IS 西の男性操縦者   作:チャリ丸

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今まで乱立させてたフラグをテキパキと回収。
…後、数馬君って原作で話したことありましたっけ?


澱む意思

「せーのっ」

「一夏、誕生日おめでとう!」

 

シャルの掛け声とともに、ぱぁんぱぁんとクラッカーがなる。

 

「師匠っ!」

「うぇーい!」

 

その数秒後、俺の持つバズーカ型のクラッカーが一夏の顔面目掛けて放たれる。

 

「ぶっ!…ペッ、口入った…。どこでそんなもん買ってきたんだよ!」

「ビレバン」

「あぁ…うん。どのタイミングで?」

「入学する前に使う物として送ってもらった」

「ずっとあったのか!?」

 

ちなみに、その時はまだ付き合っていなかった刀奈がこれを見た瞬間に吹き出したのはいい思い出や。

今、時刻は午後5時、場所は織斑家。キャノボが終わった後の俺達は、ここで一夏の誕生日パーティをしていた。

 

「この人数は何事だよ…」

「少ないよな」

「多いだろ!」

 

この人数で多いとか…こいつ今までの誕生日パーティ何人でやっとってん。メンバーを整理してみると。

いつもの。モッピー、鈴、セシリー、ラウラ、シャル、簪、カナ、んで俺。

後はちょっと前にあった蘭ちゃんとその兄貴の弾。後なんかよう分からん男子。

どっから来たんかは知らんけどのほほんと虚さん。

んで新聞部の黛薫子。てかそもそもこの人数のパーティを家のリビングでするのが間違ってるやろ。

ま、謎の襲撃後の労う会みたいなんも兼ねれるからちょうど良かったっちゃ良かったけど。

 

「あ、あ、あのっ、一夏さん!私、ケーキ焼いてきましたから!」

「おお、蘭。今日は楽しめたか?…って、途中でめちゃくちゃになったけど…」

「ワンサマずっと中盤でモジモジしてたから後ろから煽る側全くおもんなかったで」

「そういう意味じゃねぇよ!」

「あ、あはは…。あの、楽しめましたし、かっこよかったです!ケーキどうぞ!」

 

なにやら猛烈なアタックをかけている蘭ちゃんから離れ、弾の元へと向かう。

 

「なあ弾。蘭ちゃんってワンサマのこと好きなん?」

「見ての通り、お察しの通りだ。将来のこと考えると、あいつが義弟になるかもしれないんだよなぁ…」

「…ちっふー先生が義姉なるで?」

「ら、蘭にそれ伝えてこようかな…」

 

あの人、自分のことならいいとして、ワンサマの結婚相手とかめっちゃいびりそう。

 

「うちの弟にこんな飯を食わせるのか…的な?」

「小姑丸出しじゃねぇか…。あっ、そういやお前ら初対面だったな。剣、紹介するぜ。俺と一夏、まあ途中までだけど鈴が中学時代に仲良くなった、御手洗数馬だ。数馬、こいつがあの、時守剣」

「よろしく」

「ん、よろしゅう。…あの時守剣ってどんな紹介の仕方やねん」

「ま、まぁそれで分かるんだからいいだろ?」

「ええけどやな。あ、俺のことは名前でええで」

「いいんだ…」

 

なんか全体的に柔らかいふにゃっとした優男、御手洗数馬との初対面は、弾を介して笑いの中始まった。

いや、まあおかしいねんけどな?『あの』時守剣って紹介する方もする方やし、理解する方もする方やし。

 

「初対面のやつやったらこれが早いのは事実やからな。…てかさ、俺の社会からの評価ってどんなんなん?」

「一夏とは別の意味で注目を浴びてるのは間違いないぜ。あいつは嫌がってるけど、そりゃ千冬さんと篠ノ之博士と距離が近いってのもあるし、後は…ま、見た目、だな。お前の場合は大分違うと思うぞ。なあ?数馬」

「うん。剣は、良くも悪くも情報が少ないから、自力で手に入れられるようなことしか知らない人が多いんじゃないかな?例えば、中学校は全国でも名だたる進学校で、その中で2年連続生徒会長を勤め、考査では1度も一位を落としたことが無いこと…とかかな」

