IS 西の男性操縦者   作:チャリ丸

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原作で「は?」と思った所に肉付けし、イラッとしたところは大胆カットする二次小説。




 

 

 楯無が旅館から発つほんの数分前。

 

「ふざ、けるな…」

 

 白騎士の戦闘領域にてマドカは切り捨てられた。

 織斑千冬と言うには弱すぎるが、どこかに強さがあった。

 その白騎士に一撃でのされたのだ。

 

「わたし、は…!わたしは、こんなところで…終わらない…!」

 

 裂けた胸部装甲からペンダントがこぼれ落ちる。

 なぜかそこには、たった一枚の千冬の写真があるのだ。

 

「それだけは離してたまるかっ!」

 

 落ちる中、やっとの思いでそれを手中に収めることに成功したマドカ。

 しかしそれは、白騎士の攻撃が再来する合図にもなった。

 

「潮時ね、エム」

 

 その声にハッとした。

 亡国機業で呼ばれているコードネーム。その名を、こんな場面でゆっくりと発する人物など、マドカは1人しか知らない。

 

「ス、コール…」

 

 白騎士からの攻撃を圧倒的熱量を誇る弾幕で遮り、スコールはマドカの腕を左手で握りしめた。

 右腕にはオータムが抱かれており、追手はいない。

 

「さようなら織斑一夏くん。また会えることを願っているわ」

「待て…私は、まだ!」

「言うことを聞きなさい。今の貴女、正気じゃないわ」

 

 マドカの言葉に聞く耳を持たず、スコールはその場から飛び立った。

 

「…」

 

 後に残るのは白騎士ただ一つ。

 それは密かに戦いを望んでいた。

 

「…来る」

 

 その呟きは虚空に消える。

 しかし、その数秒後には『紅椿』、『ブルー・ティアーズ』、『甲龍』を操る箒、セシリア、鈴が現れた。

 

「な、なんなのよあれは…い、一夏は…?一夏はどこ行ったのよ!」

 

 悲痛なほどの鈴の叫び。

 それに応えるように、白騎士は静かに敵意を向けた。

 

「力の資格の、あるものよ…」

 

 その切っ先を確かに箒達に向ける。

 

「私に挑め…」

 

 箒達の、史上最悪の戦いが始まった。

 

「くぅっ!?」

「箒さん!」

「ボーっとしてんじゃないわよセシリア!ともかく、今はアレと戦うのよ!」

 

 一瞬の加速のうちに箒の目の前に迫った白騎士。

『紅椿』の展開装甲のスピードを持ってしても、防ぐのが精一杯というその一突きは、3人のスイッチを切り替えるには十分過ぎた。

 

「なぜ私達に…!」

「言ってる場合ではありませんわ、箒さん!鈴さんの言う通り、今はアレをなんとかしないことには、一夏さんは戻ってきませんわよ!」

 

 気づいてはいる。

 ダリル、フォルテとの戦闘空域にいた3人にまで届いたスコールのオープン・チャネル。

『織斑一夏の戦闘空域が面白いことになっている』というそれを聞き、戦闘を止めてここまで来たのだ。

 それに、3人はしっかりとこの場を去るスコールの姿を見たのだ。

 ということは、ここが一夏の戦闘空域だったということ。

 

「目ぇ覚ましなさいよ、アホ一夏ぁ!」

 

 となれば、そこにいるアレ―白騎士―が、一夏を乗っ取っている可能性が高い。

 そうと決まれば話は早い。

 元よりこういった場面ではサバサバしている3人。

『銀の福音』の時の時守と同様、中から一夏を引きずり出せばいいのだ。

 

「喰らいなさい!」

「行けっ!」

 

 衝撃砲と空裂。

 どちらも直撃すればただでは済まない代物を、白騎士は丁度重なるタイミングで、一太刀で切り捨てた。

 

「甘いですわよ…!」

 

 その死角。

 もはや手慣れてきたとも言える程の精度で敵の死角を狙い撃ちできるようになったセシリアの、正確無比なビットによる一撃が白騎士の左斜め後ろから突き進む。

 後数cmもすれば、後頭部へと刺さる。

 

「…」

 

 しかしその一撃すらも、白騎士は首を傾げるだけで躱してしまう。

 

「なっ!?」

「止まんじゃないわよ!」

 

 そのまま、セシリアの方には目もくれずに腕部荷電粒子砲を撃つ『白騎士』。

 その荷電粒子砲の軌道を、鈴の衝撃砲がほんの少しだけずらし、セシリアから反れていった。

 

