IS 西の男性操縦者   作:チャリ丸

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極秘実験

 

 

 

『では、待機状態のままISを起動だけさせろ』

「了解。金夜叉を待機状態のまま起動」

 

 

ISO施設内奥部の真っ白な空間の中で、ISスーツだけを身に纏い、右手中指に金の指輪を嵌め、それに左手を添える人物、時守剣は管制室から聞こえる千冬の声に従い、金夜叉を起動させた。

 

 

『今回の実験の目的は金夜叉の待機状態での単一仕様能力を使用した場合のお前の身体能力並びに演算能力の向上、人格の変化などを調べるため、だ。…改めて問うが、構わんな?』

「はい。…では、もう?」

 

 

一辺50mの立方体の部屋の中に立ち、時守は千冬に合図を促す。その合図とは金夜叉の単一仕様能力『完全同調』の使用許可を求めるものだ。

完全同調はその効果もあり、現存する単一仕様能力の中でもずば抜けて使い勝手が良い。…が、それと同時にまともに使いこなすのはかなり難しくなっている。

『演算補助』『痛覚遮断』『筋肉操作』『機動予想』等々を、コアの人格と操縦者の人格を極限まで近づけることにより成立させている。言うなれば『ISが時守の一部になり、時守がISの一部になっている』という状態だ。だが故に

 

 

『あぁ。だが今は60%にしておけ』

「…ってことは俺の意識がまだ大半ってこと…でしたっけ?」

『そうだ。お前が例の件で使用した100%。あれはお前とコアの人格がそれぞれ1:1で金夜叉を支配している状態だと、調べた結果分かった。それ以上、つまりシンクロ率100%以上はお前の意識が元ではなく、金夜叉の人格が徐々にお前の身体を支配し、お前の意識はその一部を支えるだけになる。だから模擬戦などでは最高でも80、本当にピンチの時だけ100%にしておけ。それ以上は暴走してお前自身手がつけられん状況になる』

「分かりました」

 

 

危険が生じやすい。シンクロ率100%は1つの身体に2つの心が入る、まさに『同調』。だが、それ以降は心が金夜叉のコアに侵食され始め、どうなるかは誰にも分からないのだ。

 

 

「今日は60%までを見る。では、始め」

「はい、…『完全同調』、発動」

 

 

だからこうして、周りに被害が出ない状況で実験をすることになった。

 

 

 

 

 

 

「シンクロ率、55%…操縦者の脳に異常無し。…今の所、何の問題も無さそうですね。時守くんのバイタルも、脳波も安定しています」

「だが油断は禁物だ。何が起こるか分からないんだからな」

 

 

現在管制室には千冬を含め、数人の人間がいる。

20代〜40代の男女数人の研究員が、そして千冬がモニターとガラス越しに見える時守に注意を向け、他の者がデータを打ち込んでいく。

 

 

「…時守、どうだ?何か異変はあるか?」

『いえ、特には。…ただ自分の中に別の何かが居るのは、曖昧やけど分かります』

「そうか…60%、いけるか?」

『はい』

 

 

真っ白な部屋に立つ時守が、千冬の指示に従い行動する。

 

 

『60%…違和感、ありません』

「分かった。…では、これより射撃訓練に入る」

 

 

千冬のその言葉と同時に1人の研究員がコンソールを操作、時守の立つそのすぐ隣に1丁の銃が置かれた台が部屋の床から伸び、時守の腰辺りの高さで止まった。

 

 

「今から高速で動く的を出す。お前はただそれを連続撃ち抜けばいい」

『了解』

 

 

返事と同時に台から銃を取り、腕をだらんとぶら下げる。

これが今の構え。時守と金夜叉が弾き出した最良の答え。

 

 

「……はじめ!」

 

 

 

 

パパァンッ!!

 

 

 

 

千冬の合図の直後、2つの的が高速機動を始める。

が、一瞬に縮められた2つの銃声が響き、その中心から数ミリ離れた所に2つの風穴を空けた。

 

 

『……どう、ですか?』

「……はっ!え、えと…その、い、今出しますぅ!!」

 

 

その光景に呆気にとられていた研究員の1人がキーボードをカタカタと打ち鳴らし始める。

 

 

「…速いですね」

「そうですね、時守くん曰く『脳内に直接イメージが叩き込まれる、自分の考えみたいに浮かび上がる』ということなので、時守くんの勘と金夜叉の予測演算補助などを使って…普通に撃ち抜いたみたいです」

