえ、ホグワーツを乗っ取ることはおろか、手出しさえできなかった。君は在学中も現在も、ずっとダンブルドアを恐れているんだ!」
「ダンブルドアは僕の記憶に過ぎないものによって追放され、この城からいなくなった!」
「ダンブルドアは、君の思っているほど、遠くに行ってはいないぞ!」
――どこからともなく音楽が聞こえてきた。
怪しい、背筋がぞくぞくするような、この世のものとは思えない旋律は、だんだん近づき、大きくなってくる。おれも含め、この場にいる全員が何とも言えない感覚を味わったとき、すぐそばの柱の頂上から炎が燃え上がった。
白鳥ほどの大きさの深紅の鳥が、ドーム型の天井に、その不思議な旋律を響かせながら姿を現した。孔雀の羽のように長い金色の尾羽を輝かせ、まばゆい金色の爪にぼろぼろの包みを掴んでいる。――不死鳥と組み分け帽子だ。
一瞬の後、鳥はハリーの方にまっすぐ飛んで、運んできた帽子をハリーの足元に落とし、その方にずしりと止まった。少し羨ましい。大きな羽をたたんで、肩に留まっている鳥をハリーは見上げた。
「フォークス?」
「ダンブルドアが味方に送ってきたのはそんなものか! 歌い鳥に古帽子じゃないか! さぞかし心強いだろう? もう安心だと思うか?」
リドルは高笑いを暗い部屋中に響かせた。
「ハリー、本題に入ろうか。僕たちは二回も出会って、そして二回とも僕は君を殺し損ねた。君はどうやって生き残ったか、聞かせてもらおう」
「僕自身もわからない。でも、なぜ君が僕を殺せなかったかはわかる。母が、僕を庇って死んだからだ! 母は普通のマグル生まれの母だ!」
ハリーは怒りのせいか震えていた。
「君が僕を殺すのを、母が食い止めたんだ! 僕は本当の君を見たぞ、去年の事だ。落ちぶれた残骸だ。かろうじて生きている。君の力のなれの果てだ。君は逃げ隠れしている! 醜い! 汚らわしい!」
なんという言葉の暴力。
リドルの顔も歪んでいる。それから無理やり、ぞっとするような笑顔を取り繕った。
「そうか。母親が君を救うために死んだ。なるほど、それは呪いに対する強力な反対呪文だ。つまり――結局君自身に特別なものは何もないわけだ。実は何かあるのかと思っていたんだ。何しろ僕たちは不思議に似たところがある。しかし、僕の手から逃れられたのは、結局幸運だったからに過ぎないのか。それだけわかれば十分だ」
リドルはフォークスと組み分け帽子をからかうように一瞥してその場を離れた。一対の高い柱の間で立ち止まり、ずっと上の方に、半分暗闇に覆われている石像の顔を見上げた。横に大きく口を開くと、シューシューという音が漏れた。おれには、リドルが何を言っているか少ししか聞き取れなかった。
「さて、少し揉んでやろう。サラザール・スリザリンの継承者、ヴォルデモート卿の力と、有名なハリー・ポッターと、ダンブルドアがくださった精一杯の武器とを、お手合わせ願おうか」
巨大な石の顔が動いた。石像の口がだんだん広がっていき、ついに大きな黒い穴になった。
石像の口の中で蠢く何かが、ずるずると這い出して、石の床にぼとりと落ちた。――
「――その間、エドガーには僕の相手をしてもらおう。安心しろ、あいつには僕たちを襲わないように命令してある」
その言葉通り、バジリスクはハリー追い立てておれたちから引き離し、薙いだ尾も衝撃で吹き飛ぶ瓦礫も届かない場所で交戦を開始した。こっちに逃げようとするハリーの行動をことごとく阻止し、リドルが何か指示を出しても振り向こうともしない。
なるほど、確かにこれなら戦闘に巻き込まれることもないし、バジリスクがうっかり振り向いて死の光線をまともに浴びるなんてこともなさそうだ。
改めてリドルと向かい合った。輪郭はぼやけているけど、それでも容姿が十分に整っていることがわかる。個人的に、校内で一番の美形だと思っているセドリックと並んでも引けを取らないというか、むしろ妙な威圧感や風格を漂わせている分、リドルの方が……って、気の抜けない場面なのに、おれはまた余計なことを考えている。緊張感とか、恐怖感が足りていないんだよなあ……。
「そうだな、先に言っておこう。君の部屋から日記を盗んだのはジニーだ。恐れていたんだろうな。君がいつか、自分がやったことを誰かに告げてしまうんじゃないか、と」
「そっか。確かにおれは特に接点のない他寮の上級生だから、完全に信じられなかったのも無理はないよ」
