「来てくれたね、ミスタ時守」
「おー、事務総長おっすおっす」
時守はニューヨークにある国際連合に来ていた。
ISが開発、発表されてから国連にはIS学園に勝るとも劣らないIS設備が作られるようになった。
国際親善試合等に用いられることも多いアリーナ、世界各国から集まったトップクラスのスタッフで構成されている開発部、大半がIS学園整備科卒業生の整備部等など…『教育』という観点ではIS学園には劣るが、『競技』や『技術』で見ればIS学園には引けを取らない程の設備が揃っている。
「では早速、第二形態移行をした『金夜叉』を見てみたいんだが…」
「おっけー、今日はスタッフさんに預けて、細かい動きとかは明日以降に見る、でええんやんな?」
「相変わらず理解が早くて助かるよ。ジムや射撃場などは空けてあるから自由に使ってくれても構わないし、各国代表も少しは集まってるから喋ってても良いよ?」
「了解っすー。あー、お土産とか見よかな…」
「それは構わないが…外に出る時は必ず誰かしら国家代表と一緒に行動してほしい。君のISは一日預かるからね」
「へーい」
「まあ、外では少し制限はあるが、今日は一日オフだ。…後から来るミス織斑にも同じことを言ってほしい」
「うーい。んじゃ、行ってきまー。…ミス織斑……I think that Orimura can't marry forever.…ま、嘘やけど」
自分のコーチにとって、凄まじい破壊力を誇る暴言を吐きつつ、時守は技術研究所へと向かう。
「今日どないしよかな…。国家代表多い言うてもカナおらんとか…死にたい…。言うちゃ悪いけどおばはんだらけやしな…」
言うちゃ悪すぎである。
◇
ISを預け、ぶらぶらと施設内を歩く。
「おばはーん」「おーばはん」とつぶやきながら歩く時守は多くのIS操縦者の心を抉っていった。
ISが出来てから、国連には『ISO』なる組織が作られた。独立した建物を貰い受け、そこに様々な施設を詰め込んでいる(ちなみに、今日時守が訪れているのもこの場所だ)。
IS関連しかない、ということで施設内にはやはりというか、女性が多い。数年前までは全体的に見てロボット研究部門は男性の方が秀でていたので、中には男性スタッフもいる。…新たな武装の開発には、少年の心も必要なのだ。
「そんなおばはんで大丈夫か?…大丈夫じゃない。大問題だ」
「だぁれがおばはんだ?とっきー」
そんなことを1人喋っていると、ふと背後から声をかけられる。
聞いた数こそIS学園の生徒の声よりかは少ないが、女性にしては特徴的な口調。
ギギギッと壊れかけのブリキ人形のように振り向くと、思い描いていた通りの人物、アメリカ国家代表、イーリス・コーリングがいた。
「んげっ!?…い、イーリ…」
「ほら、可愛がってやるから早く第2談話室に来い。お姉さん達がたっぷり、虐めてやる」
「いや…いいわ」
「ドン引きするな!!おら行くぞ!!」
「いやあああぁ!やめて!!えっち!イーリのスケベ!!どうせ年下の男の子を虐める趣味でもあるんでしょ!?このショタコンドS!!」
「おまっ…!黙れ時守!あたしはショタコンでもねぇし第一お前もうショタって年齢じゃねぇだろうが!!」
「年下の男の子を虐める趣味を否定しやんって…いやああぁあぁ!やっぱりえっちなことされる!!ぐちゃぐちゃにしゃれゆううぅぅ!」
「…っくそ!おら!!」
「ふみゅっ!?ちょっ!ファンクエは反則…!」
彼女の専用機『ファング・クエイク』が展開され、その手のひらに頭を鷲掴みにされる。この時、頭が潰れないようにする力加減ができるのは、流石は国家代表といったところだろうか。
