IS 西の男性操縦者   作:チャリ丸

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2万文字超えそうになったので分割。シリアル編突入です。

艦これAC楽しいっす。パソコンの方もやる気が出てきました。新米少佐だけど…。

後、最近ポケモンコマスターにはまってます。何なんですかね、アレ。


闘の壱 始まり

『ちょっと…っ!剣!あんたこんなことして大丈夫なの!?』

『ま、そんな派手に動かん限りは大丈夫や。それこそ、生身同士でやり合うぐらいやったらな!』

 

プライベートチャネルで鈴がいきなり怒鳴ってきたので、少々手荒いが、チャネルと共に彼女の細い身体を投げ飛ばす。俺の身体のことを思ってくれるのは嬉しいが、だからといって手を抜く理由にはならない。ってかこれぐらいやったら余裕やし。相手がちっふー先生とかちゃうしな。

鈴が一夏に放った第一撃を防いだ後、俺と鈴はそのまま一夏のすぐ隣に着地した。

と、同時に。

 

「…は?え?鈴?」

「おいボケ。まだ何が起こってんのか理解出来てへんのか」

「え、あ、あぁ。はい」

「簡単に言うとやな、お前が女子達から狙われる標的で、お前の唯一の武器は俺。多分時間切れがあるからそれまで王冠を死守するだけ。おけ?」

「OKなわけあるか!!なんだよそれ!俺自身、身を守れねぇのかよ!?しかも時間制限が多分って何!?下手したら終われねぇ可能性もあんのかよ!!」

「企画が楯無やからな」

「あー…」

「ねぇ、もう攻撃していい?」

 

まだ何が起きているか分かっていない一夏が間の抜けた声を出した。ってかこいつのツッコミスキル上がってね?鈴もそこら辺分かってくれてんのか知らんけど、この流れの間待っといてくれたし。

さすがにしびれを切らしたのか、やや真剣味を帯びた目で、鈴が俺達を睨んでくる。

 

『剣、あんたが身体痛めてるのは知ってるけど、ここに出てきた以上は手加減しないわよ?』

『当たり前や。…ま、お前らに武器の使用が許可されてるのとおんなじで俺にも許可されてるモンがあるから大丈夫や』

 

またこれ使ったら鈴になんか言われるかも知れんけど、生身で出来る事は限られてるから大丈夫やろ。そう思い、発動する。

 

「『完全同調』、発動。…生身版ってなァ」

「は、はぁ!?何よそれ!」

「見て分からんか?PICやらパワーアシストやらは無いけど、視覚強化とか反射速度向上とか、その辺は生身にも使えんねん。臨海学校の帰還の時にも使っとったやろ?」

「…ったく…。相変わらず、イカれた性能、してる、わねっ!」

 

セリフの切れ目と共に、鈴から回し蹴りや飛刀の投擲が放たれる。それを両手両足で流しつつ、距離を詰めていく。…まあ言うちゃ悪いけど『完全同調』あるから生身の相手に苦戦することなんて無いねんけどな。

 

「ちょっ!来んなぁ!!」

「…そこまで拒否られたら…さすがに来るモノがある…」

「あ、ご、ごめん…」

「…なぁんちゃってぇ!一夏!セシリーが狙っとる!早よどっか行け!」

「あっ!待ちなさいよ一夏ぁ!」

「お、お前はどうするんだよ!?」

「とりあえず撒きながら撹乱するわ!」

 

俺と距離を取った鈴との距離を再び詰めようとすると、真後ろの視界に銃弾が飛び込んできた。

タイミングを合わせ、首を傾けるだけでそれを避ける。すると、先ほどまで俺と鈴の間にあった綺麗な床に、明るい赤のインクがぶちまけられた。

 

「よっ…と。ほれ、狙っとるやろ?」

「…あぁ。剣、悪いがここは任せた!」

「ほーい」

 

ひとまず鈴とセシリー、そして俺の近くの城みたいなんに隠れながら盾を持って待機しているシャルを纏めて相手取ることにしよう。…いや、めっちゃ上から目線やけどピンチなん俺やからな?向こうには飛刀とライフルと盾あるけど、俺無しやからな?

