IS 西の男性操縦者   作:チャリ丸

91 / 125
遅くなりました。

皆さんも夏風邪と夏バテにはご注意くださいね!

学生の読者様はテスト勉強などもね!


乙女達の戦い、終幕

「軍事障害物走なぁ…」

 

 カナに聞けば、アサルトライフルを組み立てーの、匍匐前進しーの、打ちーのというなかなかに危険な競技らしい。

 授業でもEOSとかが軽く運ばれてくる辺りやっぱ色々とやばいよな、この学園。とそんなことを考えていると、競技開始を知らせる銃声が鳴った。

 

「やっぱすげぇわ。この学園」

「え?なんか言ったか?」

「お?いや、何もないで。ただの独り言や」

「…おい時守」

 

 独りごちると、先程、のほほんのあまりの遅さに驚いていたワンサマが聞き返してきた。

 大したことを言った理由でもないので、適当に返す。すると、今度は俺たちの後ろに座っていたちっふー先生が、いつの間にか隣に立っていた。

 

「…えっ、なんすか?」

「何か…あったのか?」

 

 真剣な表情で、低い声で聞いてくるちっふー先生。その迫力は嘘を全く言わせてくれないものだった。

 カナも、ワンサマも、山田先生も何事かとこちらに注意を向けている。

 

「…何もないっすよ。ほんまに」

「…そうか。変なことを聞いたな」

「いえ。お気遣い、あざっす」

「そう思うなら―」

「づっ!?」

 

 気にかけてくれたちっふー先生に座りながらも軽く会釈する。

 すると、去り際に俺にゲンコツを食らわせてきた。

 

「もう少し、ちゃんと返事をしろ」

「…了解っす」

 

 頭を抑える俺にちっふー先生は薄らと微笑み、教員席へと戻って行った。

 競技は、のほほんが驚異の速さで銃を組み立てたものの、その射撃センスの無さから、ダントツのビリで終わっていた。

 何でやねん。銃なんてちゃんと向けたらそこ行くやんけ。

 

「…ってほんま痛いわ!」

「ふんっ、遅延性だ」

「頭ん中ゴンゴンするねんけど…」

「大丈夫?剣くん」

 

 頭の中をスーパーボールが飛び跳ねているかのような衝撃に、頭を抱えた手をなかなか離せない。

 いや、頭の中にスーパーボール無いけどな?

 心配してくれるカナに一声返事をし、目の前のレースに再び目を向ける。

 

「ふはははは!我が軍は無敵なりぃ!」

 

 そこには、アホヅラでこっちにドヤ顔を向けながら銃を掲げるラウラがいた。

 どうやら、この競技をトップで取ったようだ。

 

「どうだ、嫁、師匠!私の活躍は!」

「ごめん見てなかった」

「なん…だと…!」

 

 そんなラウラも、俺の一言で、絶望の表情を浮かべながら膝から崩れ落ちた。

 周りのチームメイトが必死に励ましている。あいつも、何だかんだいってそれなりに友達が増えたようで嬉しい限りだ。

 

 ◇

 

 第4種目は、運動会の定番とも言われている騎馬戦だ。

 

「まあ最近は〇TAやらの関係で無くなってるとこもあるけどな」

「剣くん、ピー音が仕事してないわ」

「そりゃそんなもん」

 

 わざとに決まってるやん?

 カナが苦笑いを浮かべると同時、競技がスタートした。

 派閥はほぼ2つ。

 セシリー、シャル、簪組。

 ラウラ、モッピー、鈴組。

 しかし、普段から付き合いが長く、連携も取れるセシリー達にとって、ワンサマとの同室がかかっており、ヤッケになっている3人からポイントをもぎ取るのは容易い。

 

「圧倒的ではないか…!」

「流石は簪ちゃん…!」

「え、えっと…。箒ー、ラウラー、鈴ー!頑張れよー!」

 

 頑張れよと言われてから頑張る奴は大したことないねん。

 モッピー、ラウラ、鈴がバタバタと慌ただしく動く中、3人の騎馬は素早く立ち回る。

 シャルとセシリーが動きで牽制しつつ、簪が後ろに回り込んで素早く奪い取る。

 