日記を盗まれたときに「あなたのせいじゃない」と言っていたのは、盗んだのがジニーだったからか。
ハッフルパフ寮は合言葉が必要なグリフィンドールとスリザリン、問題を解かなくてはいけないレイブンクローと違って、決まった樽を決まったリズムで叩くだけだから、侵入は容易かったことだろう。場所とリズムはきっとロンに聞いたのかな。去年連れてきたことがあるし。
「それで、話って?」
「おかしいとは思わなかったのか? この子が、特に親しくもない上級生に自分の罪をぺらぺらと喋り、犯行の証拠である日記を容易く譲渡したことが」
「ああ、うん。変な感じはしたけど、ジニーはグリフィンドールの子だから。ハリーたちも変なところで大胆な行動をするし、その類かなって」
「――あれは僕が指示した。君が彼女に寄り添うものだから、ジニーは想定よりも早く僕を疑った。だから次の駒として、君に目を付けたんだ。蛇語、機知に富む才知、やや規則を無視する傾向……スリザリン生に相応しき性質を備えていたからな」
リドルは大きなため息をついた。
「……ジニーが
「そう、なの?」
「無自覚だったのか? 余計に性質が悪い。――君は僕を信じながら、僕の話を疑い、真実に辿り着いた。それなのに、そのことを君が信頼しているであろうダンブルドアにも告げず、胸の内にしまって誰にも悟らせなかった。そうして、誰かから誘いが来るまで動こうとせず、けれど誘いがあったら驚くほど簡単に動く。……僕には君の考えていることがわからない」
グリフィンドールに入るための勇敢さは足りないけど、友の頼みには全力で答えるハッフルパフ生としての単純な行動にすぎない、なんて言っても納得してくれないんだろうなあ。
まあ、でも……リドルの言い分も分かる。おれはほとんど真相に近づいていたから、行動次第ではハーマイオニーやレイブンクローの先輩、そしてジニーへの被害を抑えることが出来たはずだった。それなのに、信じてもらえるはずがないから、あらぬ疑いを掛けられるから。そんな理由を付けて勇気を出さなかった。行動しようとしなかった。無意識のうちに、事態に深く介入するのを避けていたんだ。
狂ったようなシューシューという音の方に視線を送ると、のた打ち回って胴体を柱に叩き付けるバジリスク、その周りを踊るように飛び回ってバジリスクの目を潰すフォークス、壁に叩き付けられた様子のハリーが一度に目に入った。
リドルが振り返って蛇語で指示を出し、またくるりと向き直る。リドルとの会話を終わらせないと、ハリーの援護に回る事が出来なさそうだ。もう少しだけ耐えてね。
「さあ、聞かせてもらおうか。君はいったい何を考えている?」
「リドルの期待を裏切るようで悪いけど、特に何も。……というか、おれも自分の心の奥についてはわからないんだよね。曰く、誰にもわからない『何か』があるらしいんだけど」
「つまり、君もわからないわけか。――ハリーも君も拍子抜けだな。話を聞くだけ無駄だった。もういい、君たちへの用はすんだ」
そう吐き捨てて、彼はまた振り返ってバジリスクに指示を出した。
バジリスクの尾がちょうど組み分け帽子を吹き飛ばして、ハリーの腕に放ってよこすのが見えた。ハリーはそれをぐいとかぶり、床にぴったりと身を伏せてバジリスクの尾をかわしている。
一瞬、ハリーが殴られたようにぐらりと揺れ、それから帽子を掴んで脱ぐと、中からまばゆい光を放つ銀の剣が出てきた。よ、四次元……なんでもない。
「今更武器を手にしたところで、何も役立つまい。エドガー、友人の死に様をゆっくりと見届けるんだな。それが終わったら、次は君の番だ」
ところが、その言葉が実現されることはなかった。
視力を失った影響でやみくもにハリーを襲うバジリスクは、しかし三度目に狙い違わずハリーを捉えた。ハリーはそこを狙って、全体重を剣に乗せ、バジリスクの口蓋にずぶりと突き刺したのだ。
リドルは動揺したが、ハリーの腕に毒牙が残っているのを見ると途端に笑顔になる。けれど、その傷をフォークスが癒すとたちまち笑顔は消え去った。
リドルの意識は完全にハリーに集中している。動くなら今しかない。
おれは走って日記のところまで行き、日記を力任せに宙に放り投げた。それをフォークスが器用に掴み、ハリーの膝の元へ。ハリーがバジリスクの牙を掴んで、日記の真芯に突き立てた!