一夏が走り去っていったのを確認し、鈴がまたもや俺に突撃してきた。両手が飛刀で塞がっているため、それ以外では蹴り技が多くなっている。…あ、パンツ見えた。パンツってかスパッツやけど。

 

「そこを…っ!どけぇ!!」

「報酬あんのはお前らだけちゃうねん。やから、っていうわけちゃうけど、俺も負けられへんねん」

 

女子達には、一夏の王冠の『一夏の同棲相手決定権』だけが知らされているが、俺にも、『時守剣の同棲相手(最大4人)決定権』が与えられている。これは俺が一夏の王冠を制限時間まで守りきった時に有効になるもので、その間に誰かに取られてしまうと、俺の同棲相手が下手すりゃよう分からん子になる可能性があるということだ。…予定なら、俺の制限時間が終わった瞬間にカナが王冠取って、一夏の同棲相手を決めんねんけど…。

 

「…っ、さっきからえらい大人しい思たら、セシリー動いてんな…」

「まだあたし以外のこと考えてる余裕があるのね」

「まあ、な。シャルも出て来ぃや。そこにいんのは分かってんでー」

「えっ!?…あっ、声出ちゃった…」

 

可愛い(確信)。ドレスを着て、頬を赤らめ、モジモジしながらシャルが出てきた。唯一似合わないのはその手に構えられた巨大な盾ぐらいだろう。

 

「ね、ねぇ、剣。一夏を説得してくれない?」

「…ん?仮にシャルが王冠取ったとして、なんか報酬あるん?」

「えっと…あはは…」

「アンタの写真とか動画に釣られてんのよ。3人は」

「…まじか…」

 

納得しました。俺だってシャルとかセシリーとか簪とかカナの動画やら画像を餌にされたらすぐ動くもん。動く動く。死にかけのゴキブリレベルで動く。

 

「ま、俺の口からは言えへんけど、取らんほうが楽しめんで、シャル」

「じゃあ取らないことにするねっ!セシリアと簪にもプライベートチャネルで連絡しなきゃ…」

「シャルロット!?」

「はっはっはー!おい鈴。お前一夏んとこ行かんでええんか?今頃簪とセシリーも一夏に加勢してんで」

「…このっ!」

 

俺の一言であっさりとこっち側に来てくれたシャルに感謝。と同時にセシリーと簪にも感謝。この最高な企画を出してくれたカナに感謝。

シャル、セシリー、簪の3人が敵に回ったと分かるやいなや、鈴はすぐに行動を開始した。盾だけのシャルよりも、ライフルを持つセシリーと薙刀を持つ簪の方が危険度が高いと判断したのだろう。…いや、お前らの陣営の方がえげつないからな?軍人に侍に飛刀使いて…。

 

「俺らも行くか、シャル」

「うんっ」

 

いつまでもこうして、何もせずにここに居る意味も無いので、シャルと共に移動を開始する。

 

――その時だった―

 

「っ!?シャル、ちょっと先行っといてくれ」

「え?いいけど…何か忘れたの?」

「あぁ…。まあ、そんなとこや」

 

一夏が、穴に落ちたのが、俺の視野に入った。

 

…いや、引きずり込まれた、と言う方が合ってるか。ハイパーセンサーで確認した限り、一夏を掴んだ腕は白人のものだった。

恐らく、俺たちに離れた所で一般生徒が参加したのだろう。その混乱に紛れ、一夏を軽く拉致ったのだ。

「…シャルロット」

「ん?どうしたの?」

「カナの指示に、従ってくれ」

「……え?う、うん。分かった…」

 

彼女にそう言い残し、俺は走った。

 

―敵、亡国機業の元へ――

 

 

 

 

