10巻、11巻の内容からその先も何とか書けそうです。
よろしければこれからも応援よろしくお願いします!
「カナー、シャルー」
大運動会の翌日、俺は刀奈とシャルロットの2人とのデートのためにレゾナンスに来ていた。
セシリアは以前から真耶に頼んでいたコーチングを引き受けてもらえたことから訓練、簪はセシリアに付き添いながら打鉄弐式の整備に勤しむとのことでパス。
…まあ正直なところ、今日はセシリアと簪の2人がシャルロットと刀奈にデートを譲ったのだ。
「ってまた何しとんねんクソ共がアアア!!」
「ぐぼぁっ!?」
「んべっ!?」
「ごな゛っ…」
合流して早々、刀奈とシャルと口論していた金髪ピアスのアホ顔三人衆それぞれに蹴りをお見舞いする。
1人は後頭部に肘、1人は鳩尾にアッパー、1人は金的につま先を抉りこませた。
「おいテメェら…」
「ってぇな…。って、お前あの時の!?」
「ってことは…と、時守、剣なんだよな…」
「ま、マイゴールデンボール…」
この3人には見覚えがある。
刀奈との最初のデートの時、IS学園の最寄り駅で刀奈をナンパしていた奴らだ。
…ふむ、おかしいな。こいつらには刀奈に近づかへんように誓約書書かせたつもりなんやけど…。
「ハウスッ!」
「「「はいっ!」」」
俺の掛け声でその3人は散っていった。
約1名股間を抑えてたやつおったけど大丈夫やろ。
「ごめんやで。嫌な思いさせたな」
「んーん。大丈夫だよ、剣」
「そ、れ、よ、り。どうして遅れたの?…何か、あった?」
刀奈が問うてきたように、俺は今日のデートの待ち合わせ時間に少しばかり遅れてしまった。
理由言っても―
「勝負下着迷ってた」
「…」
「…」
「いや、顔赤くして固まらんとって?」
―しょうもないことなので包み隠さず話す。
いや、だって久しぶりのデートやで?
まあレゾナンスやけども。そりゃ彼女2人とのデートやねんから気合い入るやろ。
「その、ね…?」
「剣君も私達と同じこと考えてるんだな、って…」
「そういう事か…」
シャルと刀奈の発言に、今度はこちらの顔が熱くなる。
…。
「ほ、ほな。行こか」
「うんっ」
「そうね、時間は有限だものっ!」
右腕にシャル、左腕に刀奈が抱きついてくる。
まあこの2人の美貌ならナンパされてもしゃあないわな!
「んー、なんか嬉しいわ」
「うん?何が?」
「2人がナンパされる理由」
「むっ、私たちが取られてもいいの?」
「そんな訳無いって信じてるけど、2人とも可愛いしな。可愛い彼女が2人ともナンパされるってことはそんだけ魅力的ってことやろ?」
むぎゅう、と両腕に込められる力が強くなった。
「ほ、ほら!早く行こ!」
「シャル?顔真っ赤なってんで?」
「せっかくのデートだから、ね!」
「刀奈?耳めっちゃ赤いで?」
耳まで真っ赤になった2人に腕を引かれ、レゾナンスの中へと入っていく。
いやー、やっぱ照れる姿も超可愛いわー!
