時守が国連で千冬に殴られる数日前、時守が国家代表や軍人達と会っていた日、IS学園一年生寮1027号室にIS学園専用機持ち6人は集まっていた。
「剣君に会ーいーたーいー!んもぅ、どうしてこのタイミングで生徒会に仕事が舞い込んで来るのよ!」
「お、お姉ちゃん…ここで怒っても…」
「仕方ないですわ…」
所謂女子会(本物)。どこぞの教師達がしていた女子会(笑)等ではない。
「はぁ…いいわよねぇ、4人共。好きな人と結ばれて」
直ぐに会えない楯無とセシリアがため息をつき、それを見た鈴が2人を、そして簪とシャルロットを羨む。
「剣が受け入れてくれたからね」
「む?師匠から4人に告白したのではないのか?」
シャルロットの発言に疑問を抱いたラウラが問う。
時守のあの4人同時告白は直ぐにIS学園全体に広まった。それは
「確かに告白自体は剣君からだったけど、それは私達の気持ちを知っていてくれた上でのことだったらしいわよ?」
「どういうことですか?」
「剣さんはわたくし達4人があの場で想いを告げようとしていたのを分かっていたみたいですわ。そして『自分のせいで誰かが不幸になるようなことはしたくない。ならばいっそ…』という答えになったらしく、全員を、ということになったのですわ」
「私達も…剣に一夫多妻が認められてるから、奪い合いよりも、そっちの方がいいかなって…。皆仲良く…って感じ、かな?」
「簪達は…良かったのか?自分一人を見てほしい、という気持ちは無かったのか?」
今度は箒が問いかける。
箒も鈴もラウラも、一夏には自分一人を見て欲しい。そう考えている。だから、その答えを出さなかった4人の答えを、ただ知りたかった。
「うーん、それもあったけど…ちゃんと剣も僕たちの事を想ってるって言ってくれたし、僕たちも剣の事が心配だし…。愛し愛されるなら、それでいいってなったんだ」
答えは何となくだが分かった。『一生を賭けて添い遂げる』。これが4人の答えだった。別に周りからどう思われようが、時守の側に居続ける。それが認められているのだし、時守も、そして自分達もそうしたいからそうするのだ、と。
「なるほど…ねぇ、ま、いいんじゃない?本人達がそれでいいなら」
鈴のその言葉が、ラウラの、そして箒の答えでもあった。
そして―
「ふふっ、私達の事を話したからー、次は鈴音ちゃん達の話よね?」
「えっ!?あ、あたし!?」
「当たり前ですわよ?鈴さん」
「そうだよ?何たって、女子会だもん。ね、簪」
「うん…、ラウラと、箒も…」
「なっ!わ、私もか!?」
「私は構わんぞ?嫁のどこに惹かれたか、だろう?」
今度は一夏ラバーズの話に変わった。正直な所、これが主催者側(シャルロット&楯無)の今回のメインでもあった。
「ほら、ささっと吐いちゃいなさい?」
「そ、そう言われても…」
「何から言えば良いのか…と、というより話すつもりはありません!!」
「いやんっ、そんなに怒らなくても良いじゃない。箒ちゃん。せっかく良いアドバイスになればなぁって思って聞いたのに」
嘘である。ただ恋バナを聞きたいだけである。
「そうですわ、鈴さん。話してくださいまし。一夏さんとどういうことがしたいのですか?」
「な、なんであたしからなのよ!順番で言えば箒からでしょ!?」
「私に振るな!最初に、こ、ここ、告白めいた事をしたのは鈴ではないか!」
「2人とも…」
「……初心」
「「なぁっ!?」」
シャルロットと簪からの言葉に、鈴と箒は顔を赤くする。ラウラはと言うと、先程から楯無に『嫁は私を救ってくれたのだ』だの『師匠は私の先生であり、想い人ではない』だの『嫁が夫になればまた教官と過ごせるのだろう?』だの『キスの先とはなんだ?』だのもう既に恋バナ(?)を展開している。
「ほら、ラウラも楯無さんに話してるんだし…ね?」
「いや…シャルロット、ね?と言われてもな…」
「急に言われても恥ずかしいわよ…」
「告白したり、キスしかけたのに…?」
「簪さん、そういうのは気にしちゃ負けですわ」
