IS 西の男性操縦者   作:チャリ丸

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たった1人の最終決戦

「まぁだこんなとこにいたんか、お前」

「La…」

 

 

現在、花月荘のビーチの浅瀬、上空200mの地点で2機のISが睨み合っている。

1機は銀。今回IS学園1年生専用機持ち8人が討伐に当たっていた銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)である。

1機は金を纏った黒。第二形態移行を果たした『金夜叉』が単一仕様能力の『完全同調』を発動した姿である。

いつもと少し違う口調で、いつもとはかなりかけ離れた雰囲気を放つ時守は、無意味だとは分かっていても福音に問いかけ続ける。

 

 

「つぅかよぉ…お前、何が目的や?」

「キアアアアア!!」

 

 

そのただならぬ雰囲気から何かを察したのか、福音は瞬時に『銀の鐘』を発動。第二形態移行をして、さらにエネルギーを全回復したその翼の光は初めて発動した時のそれよりも遥かに勢いが強かった。

 

 

「お?…なんや、ようやくお前もやる気出てきたってかァ?あぁ、後一つだけ言うとくけどな…」

「La…♪」

 

 

時守が話している途中で、福音は『銀の鐘』を『花月荘』に向かってフルパワーで放った。

現在『花月荘』には展開可能なISは0。ISの武装のパワーを持ってすれば一つの宿など一瞬で吹き飛ばせる。

―当たれば、だが。

 

 

 

 

 

 

「…『花月荘』やら中に居る奴らに手ぇ出したらもう二度と動けへんと思えや?」

 

 

 

 

 

その言葉と共に、文字通り福音のハイパーセンサーの視界から一瞬で消えた(・・・・・・)時守が『ラグナロク』を発動させた『オールラウンド』で全てをかき消した。

 

 

「なあおい、福音ちゃんよォ…。お前、何を(・・)考えて(・・・)るんや(・・・)?」

 

 

その問に福音は答えない。

 

 

「まあお前もISやし、しかも世代は第3世代やろ?…言いたいことは分かる思うけどな」

「La…」

「イメージ・インターフェースを必要とする第3世代ISに、自我が無いなんてお笑いもんやで?」

「キアアア!!」

 

 

福音は短く吠えた。

その照準を移動する時守に絞り、片手で数えられる程の光弾を自身が放てる最高速で放つ。

が、確かにしっかりと照準を合わせたにも関わらず、そこに時守はいない。光弾は宙を駆け抜け、そのまま海に着弾した。

ふいに、背後から声が掛かったような(ハイパーセンサーで声はそのまま耳に入ってくるのだが)気がした。

 

 

「第3世代ISを操作するんやったら、せめてものアドバイスや。常に最強の自分を(・・・・・・・・)思い描け(・・・・)。言うてもまあ、お前はもう終わりやけどな」

「La……」

「人間の筋肉ってのは電気信号を送ることで動かしてるってのは知ってるよなァ?ンでこのISと人間の身体の間には僅かながらにも電位差があり、この電位差をできるだけ無くすためにISスーツが作られている…ってな感じやったっけ?ここまではだいじょぶ?」

「La…っ!」

「じゃあもし、…もしもの話やけどな?福音ちゃん。筋肉に許容量以上の電気(・・・・・・・・・・・)を流したり(・・・・)その電位(・・・・)()を0にし(・・・・)時間差を無くす(・・・・・・・)。…そんな単一仕様能力があったら…どうや?」

「La…♪」

「ま、そんだけちゃうねんけどな。ISと操縦者の電位差を無くすってことはその分のラグが消えるってことになってる。…まあつまりや、そんな単一仕様能力があれば現在公開されている全てのISの操縦技術を100%成功させることができ、なおかつそのISの能力を100%引き出すことができるってことや。そのためにって感じやけど、そんなISを乗りこなせるように強制的に電気を身体に流してその反応速度やら移動速度、さらには思考速度までもを遥かに向上させてるんや。加え、五感のうち触覚以外の4つをハイパーセンサーと直接リンクさせることで情報をそのまま脳内にぶち込んでる。やからその単一仕様能力発動中は尻尾とか人間が持ってないもんはISが極力消してるらしいわ。『触覚以外の完全同調』……見て判断してからやったら…遅いで?」

 

 

 

 

 

 

 

「す、すげぇ…」

「これが……『金夜叉』…」

 

 

私、織斑千冬は現在『花月荘』の座敷部屋で時守と福音の戦いを見ている。

織斑や篠ノ之から『金夜叉』に対する驚嘆の声が聞こえるが…、お前達2人の方がスペック的にはかなり上なんだぞ?