「すっげ。全部合ってるやん」

「合ってんのかよ!?」

 

なにを驚いとんねんコイツは。

 

「その高校に向けての全てがIS学園への強制入学でパァになってんけどな」

「あぁ…そうか…。すまん、一夏のせいで…」

「ま、今はそんな気にしてないしな。将来の夢は潰れたけど、安泰なんは確定やし」

「案外あっさり切り替えられるんだ…」

「まーなー。学費ただやし、代表なったから援助やら給料やらガッツリ入るし、キツいことも多いけど、どっちが楽しいかって聞かれたら間違いなくこっちやわ」

「なぁにが楽しい、よ。あんだけ怪我して楽しいって…アンタドM?」

「ちゃうわい。…んで、鈴。マジで誕プレラーメンにしたん?」

「当たり前よ」

 

一夏を除く男3人で話していると、数馬と弾との中学の知り合いでもある、鈴が会話に入ってきた。

実は、一夏の誕生日の1週間程前から、いつものメンバーに誕生日プレゼントが何がいいか、と聞かれていたのだ。

ぶっちゃけめんどくさかったから何人かはテキトーに答え、その場をやり過ごしたのだ。…そのテキトーに答えた一人がこの鈴で、『中華でええやん』と食堂の長椅子に寝っ転がりながら答えたところ、マジで採用したらしい。アホやこいつ。

 

「弾と数馬は何にしたの?」

「俺は…その、アレだ。男だけの秘密だ」

「弾…それじゃバレるよ?僕は筋トレセット。そんなに高くは無いけど、一夏がまたISを中心に身体を鍛えたいって聞いたからね」

「ふーん。…まあ、普通はそんなもんよね。剣は?」

「独自のルートで手に入れた、一部の人間からしたら喉から手が出るほど欲しいブツ」

「誕プレに何送ろうとしてんのよ!?」

「安心せぇ。ただの調味料セットや」

 

ただし、そこには『市販の』ではなく『一流料理人御用達の』が付く。おとんの知り合いに、そういった調味料を格安で仕入れて売ってくれる人がいて、誕生日の事を話すとほぼただ同然で売ってくれたのだ。

 

「アタシ以外にも誕プレの助言したんでしょ?」

「おぉ、したで。セシリーにはティーセット、シャルには時計って言っといた。簪には、一夏が持ってへんゲームで、カナには…」

「えーいっ」

「うおっ!?危なっ!…って何ですかそれ!突起出てるじゃないですか!?」

「うふふ、凄いでしょ。私の知り合いに作って貰った護身用のけん玉よ」

「…普通にしとけって言うたのになぁ…」

 

鈴に、みんなにどんな誕プレのアドバイスをしたか、を話していると、視界にけん玉を振り回す刀奈と、それを必死に避けるワンサマが写った。

 

「ご、護身用けん玉…?」

「そうよ。糸の部分は特注のワイヤーで出来ていて、最大5メートルまで伸びるわ。玉の部分は特殊プラスチックでただ硬いだけなんだけど、持ち手にあるスイッチを押すとこんな風に突起が出るの。ちなみに、持ち手の部分は近距離戦闘用に特殊合金で作ってあるから安心して使ってちょうだい」

「安心できませんよ!」

「あんたどんなアドバイスしたのよ…」

「普通に自分の暇つぶしでええんちゃう?って」

 

簪とカナは意外なことに、人に自分が選んだ誕生日プレゼントを送ったことがほとんど無いらしい。身内であるのほほんや虚さんぐらいにしか上げたことが無く、それ以外は付き人に選んでもらったらしい。それだけでもビビったのだが、セシリアも同じことを言ってきたので逆に俺がおかしかったんか、と思いそうになった。

 

「さて、と」

 

そろそろ俺も誕プレ渡そかな、と思っていたその時、ズボンのポケットの中の携帯が震えた。

 

「……ん?なんや、電話かいな。…っ」

 