「さあて、お姉さん達とイイコトして遊ぼうなー」
時守剣、拉致られる。
◆
「ごきげんよう、剣くん」
「お久しぶりです!大先生!!」
「まああたしもやっとくか。久しぶりだな、とっきー」
「…で?なんで私までここに呼ばれたんだ?」
「あら?ここにいるメンツの共通点ぐらい、千冬なら直ぐに分かると思うけど…」
談話室で時守の前に座る5人の女性。
ナターシャ・ファイルス(未婚)
クラリッサ・ハルフォーフ(未婚)
イーリス・コーリング(未婚)
織斑千冬(未婚)
アヴリル・エリセ・ファン・スースト(未婚)
皆、国家代表であったり、軍属の操縦者であったりする者達だ。
「よっ、ナタル、クラリス、イーリ、ちっふー先生、アヴリルさん」
「このメンツにそんな挨拶できるなんて剣くんぐらいよね?」
「国家代表、元国家代表が3人もいるなかで堂々とできるとは…!尊敬します大先生!!」
「おいクラリッサ。お前はいつからこの馬鹿のことを大先生などと呼ぶようになったのだ?」
千冬がドイツIS配備特別部隊『シュヴァルツェ・ハーゼ』副隊長であり、階級は大尉…そして何故かいきなり時守に敬礼しだしたクラリッサに問う。
「はっ!私が大先生の呼び方で隊長に提案させていただいた案の中で隊長が『師匠と書いて先生と呼ぶ…というのはいいな。よし、これから私はあの人のことを師匠と呼ぶ!』と仰ったので、隊長が師匠と呼ぶなら私たち『黒ウサギ隊』の隊員は大先生のことを大先生と呼ぶようにしました!!」
ズビシッと今度は千冬に向かって敬礼するクラリッサ。
普段は普段でオタク気質のある奴だが、しっかりする所はしていた…が、どうもこいつはラウラが関わるとポンコツになるな…
と、千冬は嘗ての部下への印象を改めたと同時に頭を抱えた。
「教官もいかがですか?」
「いらん。それよりもナタル、もう身体は大丈夫なのか?」
「まだちょっと疲れはあるわ。…んもう、どこかの誰かさんがあんなに激しくしたから…」
「おいナタル、お前ただ殴られただけだよな?なんで頬を染めてるんだよ…」
「イーリったら、ノリが分からないと今の世の中生きていけないわよ?30越えても未婚とか、嫌でしょ?」
「なっ…、は、はぁっ!?べ、別にあたしはけっ、結婚なんてまだしようとは考えてないし……っ!で、できるとも思ってねぇよ!?」
「まだ考えてない、ってことは将来は考えてるの?…後、できるとも思ってないって…求婚されたら受けるってこと?」
「…んなっ!…あっ、……あぁっ…あぅぅ…」
「乙女ですかアメリカ国家代表」
「別にいいじゃないかクラリッサ。こいつもただの1人の素敵な恋に憧れる少女だったという―」
「あれ?ちっふー先生も『出会うなら、合コンじゃなく、素敵なバー』とかいう川柳読んでませんでした?」
「ぶふっ!?」
まさかあの黒歴史を聞かれていたとは…完全に不意打ちだ。
…まずい。吹き出したと同時に俯く事には成功したが、今は顔を上げたくない。現アメリカ国家代表のイーリス、モンドグロッソで共に競い合ったスペイン国家代表のアヴリル、そして昔の部下のクラリッサに単に友として仲のいいナターシャに知られた。
全員がニヤニヤしているだろう。…どうする…?
その考えが出た瞬間、千冬にはある答えが出てきた。
「んん゛っ!と、時守っ!お前は、最近調子はどうなんだ?」
迷った時は直ぐ時守へ。
「明らかに話反らしたっすね…。で?なんの調子っすか?」
「…ISだ」
「ま、調子はいい…とは言えへんねんなぁ…」
「なに?」
調子がいいとは言えない?…第二形態移行をして楽に、そして機動も何もかもが格段に上昇したのに…か?