「助かりましたわ、鈴さん」

「そんなんは後っ!来るわよ!」

 

 少しの作戦を練るための時間すらも与えてくれない。

 残留思念とはいえ流石は『織斑千冬』といったところか、専用機持ち3人を相手取っていても、優勢に変わりはなかった。

 

「ぐ、う、ぅっ!こ、のぉ…!」

「ナイスよ箒!」

「今のうちに!」

 

 鈴、セシリアの方へと突っ込んできた『白騎士』。

 その間に入り、壁となるように空裂と雨月を十字に構えた箒を一刀両断すべく、『白騎士』は雪片壱型を振りかざす。

 箒と『白騎士』の鍔迫り合い―箒が一方的に押されている状況だが―の隙に、鈴とセシリアが距離を取り、『白騎士』への攻撃に転じる。

 

「はああぁっ!」

 

 鈴の双天牙月が『白騎士』に迫る。

 その瞬間、『白騎士』は箒との鍔迫り合いの状態から瞬時に箒を弾き飛ばし、くるりと軽く反転しながら鈴の脇腹に回し蹴りを食らわせた。

 

「ぐっ…」

「ガッ、ぁ…」

「この…っ!」

 

 友人2人が吹き飛ばされる光景を見つつも助けに行かず、セシリアは『白騎士』の隙をついた完璧な一撃を食らわせるために、引き金を引いた。

 

 当たる。確実に当たる。

 

 その確信通り、スターライトmk-Ⅲから放たれた光は、今度こそ『白騎士』の頭部を捉える。

 

「…」

「な…っ!何、ですっ…て…」

 

 はずだった。

 

 突如として目の前に現れた『白騎士』の蹴りを受けるセシリア。

 だが、セシリアが驚くのも無理はない。

『白騎士』がやってのけた芸当。

 それは、完全停止(・・・・)の状態から最大速度(・・・・)まで一瞬で加速するという、まさに人間離れした操縦技術。

 それでもセシリアは、この技に見覚えがあった。

 

「しゅ…縮地加速…」

 

 1度は授業中に担任が使っていたもの。

 もう1度は模擬戦で恋人が使っていたもの。

 それ以外では映像でも記録でも、見たことも聞いたことも無い。

「瞬時加速」をもじったそれは、世界トップレベルの2人しか使えないものだった。

 

「とんでもないですわね…!織斑先生と、剣さんしか使えない技を…!」

 

 といっても、両者のそれは少し違う。

 千冬は地の技量で。

 時守は『完全同調』の補正を受け、成功させた。

 地力が隔絶されている両者。

 さらに言えば、時守には縮地加速よりも速い『雷動』があるため、多用する機会は少ないのだ。

 

「すまない、セシリア…!」

「厄介ねこいつ…。もう、無意識の一夏だから、なんて手加減してる余裕無いわよ…」

 

 蹴りを食らった腹部を抑えるセシリアの元へと近づく、同じくダメージを受けた箒と鈴。

 

「こちらこそすまん!セシリア、箒、鈴!合流した!」

「3人とも大丈夫!?」

「…遅れて、ごめん…」

「ラウラさん!」

「シャルロット、簪も…」

「これで全員ってわけね」

 

 その3人に、ようやくと言ってもいい援軍が来た。

 束に受けた拘束から抜け出したラウラ、シャルロット、簪の3人。

『白騎士』と対峙していた3人よりかはまだダメージが少なく、大きな戦力になる。

 

「状況は?」

「最悪ですわ」

「箒、あの機体は?」

「分からん。だが、アレの中に一夏がいることは確かだ」

「…強さは?」

「みんなご存知、織斑先生レベル。それも、手加減無しの全力よ」

 

 6機の専用機。

『紅椿』、『甲龍』、『ブルー・ティアーズ』、『ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡ』、『シュヴァルツェア・レーゲン』、『打鉄弐式』が構える。

 対する『白騎士』は、6機に半身になりながら構え、右手に軽く雪片壱型を握る。

 

 唯それだけ。

 

 唯それだけでも、『白騎士』の異様さは良く分かり、事実その強さは身をもって知っている。

 

「っ!来るっ!」

 

 ラウラの予測通り、『白騎士』が6機に突撃してくる。

 

 瞬時に散開。

『甲龍』、『打鉄弐式』、『ブルー・ティアーズ』の3機と『紅椿』、『シュヴァルツェア・レーゲン』、『ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡ』の3機に分かれる。

