一応今日2話目なので、ご注意ください。
こちらは2話目です。
「箒っ!」
「一夏!簪!後ろだ!」
「大丈夫…っ!」
アリーナへと飛び出した一夏の後を追うように、3機の『ゴーレムⅢ』が飛び出す。同じく、アリーナシールドを破って出てきたであろう箒が、反対のピットから飛び出してくる。
その箒が叫ぶが、一夏はなんの恐怖も無かった。なぜなら、
「行って…『山嵐』…!」
その『ゴーレムⅢ』達を屠るために、簪が後ろを付けているのだから。
マルチロックオンシステムによる高性能誘導八連装ミサイル『山嵐』が6つ搭載されている『打鉄弐式』から、一斉にミサイルが飛び出す。
計48個。それぞれが3体に、16個ずつ襲い掛かった。
「箒、大丈夫か!?」
「あぁ。なんとか、な」
「そっちも、敵の不意打ちには何とか対応できたみたいね、簪ちゃん」
「…うん。あのゴーレム達、だいぶ気分屋みたいだから」
これからの戦いのことを考え、できる限り最低限のエネルギーでの最速で、アリーナの中央に集まった一夏、簪、箒、そして楯無の4人。一夏達側から出た『ゴーレムⅢ』は、簪の『山嵐』により動きを止めており、箒達側から出てきた『ゴーレムⅢ』はゆっくりと壁伝いにアリーナに降りてきていた。
「気を、付けるわよ。それぞれが完璧だとしても、対応し切れるとは限らないわ」
「えぇ。いざとなれば、また『
「…穿千?」
「あぁ。『紅椿』に新しく出た武装でな、出力可変型ブースターライフル…言わば、出力が自由に変えられる大出力射撃武器だ。本当は、この大会用に隠しておいたんだがな」
「…なら、今は使える武器の一つ。…っ、皆、来る…!」
楯無と箒がピットから出てきた手段を知った一夏と簪。だが、敵が許してくれる時間はただそれだけのようで、挟み撃ちのように『ゴーレムⅢ』が計6体、襲いかかってくる。先ほど簪が『山嵐』を喰らわせた3体も、さほど大したダメージを感じさせず、ほぼ無傷の3体と同じように動いていた。
「じゃあ、皆1番動きやすいペアで行くわよ!」
「っ!はい!」
「了解です!」
「…うん、分かった!」
楯無の指示と共に、箒と簪が行動を始める。
「行くぞ一夏!」
「応っ!」
「こっちも、負けないわよっ!簪ちゃん!」
「うん…!」
即席だが、最も戦いやすく、そして勝率が高いペアへと移り変わった。
第一アリーナ
篠ノ之 箒&織斑 一夏
vs
『ゴーレムⅢ』×3
更識 楯無&更識 簪
vs
『ゴーレムⅢ』×3
開戦。
◇
「おいッス。無事ッスか?後輩達〜」
「おいフォルテ。んな気安く話しかけてやんなって。今必死に戦ってんだろ?」
「なら避けるだけでなくしっかりと戦ってくださいまし!」
「さっきからアンタ達んとこの流れ弾がこっちに来てんのよ!」
第一アリーナで戦闘が始まったのと時を同じくして、第二アリーナでも戦闘が始まっていた。
しかし、第一アリーナと違うのはその密度。ほぼ第一アリーナと同じ面積にも関わらず、そこに専用機持ちが6人、『ゴーレムⅢ』が7体集まるという混戦ぶりを見せていた。
「あ?おい、今おめータメ口使った?お?」
「ちょ、センパイ。今絡んだら流石にカワイソーッスよ」
「こんな時でも余裕綽綽…っ、流石は先輩達だなっ!」
「「いやそんな褒められても」」
「褒めてないですよ!?」
「いや、てかフツーにこっちの方がしんどいからな?なんならおめーらの方に押し付けてもいいんだぜ?」
ラウラ&シャルロットvs『ゴーレムⅢ』と、鈴音&セシリアvs『ゴーレムⅢ』。会話だけ聞けば、2年、3年ペアが邪魔をしているかのように聞こえるが、実際の所そうではない。
フォルテ・サファイア&ダリル・ケイシーvs『ゴーレムⅢ』×5
2人は、5体のゴーレム相手に、一切の被弾を許すこと無く、戦っていた。
「あっ、センパイ、見てくださいッス」
「あん?」
「とうっ!」
5体の内1体が放ってきた熱線に向け、自身のIS『コールド・ブラッド』の能力を発動する。