「動きが止まって見えるよ!」

「更識は日本にて最強…!」

「わたくし達が、天に立ちますわ!」

 

 先ほどのラウラのように高笑いをしながらハチマキを取っていく3人。

 ISも使わずに、こうも騒ぎながら、楽しそうにはしゃぐ姿を見ていると、こっちまで楽しくなってくる。

 

「平和やなぁ…」

「…ふふっ、そうね」

 

 何せ、初めてなのだ。

 このIS学園に来て、大きな事件が全く起こらずに、平和に行事が進むのは。

 ゴーレムに襲われ、VTシステムが現れ、福音の襲撃に会い、亡国機業が攻め込み、再び亡国機業に襲われ、多くのゴーレムを相手取った。

 そのほとんどで大きな怪我をし、皆が傷ついた。

 途中何度も死にかけ、何度かは死んだ。しかし、それでも戻ってきたのだ。

 

「平和すぎて、変になるわ」

「これで良いのよ。…何も無いのが1番なんだから」

 

 カナの言う通り、このまま何もなく、無事に卒業出来るのが一番良いのだ。

 良いのだが、恐らくそうはさせてくれないだろう。

 

 ―誰かがきな臭い動きしとるしな。

 

「…え?剣くん、何か言った?」

「いんや、何も言ってへんで」

 

 首を傾げながらこちらに問いかけるカナに返事を返す。

 亡国機業の事、欧州の事、金ちゃんが言うてきたややこしくなってるISの事…今は全部を忘れて、運動会を楽しもう。

 

「でもさ、男子なんもせーへんの面白くなくない?」

「大丈夫よ。一夏くんが500点の獲物として放り込まれるから」

「と、いう訳だ。とっとと行け、愚弟」

「ちょっ!?」

 

 カナを挟み、俺とは逆方向に座るワンサマの頭部に、一瞬ではちまきが巻かれ、ちっふー先生によってケツを蹴飛ばされた。

 

「ふんっ。だが、不純異性交遊などしてみろ。すぐさま―」

「やぁん!織斑くんのえっち!」

「―懲罰室送りにしてやるから覚悟しろよこのアホ愚弟が…!」

 

 フラグ回収お疲れ様です。と口には出せず。ちっふー先生から湧き出る謎のどす黒いオーラによる恐怖に、カナと互いに震える手を握り合うことで、なんとか耐えた。

 

「ったく…、人が良かれと思ってやっている事を気づいているのか?あいつは」

「ないでしょうね」

「ないっすね」

「はぁ…」

 

 ちっふー先生曰く、ワンサマは便利だから常に横に置いておきたいが、恋人は別で欲しいらしい。

 かと言って、ワンサマの恋路を邪魔するつもりは無く、ワンサマにもし彼女が出来れば、自分は自分で生きていく、とワンサマに伝えているらしい。

 自分で生きていけんのかこの人。料理全部炭にする癖に。

 

「…時守、更識。教えてくれるか?」

「まず包丁の持ち方なんとかしてから来てください」

「私に聞くより、剣君に聞いた方がいいと思いますよ?」

「いや、そのだな…時守だけでは…」

「…なんすか」

「…厳しすぎるというか」

「あんたがそれ言います?」

 

 俺の教え方とか、ISでのちっふー先生の教え方と比べたらうんこに集るハエの糞並には劣る自信がある。

 もちろん厳しさの面で。

 

「あ、じゃあちっふー先生がちゃんと結婚できるように、花嫁修業します?俺したことありますし」

「おい待て」

「剣くん、待って」

「朝早くに駄々こねる子どもの起こし方とか必要でしょ?」

「…割と欲しいスキルだな、それは」

 

 ほほう、ちっふー先生も子供が欲しいと。…サイヤ〇とかちゃうやろな、子ども。

 

 私にも教えて?と小声で言ってくるカナが可愛すぎて、悶絶しながらも握っている手で、彼女の手の感覚を楽しんでいるとワンサマがISで吹き飛ばされた。

 

「えっ、流石にこの競技でISはあかんやろ」

 

 AICで動きを止められ、衝撃砲で宙に投げ出され、穿千で塵になりかけたワンサマは何とか生きていた。

 