 

『白騎士』が選んだのは後者。

 その中でも比較的腕の劣っている、『紅椿』に狙いをつけた。

 

「させん」

 

 だが、そのための布陣。

 ダメージを負っているとは言え、『紅椿』は専用機持ちの中での速度で言えば2番手。

 回避にのみ集中し、展開装甲を操作すれば躱すことはそう難しくはない。

 そこを『シュヴァルツェア・レーゲン』のAICで拘束。

 

「はあああぁっ!」

 

『ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡ』が瞬時に対応し、武器を選択。

 一斉掃射で、今度こそ『白騎士』の懐に直撃させる。

 

「まだだ!」

 

 継いで、誘導のために退避していた『紅椿』からの攻撃。

 

『ゴーレムⅢ』との戦闘でその脅威を知らしめた、穿千。

 

 危険を察知した『白騎士』の手元がブレた。

 

「何っ!?」

 

 ラウラが驚くのも無理はない。

 自身が集中して対象を捉えている限り、ほぼ無敵の拘束力を得る「AIC」

 それの中に閉じ込められた『白騎士』だが、指1本動かせない、ということはない。

 雪片壱型で零落白夜を発動させ、「AIC」をエネルギーごとぶった斬ったのだ。

 ラウラがいくら集中していても、エネルギーそのものが切られてしまえば意味は無い。

 

「ラウラ!」

「くぅ…!」

 

 無意識の敵に対し、完璧だった作戦。

 それすらも『白騎士』には通用せず、ラウラは雪片壱型に押し込まれ、シャルロットの助けが入る前に弾き飛ばされる。

 

「まずっ…」

「当たらないっ!?」

「箒!シャルロット!」

 

 散開していたもう1組から声が上がるそのほんの一瞬のうちに、『紅椿』と『ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡ』も吹き飛ばされる。

 

 ラウラ、箒、シャルロットに一旦ダメージを与えた『白騎士』は、まだ動けている3人に狙いを定めた。

 

「来るわよ!」

「簪さん、お願いしますわ!」

「うん…!」

 

 言われる前から既に山嵐の発射準備をしていた簪が、それを実行する。

 こちらに向かってくる『白騎士』だが、流石に計48発のマルチロックオンミサイルを全て躱すことなど出来るはずがない。

 

 そう、思いたかったのだ。

 

「えっ…」

 

 気の抜けた声が出た簪の眼前に迫る『白騎士』

 縮地加速により、まるで瞬間移動のようにして彼女の目の前に現れた『白騎士』が、その加速力全てを0にして強引に止まったのだ。

 だが、それでも物理法則には従うしかなく。

 余ったエネルギーを乗せた蹴りが、簪の腹部を捉えた。

 

「がっ…!」

「簪!この…!」

「これ以上はさせませんわ!」

 

 良く見なくても簪のダメージが大きいのは分かる。

 これ以上の追撃を許すまいと、『甲龍』と『ブルー・ティアーズ』が2機の間に躍り出る。

 

 しかし、既にその2つも小さくはないダメージを受けており、『白騎士』に吹き飛ばされるのは必然だった。

 

「強、すぎるだろう…」

「うん…」

 

 ラウラか箒か。

 そしてシャルロットか簪か。

 いずれも誰かが呟いた一言は、その戦闘空域に小さく響く。

 

 ただ強く。

 ただ速く、早く。

 

『天下無敵』を体現しているかのような偶像を、6機は相手にしていた。

 

 そして誰もが俯きかけた、その時。

 

「皆っ!」

「お待たせしました!」

 

 ロシア国家代表、更識楯無が操る『霧纏の淑女』が、IS学園1年1組副担任、山田真耶を抱えてその場に現れた。

 驚きと共に、少しの期待が湧く。

 

「ご覧あれ!」

 

 なぜここに専用機を持たない先生が?という疑問は即座に消えた。

 楯無の腕から浮き上がった真耶を光が包み、晴れた時には彼女の身体を見たこともないような機体が覆っていた。

 

「専、用機…?」

「はいっ!名付けて、ラファール・リヴァイブ・スペシャル!『幕は上げられた(ショウ・マスト・ゴー・オン)』!」

 

 同じラファールでもシャルロットの物とは全くもって違う。

 翼部のスラスター以外の身体の装甲はほぼ同じ。

 違うのは、その胴体を囲うような巨大な4枚のシールド。

 それが最大の特徴であり、真耶の最大の武器でもある。

 