◇
「ロシア?」
「そう、ロシア。剣くん、私の実家には来たけどロシアには来てないでしょ?」
「…夏休みに、ちょっとだけな…」
「あっ、ご、ごめんね?」
「大丈夫やで。次に刀奈と行くんやったら全然辛くないもん」
「剣くん…大好き!」
「俺もやー!」
「私もっ!」
「シャルッ!」
周りの目がどんどん死んでいくのを尻目に、カナとシャルと抱き合う。
確実に国連代表時守剣やとはバレてるやろうけど、このバカップルの雰囲気に突っ込んで来れるやつがおらん、って言ったところか。
「むへへへ…剣くんやっぱりいい匂い…」
「…剣、また身体凄くなった?」
「お?そりゃな。…あんまデカい声では言えへんけど、三次形態移行したおかげで余計激しい動きできるようになったしな」
「…でも大丈夫なのよね、剣くん。もう、あんな無茶は…」
「あぁ、せぇへん。というより、『完全同調・超過』があるから無茶にはならへんしな」
「そっか。なら良かった」
先ほどまではウインドウショッピングをしており、休憩のためにベンチに腰掛けながら話す。
フランスにロシア、イギリスとなぜか全員の所属が日本を除いて割と寒い所にあるため、訪問用のコートなどを買ったのだ。
前々から思ってたけどファーって何やねん。さんまか。
「それにしても、ほんとに凄いよね。二次形態移行も、三次形態移行も。まだISに乗って数ヶ月しか経ってないのに…」
「ワンサマも割と早かったし…男やからって感じちゃう?」
「そこの所、ISって謎が多いわよね」
現在確認されている稼働中ISの中で三次形態移行まで済ませているのは『金色』だけらしい。
亡国機業が隠していれば分からないが、もしいるのならそれを超えるだけや。
「ま、今やったらどんな奴が襲ってきても余裕やわ」
「…慢心はダメよ?剣くん」
「慢心せずして何が王か、ってな。これでも一応国連代表やで?心配してくれんのは嬉しいけど、俺だってちょっとは強なってんねんから」
ドヤっ、と少しカッコつけてみた時だった。
それが見事にフラグを立てたのだろう。
「っ、もしもし?…ええ、ええ。分かったわ今すぐ向かうわ」
「…お?なんや。…ほーん。とりあえずイーリのケツしばいたらええねんな?」
刀奈の『ミステリアス・レイディ』と俺の『金色』に秘匿回線通話が入った。
お互いの緊張感は真逆だが、内容は全く同じだろう。
「あ、あの…剣?楯無さん?」
「おぉ、すまんなシャル。ちょいと野暮用や。今から米軍の空母調査しに数十キロの制服遠泳デート何やけど、どうする?」
「み、魅力的なお誘いだけど、断るっていうのは…?」
「当然の権利よ。…まあシャルロットちゃんがいるのなら、一旦学園に戻って、私たちが帰ってきた時の準備をしておいて欲しいんだけど。頼めるかしら?」
「はいっ!」
こう言われてすぐに了承の返事をしてくれる辺り、やっぱりシャルは判断能力が凄い。
自分のISには来なかった。しかし俺とカナには来た。
この2つの要因から、『国家、並びに国連代表だけが関わっていい案件』だと判断してくれたのだろう。
「シャルに頼むとしたら、戻ってきてからの着替えの準備とかちっふー先生への説明とかになってまうねんけど…」
「任せて!大丈夫だとは思うけど、気を…付けてね?」
「その言葉があれば俺は無敵や!」
「ふふっ、ありがとねシャルロットちゃん。ちゃんと戻ってくるわ」
カナと共にベンチから立ち上がる。
シャルは既に携帯で連絡を入れてくれている。話し方から察するに、恐らくちっふー先生辺りにでも電話を掛けているのだろう。
「ほな行こか、刀奈」