恐ろしい、耳をつんざくような悲鳴が長々と響いた。日記帳からインクが激流のようにほとばしり、ハリーの手の上を流れ、床を浸した。リドルは身を捩り、悶え、悲鳴を上げながらのたうち回って……消えた。
+
「見事じゃ」
あの後、目を覚ましたジニーを連れてもと来た道を戻り、ロンたちと合流した。
ロックハートの呪文を解き、フォークスに導かれて秘密の部屋から脱出、無事に「嘆きのマートル」のトイレに戻ったおれたちは、そのままマクゴナガル先生の部屋に行き、そこでマクゴナガル先生とダンブルドア先生に一連の事件についての説明をした。
日記と剣、バジリスクの牙を提示して、たどたどしく話すハリーにおれが所々で補足して、すべて伝え終わったあと、ハリー、ロン、おれの三人は「ホグワーツ特別功労賞」と一人につき二百点を与えられることになった。
「それにしても、一人だけ、この危険な冒険の自分の役割について、恐ろしく物静かな人がいるようじゃ。――ギルデロイ、随分と控えめじゃな。どうした?」
「校長――その、私は――」
「まあ、よい。後で詳しく聞かせてもらおう。ハリーとエドガーは残って、三人は医務室に行きなさい。二人にはちょっと話したいことがある……」
ロンがジニーを支えて出て行き、ロックハートがドアを閉めてその後ろを歩いて行った。
ダンブルドア先生は暖炉の傍の椅子に腰かけて、おれたちも促されるまま椅子に座った。
「さて、ハリー、エドガー。わしに何か話したいことは無いかな?」
先に声を出したのはハリーで、リドルに似ていると言われたことや、スリザリンに入るべきではなかったのかということを、小さな声で語った。
「ふむ。それはわしよりも君を近くで見てきた人に聞いた方がよいじゃろう。エドガー、君はハリーがグリフィンドールに相応しくないと、そう思うかね?」
「まさか。ハリーがグリフィンドールじゃないなら、今ごろホグワーツの寮は三つだけです。秘密の部屋に乗り込むのも、バジリスクと戦うのも、事件を解決するのも、勇敢で正義感に溢れた人じゃないとできません」
「と、君の友人は言っておるが」
「でも、僕は……組み分け帽子にスリザリンに入れないでって頼んだから、それでグリフィンドールになったに過ぎないんだ……」
「ハリー、それを言うならおれだって自分でハッフルパフを選んだんだ。きっと大事なのは、自分がどんな選択をするかってことなんだと思う。……それにさ、実はおれもリドルに言われたんだよね。スリザリンに相応しいって。でも、おれは自分の居場所はハッフルパフだって思っている。自分が選んだ結果だから、誰に言われたって揺るがないよ」
「おお、わしの言いたいことが全部取られてしまった!」
それから、剣がゴドリック・グリフィンドールの物だと判明したり、顔色を変えたウィーズリー夫妻が駆け込んできて、ジニーが無事だと伝えると感謝と共に抱きしめられた。
理事のルシウス・マルフォイもしもべ妖精(ドビーというらしい)と共に現れた。射抜くような視線と共によくわからない言葉(「君は……いや、まさかな。失礼、知り合いに似た人がいたもので」)をおれに寄越してから、校長先生とのやり取りを開始した。そこで一連の事件が彼の差し金だったことが判明し、なおかつハリーの策でドビーを「解放」してしまうなど散々な目に遭っていた。このルシウスって人、初対面だけどなんとなく気に食わないし――正直に言うと、いい気味だ。
まあ、そんなことよりも。
「おかえり、ジャスティン」
事件が解決したこと、マンドレイクの蘇生薬で石にされた人が元通りになったことを祝して、盛大な宴会が開かれた。
「ただいま。……エド、君が解決してくれたって聞きました。本当にありがとうございます」
「いいや、おれは大したことはしていないよ。ハリーとロンのおかげなんだ」
「それ、さっきハリーも同じことを言っていました」
「じゃあみんな同じくらい頑張ったってことでいいんじゃない! ほらジャスティン、それよりも、宴会が終わったら今度はお茶会だからね!」
「ハードスケジュールですね。でも、最後までお付き合いしますよ!」
「そうこなくっちゃ!」
ジャスティンはアルマに引っ張られて、人の中に紛れ込んでいった。
それと行き違いになるように、人並みからザカリアスが押し出されて、「やれやれ」と言いたげな表情でおれの前まで歩いてきた。あ、そうだ。
「ザカリアス。……ただいま」