「行きますっ!『絶対制空領域(シャッタード・スカイ)』!!」

 

 その巨大なシールドのそれぞれが有線接続操作の盾となり、射出される。

 

「生徒を傷つけるようで気は進みませんが…」

 

 真耶の正確無比な連撃が、『白騎士』の行動範囲を狭めていく。

 即席とはいえ、6機でも手に余った『白騎士』を1人で相手取る真耶の技術には、やはり生徒達にも目を見張るものがある。

 

「っ、今!」

 

『白騎士』が動きを止めた、その一瞬。

 その瞬間を狙い、中に『白騎士』を閉じ込めるように、先ほど射出した巨大なシールドで正四面体を作る。

 その頂点のほんの小さな隙間にサブマシンガンを捩じ込み、真耶は思い切りトリガーを引いた。

 

「…楯無」

「剣くん…。大丈夫よ、これで多分…」

 

 楯無と真耶の2人に遅れること数秒、時守剣もこの場に到着した。

 彼も見た、逃げ場の無い空間での2丁のマシンガンの連射。

『白騎士』の戦いぶりをオープン・チャネルを通じて聞いていた楯無だが、これで仕留めきれたと思った。

 

 もちろん、それは楯無だけではない。

 トリガーを引いた真耶も、時間を稼いでいた6機もだ。

 

 ただ1人以外、この場での戦闘は終わったと思っていた。

 

「…まだや」

「え?」

 

 跳弾の音が止み、4枚のシールドが剥がれていく。

 

 そこにはその言葉通り、大した傷すらも負っていない『白騎士』が鎮座していた。

 

「あのレベルの奴が、マシンガンの連射程度では堕ちんやろ」

「そん、な…」

 

 現役国家代表すらも、口を開けたまま動けない。

 この場で『白騎士』が何をしたか理解出来ているのは、時守ただ1人。

 自身と同速程度、さらにあの操縦技術ならば2丁のマシンガンから放たれた銃弾を切り落とすことは出来る確信があったのだ。

 

「やから」

 

 ぐい、と引かれた。

 6機に『霧纏の淑女』と『ラファール・リヴァイブ・スペシャル』を加えた計8機が、大きな力で1点に引き寄せられた。

 8機が見る景色は全く同じ。

 

 黄金のIS『金色』の背中と、その奥に見える『白騎士』

 

 三次移行の時に増えたランペイジテールにより、それぞれが時守の背後に引っ張られたのだ。

 

「技術であかんかったらそこに速さを。さらに足りひんねんやったらそこに力を」

 

 普通のISと、卓越した技術程度では『白騎士』にまともなダメージは与えられない。

 

 異常なISと、考えられないような技術を持って、戦えるのだ。

 

「俺が行く。『完全同調・超過(シンクロ・オーバー)』」

 

 8機を引いたランペイジテールが消え、代わりに金色の粒子が時守を包む。

 

「120%」

 

 時守の理性が侵食され、ISが強制的に暴走状態へと片足を突っ込む。

 

「…来なさい」

「ハッ!最初っからそのつもりやァ!」

 

 金と白。

 形は違えど、最速の戦いが再び始まった。

 

 

 ◇

 

 

「…また、アイツに任せっきりか」

「悲観しちゃダメよ、鈴ちゃん。確かにスパンは短いけど、これは最善策よ」

「違いないな。師匠にも余裕が無い。あれば、いきなり120%まで引き上げんからな」

「『白騎士』も、肩慣らし程度だったということですね。時守君と戦い始めてから、速度が段違いに…」

 

 時守か『白騎士』に突撃し、さらに空高くに舞い上がってから数秒後に鈴から零れた言葉は前向きなものでは無かった。

 

 だが楯無と真耶の考えでは、これは最善。

 

 誰も捉えられないのなら、最速を誇る時守が動きを鈍くする程度まで戦うしかない。

 といっても、これは操縦者の技術云々を抜きにしても、ISの機体性能差によるものの方が大きいが。

 

「…となれば、話は簡単」

「そうですわね。剣さんが止めた所を、中遠距離武装で狙い撃ち」

「それしか無さそうだな」

 

 その場にいる8機の専用機の中での最速のIS『紅椿』をも超える速度を出す『白騎士』だが、雷動を使っている時守は捕まえられない。

 見ている限り先程から翻弄されてばかりいる。

 そこを、狙う。

 