「そう呼んでくれるのは嬉しいけど、今は楯無よ?剣君」
「了解、楯無」
レゾナンスの中を、細心の注意を払いながら走っていく。
―――
――
―
やって来たのはIS学園近くの臨海公園。
そこに俺と楯無はIS学園の制服を着て立っていた。
「さて、と。剣君。ISスーツはちゃんと着てるわよね?」
「もち。んでまあ泳いで沖にあるアメリカ国籍の空母に乗り込む、と」
「えぇ。まあそこにある情報を抜き取ることが目的ね。何かときな臭いことは確かだし」
2人して柵をよじ登る。
と言っても、先に俺がよじ登り―
「楯無、ほら」
「う、うん…」
―柵から降りてくる楯無を、脇に手を入れて支えながら下ろしたのだが。
「…この年になって年下の彼氏に抱っこされて下ろされるのって、ちょっと恥ずかしいのね」
「一瞬だけ見たらたかいたかいやしな」
年上ロシア国家代表をたかいたかいする国連代表。
これから潜入ミッションに挑むにあたって、直前の雰囲気は真面目そのものながらどこか抜けていた。
「お、おほん。じゃあ剣くん、行くわよ!」
「おー!海へ、ぴょーんっ!!」
綺麗な飛び込みを見せる楯無。
そんな彼女を尻目に、俺はそのまま海へと飛んでケツから思いっきり着水した。
「ぷはっ、剣君。お尻大丈夫?」
「…ちょっと痛い」
顔が海の水で濡れて分からなかったやろうけど、ほんの少しだけ涙が出ました。
◇ ◇
「なんやこの調理室。汚いし換気できてないし、ここの責任者どんな奴やねん」
「…まあ、普段から織斑先生に鍛えられてる剣君なら疲れないわよね」
「お?俺小学校ん時から割と遠泳得意やったで?」
潜入しての時守の開口一番は調理室の衛生面に関してだった。
料理ガチ勢のこの男からすれば、包丁やまな板を置いている所が常に濡れていたり換気口が無いこの調理室は考えたくもない空間だった。
「おーい、腹減ったから何か作ってくれ…ってとっきーじゃねぇか。こんなとこに何の用事だ?」
「おー、イーリ。よっ、お久」
「お久ー。…ってそうじゃねぇよ。マジで何しに来たんだ?」
「…お前知らんの?今ここだいぶヤバいで?」
「え、マジ?…って更識楯無もいるじゃねぇか」
楯無は頭を抱えそうになった。
アメリカ国籍の秘匿空母で、そこにいるアメリカ国家代表と遭遇したのだ。
まず間違いなく一触即発。向こうの逆鱗に触れ、戦闘になると考えていた。
のだが。
「…イーリス・コーリングアメリカ国家代表、でいいかしら?」
「おう。てか長いだろその呼び方。別にイーリで良いぞ」
「……イーリ。貴女、剣君との関係は?」
「あー、何だろな。ライバル?ダチ?」
「ボコられ役の間違いやろ」
「てめこのっ…!」
今度は、本当に頭を抱えた。
彼氏が他の女に尻を蹴られているが、今はそれ置いておく。
なぜこの人はこんなにも輪が広いのか。
最早友達が多いとかいうレベルではない。説明を聞かずに攻撃してきそうな、いわゆる敵かもしれないポジションの人間がいない。そう言ったポジションの人間は揃いも揃って既に味方になっている。
本当の敵以外、戦わなくてもいいという事態に、楯無は混乱していた。
「…剣君、イーリに状況の説明をしてあげて」
「おっけ。…ん?どした楯無。酔うた?」
「…違うの」
「おーおー、お熱いこった。とっきーアレだ、嫉妬ってやつだ。お前とアタシが仲良くしてんの見んのが気に食わねぇんだよ」
「そ、そんなことっ!…無くは、ない…けど…」
「なあイーリ、俺の彼女流石に可愛すぎひん?」
「もうっ!剣君!今がどんな状況か分かってるの!?」