 いや、白式すげぇなおい。

 

 

 ◇ ◇

 

 

「はい、剣。あーんっ」

 

 昼休憩、俺は天国にいた。

 目の前にいるのは、体操服に身を包み、こちらに身を乗り出しながらおにぎりを食べさせようとしてくれているシャル。

 

「あむっ。…んっ、めっちゃうまい。死ぬ」

「死んじゃやだよ!?」

 

 少し長めの休憩時間が取られ、俺たち5人はIS学園の外縁部にある広場へと来ていた。

 まあ言うて広場やねんけど。外縁部って何やねんって聞かれても、外縁部は外縁部やとしか言いようがない。

 

「冗談抜きで美味しいわ。…なるほど、やから昨日、俺が弁当作らんでええって言ったんか」

「うんっ。こういう時ぐらいは、剣に料理食べて欲しかったし。…何より、女子としてのアレが…」

「…自信が、無くなる…」

「私も、結構出来ると思ってたのよ?でも、剣くんの出来を見てたら、練習せざるを得ないと言うか…」

「申し訳ありませんわ…。このような、練習相手役をさせてしまっているようで…」

「そんなん、こっちから感謝するぐらいやで。確かに俺のは周りからよう美味いって言われるけど、それと好き嫌いはまた別やからな。俺は好きやで」

 

 普通に可愛い彼女達からの手作りご飯とかご褒美以外の何物でもない。

 

「剣さんっ!では、次はわたくしの作ったトムヤムクンを!唐辛子たっぷりですのよ!」

 

 ご褒美とは(哲学)

 セシリーが持っていた容器の蓋が開けられる。凄まじい湯気と共に角膜と鼻腔が刺激された。

 あっ、これマジであかんヤツや。

 

「ちょっ…。セシリア、唐辛子入れすぎ…」

「味は分からないけど、この湯気が凶器になってるわね」

「まあ食えるやろ。食えるもん使ってんねんし」

 

 とはいえ。食べないと流石にセシリーが可哀想なので一口。

 エビの肉を箸で摘み、ぱくり。

 うん…。口の中に、唐辛子の辛みと痛みが広がって…。うんっ、OC。

 …美味、しい…?

 

「…コッ…ホ…ッ…。…牛乳…」

「そこまででしたの!?」

 

 水分を含んだ料理であれど、辛さが強ければ喉元を過ぎた頃に水分が欲しくなる。

 強ければ強いほど、それを打ち消すための水分を身体が欲し、そのサインとして乾いた咳が出る。

 

「美味しいけど…、美味しい」

「剣っ、語彙力が!」

「ぎゅ、牛乳…ある?簪ちゃん」

「ないけど…。…あっ、チーズなら、ある」

 

 簪が手渡してくれたチーズを、口の中に放り込む。

 …あー。生き返った。無ければ後20分は辛さと戦わなあかんかったわ。

 

「…ま、良くあるミスや。こっから、こういう料理をより上手くできるように頑張ろな」

「―っ!はいっ、もちろんですわ!」

 

 料理のミスは、俺もちょくちょくする。

 その度に同級生達にタダ飯という名目で処理させていたのだが、このIS学園ではその処理係がリコピンしかいないので困っているのだ。

 

「剣、その…私も、いい?」

「お?なんや?簪」

「た、たこさんウインナー…」

「…うん。ちょーだい」

 

 Q.顔を真っ赤にしながら「たこさんウインナー」と口にする簪を見て、人は平静を保つことができますか。

 

 A.できません。

 

 簪の顔がファイアーしたかと思えば、それを見た俺も照れてしまい、そしてそのやり取りを見ていた3人も照れてしまうという謎の連鎖が起こった。

 

「も、もうっ…。て、照れないで、早く食べて…。あーん…」

「あむっ」

 

 簪が作ってきたのは、もちろんたこさんウインナーだけではない。

 少し小ぶりな弁当箱に綺麗に詰められた、お手製のお弁当だ。

 5人で分けやすいように、一つ一つは大きくなく、数を増やすというさり気ない心遣いも彼女らしい。

 

「…うん、いい焼き加減やわ」

「そう…、良かったぁ…」

 