「狙うメンバーとしては、誰が行く?」

「確実な遠距離武器がある機体だな。セシリアは当然として、レールカノンのある私、それと荷電粒子砲を積んでいる簪か?」

「それがいいわね。それでも落とせなければ、箒ちゃんやシャルロットちゃんが機動力でダメージを稼いで、鈴ちゃんか私辺りがとどめを刺すって感じ、かな?」

 

 シャルロットの問いに対するラウラの答えは完璧だった。

 止まった瞬間を3機の遠距離武器で狙い撃ち。

 そこから楯無立案の、もしまだ動いていた時には機動力と近距離でたたき落とす、という作戦。

 

 だがそれは

 

「後は…時守君が止められるかどうか、ですね」

 

 今現在『白騎士』と戦っている時守が止められるかにかかっている。

 

「そう、ですね…。剣君も、あまり余裕は無さそうですし…」

「街への被害が大きい武装が多いからな…。『雷轟』は高く撃ちすぎると飛行機に、低すぎると民家に当たる」

「言っちゃえば、高火力が揃ってる投擲のオールラウンドも完全に使えないしね」

 

 速度と『完全同調・超過』による技術向上。

 全ての武装が十全に扱えれば、簡単に『白騎士』を止めることが出来る。

 だが、今は全ての武装を使う、などということは出来ない。

 

 雷を射出する『雷轟』はあまり乱用出来ないし、『グングニル』や『刺し穿つ死棘の槍』にモードを変えたオールラウンドを投擲することも出来ない。

 

 一撃必殺の『零落白夜』を使える『白騎士』相手に、ほぼ素手の近距離で戦わなければならないのだ。

 

「…こうしていると、『銀の福音』の時を思い出しますね」

「山田先生…」

 

 真耶は良く覚えている。

 あの時、千冬への報告のため、時守の姿を映した衛星放送をずっと見ていたからだ。

 相手が高火力武装を積んでいるという状況にも関わらず、『完全同調』という単一仕様能力を発現させ、近距離で仕留めたあの一件を。

 

「ですから信じましょう、もう1度。時守君なら、大丈夫です」

「もちろんです!」

「当然ですわ!」

 

 シャルロットとセシリアが意気込んだ、その時だった。

 

 

「任せる」

 

 

 8機が浮かぶ、その真ん中に突如時守が現れた。

 驚きはするものの、全員即座に理解した。

 雷動を使い、ここに現れたのだろうと。

 

 だが、その言葉は直ぐには理解出来なかった。

 

「っ、了解したぞ師匠!全員、『白騎士』の方を向け!」

 

 一番初めに理解出来たのは、実戦経験豊富なラウラ。

 情報はまずハイパーセンサーから得るという基礎を、彼女は怠っていなかった。

 だからこそ気づいた、そこに現れた時守の異変。

 彼女の声に従い、皆が迫り来る『白騎士』の方を向く。

 

「…っ!?」

 

 その時守の姿がゆらゆらと消えていくのと共に、離れた所にいる『白騎士』が不自然に動きを止めた。

 

 そしてその『白騎士』の背後には、はっきりと実体を持った時守がいた。

 

「『雷動』と、『完全同調・超過』を上手いこと応用した残像。パッと見は気づかんけど、ハイパーセンサーで見たら中身ないから一瞬で分かるで。お前みたいな機械相手とは、もうやり慣れたからな」

 

 彼が、8機と『白騎士』を結ぶ直線上から離れる。

 

「…例え技術があの人並でも、そんなんには負けられへんわ」

 

 決して油断を見せず、浮かれた表情もせずに、独りごちる。

 同時に、『白騎士』を極大のレーザーが貫いた。

 セシリアのスターライトmk-Ⅲが胴体を、ラウラの両肩のレールカノンが翼部を、簪の荷電粒子砲『春雷』が『白騎士』全体を攻撃。

 

 見事、動きを止めることに成功した。

 

「あっ!」

 

『白騎士』…否、もう白式へと戻り、ボロボロのそれを纏った一夏が落ちていく。

 するりと時守の背中から尻尾が伸び、一夏を受け止める。

 

「…しんど」

「アンタって戦い終わったあとそれしか言えないの?」

「それしか言えへんぐらいに疲れろや、お前も」

「何ですってぇ!?」

 

 一夏を1本のランペイジテールでぐるぐる巻きにして固定し、彼女達の元へと戻る時守。

 

 

 相も変わらず鈴と軽口を叩く様子に、彼女達に笑顔が戻った。




多分この話でフラグ何本か立ててます。
回収し忘れないように気をつけないと…!

コメント、評価などお待ちしております!

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