すると、一瞬だけ熱線が凍りつき、再び超速度で自分達へと向かってきた。
「あり?」
「んだよ、結構おもしれーモン見れるかと思ってたのに」
「ちゃんと戦ってますの!?」
「あ?ったりめーだろ。いつまでもちんたらしてんのは好きじゃねぇからな。…ほら」
ダリルが、とある方向に手を伸ばす。するとそこには、まるで炎の結界が地を這うように広がっており、その中で2体の『ゴーレムⅢ』が同士討ちを行っていた。
「アレでハイパーセンサーとか中枢系バグらせて、味方を敵って認識させてんのよ。さ、これで後は…」
「2体ッスね、センパイ」
先ほどフォルテに向けて熱線を放った『ゴーレムⅢ』が、氷漬けになったまま、機能停止した。
「ぶっ壊すのは疲れるッスけど、止めてからじっくり殺るのがコツッスよ。後輩達」
ラウラ・ボーデヴィッヒ&シャルロット・デュノア
vs
『ゴーレムⅢ』
凰 鈴音&セシリア・オルコット
vs
『ゴーレムⅢ』
フォルテ・サファイア&ダリル・ケイシー
vs
『ゴーレムⅢ』×5
開戦。
◇
「……」
「…その、時守くん。少し落ち着いたら…」
「…俺は、落ち着いてるっすよ」
「そうは、思えんがね」
国際連合宇宙開発専用ISステーションのピット内にあるベンチに、時守とロジャーは腰掛けていた。
時守の出発まで後3分。時守のISと、輸送ユニットの調整を待つだけだった。
「…まあ、当たり前っすよ。一体この世界のどこに、自分の大事なもんを壊されかけてて、自分は何もできひんのに平然としてるやつがいるんすか」
「…すまない」
「いいんすよ。元は、俺のオーバーワークなんすから」
自然と、何故か話し方が敬語に戻っている。
いつもなら、どんな場面でも多少の軽口を叩く彼が、一切それを許さない。その事実が、ロジャーを困惑させていた。
「今1度、確認するよ。ここからIS学園までの飛行中、君には一切の専用機の『能力』を使う権利を与えない。『ゴーレムⅢ』の実物を見ていないこともあるが、相手は数があるからね。君には万全の体制で望んでほしい。そして、君の直ぐ後を、私がナターシャ君に抱えてもらって追いかける。無線で指示を送るので、良く聞いておくように」
「分かってます。後、何分すか」
「1分と42秒…今で、丁度100秒前だ」
「…んなら、そろそろ立ちましょか」
「分かった」
調整が済み次第、スタッフが全速力でこのピットにISと輸送ユニットを持ってくる手はずとなっている。
時守は、まだ待つしか無かった。
「さっきの続きっすけど、ただ平然としてるわけじゃないんすよ」
「…というと?」
数十秒の沈黙の後、時守が不意に口を開いた。
「前、ラウラがセシリーと鈴に攻撃した事あったん、知ってます?」
「あぁ。彼女が、まだ刺々しかった時のことだろう?」
「そん時も、えぐいぐらいにキレてたんすけど、今よりかはマシやったと思いますわ」
「っ、時守くん…」
表情には出さない、声色にも出さない、態度にも、身体の身振りにも一切出していないが、確かに時守は激昂していた。
「…自分を失うぐらいに、キレることはないと思う。けど、多分犯人見つけたら、全身全霊を持って叩き潰したるわ。例え誰が相手でも、木っ端微塵に粉砕したる」
「…関係の無い一般市民に手を出さないのなら、我々の方で揉み消してあげるよ。暴行、ISの無許可展開、器物破損、そして、殺人ですらね。相手方にどういう意志があるのかは分からないが、私たちも聖人では無いんだ」
何やら扉の奥から騒がしい音が聞こえてくるが、何のその。
2人はふつふつと、怒りを高めていた。
「まあ、殺しはしませんよ。そんだけのことが出来るやつや。利用価値はある」
「鬼だね君も。まだ殺せる相手かも分かっていないのに」
「…俺らに、こんな鉄の塊を送るしか出来ひんようなやつやろ。んなもん、俺と金ちゃんで大丈夫や」
その発言を、ロジャーは油断とも、傲慢とも捉えなかった。
何せ、世界初を同時に2つもやり遂げ、それらを完璧に扱える程の実力を身につけたからである。
