かつて無いほどのスランプ…案が出てこないし文にも出来ない…。
「なあセシリー」
「?どうかしましたか?」
「いや…ご挨拶的なやつすると思っててんけど」
「それなら大丈夫ですわ!なにせこのわたくしが、オルコット家次期当主なのですから!」
「は、はぁ…さようで…」
ニューヨークで雑誌の撮影や模擬戦を終えた時守は、すぐ様イギリスへと向かった。
その目的は至ってシンプル。
ここ、イギリスにあるオルコット家へいわゆる実家へのご挨拶をするためである。
が、オルコット家に迎え入れられるや否や、『お嬢様のことを、どうかよろしくお願い致します』とだけセシリアの使用人達全員から言われ、家の中で待つこと数分、淡い水色のサマードレスに身を包んだセシリアに連れられてロンドンの街へと出ていた。
「ぶっちゃけわたくしが『この人と結婚する』と言えば反対する人は居ないのですわ」
「セシリー、お嬢様がぶっちゃけとか言ったらあかん」
「むぅ…」
時守からの当然の指摘に、セシリアはぷくっと頬を膨らませる。
実のところ、彼女は彼にもっと構ってほしかった。
IS学園での部屋は違うし、デートしたのも一ヶ月近く前、身体を重ねたのも同じぐらい前なのだ。
反対に、楯無は普段から同室で、良く彼の布団に潜り込んでいる。楯無に誘われ、妹の簪も。さらに簪はその小柄な体型から、良く彼の抱き枕になっていたり、彼の身体の上に丸まって寝ることすらある。シャルロットに至っては周囲の目を気にせず、いきなり抱きついたりしている。
貴族として、オルコット家の者として…と今まではそれで自分にブレーキを掛けられていたが、他の要因もあり、そのブレーキが壊れかかっていた。
その要因とは、鈴とラウラ、そして1組担任の千冬である。
鈴は普段からその人柄を買われ、時守と良く話している……と言えば聞こえがいいが、まあよく遊ばれている。
ラウラは普段から彼のことを『師匠』と呼んでいるだけあり、一夏の所に居ない時は、結構な頻度で彼の後ろをとことこと付いていっている姿を見かける。
そして千冬は、わざとか、は分からないが良く彼を拉致(?)し、自分達から離そうとしているように思える。
もしかして鈴さんとラウラさん…そして織斑先生も!?という考えがセシリアの頭の中に浮かぶことが多々あった。
そうなれば自分は…今以上に…?今以上に気づいてもらえないのか?
そう考えると自分からもっと積極的に行こうか、とするも、そこでやはりブレーキがかかる。
が、その度に他の者と彼が良く近づくことがある。
…ぶっちゃけセシリアは限界が近かったのだ。
「…剣さん?鈴さんとの撮影はどうでしたの?」
「お、おぉ?なんか怒ってへん?セシリー」
「怒ってなどいませんわっ!」
無意識の内に、語尾が少し強くなってしまう。
―なぜ鈴さんと撮影なのですか!?
その思いが自然と彼女の右手と彼の左手、いわゆる『恋人つなぎ』で繋がっている手にかかる力を強くさせた。
「…セシリア」
「け、剣…さん…?」
いつもは親しい人物をあだ名で呼ぶが、真面目な話の時は名前をそのまま呼ぶ彼が、自分の名を、両親が付けてくれたままの名前を呼んだ。
「…ごめんな、セシリア」
「っ!…な、なぜ剣さんが謝りますの!?その…わ、わたくしのわがままですのに…」
彼も不意に強く握られた左手と、セシリアの表情、態度からセシリアが何を求めているのか気づいたのだろう。俯きがちに喋るセシリアに、言葉を紡いだ。
「もっと皆と…俺も一緒に居たい。…でも、皆には悪いけど色ボケてばっかやったらあかんねん…」
「剣さん…」
「やからな、セシリア。…こういう、俺のオフの時ぐらい、どうしてほしいか、何してほしいか、言ってくれへん?…ちゃんと、セシリアの口から聞きたい。…それを出来るだけ叶えてあげたい」
これは紛れもない彼の本心だった。
確かに彼女達と過ごす時間も大切だし、一緒に長く居たいとも思う。だがそれと同時に、強くありたいとも思っている。国家代表、国家代表候補生達の将来の夫として、国連代表として恥じないほど、強くなりたいと。…そして、金夜叉との
「…ふふっ」
「セシリア?」
「いえ、何でもないですわ…。ただ……改めて自覚しただけですわ。わたくしが惚れた、時守剣という男性とは、こういう方なのだと」
「そ、そんなにドストレートに言われたら恥ずかしいな…」
「恥ずかしがる必要などありませんわ。…そ、それはそうと…その……剣さん…?あ、あの…」
「ん?」
急に改まった愛の告白をしたかと思えば、今度は顔を赤らめ、もじもじとしだしたセシリア。きっと、先ほど時守が言った『してほしいこと』を言うのだろうと、時守はセシリアの言葉に耳をしっかりと傾けた。
「う、腕を…抱きしめても?」
「ええよ、そんぐらい。俺の腕やったら、暇な時ちゃうくてもいくらでも」
セシリアの要望を、時守は微笑んで了承した。