「え、えっと…ありがとうございます。巻紙さん」

「ふふっ、どういたしまして。何やらお困りの様でしたので」

 

とある女性に手を引かれ、俺は朝に使った更衣室にたどり着いた。地上で箒やラウラ、さらには大勢の女子に追い回されていた俺をそこに導いてくれたのは、ご奉仕喫茶で白式に追加武装の話を持ちかけたその女性、巻紙礼子さんだった。

 

「あ、あの…。なんで巻紙さんが?」

「はい。私、スリルが好きでして、こういった所につい入ってみたくなるんです。ここからなら先ほどの劇の様子も少しですが見えますしね」

「は、はぁ…。本当に助かりました。改めて、ありがとうございます。何かお礼でも出来ませんか?」

 

ニコニコとした笑顔を浮かべる巻紙さんに、改めて礼を言う。箒もラウラも、殺傷能力が下がっているとはいえ普通にナイフとか日本刀とか使ってたからな。あのまま逃げてたら今頃どうやっていたことやら。

 

「いえいえ、お礼なんてそんな…」

「い、いや!見ず知らずの人に借りなんて作れませんし…」

「…そうですか…。随分と、お人好しですね…。では…」

 

少し考え込んで、巻紙さんは再び俺と目を合わせた。代表候補生(仮)の状態だし、ちょっとしたお礼に出せるぐらいの金はある。

巻紙さんが何を言うか聞き漏らさないように、しっかりと集中していると―。

 

「白式を、頂戴してもよろしいですか?」

 

瞬間、腹部に鋭い衝撃が走る。その強力な勢いそのまま、俺はロッカーに叩きつけられた。

 

「ゲホッ、ゲホッ!…な、何を…!?」

「あー、だるかったー。ったくなんで私がこんなクソガキとおままごとみてぇなことしなきゃなんねぇんだ…よっ!おらっ!どうだぁ?あたしの蹴り、はっ!最近の男ってのはこうされんのが嬉しいん、だろっ!」

「グッ、…ガァ!」

 

地面に這いつくばっている俺に、さらに4発の蹴りを食らわせてくる。

――ふざけんな!俺はドMじゃねぇ!

…じゃなかった。この痛みが、俺にようやく『敵だ』と認識させる。

 

「白式!」

 

白式を、ISスーツごと強制展開する。これにより、ややエネルギーが多く消費されるが、何もしないよりかはましだ。

 

「…ハッ。待ってたぜぇ…、そいつを使うのをよぉ…」

 

展開と共に起動したハイパーセンサーが、巻紙さん…もとい目の前の女が邪悪に笑うのを捉えた。

くそっ!何なんだよ一体!

 

「ようやくこいつの出番だからなぁ!!」

「なっ!」

 

焦り、苛立つ俺の前に立つ女の背後から、鋭利な爪が現れた。黄色と黒の禍々しい配色で、その先は刃のようになっている。

少し、安堵した。さっきはあいつの脚で蹴られていたけど、この爪で攻撃されたら多分、…死んでいた。

 

「くらえ!」

 

蜘蛛のような脚の先の爪が開き、重々しい銃口が顔を覗かせる。

 

「くそっ!」

 

反射的に、地を強く蹴り、スラスターを全力で噴出する。

それにより、凄まじい速度で上昇し、天井にぶつかったところでようやく止まった。

 

「何なんだよ一体…っ!お前は誰だ!」

 

天井から一気に急降下し、起動させて雪羅を、女の頭上めがけて突くも、2本の爪に防がれる。

一旦距離を取って着地した俺に、女の口から先ほどの答えが出てきた。

 

「あぁ?分かんねぇのかよ。悪の組織って言ったら分かるか?」

「ふざけん――」

「ふざけてねぇっての!ガキが!秘密結社『亡国機業(ファントム・タスク)』が1人、オータム様って言えば分かるかぁ!?」

「知らねぇよ!誰だよお前!そんな人様に言えねぇようなことやってて恥ずかしくねぇのかよ!産んでくれた親に申し訳ないと思わねぇのか!」

「…う、うるせぇ!申し訳ないとか思ったこと…な、無くはねぇけど…っ!い、今は今だ!愛する人もいるし、過去なんて振り返らねぇんだよ!!」

 