と、千冬の中に疑問が巡る。それは時守の第二形態移行を聞いていた他の4人も同じようで、代表してナターシャが怪訝な顔で尋ねる。
「剣くん?第二形態移行、したのに調子良くないの?」
「まあなー、簪や楯無にも見てもらってんけど『金夜叉』のワンオフがな…まだ解明できてない所があるらしくてなー…ちっふー先生、そういうのに詳しい人誰か知りまへん?」
束…という考えが出たがすぐ様消えた千冬を攻める者は誰もいないだろう。
「すぐには出てこないな。探してみよう」
「あざっす」
「で?それだけでお前の調子が悪い理由にはならないはずだが?」
世界最強…否、担任はやはり鋭かった。
『完全同調』
現在、発現している単一仕様能力の中でも相当使い勝手が良い単一仕様能力。解明できていない所があったとしても、十分使える能力である。だからこそ、解明できていないだけで時守の調子が良くない理由にはならない。
「…流石にばれます、か。実は『オールラウンド』の使用可能モードが全く変化無いんすけど……残りの容量が若干減ってるんすよ」
「ほう……ということは、ワンオフ同様何かしらまだ分かってない所がある、ということか?」
「そっす。ISってあれでしょ?操縦者の成長でも進化するんでしょ?やから俺もあんまり強くなってないんかなーって」
そう言いつつ、時守は頭を軽く掻いた。
困ったような表情を浮かべる彼に、1人の国家代表が口を開いた。
「いや、そんなことねぇだろ。乗り始めて数ヶ月で国家代表に勝てるようになってきてる奴が強くなってねぇとか…ありえねぇ」
「あらイーリ、随分と剣ちゃんにお熱なのね」
「ちっ、ちげぇよアヴリル!!そういうお前はどうなんだよ!!」
スペイン国家代表のアヴリルにからかわれたアメリカ国家代表のイーリスが顔を一気に赤くして否定する。そして反撃する…が
「私?…愛人ならいいかなぁって」
「あっ!?あ、愛人!?」
「えぇ。だって、剣ちゃんでしょ?本妻は4人だけど、愛人ぐらい作ってもいいんじゃない?」
「枯れるわ!!」
「あ、それもそうね。じゃあ遠慮しておくわ」
「あんたが言い始めてんやろ!!…ほんま…疲れるわ」
失敗。アヴリル、やはりよく分からん…とイーリスは心の中でため息をついた。
急に愛人なら可、と言われ焦って返した時守も同じく。
スペイン代表、アヴリル・エリセ・ファン・スースト
前回のモンドグロッソでイタリア国家代表のアリーシャ・ジョセスターフに惜敗。その後後継となる実力者が現れなかったため、継続して国家代表の地位についている。
楯無とは少し違うベクトルの『考えが読めない』雰囲気を、見事にISバトルでも発揮しており、相手の思うように試合を進めさせない戦法を得意とする。
機体も、高機動高火力重視だが戦法は攻めか守りかで言われたら守り、という『よく分からないセオリー外れ』の戦いをすることで有名で、『正体不明の矛盾』という異名を持つ。
「疲れてるのなら、休む?」
「誰のせいや思とるんやろな、この人は…、アヴリルさんは何しはるんですかー?」
「私は…どうしようかしら」
「呑み行くって言ってただろ?アヴリル。あたしとお前と千冬の3人で」
「あ、そうだったわね。そう言えばここが集合場所…だったかしら?」
ニューヨークの国連本部を何に使っているんだ貴様ら、と言いたいが一般人は絶対に言えない。何故なら彼女達が国家代表であり、世界最強だから。
「クラリッサはどうするんだ?」
「はっ!一旦秋葉原によってからドイツに戻ります!!」
どこが一旦なのだ、とは千冬はツッこまなかった。この『シュヴァルツェ・ハーゼ』の副隊長、自らの趣味になると千冬でも静止が効かない。かつて交流を深めようとして3時間弱、彼女の趣味について語られた後、『まだまだありますが、時間が時間ですね…。今日はここまでにしておきます!!』と敬礼されたのはいい思い出である。……いい思い出なのだ。
その経験から察した。今回『いったいどこが一旦なのだ』とでも返してしまったが最後、『きょ、教官には理解いただけないかも知れませんがあの聖地には……』と延々語られることになる。自分もめんどくさいし、何よりこの場にいる他の者に申しわけない。何より早く呑みに行きたい。だからあえて
「そうか。ナタルは…まだ全快ではない、のか?」
スルーし、友人に話を振った。その友人も、またこの場にいる他の数人も、クラリッサの趣味を理解しているので千冬に乗ることにした。
「そうね、遠出が許可されてないし、何よりその3人と呑む体力なんてないわ」
「人を化け物みたいに言うなよナタル」