普段はあまり来ないが、メールなら短いバイブレーションで終わる。だが、数秒待っても続いたため、着信が来たのだと判断できた。

 

その画面に表示された名前に、僅かながら息を飲んだ。

 

「ん?どうしたんだ?剣」

「…いや、ちょっと電話や」

 

無意識にいつもより低い声で弾に返した俺は、足早にドアへと向かい、できるだけ大きな音を立てず、かつ少し力強くドアを開け、リビングを出た。

 

 

「…ん?あれ、千冬姉?」

 

 

俺が部屋を出るのが分かっていたかのようなタイミングで、テーブルの上の一夏の携帯が震えた。

 

 

 

 

『もしもし』

「もしもし。…どうしたんだ?千冬姉」

『…少し、お前達に用があってな』

「用?」

 

千冬からの電話に、一夏は首を傾げた。襲撃への慰労の言葉はもう言われたし、誕生日についても朝祝ってもらっている。しかも、お前()と言ったと言う事は、自分一人に対する用事ではないからだ。

 

『あぁ。一夏、今近くに誰がいる?』

「えっと…箒に、鈴、セシリア、ラウラ、シャルロット、簪さん、楯無さん…後は、虚さんとのほほんさん。弾と蘭と数馬。剣…以外はリビングにみんないるけど」

『…そうか、好都合だ。スピーカーにして、テーブルに置いてくれ』

「分かっ、た…」

 

さすがの一夏も、実の姉に好都合だ、いきなり携帯をスピーカーにして置いてくれと言われて疑問を隠せず、返事に少しだけ詰まってしまった。

 

『さて、五反田兄妹、御手洗、布仏姉妹。お前達にも聞く権利がある話だが…どうする?』

「え、えっとぉ…」

「…織斑先生、私達がいると話しづらいでしょうし、聞きづらくもあるでしょう。私達5人は、外で待っています」

『そうか。…すまんな布仏、色々と気を使わせる』

「いえ。…では皆さん、行きましょうか。本音も」

 

いきなり話を振られた弾も、先程の一夏と同じように返事に戸惑ってしまった。いても居なくてもいい。言外にそう言われたのだが、メンバー最年長の虚が、即決した。

妹の本音、そして弾と蘭、数馬に退室を促し、先程時守が出ていったところとは違う扉から、リビングを出た。

 

『…行ったか?』

「あ、あぁ」

『…なら、始めるか』

 

時守を除く専用機持ち8人が残ったリビングに、千冬の声がやや無機質に渡る。

 

『お前達、今日の襲撃について、お前達自身についてどう考えている?』

「お、俺達自身について?…えっと…最初は、うまく対応できた、とは思う…けど」

「その後は、ダメでした。結局相手に翻弄され、まともに当てられずに…」

『待て、一夏、篠ノ之。私は今、相手について聞きたいんじゃあない。お前達自身について聞きたいんだ』

「どういうことだ?千冬姉」

 

自分達自身のことを話し始めた一夏と箒だったが、その途中、半ば強引に千冬に止められた。

 

『…なぜお前達は、あの時ゴーレムを自爆させなかったんだ?』

 

そして、あまりにもいきなり、唐突にそう言われた一夏達は、一人残らず反応出来なかった。

 

「……え?…ちょ、ちょっと待ってくれよ、千冬姉…。その言い方って…」

『そうだ。時守が囲まれている時に、なぜゴーレムをロックしなかったのか、と聞いているんだ』

「で、出来るわけないだろ!?剣は今まで、何回もそうして怪我してたんだぞ!?」

『あぁ、そうだな』

「それに、俺達の方だって襲撃者の方に集中してて―」

『それが、どうした?』

「っ、千、冬…姉…?」

 

一夏の言い分を、たった一言で千冬は切り捨てた。そこには、織斑一夏の姉である千冬は居らず、世界最強としての織斑千冬が存在した。

 

『なぜお前達は、あいつがそんなものでダメージを受けると思っているんだ?』

「な、なんでってそりゃ…」

『あいつが二学期に入って身体を痛めているのは主にISの機動に身体がついて行っていないからだ。あいつ自身、二学期に入ってからはテロリストからの直接的なダメージはほとんど受けていない。先程の戦闘も、敵の不意打ちですらまともに喰らっていないしな』