「この件に関しては、私に判断を委ねてもらうよ、時守くん。君なら、情が移る可能性があるからね」
「無いやろそんなん。…もし、犯人がちっふー先生でも、俺は容赦する気は無いからな」
扉が開く。
数名のスタッフが、時守の輸送ユニットとISのそれぞれの待機状態を持っており、息を切らしたナターシャが、『銀の福音』の待機状態を持っていた。
「ロジャー事務総長!調整、終わりました!」
「時守国連代表、精神統一は大丈夫?」
ロジャーにはスタッフが、時守にはナターシャが駆けつけ、声をかける。
「うむ、ご苦労。早速時守くんの背中に付けてくれ」
「あぁ。…自分でも怖いぐらいに、落ち着いとるわ」
ナターシャにそう告げ、時守は輸送ユニットの準備へと取り掛かった。
決して、自分の内心が漏れないように気をつけながら。
◇
「こんのっ…!はぁっ!」
一閃。しかし、阻まれる。
一夏の振るった『零落白夜』は、ひらりと、その体躯に似合わぬ『ゴーレムⅢ』の華麗な駆動によって避けられた。
「まさかこいつら…、『ゴーレムⅡ』のAIを引き継いでいるのか!?」
「…多分、そうだな。箒、気を引き締めて行くぞ。相手は、『ランペイジテール』と『オールラウンド』の無い剣とほとんど同じだ」
「あぁっ!」
声と共に、それぞれが一気に肉薄する。
一夏と箒、2人が一機ずつ相手取り、もう一機に気を配る。神経がすり減るような戦いだが、今はこれしか無かった。
「おおぉっ!!」
「はっ!」
代名詞とも言える『瞬時加速』からの『零落白夜』、そして、連撃からの『雨月』と『空裂』。2人の攻撃が、2機の『ゴーレムⅢ』に迫る。
「うっ、とうっ、しい!」
「くそっ、このエネルギーシールドのせいでまともに攻撃が通らん!一夏っ!『零落白夜』なら…!」
「ぐっ…、さっきから狙ってるけど、ブレードで防がれる!何で出来てんだよ、こいつ…」
「言ってる場合か!」
『ゴーレムⅢ』の周りに浮かぶ、球状の物体。そしてそれらが展開する可変エネルギーシールドが、専用機持ち達の戦いを不利そのものにしていた。
「とにかく、今やることは攻撃の手を緩めないことだ!」
「そうは言っても、このままだとエネルギーが尽きるぞ!」
武装に元から備わっているエネルギーを使う楯無や簪とは違い、箒はともかく、一夏はエネルギーの消費速度が他の機体と比べて凄まじいことになっている。このまま戦闘を続けていくのは危険だと、誰でもない彼が一番良く分かっていた。
「大丈夫だ!…まだ、成功率は高くないが、私の『絢爛舞踏』がある!」
「…信じるぜ、箒!」
長期戦闘において、必須とも言える回復要因。まだ成功確率は高くないが、一夏はそれを信じることにした。
信じなければ、負けるという確信があった。
「一夏!私の分を、引き受けてくれないか!?」
「っ…了解!」
箒から、何かを察知したのか、一夏は箒が相手をしている『ゴーレムⅢ』にただの『雪片弐型』で攻撃を加える。
それにより、一夏は2体の『ゴーレムⅢ』からロックされることになる。
そして、そのことを確認し、一気に飛翔。
急に動きを変えたことにより、3体目の『ゴーレムⅢ』からロックされる。
「箒!準備出来たら合図してくれ!」
「分かった!」
一夏が囮役を買って出たことを確認し、箒は全てのPICを機体支持に回す。
十数分前、アリーナのエネルギーシールドをエネルギー兵器無効化の効果が無いにも関わらず、一瞬で破った武装『穿千』のために。
「…っ、一夏ぁ!」
「よしっ!」
箒の合図を受け、一夏は一気に高度を下げる。
追撃していた3機の『ゴーレムⅢ』も、彼と同じように高度を下げていく。
「『雪羅』で守れ!」
「了解っ!」
一夏と箒を結ぶ直線上に、『ゴーレムⅢ』が3機共に入る。エネルギー武装である『穿千』、その余波を受けぬよう、一夏は『雪羅』をバリアシールドで展開した。
「はぁっ!」
『紅椿』の両肩にある、クロスボウへと変形した展開装甲から、2本のエネルギービームが、超高密度圧縮状態で放たれた。