酢豚告白に海岸キス未遂…その2つはもうここに居るメンバーには隅から隅まで知られている。
「あ、そう言えば臨海学校で織斑先生と皆と理子ちゃんと話したのよね?あれってどんな感じだったの?」
と、ここでラウラの話を聞いていた楯無がセシリア達の会話に入ってきた。話自体は簡単に聞いていたが、自分がその現場に居なかった事もあり、興味が沸いたのだろう。
「…あれは…酷かった」
簪が、セシリアが、シャルロットが、箒が、ラウラが、鈴が、その表情を暗くする。
そして、ぽつりぽつりと、語り出した。
◇
「はっはっはっ。美味い酒に美味いつまみ、良いもてなしだぞ時守」
「いやー、つまみは適当に俺が作っただけなんすけどね?その酒は…一応清洲のおばはんと協力して作ったやつです」
(お酒作れるんだ…)
またも時守のハイスペックな一面が軽く暴露され、それを聞いて呆然としている女子達をスルーし、千冬は上機嫌なまま話し続ける。
「ほう?……酒の持ち帰りは?」
「4980円っす」
「……2本貰おう」
「今なら3本11000円+『花月荘特製プレミアム枕』&『海の幸ミニセット』プレゼント」
「買った」
「まいどー」
「相変わらずちゃっかりしてるわね。あんた」
千冬と時守の交渉を見ていた1人の理子が思った事をそのまま口にする。この場なら、大丈夫。そう判断した結果である。
「まあ…癖、みたいな?昔っからの」
「昔、ねぇ…あー、懐かしいなぁ。皆」
「おっと、忘れる所だった。おい岸原」
「はっ、はい!」
大丈夫だと判断した結果絡まれた。酔っ払いに。
「中学の時のコイツの話を聞きたいのだが」
「っ!聞きたいですわ!」
「僕も!」
「わ、私も…!」
「えっ、と、時守の…ですか?…本人が居る前で?」
「俺は別にええよー」
「ま、マジ?…じゃあ…」
本人の許可も降り、時守の嫁3人の視線、千冬の雰囲気もそろそろ怖いので、話すことにした。
「…って何から話せば…?」
「そうだな…まずは、中一の第一印象…とかだな」
「分かりました。えっと―」
◇
「そこから岸原さんが軽く剣の過去について話したんだよね?」
「なんでそこで止めるのよー!私もっと聞きたいー!」
「話せば…長くなるから。それに…」
「あの時は千冬さんが良い感じにアルコール回ってたし…思い出したくないわ」
ほんの少ししか聞けなかった楯無がシャルロットの肩を揺さぶるも、シャルロットはおろか、他のメンバーも話そうとはしない。
「ぶぅ〜…ならいいもん。剣君が帰ってきたら直接聞くもん」
「その方がいいですわ。えぇ、その方が」
本人達が話そうとはしない話題をほじくり返す程、楯無の性格は悪くない。そして今の他のメンバーの様子から察して、今は一旦放置することにした。
「…じゃあ、鈴達。またよろしく…」
「えっ…ま、またぁ!?」
「もちろん。でないと何のために集まったか分からないもの」
「うっ…うぅ〜」
そのため、話題が無くなり再び鈴達の恋バナにシフトしようとした、その時だった。
「そう言えば具体的に恋バナとは何を話すのだ?」
ラウラがそう切り出した。
「既に4人が婚約済、そして私達3人は嫁に想いを寄せている。それが分かっただけで良いのではないか?臨海学校の時に具体的な内容も話したぞ?」
「そ、そう言われればそうね。…むぅ。じゃあただのおしゃべりになっちゃうじゃない。………おしゃべりでいっか」
長考、後に妥協案を出した楯無だったが、周りの反応を見て、その案を採用することにした。
「そう言えば皆ISの訓練とか大丈夫なの?」
「僕は大丈夫…というより、そんなに長く乗っていられないっていうか…」
「ハイパーセンサーは慣れる、とはいえ使い過ぎると酔うからな。各々のペースが一番だ」
「流石ラウラね、よく考えてるわー。ね、箒」
「うむ、そうだな。直感タイプの私や鈴では説得力の欠片も無いからな…」
ずーん、と自ら墓穴を掘り、項垂れる鈴と箒コンビ。
鈴とセシリア、鈴と箒、鈴とラウラ、鈴とラウラと時守、といった具合に、ここ最近女子の笑いの中心に居るのがこの少女、凰鈴音である。