「……ハッパ掛けときながらアレだけどよ、お前ら一緒に末永く爆発してくれねぇか?」
全くもう、とセリフを残し、ぷんすかぷんすかと怒りを顕にしながら大股で歩いていく楯無。
イーリスへの説明を大まかにしながら、時守も後を追いかける。
「えとな、アバウトに説明すると、ヤバい情報と一緒にこの船沈みかけ」
「嘘だろおい。聞いてねぇよ。この船にまだアタシの財布残ってんだぞ?カードやら何やらが入ってんのに…」
「全部が全部、亡国機業ってとこが悪い」
「んだその厨二病丸出しのネーミングセンス。そこのトップ頭悪そうだな」
「まあそりゃな。各国からIS奪おうとか考えてる時点でアホやん」
「同感だ」
頬をぷぅっ、と膨らませたままの楯無と、その後に続く2人が入ったのは極秘データが集まったセントラル・ルーム。
「おい更識楯無。なんでお前がアタシらんとこの1番大事な場所知ってんだよ」
「秘匿空母の、ここらへーん」
「ここは淡路島じゃねぇっての」
「…入ってきた時にマップ見て覚えたのよ」
「聞いたかとっきー。お前の彼女すげぇぜ?お前覚えたのか?」
「『金色』で俺の目通して写してる時にスクショ撮った」
「ほんっとに便利だよなそのIS。タブレットかよ」
「IS国家代表倒せるタブレットとか凄くね?」
2人の話を適当に流しながら楯無は電子端末を操作していく。
別世界では全く違う関係ではあるが、ここではこの2人は恋愛関係になることはない。
彼を信じているからこそ、置いておくのだ。
「ねぇイーリ。スコール・ミューゼルって知ってるかしら」
「おぉ知ってるぜ。確か、十年くらい前にぽっくり逝ったババアだろ?」
「…そう。ならやはりおかしいわね」
「何がだ?」
「この間ね、そのスコールと少しだけ戦ったのよ」
「キャノボん時か」
「…なら確かに妙だな。そのデータは、他とはちげぇ。公にされてないからこそ事実しか書いてねぇはずだ。…ってことは」
イーリの発言と楯無の体験との間に生じた矛盾。
それが3人をより真剣な表情にしていく。
…最も、楯無は最初から真剣そのものだったが。
「イーリの知らんとこで亡国機業と間違いなく繋がっとるな、アメリカは。…亡国機業だけちゃうとは思うけどな」
「…と、いうと?」
「まあその辺は本人に聞こや。丁度――」
時守がIS『金色』を部分展開し、『ランペイジテール』で壁を貫いた。
尻尾の先が3人の元へと戻ってきた時、その先端には金色のISを身にまとった女性が捉えられていた。
「偶然ここにおったみたいやし」
「くっ…、この…!離しなさい!」
女性―スコール―は叫んだ。
聞いていなかったのだ。国連代表がここまで出来る人間だとは。上の情報では、数週間前に復帰した程度でしか無かった。
それが何故、ISを起動したと同時に敵の位置を把握、武装を展開して最短ルートで捉えられる程の腕前になっているのか。
「離してもええけど、その瞬間に雷お前の眉間にぶち込むからな」
「ぐっ…」
「…なんだ。珍しくキレてんなとっきー」
「当たり前やろ」
時守以外の3人が、彼の言葉に耳を傾ける。
気になるのだ。何がそこまで彼を怒らせるのか。
「金色のISとか、盛大にキャラ被っとるやんけ!!」
「…は?」
「…え?」
「はぁ…」
イーリス、スコールは間抜けな声を上げ、楯無はやはりと言わんばかりにため息をついた。
「いや、見てみぃやISの色。被ってるやん」
「そ、それだけ…か?」
「はぁ?キャラ被りとか死活問題やん」
「っ!『ゴールデン・ドーン』ッ!!」
時守がイーリスの方に顔を向けた一瞬で、スコールは攻撃へと転じた。