「…確かに。前のアラクネの時も、爆発の勢いが少し強かっただけで、それ以外は受けてないって言ってたわね…」

『それに、あの自爆は凰やデュノアですら避けれた。なら、『完全同調』を…そうだな、80%ほどにでも調整した時守が無傷で切り抜けられることは分かったんじゃないか?』

「それはゴーレムが1体だけだったからですわ!剣さんはあの時囲まれていて…」

『ならなぜプライベート・チャネルで連絡を入れんのだ。どこか始点を決めて、そこから時計回りに自爆させていく、といった指示を出せば良かっただろうが。相手の資源も有限、ゴーレムも無限にいるわけではない、という事は少し考えれば分かったはずだが?』

「そ、れは…」

 

正論なのかは分からないが、千冬の有無を言わさぬ淡々とした口調に、一夏も、楯無も、セシリアも何も返せなかった。もちろんそれは声に出した3人だけでなく、簪らも同じだった。

 

『はっきり言おう。今のお前達は、時守に依存している』

「依存…」

『そうだ。無茶はしてほしくないが、いざという時には指示し、助けてほしい。お前達全員が、心のどこかでそう考えているはずだ。…甘えや依存と、信頼は全くの別物だ。…最も、私はそれ以前の問題として、専用機持ちの中でも最も遅く受け取った2人の内1人に指示を仰ぐな、と言いたいがな』

「……」

『…これはお前達のために言う事だが、今のお前達は余りにも時守に甘えすぎている。学生である前に専用機持ちと捉えるか、専用機持ちである前に学生と捉えるかは勝手だが…。更識姉。お前も少し、変わったな』

「っ…、はい…」

『戦闘のための兵器になれ、とは言わん。学生らしいことをするな、とも言わん。だがな、もう少し自分の立場というものを考えてみろ。時守に関しても、な』

「ちょーっと、言い過ぎッスよ。ちっふー先生」

「剣…」

 

千冬の言葉が、8人に刺のように刺さる中、通話を終えたであろう時守が、リビングに戻ってきた。

 

「だいたい、高1高2でのレベルを考えたらこんなもんちゃいますの?俺がやりすぎたぐらいで」

『そうか…お前の方にも、連絡がいったのか』

「えぇまあ、今さっきね」

 

戻ってきた矢先、時守と千冬の間で言葉のやり取りが行われる。

 

―それはどこか優しげで、それでいて当たり前のように牙を持っていた。

 

「ちっふー先生にも一応報告しときますわ。受けましたよ、あの話」

『…分かった。では、お前の長期公欠の手続きを進めておく』

「あざっす。…ってことで、俺、明日から軽く2週間はおらんようになるから」

「……え?」

 

振り向きざまに、あっけらかんとした態度で話す時守に、誰が発したかは分からなかったが、誰もが心の中でその言葉を発した。

 

「いやな?俺あいつの不意打ちでランペイジテールぶっ飛んだやん?んであの後ちょっと調べてみたら、ダメージは無いねんけど所々変にズレてるとこあったし、もうめんどいからオーバーホールしてくることにしてん」

「そ、それでも2週間って…」

「細かい部品とかも調整したいから長めに、やねんて」

 

まるで8人を置き去りにするかのように、時守は話し

 

『まあ、お前の回復も兼ねているだろうな』

「でしょうね。ぶっちゃけ『金夜叉』無しでここまで身体苛められませんし」

 

千冬もそう返した。

 

『ふむ…。いい機会だ。全員、これを機に代表、代表候補生としての自分に何が足りんかを考えてみろ』

「うーっす」

 

一夏は、自分達と2人に、形容し難い壁を感じた。

 

 

 

 

 




誰に何のフラグを立てたかはあえて言いませんし、それぞれの心境については、次章以降で書かせてもらおうと思っています。6巻マジで薄いなぁ…。7巻…分厚いなぁ…。
現段階で、私から言えるのは、『物語が進み出すのは7巻から』ということだけです。

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