その言葉と共に、女―オータムのISの姿があらわになり、俺のツッコミが炸裂した。

 

「…おらっ!どうだ!」

「ちっ…くそっ!」

 

オータムの攻撃が、本格的なものへと変わってくる。

近距離に詰めれば8本の脚が俺の行動を制限し、逆に距離を取れば銃口から実弾を撃ってくる。

…うまい。そして、強い。言動の荒さが目立つが、繊細な部分のコントロールは確かなものだ。

 

「あ?意外にうめぇじゃねぇか。誰だ?クソ雑魚とか言ったの」

「こんの…っ!」

「まあ初心者にしちゃ、だがなぁ!このアラクネ相手にちょこまかできるってのは、ビギナーズラックか?」

「ぐっ…ぅ…!」

 

瞬時加速で懐まで潜り込むも、4本の脚に遮られ、残る4本の脚の爪が俺に牙を向く。

弾き飛ばされた俺は、地に両足と左手をついてバランスを取り、すぐさま体勢を整える。

…かなり、厄介な相手だ。遠距離攻撃は直線的なものしか無いが、近距離だと自由自在に動かれる。…となると、やはり『零落白夜』で一撃で仕留めるしかない…っ!

 

「あん?なんかするって顔だな。…ま、多分零落白夜でワンチャン狙ってんだろ?」

「っ!ち、違う!」

「ハッ。そうかよ。んならそんな見え見えの嘘しかつけねぇクソガキにお姉さんがイイコト教えてやんよ」

 

そう思っていたところを、見透かされた。

俺の反応を見てほくそ笑んだオータムが、何やら俺に語りかけてきた。

―耳を貸すな!明らかな挑発だ!

その意識はあった。どんな挑発が来ても、乗らないつもりだった。

 

「この前のモンド・グロッソでなぁ!てめぇのことを攫ったのはウチの組織なんだよ!感動のご対面ってわけだ!はっはぁ!攫ったやつが言ってたぜぇ?『何にもできないただのゴミだった』ってなぁ!」

「っ!」

 

だが、それを聞いた瞬間、俺は理性を保つことができなかった。

 

「…そうかよ…っ!」

 

モンド・グロッソでの誘拐事件

 

公にはなっていないが、第2回モンド・グロッソの決勝戦の直前、俺は何者かに攫われた。結果、俺は無事だったが、それは千冬姉が決勝戦を棄権して助けに来てくれたからだ。あの時の千冬姉の顔は、忘れない。目尻に涙をため、安堵した様子でずっと俺の名前を呼んでいた。少し嬉しくも思ったが、その時から俺は、強い無力感を感じていた。

あの時ほど、俺は自分の無力を呪ったことはなかった。いつの間にか、右手に握る雪片弐型が震えている。…それは武者震いや怯えから来るものではなく、単純な怒りから来たものだった。

 

「なら、あん時の借りを返してやらああああっ!!」

 

気がつけば俺は、全速力で突撃し、オータムに斬りかかっていた。

 

「はっ!やっぱガキだな。こんな煽りで見事に乗ってくるなんて…よっ!」

 

オータムのISから、エネルギーの塊のようなものが投げつけられた。

それを雪羅で切り裂こうと思った俺を、思わぬアクシデントが襲った。

 

「なっ、何だこれ!」

「…まじかよ…。こんなにうまいこといくなんて思ってなかったぜ。初見でもかなりのやつには避けられんのに…」

 

そのエネルギーの塊が、まるで蜘蛛の糸のように伸び、いつの間にか俺の身体が白式ごとがんじがらめにされたのだ。

 

「くそっ!離せ!」

「やーなこった。ってかマジで馬鹿だろ、お前。どんな教育受けてんだ?」

「てめええぇ!!」

 

間接的にでも、千冬姉を馬鹿にされたような気がして、身体に込める力を強める。

なんで…っ!なんでこんなやつに…!