彼女の操るIS『ゴールデン・ドーン』は炎を操るIS。
その中でも特に高い火力を誇る超高熱火球『ソリッド・フレア』が時守へと襲いかかり―
「どーんっ!」
―一瞬にして消え去った。
「…えっ?」
「なあ楯無。アタシらほんとにこいつとモンド・グロッソで戦って勝てると思うか?」
「さ、さぁ…?」
突き出した右腕から伸びる人差し指。そこから放たれた『雷轟』が炎をかき消したのだ。
スコールの動きが遅いのではない。むしろ、並のIS操縦者以上の速さだ。
しかし、時守はさらにその上をいっているのだ。
「なら…っ!」
「おっ、追いかけっこか?」
今度は『ソリッド・フレア』で『ランペイジテール』を溶かし、拘束から何とか逃れたスコール。
二重瞬時加速で逃げる彼女を、時守は涼しげな顔で追いかけだした。
「とっきーがいれば負けることは無いとは思うが、任せっきりってのも癪だしな。アタシらも追うか」
「えぇ!」
2人もIS『霧纏の淑女』と『ファング・クエイク』を展開して2人を追う。
空母を後にして宙へと出た2人は、一筋の光の線がスコールの周囲を、まるで乱反射しているかのように巡っているのを目の当たりにした。
「速、すぎる…!」
それでも、ダメージを最小限に抑えているのは流石といったところか。
亡国機業実働部隊、『モノクローム・アバター』のリーダー、スコール・ミューゼル。
ISの腕は確かだった。
「まー、あいつも運が悪かったなー。カモだと思って罠を仕掛けたら、掛かったのがティラノサウルスってレベルの災難だぜ、こりゃ」
ゴリゴリと『ゴールデン・ドーン』のSEが削られ、同時に装甲が磨り減っていく。
ハイパーセンサーを使って集中して動きを捉えても、ブレて何をしているのか良く見えない。
それほどまでに『雷動』を使った時守は速かった。
「お姉ちゃん!…誰?」
「あん?…似てんなおい。妹か?更識楯無」
「えぇ。簪ちゃん、なんでここに?」
「織斑先生に言われて、これを持って行けって。後は…お手伝い?」
「大掃除かっての」
そんな時守の攻撃にいつ追撃を合わせようかと考えていた時。
シールドパッケージ『不動岩山』を装備した簪が2人の元へ飛んできた。
「ありがとう簪ちゃん。受け取っておくわ」
「うん。…でも、使う?」
「恐らくね」
簪が持ってきた物。それは楯無に必要な物だった。
『霧纏の淑女』専用パッケージ『オートクチュール』。
名を『麗しきクリースナヤ』。
そんなん付けんでも麗しいで!という彼の声が聞こえてきそうな名前のそれを、背中に接続する。
アクア・ヴェールが青から赤へと変色、超高出力モードへと切り替わった。
「幾ら剣君が速いとはいえ、相手もかなりの手練よ。間違いなく一撃を食らわせる必要がある」
「ってなりゃ、流石のとっきーも一瞬だけ動きを止める。向こうもその隙を狙ってんだろうよ。目がそう言ってる」
簪は言葉に詰まっていた。
一見すれば時守が完全に優勢。どこをどう見ても負ける要素なんて微塵も存在しなかった。
しかし、国家代表の二人から見れば全く別。一瞬で形成が逆転されかねない状況らしい。
「スコールはその隙を。逆に私たちは剣君の隙を突こうとするスコールの隙を狙うの。幸い、私の単一仕様能力は拘束に長けているから、そこを狙ってちょうだい」
「あいよ。つっても、アタシまだ単一仕様能力出てねぇし、ただぶん殴るだけになるな」
「…じゃあ私は、そこを『山嵐』で狙い撃つ」
「『山嵐』ってなんだ?」
「マルチロックオンシステムによる高性能誘導八連装ミサイル。…計48発」