とは言うものの、確かにあの単一仕様能力『完全同調』は強い。第3世代最強クラスの単一仕様能力だろう。…まあ発現している数自体少ないんだがな。

一夏の白式の『零落白夜』は一撃必殺。

箒の紅椿の『絢爛舞踏』は自動回復。

時守の金夜叉の『完全同調』は…言うなれば肉体強化、と言ったところか?

もし時守が言ったように電位差を完全に0に出来ていたら…誰も金夜叉には触れられんだろう。…現に…

 

 

「す、凄いよ剣!福音から全然攻撃を受けていない!!」

「まるで未来が見えているかのように…」

「…違う…これは、…初動のタイミングが…早すぎるだけ…」

『初動のタイミング?』

 

 

ほう…、更識は気づいていたか。どれ、答え合わせといこうか。

 

 

「更識、お前は分かったか?」

「はっ、はい。…えっと…、多分剣は今、ハイパーセンサーを視覚と聴覚に直接繋げています。さらにISと身体の電位差、つまりはラグを0にしてます。…しかも剣自身の身体に強制的に電気を流しています」

「…続けられるか?」

「はい。…言ってしまえば、見た映像から判断した動きを、そのまま身体の筋肉に移し替えているだけ、言わば反射神経をそのままISに繋いでいるんだと思ったんですけど…」

「まあ正解だな」

「えっと…どういうことですか?ちふっ…織斑先生」

 

 

更識以外の代表候補生も分かったようだが…やはりというかなんというか…この愚弟は…!

 

 

「簡単に言えば、だ。ISを自分の身体を動かすように動かせるんだ。ハイパーセンサーから来る酔いも無し、自分が『こうしたい』と思ってから実際にISがそう動く時間差も無し、まさに『金夜叉』自体が時守の身体のようになっているんだ」

「…?それのどこが…」

「強いんですか?などと言うなよ馬鹿め。ISバトルにおいて先手を必ず取れるんだ。操縦することと自身の身体を動かすこと、どちらが早いか考えれば分かるだろう。タイミングだけではない。自分の身体として動かしているんだ、出来ない動きなどほとんど無いだろう。二重瞬時加速、個別連続瞬時加速…その他諸々の高難易度機動もな」

「…はぁっ!?」

「ようやく気づいたか。…まあお前達の分かりやすい例で言えば、織斑の『零落白夜』が自分の意のままに操れたり、オルコットの『ブルー・ティアーズ』が6機同時に動かせ、なおかつ全てのビットで偏向射撃が可能であり、自身も自由に動けたり、ボーデヴィッヒのAICが集中するだけで自分の周り360°に発動できたり…だな」

「ま、マジ…すか…?」

 

 

お前の『零落白夜』単発の方が使い勝手がいいと思うんだがな。

 

 

「まあ今は落ち着け、時守はハイパーセンサーを常にリンクさせているんだ。こちらからの応援もちゃんと聞こえるだろう」

 

 

 

 

 

 

「キアアアア!」

「おっそいわァ!!」

 

 

『花月荘』とビーチの間にある、コンクリートで覆われた道路に侵入しようとした福音を、時守は海へと蹴飛ばした。

 

 

『Laaaaaaaaaaa!!!』

「はっ、なんやァ?思い通りにいかずにイライラしてるってかァ?」

 

 

個別連続瞬時加速と個別連続瞬時加速。

2機がそれぞれ最速の機動でぶつかり合う。速度だけなら福音の方が速いのだが…。

 

 

「読めてます、ってなァ!!」

『La……』

 

 

時守は福音の加速の瞬間を潰す。

徹底的に潰していく。

第二形態移行したことで封印が解除された『グングニル』と『ラグナロク』を使いこなし、まるで詰め将棋のようにじわりじわりと追い詰めていく。

 

 

「5…4…3…2…っ!そこやァ!!」

『La…』

 

 

個別連続瞬時加速で時守を中心として周回していた福音を、振り向きざまに『グングニル』を投げ、貫いた。

福音の装甲は既にボロボロで、頭部は左側が半分欠け、身体もヒビ割れ、剥がれかけている所が多く見られている。

 

 

『キアアアア!!』

「っ!このクソが…!」

 