「照準速度…ほぼISと変わらない…か」

 

 

その射撃速度は計算するまでも無く、速かった。

合図があり、的が動きながら出現したその瞬間に撃ち抜ける程速かった。

 

「時守、何か異変は無いか?」

 

静寂に包まれていた部屋の中に、千冬の声が響き渡る。

さほど大きく無かったが、時守が的に風穴をぶち開けてから全く動いていなかったこともあり、他の音が一切無かったその部屋に、千冬の声は良く届いた。

 

『特には、無い…です』

 

いつもこういう場でははっきりと発言している時守だったが、今の返事はとても曖昧で、その表情も優れなかった。

 

「どうした?…っ!まさか意識が!?」

 

そしてその様子は千冬を、そして2人の会話を聞いていた他の者の不安を煽った。

 

『い、いやいやいや!ちゃうんすよ!?大丈夫ッス。ちゃんとちっふー先生が未婚な事も覚えてるし、結婚に協力的な時守剣ちゃんですよ?』

 

そして別の意味で研究員達の不安を煽る発言をした。

――どうやら大丈夫なようである。(部屋の中では。将来は不明)

 

「……そうか」

『な、なんか怒ってます?…あ、でも、1つだけ。1つだけ疑問…ってか変な感じしたんがあって…』

「…なんだ、言ってみろ」

 

 

 

 

『なーんかもの足りひんなーって。的撃ち抜くだけとか…なんかこう…金夜叉からよう分からん…こう、モヤモヤしたもんが来てるんすよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅっ…ぐすっ……」

「気持ち悪い、男なら泣くな」

「泣いてませーん。ただちっふー先生にぶん殴られた所が痛いから涙目になってるんですぅー」

「…もう一発欲しいか?」

「嫌ですぅ〜」

 

 

ゴンッ!

 

 

…あんまりや思うねん。もうちょいしたらイギリス行くいう時に金夜叉の実験、しかも部屋出てきたら『教師に失礼な口を聞くな』っていきなり殴られて…今更やん。『ちっふー』呼びOKやねんやったら別に結婚出来てない、とか応援してる、とかさ、今更やん。なんで殴られんねん。しかも今また殴られたし。…いった。

 

「しかしまあ、本当に何とも無いとはな」

「まあ…多分100%でも大丈夫っすよ?金夜叉からもなんかそんな感じしますし…あのよう分からんのは分かりませんけど」

 

ちっふー先生の一言から連想し、考える。

なんかよう分からんけど100%までは大丈夫な気がする。…それ以降はなんか怖い。ほんまなんでか分からんけど。

 

「そうか、…なら…現状は大丈夫…なのか?」

「ほーい」

 

まあ今はそんなに深く考える必要は…無いんかな?

 

「それよりも、だ。お前のこれからのスケジュールだ」

「は?…イギリス、ですよね?」

「それはもう少し後だ。まずこれからニューヨーク郊外でモデルの仕事…まあ、撮影だな……」

 

お、てことはギャラ貰えるんか。モデルの仕事とかISの訓練に比べたらましそうやしな。

 

「もちろん移動の時には戦術を学んだり、身体の動かし方を考えたりするぞ?」

「ですよね」

 

うん、期待はしてなかったけど。早すぎて辛い。

施設の中をカツカツとちっふー先生のヒールの音が響く。…ってか歩くの速いっすね、ちっふー先生。

 

「予定が詰まっているのだ」

「心の中読まれたのも久しぶりっすわ。…あ、そのモデルってもちろん誰かとセットで?」

「ソロだが?」

 

いや、待って?それおかしい。ぼっちとか俺慣れてないから死んじゃう。

 

「誰かいないんすか?」

「そう…だな…。あぁ、凰がいるな」

「えっ!?あいつもモデルやってんの!?」

「まあな。『暑い』『だるい』とか言っていたが、商店街のくじ引きでチケットが当たったらしくてな、ニューヨークの観光ついでに雑誌の撮影もするらしい。お前の予定と丁度被っているから同じ雑誌だろう」

「ほー、マジすか」

 

どこ見んねん!確かに顔はISコアのおっさんに気に入られるぐらいやからまあ可愛いとして、ちっぱいに他の色んなトコも…えっ…あー。もしかしなくても甲龍とシュヴァルツェア・レーゲンのコアはロリコン貧乳好きのドMってことか。あの2人もモッピーに並ぶぐらいにバイオレンスやからな。…よう考えたらワンサマサイドバイオレンス揃いやんけ。軍人に武士に衝撃砲…まあなんか1人おかしいけど、それに俺の隣にいる歩く魔王に…

 

「…ワンサマって不憫ですね」

「凰の話からどうそうなったのかは分からんが、まあそうだな。あいつはお前と違い一夫多妻が認められていないからな」

「とか言うてちっふー先生が日本国籍守ったってるんですよね?」

「……」

 

沈黙は肯定と見なす!