「物騒だなおいっ!アタシが突撃してる時にそれぶっぱなすなよ!?」
「…人の彼氏と仲良くしといて、良く言う」
「そ、それは謝るからさ…」
「二人共、そろそろよ」
誰に似たのか軽く漫才を始めていた2人を楯無が諌める。
彼女が察したということは、彼から彼女にだけプライベートチャネルで連絡が入ったのだろう。
3人に緊張が走る。
スコールの背後から攻撃を当てた時守の動きが、一瞬だけ止まった。
その瞬間―
「っ、『ソリッド・フレア』!」
「『
「『山嵐』!」
「『
―4つの大型武装―内一つは単一仕様能力―が同時に激突する。
時守を落とさんとばかりに放たれた火球。
それを撃った下手人を捉える沈む空間。
そこからもがき、這い出ようとするスコールを足止めするミサイル。
そして火球諸共スコールのISを右腕、右翼ごと粉砕した槍。
ことは、一瞬で片付いた。
「勝負あり、ってか?」
「…えぇ。ISも壊れかけ。右腕ももげちゃったし、負けね」
ただしそれは勝敗において、である。
「っ!まだや、イーリ!捕まえろ!」
「…っ、そういうことかよ…!」
「だから逃げさせてもらうわ。『ソリッド・フレア』」
火球がスコールを隠す。4人と対面する形で飛んでいたスコールが、自分と時守達の間に巨大な火球を数個並べたのだ。
「オラッ!」
イーリスが『個別連続瞬時加速』を成功させ、火球を殴り消すも、既にそこにスコールはいなかった。
遠方にISが一機逃げていくのが見える。恐らく仲間に抱えられているのだろう。
「チッ、逃がしたか…」
「構わないわ。…アメリカの上層部との交渉を有利に進められるモノが手に入ったもの」
「お前はそれで良いかも知れねぇけどよ」
「まあ今回は誰も名誉の負傷も無かったし、な?大丈夫か?簪」
「う、うん…。特に怪我は無いけど…」
冷静になった簪は、ふと周りを見渡す。
―もしかして私、凄い所にいるのでは。
ロシア国家代表、アメリカ国家代表、国連代表、そして先程までは亡国機業の実働部隊のリーダー。
そんな豪華なメンツの中に、代表候補生の中で1人だけ入れたということに、内心ウキウキしていたのだ。
「ほな帰ろか。もう展開してもたもんはしゃあないし、このまま臨海公園まで」
「そうね。あそこは人が少ないし、各方面への連絡ぐらいならできるでしょうから」
「あ、あーっ!!マジで空母沈んでるじゃねぇか!あ、アタシのカード、携帯…。手続きめんどくせぇなぁ…」
そのウキウキを、決して表には出さずに3人の後をついていく簪。
その速度を少し早め、時守と楯無に追いついた。
◇ ◇ ◇
「で、剣君。あの武装はなぁに?」
「お?あぁ、『刺し穿つ死棘の槍』のことか?第三形態移行した時に出てん」
「そう、それよ。私の目には投擲した槍が途中で軌道を変えたように見えたんだけど?」
「簡単なことやで。俺、あいつのISに『雷動』で攻撃したやろ?そん時に電荷を帯びさせて、それと正反対、つまりは引き合う電荷を槍に帯びさせんねん。んで後は『オールラウンド』に『雷動』発動して投げるだけ」
「……ちょい待てとっきー。お前今『オールラウンド』にって言ったか?」
「おう。それがどないした?」
「…あのね剣君。そもそも単一仕様能力自体の発現が少ないから絶対、とは言えないんだけど、普通は単一仕様能力を武器に纏わせるなんて不可能なのよ?」
「…ん?でも俺に出来てんから不可能ちゃうやろ?」
ん?なんか俺悪いことしてもた?と純粋な顔そのままで聞いてくる時守に顔を顰める理由にもいかず、楯無とイーリスは顔を合わせた。
―ねぇ、普通はやっぱり不可能よね?