 俺のその一言に、ホッと胸を撫で下ろす簪。

 いやあの、俺の査定ってそんなに厳しい?ぶっちゃけ何でもうまいうまいって言ってる気すんねんけど。

 

「私はサンドイッチよ。はい、あーん」

「あーん」

 

 …ふむ。ザ・美味。

 

「…大変美味しゅうございます」

「ど、どういたしまして?」

 

 硬い言葉を使うと、変に緊張した刀奈まで改まって返してくる。

 こういうところが愛おしく、そして可愛い。

 

「…刀奈ってさ、この運動会出えへんの?」

「え?」

 

 ふと疑問に思ったことを言う。

 確かに、これにはワンサマとの同室権、並びに同じクラスになる権利を賭けた闘いである。

 しかし、だからといって参加出来ない生徒がいるのはおかしいやろ。

 

「うーん、そうねぇ。でも、剣くんとの解説も楽しいから、それで大丈夫よ?」

「…嬉しいこと言ってくれるな、このっ」

「きゃっ、もう…」

 

 あんなことを言われると、俺は自制出来ない。

 隣にいた刀奈を抱き寄せ、強く抱きしめる。すると、今まであまり嗅いだことのない匂いが鼻腔をくすぐった。

 

「っ、剣くん。もしかしたら私、汗臭いかも…」

「…ん。でも、いい匂いや…」

「うぅ…っ。恥ずかしい…」

 

 胸元に収まる刀奈の髪に顔を近づけ、息を吸う。

 少し刺激的な匂いだが、全くと言っていいほど嫌悪感がない。かつ刀奈の本来の匂い、僅かな洗剤の香りが混ざり、俺の好きな匂いになっている。

 

「…でも、私も剣くんの匂い、好きよ…」

「むっ。お姉ちゃんだけズルい」

「簪が行くなら、僕もっ!」

「わ、わたくしもですわ!」

 

 身体の正面だけにあった柔らかい感覚が、右、左、そして後ろからも伝わる。

 …いやほんま。4人の彼女に四方から抱きしめられるとか幸せすぎるわ。

 

「ほんま、平和なやぁ…」

 

 ぐりぐりと額を擦り付けてくる刀奈達が、本当に愛らしい。

 彼女達を守りたい。そのためにも、自分はここでやるべき事を全てやり終え、卒業しなければならない。

 

「…頑張ろな」

「うんっ」

 

 意図は伝わっていないだろうが、ここISIS学園で頑張る、と言えば一つに限られる。

 

 これからも、彼女達と1歩ずつ歩んでいこう。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 という、まるでラブコメの最終回のようなことを考えた昼休憩も終わり、俺は競技のトラック上に立っていた。

 

「…っし。元気はチャージしてきたし、準備万端!」

 

 先ほど、みんなに抱きしめられた後。本番はしていないものの、それぞれと少し戯れた。そのお陰で、スッキリ元気に午後を迎えている。

 俺の隣には、1年女子の専用機持ち達がずらりと並んでいる。

 

『さーて、それじゃ行くわよ!『コスプレ生着替え走』!』

 

 そう、俺はこの『コスプレ生着替え走』にエントリーを許可されたのだ。テンション爆上げ。

 

『まず、各チームの代表が用意した服装を抽選してもらいます。が、交際関係上の問題もあるため、抽選箱は二つに分けています。け…時守くんには、身体能力のハンデとして、1人で着替えてもらいます』

 

 なお、着替えゾーンは中からライトアップされ、ボディラインがくっきり浮き出るエロ親父仕様。

 ふへへ…俺の美しいボディでビックリさせたんねん…。

 

 なんとこの競技、入る得点は10000点。今までの競技が10点単位での換算でいうと、なんともまあアホな得点である。バラエティによくあるヤツとか言うたらあかん。

 

『それじゃ、各代表は着替え補佐の子を紹介よろしく!』

 

 カナが促すと、真っ先に動いたのはモッピー。

 