 

「……もしかして結婚相手にワンサマ考えてます?」

「……………血のつながりが無ければ、あったかもしれん…な」

 

めっちゃ悩みますやーん。まあワンサマと結婚することに、じゃなくて俺に話すことに、やとは思うけど。

 

「あ、じゃあモッピーとか鈴とかラウラがワンサマ好きなん知ってます?」

「あぁ。というか見ていて分かるだろう?あいつら…専用機持ちというコネを何に使っているんだか…」

「まあ他のワンサマ狙いの子が可哀想になるぐらいには防壁作ってますよね。『ここから先は私達と嫁の世界だ!』的な?」

「ラウラなら…いいかねんな。クラリッサが副官だからな」

 

ポンコツなんかよう分からんねんなー、あの2人。

 

 

…あ。そういや。

 

 

「ちっふー先生も撮影とかしたことあるんすか?」

「…あぁ」

「えっ…マジすか?」

「…世界最強というのはな、金になるんだ」

 

ゲスい。いや、ワンサマに前聞いてたからちっふー先生一人で生計立ててたっていうのは知ってるけど…。それ込みでもゲスい。

 

「しかも私の場合、この目、雰囲気、全てが『かっこいい女』という風に見られたらしい」

「まあ…そりゃあ…そう、でしょうね」

 

少なくとも第一印象『可愛い』とはならん。『かっこいい』か『綺麗』の二択やな。

 

「それを生かして雑誌の撮影とか、だな」

「洋服〇青山の春の新生活応援キャンペーン…とか?」

「…スーツ〇はるやまとかだな。他は…オリンピックの宣伝にも何故か使われた」

 

そっちの方が凄くね!?なんでスーツ〇はるやま優先したん!?

 

「…あぁ、オリンピックで思い出したが、来年のモンドグロッソから毎年、モンドグロッソが行われるようになるらしい」

「へぇー、まあ俺は国連代表やし?1人やし?関係ないし?」

「…油断していると負けるぞ?ちなみに、まあ今年は無い…から来年だな。来年の冬辺りになれば他の国も優秀な代表候補生が代表になる、と私は予想している」

「…え?」

 

 

つまりどゆこと?

 

 

「…IS学園に居る代表候補生や、居る間に代表になった奴は技量やら何やらの成長速度が著しいんだ。よって、各国で…まあお前も知ってる奴だらけだが『更識簪』『セシリア・オルコット』『シャルロット・デュノア』『ラウラ・ボーデヴィッヒ』『凰鈴音』『フォルテ・サファイア』『ダリル・ケイシー』を代表にする、という案が出ている…まあアメリカはまだ五分五分、と言ったところだがな」

「…それ俺に言っていいんすか?」

「どの道知ることだ。それに、もしあいつらがお前と戦うのならあいつらの方に分がある。戦法を良く見ているのはあいつらの方だからな」

 

 

あー、なるへそ。武装ほぼ知られてるし。ぶっちゃけ鈴とかあんまやってへんし。

 

 

「ま、公式試合やったら誰にも負けへんって決めましたからねー」

「…やはり入学時に表情が変わったのはそれか?」

「んー、多分そっすねー」

 

 

そりゃな。

 

 

「…世界最強なんて、普通にかっこええやないっすか。俺はそれをただ目指す。それだけっす。…あー、そっか、皆も強なってるんやんなー。…んじゃ、俺も世界で、学べること学んで二学期、迎えるか」

「ふっ、そうだな」

 

 

ちっふー先生に鼻で笑われた。泣きそう。

 

 

「あぁ、勘違いするな。別に馬鹿にした訳ではない」

「え?」

「ただ鍛えがいのある奴になったと、そう思っただけだ」

「…は?」

「そら、行くぞ。今までのメニューではまだ足りんぞ?ほら、予定をもっと詰めてもっと訓練だ」

「ちょっ…」

「ははは!久しぶりに血がたぎるぞ!!」

 

 

…なんかあかん火付けてもたわ…。ちっふー先生歩くスピードめっちゃ速なったもん。


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