その返事を聞き、セシリアは右手を離した。そして時守の左腕をぎゅっと、自らの胸の谷間に埋めるかのように抱きしめた。
「んっ……」
「せ、せせ…セシリア?」
艶めかしい声と共に腕をセシリアのバランスの取れた身体に密着させられた時守は一気に冷静さを欠いた。
―ま、まあこれぐらいなら…
と、思っていたが、以外にも、彼女の欲求不満はかなりのものだったらしく。
「今日は、…もちろん泊まっていかれるのですわよね?」
「っ!あ、あぁ…」
「でしたら―」
上目遣いで、さらに胸をこすりつけるかのように左腕を挟みながら動かして、そう言われ、
「今夜は一晩中、明け方まで激しく、今までで一番激しくお願いしても構いませんこと?剣さんからの…愛が、もっと欲しいですわ…。貴方が枯れるほどに、わたくしに浴びせてくださいまし。…剣さんも、国連で色々な女性に会って…溜まっていますわよね?それを…全部わたくしで、解放してください」
背伸びした彼女のその艶やかな言葉が、耳をくすぐった。そして、肩を引き寄せられて耳の穴に舌を入れられ、舐め回されたその瞬間から、時守の心臓はいつもよりも数段早くその鼓動を刻んだ。
◇
―エジプト リビア砂漠―
まっさらな砂漠が広がる砂漠の中、彼女は何事も無いように突っ立っていた。
「ふんふふんふふーん。いやぁ…やっぱし金獅子ってよく分かんないなー」
何かを模索するように歩く彼女は、あるISについて考えていた。
「単一仕様能力もそうだし、一次移行も早すぎるんだよねぇー。これって金獅子のコアが原因なのかな?いやでもこの束さんはそんな不安定なコア作った覚えないしなぁ…」
彼女―篠ノ之束―は砂漠のある地点で止まり、ある決意を再び固める。
「ま、だからこそ呼んだんだよね!間違いなく第3世代最強になるIS金獅子のその後と、単一仕様能力の限界値を見るために!」
彼女はどこからかリモコンのような物を取り出すと、それに付いているボタンを押した。
すると、彼女の前方1m程の所に、人数人が入れる程の穴…というか、機械的な入り口が現れた。
「ここならどれだけ暴れても束さんとちーちゃんで止められるしねー。剣ちゃんにも他の所で暴れられて万が一にもISの絶対数減らされても困るし。コア作るのめんどっちいし」
その中にぴょーんと飛び込むと、そこはラボのような、戦闘施設のような場所になっていた。
「…にしても誰なんだよ。『銀の福音』を暴走させたのは束さんだけどさ、IS7機同時ハックを軍用ISを通じて成し遂げた奴。おかげで箒ちゃんが完全な噛ませになっちゃったじゃん。剣ちゃんも死にかけたし」
彼女にしては珍しく、数週間前の事を思い出し、イラつきながら、ラボの奥へと向かった。
◇
「せ、セシリア…人の居る前であんなこと…」
「ふふっ、わたくしのタガを外したのは剣さんですわよ?それに今日のショッピングにも、しっかりと付いてきて下さったではありませんか」
「い、いや…だってセシリア1人であんなとこ入らせるわけにもいかへんし…」
セシリアに耳の穴に舌を入れられた瞬間から、時守は男の性的興奮の象徴を抑えることが出来なかった。加え、今日の予定は服を見たり、食事をとる、といった普通のデートの筈だったのだが、セシリアの気が変わったのか急遽ショッピングの店を変更、大人の店を周り、買い漁った。
「自分に正直に…せめて剣さんと2人きりの時はそうしようと思っただけですわ」
「いきなりすぎてびっくりするわ…ってあれ?チェルシーさん達は?」
「買い物の途中、剣さんがお手洗いに行っている間に、ここに連絡して帰らせましたわ」
「…は?」
街中で時守にディープキスを数多くしたり、その自慢のプロポーションを誇る身体を押し付けてくるセシリアが、今日の夜何をしたいのかは、すぐに分かったが、まさかここまでとは思わなかった。
「では剣さんは、飲むものを飲んで、少しお待ちください。わたくしは少々準備をしてまいりますので」
「は、はぁ…。で、でもセシリー?準備って早すぎひん?」
「そんなことありませんわ。それと、2人きりの時はセシリアと、お呼びください」
「お、おう。分かった…セシリア」
「ふふっ、あ・な・た♪…では準備をしてきますわ!」
セシリアの言動全てに呆気に取られながらも、時守は今日購入した錠剤を、数粒一気に飲んだ。
数十分後
「剣さん、お風呂、その他諸々の準備が整いましたわ!」
「…ん。さんきゅ、じゃあ入ってくるわ」
「?何を言っていますの?」
「…え?」
「もちろん、わたくしと一緒に、ですわよ?」
「ま、マジで…?」
現時刻18:30。明け方まで、およそ11時間。
「長いですが、よろしくお願い致しますわ♪」
時守とセシリアの、快楽の時間が始まった。
なんだこれ…なんだこれ!?
エジプトにあるのは束さんの秘密基地的な場所です。
セシリア…エロス