「ああ、お帰りエド。まったく、想像していたとはいえ『秘密の部屋』に乗り込むなんて。さっきスーザンに散々言われたよ」
「ふふ、ごめんね。でも、おれは死ぬ気なんて全くなかったよ。だってきみと約束したからね。『必ず戻る』って」
「その約束が果たされたようで何よりだよ。それにしても、今年の君は波乱万丈だったな」
「我ながらそう思う。もう二度とこんな一年はごめんだね。来年くらいはゆっくりしたいよ」
どちらからともなく笑いあって、それから二人まとめてアーニーによって人の波に引きずり込まれ、その後は何が何だかわからないくらい宴会を楽しんだ。
ハッフルパフの得点が二百点増えたことで、寮対抗杯は去年から一つ順位が上がった二位になった。ハッフルパフ生はこれで大歓声を上げたし、マクゴナガル先生が学校からのお祝いとして期末試験がキャンセルされたことを告げると、歓声はさらに大きくなった。
会う人全員に「部屋」でのことを聞かれ、称えられ、あとたまにチョコレートをもらったりして、夜通し宴会は続いた。
余談だけど、大広間での宴会が終わった後、アルマの宣言通り談話室に戻って、今度はハッフルパフだけの宴会――盛大なお茶会が開かれた。これも長い時間続き、翌日はみんな半日以上眠りこけた。この様子がのちに「穴熊の冬眠」と呼ばれて語り継がれたとか、継がれなかったとか。
+
夏学期の残りの日々は、焼けるような太陽で、もうろうとしているうちに過ぎた。ホグワーツ校は正常に戻ったが、いくつか小さな変化もあった。
闇の魔術に対する防衛術の授業は、ロックハートが突然の辞任を申し出たことですべてキャンセルになった。本人曰く「自分を磨く旅に出ます!」とのことだったが、ダンブルドア先生がこっそり教えてくれたところによれば、今までの自分の罪を洗いざらい告白し、罪を清算し、新しく生まれ変わるつもりだそうだ。もしかしたら、本当に魔法省の「忘却術士」になったりして。
ジニーはすっかり元気を取り戻した。リドルが操っていた影響は全く残っていないばかりか、性格が幾らか明るくなってよく笑うようになった。それでも、未だにハリーとうまく話せないと悩んでいたので、前に一度言った通り、ハッフルパフの男子生徒を動員しての対話の練習も始めた。まだ初めて数週間だけど、少しずつ成果が出ているようで何よりだ。これならハリーと普通に話せる日も遠くないだろう。
マクゴナガル先生の授業も再開した。こっそり抱いていた二年生のうちに習得出来たらいいな、なんて淡い期待は叶いそうにないけど、それでも来年中に習得できる見通しは立っている。ふふ、何の動物に変身するか楽しみだな。
あまりにも速く時が過ぎ、もうホグワーツ特急に乗って家に帰る時が来た。ハンナ、スーザン、アルマ、ザカリアス、ジャスティン、アーニー、そしておれのいつもの七人は一つのコンパートメントを独占して、最後の数時間をみんなで十分に楽しんだ。途中、電話番号が走り書きされた羊皮紙を渡しに来てくれたハリーを捕まえて冒険譚を聞き出したり、来年の選択科目について話したり(ジャスティンは数占いとマグル学にするそうだ)、簡単な魔法をかけあったりした。
キングス・クロス駅に着くと、お祖母さまが迎えに来てくれていた。
お祖母さまはおれを見るなり抱きしめてきた。その力があまりにも強く、危うく窒息しかけた。
「おかえりなさい、エディ。無事でよかった。あなたに何かあったらと思うと……私があなたの帰宅を許可しなかったせいで、大変な事になったらどうしようって。ああ、よかった。本当によかったわ」
「ただいま、お祖母さま。おれは大丈夫だから、安心して。それよりもルーマニア旅行についてまた聞かせてよ」
「そうね、そうだったわ。まず先に伝えることがあったのよ」
そこでようやく、おれはお祖母さまの後ろにいた小さな人影に気づいた。
意志の強そうな紫色の瞳、きらきら輝く銀色の髪、抜けるような白い肌。一度見たら忘れないような――そして、どこか懐かしさを覚える美少女が、日傘の下からまっすぐにおれを見つめていた。
「紹介するわ。私たちの新しい家族、吸血鬼のクラウディアよ」
……どうやら、来年も大変な日々が続きそうだ。
8/20差し替えました。
内容の変更点
・リドルの日記の破壊とバジリスク退治
・一部会話の追加
次からいよいよアズカバン編です。
吸血鬼の少女・クラウディア(クローディア)という単語にピンときた方は握手。