「かく言う鈴さんもハイパーセンサーの扱いには長けているのではなくて?」
「ま、そうなんだけど。少なくとも一夏よりかは上手い自信はあるわ。でも、1年生全体ってなると…」
「簪が居るからねぇ」
「は、恥ずかしいから、そんなに見ないで…」
学年トップクラスでハイパーセンサーが使える簪に視線が集中し、簪は顔を赤らめ、反らした。簪のその仕草にきゃー!簪ちゃん可愛いぃ〜!!と、楯無が抱きつき、座っていた時守のベッドにボフッと倒れ込んだ。
そして―
「…あ、剣のベッド…いい匂いする…」
「簪ちゃん、剣くんの匂い好きよね?」
女子会のベクトルがズレた。
「っ!…う、うん…。好き。安心する」
「私もほぼ毎日布団の中に入ってるけど、簪ちゃんと同じ感想よ」
「暖かくて…落ち着く」
「好きな殿方の匂いですもの。当然ですわ」
「不意に抱きしめられた時、きゅんってなるんだよね」
「いいなぁ…アタシも一夏にぎゅってされたい…」
「私は……いや、そうだな、私も抱きしめられたい」
「…そんなに良いものなのか?」
恋バナの面影すら見事に無くなった話題の中、ラウラが楯無、簪、セシリア、シャルロットに問う。
「凄いわよ?もう『あぁ、やっぱり自分はこの人の女なんだ』って改めて思わせるほどにね」
「…雌の…本能…」
「も、もう少し言い方が無かったのか?簪…」
「言いようのない物ですわよ?箒さん」
「僕たちだけかも知れないけどね」
普段の言動からはありえない発言をした簪に呆れる箒だったが、その後のセシリアとシャルロットの返答に頭を抱えそうになった。
「一夏…気づいてくれるかな…」
「鈴さん…大丈夫ですわ!…と言いたいのですが…」
「…多分…無理」
簪の容赦無い一言に、箒と鈴、そしてラウラは今まで見たこと無いぐらいに肩を落とす。
―が、
「剣に聞いたら協力ぐらいならしてくれると思うけど…」
シャルロットの言葉に、思わず顔をガバッと上げる。
「その手があったか!」
「昔がどうかは知らないけど、アイツって普通の健全な男子っぽいもんね…ナイスよシャルロット!」
「師匠になら、大丈夫だな!」
一夏の朴念仁をどうにか出来るかも知れない。その僅かな希望に、部屋は一層騒がしくなる。
自分の恋が成就するかも、と騒ぎ、どこまで朴念仁を貫くのか、と笑い、一体剣が居なければどんなことになっていただろうか、と想像した。
「あ、そう言えば鈴音ちゃん。一人でニューヨークに行くのよね?」
「え?は、はい」
そんな雰囲気の中で、ふと楯無が鈴に脈絡のない質問を投げかけた。
「いーなー、私も仕事が無かったら行ってたのに…。まあ夏休み行くんだけど」
「羨ましいですわ鈴さん…。とはいえ、わたくしも家の事情がありますし…」
「僕もお父さんに呼ばれてるし…会社とかのこともあるし…」
「私も……お姉ちゃんの手伝いと、打鉄弐式の調整もしなきゃ…」
「えーっと?じゃあ結局アタシが行っていいの?」
「ラウラもこっちで出来る軍の仕事があるし、私も国家重要人物保護プログラムのせいで国外に行くには手続きが面倒だからな。行けるのは鈴ぐらいだろう」
このメンツ、専用機持ちという括りではあるが、鈴以外の家庭環境やら生まれやらがシリアスなのだ。
鈴も両親が離婚しているが、ラウラにはそもそも親がいない。他に、箒は強制的に別れさせられ、シャルロットは男装させられ、セシリアは若くして後を継いだ。更識姉妹も、暗部組織の長とその妹。学園全体で見て普通の家庭に育った人物は、フォルテ・サファイアと時守剣ぐらいなのだ。
「じゃ、遠慮なく楽しんでくるわ」
「では鈴さん、出国の日はわたくしも空港までお供しますわ」
「ん、よろしくね」
「じゃ、そろそろ解散ってことで。皆もやらなきゃいけない事とか、あるでしょ?」
時間も程よい時間、話もキリよく切れた所で、楯無が締めくくった。どうにもパッとしない終わり方だが、この7人ならそれでいいのだ。
これから何回も、長期間戦うことになるのだから。
戦う女達、という同じ境遇。…またこういった集まりをすることは、全員が分かっていた。