威力は実に、先ほどピットで放った物の2倍。それらが、3機の『ゴーレムⅢ』に直撃。『雪羅』で守っていた一夏でさえも、飲み込まれてしまった。
「ちょ、箒!危ないぞ!」
「ふんっ、『雪羅』なら、エネルギー武装は一切効かないのだろう?」
「ま、まあそうだけどよ…」
もくもくと、『ゴーレムⅢ』達がいた場所が爆煙を上げる中、一夏はふわりと飛び、箒の側へと降り立った。
「…やったのか?」
「…終わっていれば、私やお前に付いているターゲットが、外れるはずだが?」
煙が晴れる。そこには、3機の『ゴーレムⅢ』が、それぞれの球状の物体を繋げ、巨大な可変エネルギーシールドを作っていた。
先ほどと、さほど変わらぬ『ゴーレムⅢ』が、そこにいた。
「効いてないのか…?」
「みたいだな…、クソ…っ!」
じわりじわりと、確実に追い詰められていた。
◇
「ほいっと」
「はっ!」
爆炎の球が、ゴーレム達に襲いかかる。
「おー、今のいい感じじゃね?ボアーって」
「意味分かんないわよ!」
「あー、センパイって、常にそういう人っスから。あんま気にしてたら疲れるッスよ」
「集中してくださいな!」
ダリルが『ヘル・ハウンドver2.5』から炎を出し、それを鈴が衝撃砲で形を形成、相手にぶつけるという何ともシンプルなものだったが、案外上手くいった。
一方、フォルテとセシリアの方も、上々だった。フォルテが凍らせた部分を、セシリアが『偏向射撃』で砕くという戦法は、確かに『ゴーレムⅢ』達に通用していた。
「でも、ジリ貧だよ。向こうには『山嵐』や『夢現』、『春雷』がある簪に、『蒼流旋』がある楯無さん。言わずもがなの一夏に、展開装甲のある箒。…高火力が、揃いも揃って向こうに行っちゃったから…」
「おん?なんだ一年。オレ達じゃ、火力不足だってか?」
「べ、別にそういう訳じゃ…」
別のゴーレム達を相手取っていたシャルロットが、冷静に分析する。
こちら側、第二アリーナ組には、『ゴーレムⅢ』達に有効な武装が少なすぎるのだ。
「まあ、ぶっちゃけそうだな」
「えぇっ!?大丈夫なんですか!?」
「まー、センパイがこうなのはいつものことッスから。いざとなれば、オリムラ先生にでも頼めばいいんじゃ無いッスか?」
「…確か、教官は第一アリーナの管制室に居て、現在まだ通路のロックが解除されていないため、動けないはずだが?」
「…え?マジッスか?」
ラウラの口から、大した援軍が期待出来ないことを知る第二アリーナ組。
こちらも、静かに追い詰められていく。
◇
「織斑先生…」
「なんだ、真耶」
「ロックが、開きそうに無い、との連絡が」
「…だろうな。こんなことを仕掛けてくるやつだ。こういったことへの対応は、しっかりとしているだろう」
「…先輩…」
真耶からの連絡に、千冬は知っていたかのように、静かに返す。しかし、態度はそれと正反対。手のひらから血が出るほどに、強く、右手を握りしめていた。
「すまんな、真耶。お前の専用機の許可さえ取れれば、もう少し戦況が変わりそうなんだがな…」
「っ…」
真耶の顔が、一瞬悲痛なものに変わる。
知っているのだ。千冬の専用機である『暮桜』がIS学園の地下で、凍結状態となった石像になっていることを。
「お前も、私と同じ心持ちだとは思う。教え子達が、自分達に変わって、学園を守ることが、耐えられんのだろう」
「…はい。そうですが…」
「私もだ。…もう一つ、残念だが、いい知らせがある」
「…へ?」
この、どう足掻いても悪い方向にしか傾かないような戦況で、千冬はとある報せを持っていた。
「時守が、つい先程出発したらしい。改良された輸送ユニットに乗り、ここに着くのは後5分後だそうだ」
「と、時守君が、ですか…?」
「あぁ。皮肉にも、またアイツの成長した姿を初めて見るのがこんな戦いになるとはな…」
悲しく、そして物憂げな表情を浮かべた千冬は、管制室にあるとあるモニターに目を移す。
そこに写されたドス黒い雲には稲妻が走り、戦闘が始まった時よりも、雨が強く、強く降っていた。