そう思い、身体が動くも、糸は俺の身体に絡まり続ける。こんなもの一つ解けない自分に、強烈な無力感を覚える。

 

「ま、感動のご対面の後は…嘆きの別れって相場は決まってんだよなぁ」

「…何?」

 

そんな言葉、聞いたことが無かったが…一体何と別れるんだ?そう思っていると、四本足の見たことも無い装置を持ったオータムが、こっちにゆっくりと近づいてくる。

 

「んじゃ、楽しい楽しいショーの始まりだ」

 

オータムが、俺の胸元にその装置を押し付けると、4本全ての足が閉じた。

 

「な、何だ…?は、離せよ!」

「さぁて、別れの時間だ。言いたいことは言っとけよ?」

 

誰に?何を?という疑問が浮かぶ俺だったが、一番の疑問は、何と別れるのか、ということだった。

だが、俺はそれを目の前の女の口から知ることとなった。

 

「つっても、後2秒ぐらいしか使えねぇ、てめぇのISに、だがなぁ!」

「なにっ!?」

 

瞬間、俺の全身に強烈な電流が流れた。

 

「がああああああっ!!!」

 

何も考えられなくなり、ただ叫びを上げることしかできない。全身の感覚は一瞬にして無くなり、最早俺の脳に電流による痛みを伝えることしかできなくなっていた。

 

「―ぐ、…ぅ…この…っ!」

 

電流が止まったと同時に、俺は地に落ちた。

その際、あまり慣れない感覚で落ちたが、大方電流で感覚が麻痺しているのだろうと、深く考えずに、顔をオータムの方へと向けた。

―足に力は、入る。行ける!

そう思い、右手の雪片弐型に力を入れる――が、手に伝わる感覚は、俺が拳を握ったものと全く同じだった。

まさか、と思い、右手に目を向ける。するとそこには、何もなかった。見慣れた剣も着なれた白の装甲も無く、ただ俺の手の甲しか、無かった。

 

「てめぇの元相棒ならここだぜ?へぇー、ISのコアって結構綺麗なんだな。指輪とかに使えそうじゃねぇか」

「お、お前…それ…っ!」

 

聞きたくもない声のする方に顔を向けると、その女の手の中には光る菱形の結晶―ISの核、コア―が鎮座していた。

 

「いやまじ、うちの技術班ってすげぇわ。知ってっか?あれ剥離剤ってんだ。文字通り、使用者とISを引きはがすもんなんだが…。良かったなぁ、生きてるうちに見られてよぉ」

「ふざ、けんなあぁぁぁああ!!」

 

全身に力を入れ、オータムに突撃するも、鳩尾に直蹴りを喰らい、壁に叩きこまれた。

 

「がっ…は、ぁ…」

「IS無しの戦闘ド素人に何ができるってんだよ。ったく、おら!今のガキはこういうのが好きなんだろ!」

「ぐっ…!ガハッ!」

「ひゃははは!あんま汚ぇモン飛ばすなよ?綺麗な脚が、てめぇなんかで汚されちゃあ、たまんねぇ、からなぁ!ひゃははははは!!」

 

 

――その時だった。

 

 

バキャッ!