「あら?その通りじゃないの?イーリ」
よし、なんの違和感も無く話題を転換することに成功した。
千冬、ナターシャ、イーリスの3人は目で合図をし、心の中でガッツポーズをする。時守とアヴリルは我関せず、といった具合に『アヴリルさんはすぐ結婚できる思うけどなー』『そう?なら次のモンドグロッソ終わったら引退しようかしら』などと呑気に会話を繰り広げている。
そして3人は再び視線を交わし、目だけで会話をする。
「ところでとっきー、お前これからどうするんだ?あたし達は久しぶりの呑みだから早めに出る予定なんだが」
「あ、マジか」
「…早くないかしら?千冬」
「混む時間帯になると色々と面倒だろう。3人共、普通に街を出歩くだけでどれだけの騒ぎになると思っているんだ」
時守とアヴリルを会話に引き込むことに成功。
クラリッサが自分の世界に入り込み、妄想を繰り広げているのも確認済み。
…これで各々の予定が崩壊することはない。あとはもう普通に終わる。そう確信した3人は自由に会話を弾ませることにした。
「あー、やっぱ皆有名やからですか?」
「そうだが…お前もだぞ?時守。引退した私がまだここで人気があるかは分からんが、お前は現役の国連代表。雑誌やテレビにも出ているだろう?」
「うへぇ、じゃあ外でたら下手しバレる…と?」
「そうね。私もテスト操縦者以外にモデルとかやってるから、けっこう騒がれるわよ?」
「えっ!?ナタルモデルやってんの!?」
流石時守、過去の話題等無かったことにしている。
クラリッサにビクビクせずとも、最初からこの男に話を振っていれば良かったのではないか、と思わせるほどに見事に話題を変えてくれる。
「知らなかったのかよとっきー」
「まあ…雑誌とか、読む暇無いし?多分これから先も」
「まあ忙しいものねぇ、私も今日呑みに行くのにどれだけ予定を詰めたか」
「私もだ。…山田君には悪いことをしたな」
「おー、あのデカパイ眼鏡の元代表候補生か」
「…一応真耶の先輩だから言っておく。その呼び名はやめてやれ」
「いや、だって…世界規模だろあれ。アメリカやヨーロッパの方にもそう居ねぇぞ?」
「それでも、だ」
※婚活中女子の会話です。
「で、剣ちゃんはこれからどうするの?」
「ほんまに急にぶっこんできはりますねアヴリルさん。予定っちゃ予定、かな?とりあえず適当に汗流して仮想戦闘でもしときますわ」
「大先生!アレをやられるのですか!?」
「お、おう…。最近はデータやけどちっふー先生と戦えるようになってきたから…」
『仮想戦闘』という言葉に反応したクラリッサに身じろぐ時守。
仮想戦闘―正式名称『仮想戦闘訓練用対戦機』
マッサージチェアのような装置に待機状態のISをセットし、ヘルメット型のヘッドギアを被ることで電脳空間にダイブ、装置内にプログラムされている機体とセットしたISで対戦することができる。ここ、国連には数十台設置されているので、自分の戦闘データをコピーし、自身の弱点を克服するために使ったり、リアルでは戦えない国家代表クラスの操縦者と(データ上ではあるが)戦ったりする。
「では私たち3人は呑み、ナタルは療養、クラリッサは秋葉原、時守は訓練、でいいのか?」
「そっすね。…ちっふー先生、二日酔いは止めてくださいよ?」
「うぐっ!」
「千冬、もしかしてしたことあるの?」
「………一学期に、一度だけ」
「ほー、じゃあまず話題はそれだな、な?アヴリル」
「ですねぇ。あっ、後は千冬の恋バナも…」
「…………はっ!?い、イベ…ント…?教官!失礼します!!皆さんも、失礼します!!!お元気で!」
呑みの場での最初の話題が決まり、携帯端末を弄っていたクラリッサが何を思い立ったか部屋を出て行った。
「じゃ、俺もそろそろ行こかな」
「あ、じゃあ途中までついて行っていいかしら?」
「おぅ、ええで?」
「んじゃあ、あたし達も行くか」
「良いところなんですか?イーリスに千冬?」
「大丈夫だ。私が保証する」
そうして大人のお姉さん達と時守の集まりは解散した。
◇
「ん?メール…たーちゃんから?なんやこれ…『夏休み、エジプトで待ってるぜぃ!!』…いや、エジプトのどこで具体的にいつ何のために俺を待ってるか言えよあのコミュ障。今度会ったらしばきやな」
時守の夏は、まだ始まったばかりである。
今回使わせていただいたオリキャラ(また出てきます)
アヴリル・エリセ・ファン・スースト
咲護さん、ありがとうございました。
まだまだオリキャラの名前は募集中ですが、『こういうキャラがいい!』という要望がございましたら、名前と同時に御記入下さい。