―ったりめぇだろ。そんなんが誰でも出来たら地球ぶっ壊れるわ。
―そうよね…。ほんと、新しい単一仕様能力出る度に凄い使い方するわね…。
―完全同調で他のISの調整とか出来るんだろ?…流石にやべぇだろ。
「なーなー簪ー、2人とも見つめあってんねんけどー」
「むにゅ…、ほ、ほっぺた伸ばさにゃいれ…」
「…いや、ほんま柔らかいな簪のほっぺ…。おぉー、おぉー!」
「むぅぅ…」
視線で会話する2人の横で膝の上に座らせた簪の頬の感触を楽しむ時守。
ほっぺたを伸ばされる簪はやめて、と言いつつも幸せそうな顔をしていた。
「剣くん」
「はいな。なんでっしゃろ」
「他に、第三形態移行して新しく出た武装は無いの?」
「おう」
「そう、なら織斑先生に怒られずにすみそうね」
「…えっ、俺怒られる?」
「今の武装の存在を伝えてないのなら、多分…」
「嘘やん」
どないしよ、と急に真顔に戻った彼の膝の上で、簪があたふたと慌てている。
そんな光景を見て、思わず楯無とイーリスの口角が上がった。
「ふふっ、剣君。簪ちゃん。帰りましょ?」
「だな。あたしも色々と上に報告しなきゃいけねぇことが増えたし、何よりお前ら2人、濡れたままだろ?」
「あ、ほんまや。んじゃ帰ろか。ほら、簪」
「…ん」
簪が時守の膝から降り、時守の右手に楯無の左手、左手に簪の右手が繋がれる。
「…アタシも、もうちょい考えてみっか」
3人仲良く大きく手を振りながら臨海公園を後にしていく。
そんな彼らの背中を見ながら、イーリスは独りごちた。
「ったく、そういや全員国籍は違えど同じIS学園。…海を渡って帰るのは1人ってことかよ」
ぶつくさ言いながら彼女は秘匿回線通話で自国の上層部に連絡を入れた。
「あ、アタシだ。おう、おうそうだ。今から帰る。…あぁ。ファング・クエイクには何の問題もねぇ。国連代表サマとも関係良好だ。…てかとっきーには変な勘ぐり入れねぇ方がいいぜ?アタシも最初は疑ってたけどよ―」
誰にも聞こえない連絡を取りながら、彼女は1人臨海公園を去った。
◇ ◇ ◇ ◇
休み明けの月曜日。
「やっほー!一夏!剣!」
「や、やっほー…剣…、一夏…」
「ふふっ、これからも皆、よろしくね?」
朝のホームルームの時間。1年1組に凰鈴音、更識簪、そして更識楯無の姿があった。
「山田先生、説明を」
「はい。この度、1年生の専用機持ち達を皆、この1組に集めることとなりました。先日の大運動会の結果を受けてですね。それと、2年1組から更識楯無さんが皆さんの授業の手助けをしてくれることになりました。2年生はこの時期、授業のある日の午後は自分のしたい事をできる時間となっているので、その時間を割いてもらって来ています。現役国家代表の更識さんから、色々なことを教えてもらってくださいね?」
「まあこれで事実上クラス対抗戦は出来なくなった訳だが、他クラスへの補填はしっかりとしておく。専用機持ち達は、存分に訓練に励むといい」
「はーいっ!!」
1人馬鹿みたいに大きな声で返事をした時守。
その顔はどこかうきうきとしたものになっていた。
「あっ、ちょ、待て鈴!」
「ん?何?アタシ空いてた席に座っただけだけど?」
「一夏と近いではないか!」
「えっ、何それ…。俺病原菌みたいに扱われてんのか…?」
「…剣。隣、いい?」
「そのために空けとったからな!」
ワイワイぎゃあぎゃあと騒ぐかと思っていた席決めが、以外とあっさり決まったことに千冬はどこか関心していた。
「さて、これでISの実技には実質9人の専用機持ち達が参加することとなった。…専用機持ちでない、代表候補生でもない生徒も、頑張れば追いつけるかも知れないぞ?」
その一言で、専用機持ちでない生徒のやる気も駆り立てられた。
流石は織斑千冬と言ったところか。自分の影響力を良く知っている。
彼らを包む環境が、がらりと変わろうとしていた。
ギャグと後へ繋ぐ回。
楯無と同クラスって、どうやってもこれ以外方法が思いつきませんでした…。
今思えば連載当時はなんであんなギャグ回ばっか書けたんですかね…。
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