 

「ぐふっ!?」

「あれ?なんか踏んだ?」

 

最初に俺がぶつかった天井から、金夜叉を纏った剣が降ってきた。

 

「ん?よう」

「…おう」

「なんでそんなボロボロなん?」

「そいつに、やられたんだ…」

「まじか」

 

見事なドロップキックでオータムを吹き飛ばした剣は、こっちを向いて気軽に話しかけてきた。

 

「…で?お前誰?」

「あぁ!?てめぇふざけてんのか!?」

 

そしていきなりオータムを煽り出した。…加勢に、来てくれたのか…。

 

「やから誰やねん」

「はっ!だぁかぁらぁ、悪の組織が一人、オータム様だっつってんだろ!」

「知るかボケェ!!誰やねんお前。てかロケット団みたいな自己紹介するとかフラグ建てんの上手すぎやろ」

 

ISを展開して、コアを右手に持つオータムと金夜叉を纏った剣、そして地面にボロボロで横たわる俺、という何とも奇妙な構成が完成した。

 

「あら、剣くん。もう来てたのね」

「おう。…シャル達は?」

「ちょっと別のお願いを聞いてもらってるわ。あまり多すぎても意味無いもの」

 

オータムという敵を前にして、剣と楯無さんは顔を見合わせ微笑んだ。…やはり、というか、そんな2人を見てオータムがしびれを切らしたかのように怒鳴った。

 

「てめぇら!ふざけてんじゃねぇぞ!白式のコアがどうなってもいいのか!」

「…あー、それは困るわ。まじ勘弁」

「…なら、てめぇらのISのコア、渡せや」

「ん。ほい」

『え?』

 

俺と楯無さん、そしてオータムの声が重なった。剣が、金夜叉を解除して、その待機状態である指輪をオータムに放り投げたからだ。

楯無さんと俺のは、何をしているのかという疑問と焦りの声。オータムのそれは、思わぬところで予期せぬ収穫を得たことへの唖然としたものだった。

待機状態の金夜叉は、剣とオータムの間に綺麗な放物線を描き、オータムの左手に収まった。

な、何をしているんだ!?相手に簡単にISを渡すなんて!

 

「は、はははっ…」

「ちょ、ちょっと剣くん!?一体何を…!」

「とんだ腰抜けだなぁ!国連代表!びびって取り返しに来ることすらしねぇなんてなぁ!ぎゃははははは!」

「アホやろお前。『整体電気逆流』+『ランペイジテール遠隔発動』ビリビリー、どっかーん」

「ぎゃああああっ!!!ぶっ、ふべっ!ごはっ!?」

 

と、思っていたら、オータムに先ほど俺に流れた電流よりも遥かに強そうなものがオータムに流れ、さらに金夜叉の待機状態の指輪から、ランペイジテールが2本具現化し、オータムを遠くの壁に吹き飛ばした。

 

「げほっ、げほっ…」

「なんの対策も練らずに相手にIS渡す馬鹿がどこにおんねん。よっ、と」

「あ、白式…。…戻って、来てくれたのか…」

 

吹き飛ばされたオータムの手から離れた金夜叉と白式が、無事剣と俺の手の中に収まった。

 

「てめぇ…!舐めてんじゃねぇぞ!」

「っ!剣!」

 

白式が戻ってきたことに一瞬安堵した俺だったが、目の前に広がる光景に、再び現実に引き戻される。

オータムが、壁から瞬時加速で一気に剣に接近してきたのだ。

やばい。そう、思った時だった。

 

「な、何だ…こりゃぁ…!」

「ん、ナイスタイミング。カナ」

「ふふっ、私を忘れてもらっちゃ困るわ」

 

剣とオータムの間に、水のヴェールが広がった。振りかぶられた2本の爪は剣の頭部に届くことはなく、儚くもヴェールに無駄な攻撃を続けるだけだった。

 

「私のISはね、水を操るのよ」

「…ナノマシンか…!」

「あら、意外と賢かったのね。言動がアレだったから、ちょっと残念な中身かと思っちゃった」

「この…、てめっ…!ぐっ…!」

「おいおい。…お前、まずは俺やろ?」

「なっ、この…ざけん…がはぁっ!!」

 

ひとまず、剣をガードしている楯無さんを先に倒そうとしたのか、オータムが今度は楯無さんに肉薄した。が、その攻撃が叶うことはなかった。

脚の一本を掴んだ剣がオータムをISごと地面に叩きつけ、起き上がろうとしたところを顔面に膝蹴りを喰らわせた。…え、えげつねぇ…。

 