「私のパートナーは四十院神楽だ。同じ剣道部で、実家は旧華族と聞いている」

「え、モッピーって剣道部やっけ?いつもワンサマと一緒におった気すんねんけど」

「言っちゃダメよ、剣。本人も幽霊部員になってることは薄々気づいてるし、申し訳なく思ってるんだから」

「ほー、んじゃ剣道部に当てる活動費1人分減らしてもええよな。カナー、剣道部一人分要らんってー」

「なっ、おい待て!確かに、幽霊部員だが、その…。うぅっ…部長!明日からは必ず参加します!」

「よろしくー」

 

 観客席に目をやると、剣道部の部長が箒に手を振っていた。

 いや、それで許すとか懐ガバガバかよ。心太平洋並に広いやん。

 

「…こほん。古いだけが取り柄の家柄です。どうかよろしく」

 

 古いだけとかそんなん言わんといてや。俺の家ただの定食屋やねんけど。

 

 次に、セシリーが紹介する。

 

「わたくしの補佐は鏡ナギさんですわ。ご両親はお寿司屋を経営なさっているようで、わたくし、1度お招きされたのですが、それはそれは美味で…」

「ちょ、セシリア!恥ずかしいって!それに剣ちゃんの方が万倍美味しいでしょ!」

 

 流石に寿司屋のプロと比べんな。寿司では負けるわ、多分。

 

 あーでもワンチャンちらし寿司やったら勝てるかもなーとから考えていると、次は鈴がテキトーに紹介を始めた。

 

「はいはーい、あたしはルームメイトのティナに手伝ってもらうわ。…手ぇ抜いたらその脂肪抜き取るからね?」

「怖いってー。しかも説明雑だし。…え?あれ、剣ちゃん?なんで出てんの?」

「流れや流れ。深く考えんな」

 

 マイペースな2組の次は、シャルロット。

 

「えっと、その…。谷本さんに手伝ってもらう予定だったんだけど…」

「やっほー!岸原理子でーっす!「リコピンって呼んでくださいっ!きゃるるんっ!」って声被せんな時守ィ!」

「シャルに近づくなアホ。アホうつるやろが」

「はぁ!?…もぉ〜、あんたのせいで自己紹介失敗したじゃない!」

「永遠のツッコミメガネでええやん」

 

 なんでリコピンやねん。しかもなんでシャルの手伝いやねん。

 

「次は私か。私と似て、性格も体型も自己主張が控え目な夜竹さゆかだ」

「…ラウラさんは、性格は自己主張が激しすぎると思います、夜竹です」

 

 どこが自己主張が激しいのだ?とド天然をかますラウラを、さぁ…?と首を傾げるだけでさらりと回避するさゆか。

 いや、メンタルってかスルースキル高すぎん?

 

「…私は、布仏本音。…ルームメイト」

「にゃはー、布仏本音。16歳、学生でーす。サイズは上から―」

「…もう、剣のせいでみんなにバレてるから、一々言う必要無いよ?」

「…むぅ〜、けんけんのいじわるー」

 

 んなん言われてもしゃあない。

 さて、と。

 ほな。

 

『レーススタート!』

 

 ピストルの音で、一気にスタートダッシュを決める。

 

『さあ!最初に飛び出したのはやはりというか、剣くんだー!』

 

 まあ当たり前やわな。単純な足の速さで普通の女子に負ける気がせんわ。

 時守&シャルロット&セシリア&簪と書かれた箱から、紙を引く。

 えいや。

 

「んお。…ドレス…」

 

 引いたのは、まさかまさかのセシリーのドレス。

 えっ、やだ。胸元見えちゃう…。

 

「なぁっ!?ちゃ、チャイナドレス(ミニ)!?ふざけるな!」

「あたしの服なんだから文句言わないでよ!あたしは…軍服?」

「となると、私は…やはり、巫女服か」

 

 モッピー、鈴、ラウラ達は3人の衣装が綺麗にローテーション。まあそりゃそうやけど、モッピーがチャイナはアウトやろ…。

 

「えっと…ね、ねこさん着ぐるみパジャマ…?」

「…私は…っ!…ふふっ優勝は貰った…!」

「なぁ…!も、もうっ!」

 

 様々な反応を背後で聞きつつ、カーテン・サークルの中に入る。

 …さてと。ドレスは着たこと無いけど、別にスカートを履くことに恥じらいは何もない。中学の文化祭で女装したしな。

 

「あっはぁ〜ん」

『おぉっと!ここで剣くんセクシーポーズ!』

『えっ、需要あります?』

『そりゃ女子、主に私にはあるわね』

 

 体操服を脱いだところで、ファンサービスを行う。

 ふはは!どうや!