 

このままでは勝てない、そう判断したのか、福音は狙いを『花月荘』に変更。『銀の鐘』と『銀の指揮者』を同時に放った。

 

 

『只今より全エネルギーを消費し、『金夜叉』の殲滅とその他ISの破壊を開始します』

「…ふぅ…。よっしゃ『金夜叉』、全部寄越せ。シンクロ率4:6…ま、40%から100%やな…」

 

 

両者が花月荘の前で睨み合う。

時守は守るように、福音は攻め落とすように。

 

 

 

「死なへん程度にぶっ壊したるわ!福音ゥ!!」

 

 

 

福音の銀の羽根が、金夜叉の金の粒子が、それぞれ最大まで広がり、拡散した。

 

 

 

 

 

 

ドォォォンッ!

 

 

「きゃあっ!」

「な、なにこの揺れ!?」

 

 

時守が福音を海面に向かって殴りつけ、着水した衝撃が花月荘を揺らした。

座敷部屋にいる千冬たちにも聞こえる程、専用機持ちでない生徒達は騒いでいた。

 

 

「……まずいな、このままではパニックになるぞ」

「ですが手の打ちようが…」

「…外を見るなと言っても最早無駄…か。一般生徒には時守は正体不明の謎の機体の討伐に当たっている、ということにしよう」

「分かりました」

 

 

真耶に生徒への対応の準備をさせ、再びモニターに目をやる。

 

 

『来いやぁ!!』

『キアアアア!』

 

 

そこには瞬時加速で追い、追われる福音と時守がいる。

現在優勢なのは時守だ。

それもそのはず、福音はエネルギーこそ多いが、装甲はボロボロ。対する時守はエネルギーも多く、装甲もところどころ傷ついてはいるものの、福音と比べればそこまで酷くは無かった。

 

のだが―

 

 

 

『がァっ!?……ぐっ…ぁ…つ、痛覚遮断…!』

『La…』

 

 

 

一瞬、ほんの僅かな一瞬だけ、時守の動きが止まった。

そう―

 

 

「まさか…速すぎる動きに肉体そのものがついていけていないのか…?」

 

 

強制的に肉体を動かし、さらにはISのスペックの最高値を常に出そうとしているため、時守の身体には莫大な負担がかかっていたのだ。…だが、金夜叉はそれすらも一時的に忘れされることが出来る。…故に。

 

 

「まさに…夜叉だ。鬼神の如く…ただ戦うために…」

 

 

千冬は1人呟く。画面に集中している7人の言葉を代弁するかのように。

 

 

『…先に死んだもん負けや。…簡単な話や。エネルギーが尽きる前にどっちが早いこと倒れるか』

『La…♪』

『お前ももうちょいやろが…、俺の身体とお前のエネルギーか装甲…どっちが先にお陀仏になるかや!!』

 

 

最後のラストスパートと言わんばかりに、『オールラウンド』を量子化し、己の拳を武器に、時守は福音に突撃する。

 

 

『終わらせる…!ここで…、お前を止める!!』

 

 

モニターをアップして見たら、恐らく時守の身体の至る所に裂傷があり、切れた血管から血が流れているだろう。もしかしたら骨に異常があるかもしれない。

しかし、時守は止まらない。その残り少ない時間で、相手を止めるために。

素早く殴り、そして撃つ両者だったが時守は一瞬の隙を突き、二重瞬時加速で福音の胴体へと急接近した。

 

 

『おおおおおおおお!!!!』

『キアアアアアアア!!!!』

 

 

懐に潜ってきた時守を、待ち伏せていたかのように、『銀の鐘』、『銀の指揮者』を同時にフルパワーで発動させ、殺しにかかる福音。

勢いそのままに、福音を殴り倒そうと、スラスターをふかし続ける時守。

 

 

『La!?』

『身体に限界が来てんのが俺だけや思たんか?ボケが!!』

 

 

突如として動きがぎこちなくなる福音。

…これだけ長時間、専用機8機が死ぬ気で戦ってきた。

そのダメージが、今、如実に現れた。

 

 

 

『これで……』

『La…』

『いっけえええええ!!!』

 

 

 

座敷部屋に教員、そして生徒達の声が、応援が響く。

声を届ける先は今まさに、右手を福音の頭部目掛けて振り上げ、殴り抜けようとしている人物、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『終わりやああああああ!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

この戦いの勝者、時守剣だ。




完(嘘)

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