「…ざっこ。地の利の差で一夏に勝ててたみたいやな。開けたとこやったら一瞬でお陀仏やん」

「舐めんなあああああっ!!」

「舐めとんのはどっちやねん…」

 

やや怒気が篭った声を、剣がこぼす。

 

「勝手に人の居場所にずかずか入ってきよって…ただで帰れると思うなよ」

 

今度は、今まで1度も聞いたことがないような声で、そう言った。

いや、俺は…聞いたことがある。福音が、花月荘に接近していた時の声と一緒だ。

――あぁ、そうか――

俺は、何となくだが実感した。

 

「なっ!このっ、離せっ!」

「ええで、言うても…」

 

剣が、なぜこれほどまでに急に強くなれたのかを。

 

「これは一回決まりだしたら止まらんコンボ技やけどなぁ!」

「ガッ、グッ!?この…!ごふっ!ガハッ!」

 

自分の、新たな居場所を、守るために戦っているからだ。

剣は、関西からこっちに来た。ここで出来た大切な場所、人、環境…そういう、大切な何かを守ると決めているから、強くなれるんだ。

 

オータムが悲鳴を上げながら宙に舞う。剣はそのオータムと距離を一切開けること無く、まるで円舞のように追撃していく。

 

「てめ、ぇ…!と、まれぇ…!ぐがあああっ!」

「5、…8、9…60っ…。『具現一閃』!」

「クソが…ぁ…っ!」

 

両手両足で殴り、蹴り、ちょうど60回。オータムを蹴りで地面に叩き落とし、止めに具現一閃を刃状で放ち、沈めた。

 

「どう?一夏くん。頼りになるでしょ?」

「…はい。俺も…」

「うんうん、ちゃんと気づいたみたいだね」

 

オータムが膝を着いたのを見て、楯無さんが俺に話しかけてきた。

言葉通り、俺は気づけた。

しっかりとした守る目標を持ち、それを守れるように強くなる。

今、その言葉がすんなりと心の中に入ってきた。

 

「あー疲れた」

「お疲れ様、剣くん」

 

楯無さんが剣に近づいた、その時。

 

「このっ!」

「っ!剣くん!そいつを捕まえて!」

「…ちっ!ってまたかよ!」

 

オータムが、ISから離れた。

その手には、白式の時と同じようにISのコアのようなものを持っており、戦闘により空いた壁の穴に向かって走り出していた。

追いかけようとした剣だったが、残されたISを見て、俺と楯無さんの前に躍り出た。…すると。

 

「…まず…!」

 

オータムが残したISが、大きく爆ぜた。

瞬時に白式を纏えた俺だが、助かったのは別の要因だということはすぐに気がついた。

まず一つ、楯無さんが俺達2人の周りに水のヴェールによるバリアを張ってくれたから。

そして二つ。

 

「剣くん!?」

「…いてて、だいじょびだいじょび。オールラウンド、モード『双龍』。いやこれマジで防御やと最強やわ」

 

その楯無さんを庇うように、剣がオールラウンドを身体の前で回転させ、盾のようにしていたからだ。

…なんだ?あの形。鈴の双天牙月みたいに両端に刃状にエネルギーがあって…。今まで見たこと無いけど…。

楯無さんも同じことを思ったようで、すぐにヴェールを解き、剣に近づいた。

 

「それも、夏に?」

「おう。まあ鈴の双天牙月みたいな形やけど、そこまで威力は無いんやわ。どちらかと言うとこれで殴って距離取ったり、今みたいに盾にするのがメインやな。…で、どないする?追うか?」

「そうね…。お願い、できる?」

「任せとけ。…他ならぬ、お前の頼みや」

「そう、じゃあ…お願いね。後、…んっ」

「んっ…。どない…した?」

「剣くんが帰ってくるための、おまじないよ」

「この勢いならアジトまで突撃して殲滅しかねへんわ。…ま、冗談はさておき…行ってくるわ!」

 

俺がその一部始終のやり取りに唖然としていると、剣はあっという間にオータムと同じ穴から出ていった。

え、いや。今普通にキスしなかったか?