 

「えっ…何あの腰の細さ…。モデル…?」

「そこに付く筋肉に一切の無駄無し…」

「それでいてガッチリとしている身体…」

「ダビデ像…」

 

 ダビデとか…。あんなフルチンと一緒にしやんといて欲しい。

 とりあえず凄まじく着にくそうなドレスではあるが、まあ何とかなる。背中は空いてて、前が胸を主張するようにスカート部から2枚の布が伸びて、それを首で巻いて固定する。ほほう。

 んで、足に長めの靴下みたいなん履いて、チャリ漕いでるオバチャンがようしてるアームカバーみたいなん付けると。

 

 余裕やん。

 

「よっ」

『ぶふっ…。い、1位はなんと、セシリアちゃんのドレスを着た剣くん!』

『え、えっと…楯無さん。鼻血出てますよ』

『それでもこの目に焼き付けるのよ…!』

 

 スカートを持ち上げながらたったかたー、と走る。

 ぶっちゃけ上はいくら肌蹴ても問題無いしな。

 

 第一関門、跳び箱。

 7段をぴょいっと飛び越える。スカートの中普通の男性モンやし見られても構わんやろ。

 続く第二関門は、平均台。

 小学生の頃はガードレールの上を歩いていたこともあるので余裕を持ってクリア。

 

 ふと後方を振り返ると、なかなかにインパクトの強い光景が広がっていた。

 

「ま、待て剣!」

「ああぁぁあ!ちょっと箒!アンタ脇腹のとこ破けてんじゃない!」

「う、うるさい!小さいのが悪いのだ!」

「…小さい、ですってぇ…!?」

「ふははははっ!銀髪ロングの巫女とはこれまた風情があるだろう!」

 

 明らかにサイズが合っていないチャイナドレスを着る箒、軍服に身を包む鈴、巫女服で全力ダッシュするラウラ。

 

「あら、これはこれで動きやすいですわね。ねぇ?シャルロットさん?」

「…ふふふっ。剣の私服…えへへへ…。どう?シャルロット…」

 

 猫さん着ぐるみパジャマで走るセシリーと、俺の私服で走る簪。

 その後方にいるのが―

 

「ゆ、許さないからね…!簪…!」

 

 ―極小ビキニを纏ったシャルロット。

 

「あ。あかん」

 

 下手に下着を見られてはいけなくなってしまった。

 と言っても、既に観客の目はシャルロットに釘付けになっているので後は爆走するだけだが。。

 いやあ、彼女が男女問わず視線を集めるほどの美女ってのは鼻が高いですなぁ…。

 

 …ん?男女問わず?

 

「ワンサマァ!シャルのこと見たら『雷轟』で塵に変えたるからなぁ!」

「わ、分かってるっての!」

 

 流石の枯れ果てたワンサマでもシャルの格好は色々ときたようだ。

 そしてここで、俺に一つの仕事が出来たのだ。

 一刻も早くこの競技を終わらせ、シャルを救わねばならぬ。

 

「そらっ」

 

 最終関門、ハードル。

 誰にもバレないようにこっそりと『完全同調・超過』を発動。

 陸上選手も真っ青な動きで跳んでいく。

 具体的には、1歩で一つのハードルを越えるという具合だ。

 

「ほいっ」

『ここで剣くん、1位でフィニーッシュ!続いてラウラちゃん、鈴ちゃんがゴール!…まあでも、ポイントは1位にしか入らないから、この試合はほぼ無効試合になるわね』

「おっしゃ」

「ちくしょおぉぉお!」

「な、何でよぉ…」

「えぇ…」

 

 巫女服に身を包みながら号泣する銀髪眼帯と、ツインテールの涙目軍服。

 

 その凄まじいインパクトに、俺は人生で最大級の微妙な表情を浮かべてしまった。

 

 

 ◇

 

 

「えーん。はよ助けてー」

『あ、あぁー。なんということでしょうー。剣くんと一夏くんが空中に放置されているではありませんかー』

「スッゲェ棒読みだなオイ!」

 