 

「うん?どうしたの?一夏くん。顔真っ赤にして」

「え、えと…いやぁ、その…」

「あ、分かった!一夏くん、今私と剣くんがキスしてたの見て、興奮してるんでしょ」

「ち、違いますよ!」

 

興奮なんてしていない!…は、恥ずかしいだけだ…。

 

「んふふ〜、ほんとかしら?剣くんね、キス上手いのよ」

「なんでそれを俺に言うんですか!」

「えー。だって、一夏くんもいつかはするんでしょ?」

「そ、そんなの知りませんよ…」

「ふふふ、好きな人とするキスはいいってことだけは言っておいてあげる。…じゃあ、その先は?剣くんはね〜…結構、凄いわよ?」

「ぶっ!?」

 

吹き出した俺は悪くないはずだ。…うん、悪くない。

 

「い、いきなり何を聞いてるんですか!?」

「あら、ただのディープキスよ?…もしかして、一夏くんが考えてた事って…」

「うっ…」

「…あはっ。やっぱり、えっちなこと考えてたんだ〜」

「ちょ、ちょっと楯無さん!それよりも剣を追いかけなくていいんですか!?」

 

咄嗟に出た一言で、俺自身実感してしまった。

剣を一人で行かせて大丈夫なのか、と。

 

「大丈夫よ。剣くん、負けないもの。それに、外にラウラちゃんとセシリアちゃんも居るしね」

「え、そうなんですか?」

「ええ。生徒のみんなには全く知らせてないし、簪ちゃんとシャルロットちゃんと鈴ちゃん、箒ちゃんには別方向の警備をお願いしてるしね。ほら、剣くんも言ってたでしょ?多すぎても連携の邪魔だって」

「い、いつの間に…」

「虚ちゃんからの連絡によれば、負傷者0、来賓も全員無事だそうよ」

「へ、へぇー…」

 

俺の知らない間に一体どれほどの指示を出したのだろう、と俺はこの時ばかりは楯無さんに感謝と尊敬の念を抱いた。

楯無さんらしい、完璧で、堂々とした立ち振る舞いだと思った。

 

「でも…」

「はい?」

 

不意に、楯無さんの口から言葉が出た。

 

「剣くん…ほんとに、無事に、帰って…くるわよね…」

「…そ、そりゃあ、帰ってきますよ。あいつを追うだけですから」

「そう…よね…」

 

ただ、剣を想うその表情からは、俺の知る楯無さんの一面など微塵も感じられなかった。

身体を自分の腕で抱き、俯き、何かに怯える彼女は、今まで見たことがなかった。

 

「あの、楯無さん?」

「…ごめんね、一夏くん。もう大丈夫よ」

「は、はぁ…」

「さて、早くここ片付けて、織斑先生達と合流しましょ?」

「えっ…」

 

ここを、片付けて?

いつも通りの調子に戻った楯無さんに言われ、嫌な予感がして、足元から周りを見渡すように顔を動かす。

すると、そこには瓦礫の山。次いで壊れた壁、天井。…こ、これを?まあ千冬姉が居ないのは幸いだけど…。

 

「えぇぇ〜…」

「こら、男の子がそんな嫌そうな顔しないの。ラウラちゃん達だって、今は大変なのよ?」

「…そうでしたね。…よし!」

 

まずは俺にできることからやってやる。

そう思い立ち、俺は雪片弐型を収納した。

 

 




分かりやすい解説(?)

一夏→拉致られたのでとりあえず戦う。
楯無→一夏が拉致られたし、剣が向かったのでその助太刀。
時守→ノリと試し打ち。
その他→楯無の指示を聞いて行動。

みたいな。

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