 俺とカナの茶番に、ワンサマがツッコミを入れる。

 現在、男子高校生2人が巨大バルーンの上に取り残されていること状況こそ、今回の運動会の最終競技だ。

 

『ではルールを説明します!これから、専用機持ちのみんなにはバルーンに取り残された男子生徒を下に下ろしてもらうわ。どんな手段を取ってもオッケーだけど、あんまり過激すぎると嫌われちゃうかもしれないので注意してね!』

 

 俺らの周りには、それぞれ専用機を纏った1年生専用機持ち達がいる。

 それにしても、カナも上手く言ったものである。

 

『それと、大前提のルールをもう一度。この競技、男子生徒を下ろした生徒には、5000兆点が与えられます。ということは、実質この競技で来年の部屋割り、クラスが決まります』

 

 いやぁ、ほんまに上手いこと言うたわ。

 

『それでは、スタート!』

 

 各専用機が一斉に動き出す。

 俺の周りに蒼、橙、白が集まりだし、実況席から瞬時加速で一機のISが駆け寄ってくる。

 

「簪さん!」

「任せて…!」

「いつでも来ていいよ、剣!」

「私も、準備万端よ!」

 

 バルーンがセシリーの偏向射撃により割られると同時、4人の手が俺の体を支えた。

 

「勝ち確ですわ!」

「作戦勝ちだよね」

「…争いは、不毛…」

「誰も、競技に参加している専用機持ち、とは言ってないものね〜」

 

 某フランダースの逆版のごとく、4人の天使によって地面へと運ばれていく俺。

 4人の手によって着地させられた瞬間、俺達の作戦は成功した。

 

「がんばれー、ワンサマー」

「ちょちょちょちょ?あの、楯無さん?白式が展開出来ないんですけど?」

「させるわけないでしょ?」

「はーっ!?」

 

 ワンサマが乗っているバルーンが、周辺から凄まじい勢いで割られていく。

 過激にならないよう、ゆっくりと丁寧に、笑顔でバルーンを割り続ける箒、鈴、ラウラの3人。

 その光景は恐怖以外の何物でも無かった。

 

「あっ…」

 

 ワンサマを支える最後の砦が割られ、ワンサマが自由落下を始める。

 

「待ちなさいよ一夏ァ!」

「むっ!邪魔をするな!鈴!」

「貴様もだ!箒!嫁は私のものだ!」

「早く助けろお前ら!」

 

 上空から落ちてくるワンサマをガン無視してさらにその上でバトルを始める3人。

 もはやIS学園伝統芸能とも言えるそれは、鈴が箒に衝撃砲をぶちかましたことで終わりを告げた。

 

「ぶっ!?あ、よし。一夏ぁ!」

「あっ」

「鈴!何をやっているのだ!」

 

 背後から綺麗に衝撃砲を食らった箒は、綺麗に顔面から地面に突っ込んできた。

 そう、ワンサマよりも早く。

 落ちてくるワンサマより早く着地した箒は、そのワンサマの捕球体制に入った。

 

「よっしゃ、取ったどぉー!」

「バックホームやモッピー!」

「了解!」

「了解すんな箒!」

 

 滑らかなフォームでオレにワンサマを投げようとしてきた箒だが、さすがに途中で止まった。

 投げられずにすんだワンサマが地面に降ろされたと同時、運営本部にいた山田先生の声がマイクを通して響いた。

 

『え、えーっと…。とにかく、時守くんが更識楯無さん、セシリア・オルコットさん、シャルロット・デュノアさん、更識簪さんと同室、同じクラスが決定。織斑くんが篠ノ之さんと同室、同じクラスが決定でーすっ!』

 

 あぁ…。鈴とラウラが人生の絶望を迎えたみたいな顔になってる…。

 

『ごちゃごちゃ言っても意見は聞かん。これにて大運動会は終了だ!各員、片付けに入るように!』

 

 ちっふー先生の鶴の一声で全員がわらわらと移動を始めた。

 

 こうして閉会式も何も無くただグダグダしたまま、俺達の大運動会は終わりを告げた。




次はあのよう分からん船に乗り込むやつです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。